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新たなる力なんですが?

06

 外への道がわからない上に、痛みを耐えながら歩いていたのでずいぶんと時間がかかってしまった。

 だけど、それでも無事に外へ辿り着くことができた。

 隠し通路の出口は洞窟につながっており、そこを出ると目の前にあるのは森だ。

 城下町などではなく、直接外に出られたのは運が良い。

 王都は高い壁に囲まれていて、門の出入りは記録される。

 身分証も何もないので、門を通ろうとすれば城へ連れ戻されてしまったかもしれないからな。

 振り返ってみると、少し離れた位置に木々の上から王都を囲む高い壁が覗き、さらにその向こうにお城に何ヵ所かあった尖塔の上の方がチラチラと見えている。

 たしかにずいぶん歩いたような気もするし、けっこうな距離があるようだ。

 月は高い位置にあり、朝までまだまだ時間もある。

 さすがに朝が来るまでに3人目を召喚できるようになるとは思えないが、少しでも早くお姫様の力になるために頑張ろう。

 1日2日では、無理だろうしこの秘密の特訓は何日か続ける必要があるかな?

 そうすると、ここまでの道を覚えてこなかったのが問題だ……って、あれ? 俺、帰れるのか?

 …………まぁいい。

 今日は特訓するより、戻るべきかもしれないけど、俺の中の何かがこのまま特訓しろと言っている。

 正直、戻れる気がしないので、最悪は門に向かって勝手なことをしたと怒られよう。

 お姫様ならきっと許してくれるはずだ。

 そう無理矢理自己完結し、俺は森の中に足を踏み入れる。

 むしろ朝になって城に戻れるかどうかよりも、生きて帰れるかの方が心配だ。

 昼間のお勉強では、この森には野生動物以外に、どれだけ間引いてもゴキブリのごとく現れるゴブリンやコボルトなど魔物の中でも特に弱い種族が生息しているらしい。

 だが、最も弱いゴブリンやコボルトでも、武器を持った大人が1対1でなんとか倒せるぐらいの力があるという。

 この世界は15才で成人とされるので俺も大人に含まれるが、生憎と学校の体育以外で身体を動かすようなこともなかった俺は、身体能力的には弱い部類に含まれるだろう。

 それに加えて武器もない。

 アドバンテージは板垣さんと武蔵を召喚できることだが、あの2人は戦闘能力は俺よりも低い。

 数的優位を活かす以外に活路はないだろう。

 俺が、安全に戦うためにはどうすればいい?

 武器……は、ない。

 しかし、大きめの石がそこかしこに転がっているので、これを武器にするのはどうだろうか?

 板垣さんと武蔵を囮にして、俺は後ろから石を投げる。

 俺の力で投げても、石が直撃すればそれなりのダメージは与えられるだろうから、けっこう良い考えなんじゃないだろうか?

 いや、待てよ?

 1匹の魔物を倒せたとしても、それまでに囮にした板垣さんと武蔵は確実にやられてしまうだろう。

 その度に再召喚することになるのだが、板垣さんはともかく武蔵は厳しい。

 まったく魔力を消費せずに召喚できる板垣さんと違って、武蔵は弱いくせにごっそりと魔力を持っていくのだ。

 そのため、武蔵を何度も召喚するのは難しい。

 しかし、板垣さん1人だと壁が心許ない…………ん? あれ?

 板垣さんが1人だと壁が心許ないんだ。

 そう、板垣さんが1人だと壁は心許ない。

 なんでこんな簡単なことに俺は気づかなかったんだろうか?

 明確な作戦を思いついた俺は、念のために持てるだけの石を拾ってからゆっくりと周囲を警戒しながら森の中を進む。

 藪が震えたことに驚き、慌てて身構えているとウサギのような小動物が出てきて胸をなで下ろしたのは、ビビりすぎてる自分に思わず笑ってしまった。

 そのことがあってからは、周囲を警戒するだけで何も考えずに歩いていたことを反省して木の陰に隠れ、藪に隠れながら進む先を確認しつつゆっくりと進む。


「…………いた」


 しばらく進んだ先、木々の間から幼児のような大きさのゴブリンを見つけた。

 月明かりだけが唯一の光源なので、遠目にはよく見えないが、気づかれないようにこっそり近づいていくとその姿がはっきりと見えてくる。

 緑がかったゴツゴツとした肌にギョロリとした目と魔女のように長く尖った鼻が特徴的だ。

 生のゴブリンを見たという感動は欠片もなく、何と言うかゴキブリのように見ただけで気持ち悪いと感じる――生理的な嫌悪を感じさせる見た目をしている。

 手には棍棒――と言うより少しばかり太めの木の枝を持ち、キョロキョロと辺りを見回しているがこちらに気づいた様子はない。

 物語でもゲームでもゴブリンは群れるイメージだったけど、1匹だけなのは好都合だ。

 万が一を考えて、周りに他のゴブリンやコボルトがいないことを確認する。

 やはりこいつは1匹だけだ。

 このままいけば、うまいこと不意を突ける。


「…………ふぅ。よし、いくぞ」


 緊張で心臓がバクバク鳴っている。

 作戦が上手くいけば安全だろうし、感覚的には作戦自体は問題なく行えることがわかっている。

 しかし、もしも何か失敗すれば失われるのは俺の命かもしれない。

 そんな可能性が頭をよぎってしまえば、緊張するなという方が無理な話だろう。

 やっぱり辞めて城に帰ろう。などと弱気な自分が顔を見せるが、さっきしたばかりの決意を思い出すんだ。

 俺は、強くならなくちゃいけないんだ。

 意を決して俺は口を開いた。


「板垣退助、板垣退助、板垣退助! 板垣退助! 板垣退助! 板垣退助!!! 板垣退助!!! 板垣退助!!! 板垣退助ぇぇぇぇっ!!!」


 俺の呼び声に呼応して森の一角に光が溢れる。


「ゲギョ?」


 夜の暗い森で、突然自分の近くが明るくなったことに驚いたゴブリンが 俺の隠れた木の方へと近づいてくる。

 大丈夫だ。

 ゴブリンの足は速くない。

 このままいけば問題なく間に合うし、万が一にも走り出したりしたら石を投げて牽制すれば良い。

 光が収まってもゴブリンはこちらに近づく足を止めない。

 何が起こっているのか分かっていないのだろう。

 気持ちの悪い顔に不思議そうな表情を浮かべながら歩いている。

 だが、こちらの準備は整った。


「いけ、板垣さん! 必殺ぅ! 板垣タイダルウェィィィッッブ!!!」


 説明しよう!

 板垣タイダルウェーブとはポケットクリーチャー(ポケクリ)のように板垣さんが技を放つのではなく、魔力消費がほとんど0にしか感じられない板垣さんを大量に召喚し続け、物量によって敵を押しつぶす板垣退助の津波である!


「ギョッ!?」


 いきなり自分の向かっていた方から同じ顔をした男が何十人も走ってくるのだからゴブリンが驚くのも当然だ。

 ゴブリンは抵抗する暇も逃げる暇もなく板垣さんに囲まれ、そのまま押しつぶされた。


「ギョ! ギョァァァァッ!」


 完 全 勝 利 !

 ゴブリンの断末魔の叫びを聞きながらガッツポーズした。

 そう。

 これが俺の思いついた作戦である。

 板垣さんは1人だと弱い。

 子ども並みの攻撃力と紙みたいな防御力で、ゴブリンにすら勝てはしない。

 だが、1人では勝てないならば数で押せば良いのだ。

 戦いは数だよ兄貴ィ! と、どこかの独立を目指した公国の夢半ばで倒れたお偉いさんが言っていた通りなのである。

 板垣さん何人も召喚できるかがネックだったのだが、それはアビリティの使い方を何となく理解したのと同じように、これは可能だと感覚的にわかったのは幸いだ。

 そして、結果は見ての通りである。

 壁にしかならないと思った板垣さんだが、そんな壁にだって押しつぶされたら死んでしまうのだ。

 ゴブリンは殴られ、蹴られ、のし掛かられ、反撃すらできずに事切れてしまった。

 こちらの板垣さんも都合で30人以上召喚したが、残っているのは8人だけだ。

 やられた原因は、味方に押しつぶされたことによる圧死――つまり、フレンドリーファイヤである。

 だが、板垣さんなら無限に召喚できるので、反撃でやられようとフレンドリーファイヤでやられようと消耗はまったく問題にならない。


「よし。次に行ってみよ……う?」


 あれ? なんか、藪がガサガサ言ってない?

 またウサギでもいるのか? って、ゴブリン!?

 まさか、板垣さんを召喚した光に誘われたのか?

 獲物の方から寄ってきてくれるなんてラッキーだな。


「板垣退助ぇ!」


 減ってしまった板垣さんを再召喚し、召喚した端からゴブリンに特攻させる。

 しかも、その召喚の光で新たなゴブリンが集まるという無限ループが出来上がった。

 最大で10匹のゴブリンを同時に相手取ることもできたので、この作戦はなかなか有効なものなんじゃないだろうか?

 すでに戦果は50を越え、ようやくゴブリンの波も収まりつつあるようだ。

 大量の板垣さんを召喚したけれど、残りは30ちょいってところか……

 少なくともこれの20倍以上は召喚したのに、それでも魔力を消費したような倦怠感もないので、板垣さんの低燃費ぶりがすさまじく感じる。

 それにしても、こうやって落ち着いてくると考えが別の所にいってしまうな。

 何かと言えば、どうしてゴブリンが集まってくるのかってことだ。

 光に反応して集まってくるのかとも思ったが、この光はたしかに眩しいぐらいに強いが木々が乱立する森の中では、そこまで遠くまで光が届いているようには見えない。

 それこそ少し距離がある王都の壁に昇っても、木々が邪魔になって光は見えないだろう。

 では、いったい何故なのか。

 そもそも、戦ったのはゴブリンばかりで、コボルトの姿が1匹も見当たらないのはおかしいんじゃないのか?

 ゴブリンとコボルトはどこの森にでも生息し、魔物の食物連鎖では最下層のお互いを獲物とすることで糧を得ているそうなのだ。

 そんな風に説明されたので、ゴブリンばかりでコボルトの姿がない今の状況はどうにもおかしいと感じてしまう。

 もしかしたら異常事態なのかもしれない。

 だけども、通常を知らない俺には本当にこれが異常事態なのかが分からない。

 偶然俺がゴブリンのねぐらに迷い込んだ可能性もあり得るのだ。

 ……ん?

 なるほど。

 むしろそうなのかもしれない。

 ゴブリンの塒に迷い込んだのであれば、ゴブリンばかりがこうも大量に集まってくる理由も納得できる。

 なんだよもう、完全に俺の取り越し苦労じゃないか。

 思わず苦笑しながらこれからどうしようかと考えた始めたところで、ズシンとどこからか巨大な足音が聞こえ、わずかに地面が揺れた。

 なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか……


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