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外れを警戒していたら当りを引いてしまったんですが?

本日3話目。

02

「力……ですか?」

「はい。皆様の世界にアビリティはないのでしょう? この世界では、誰もが生まれながらに1つ以上のアビリティを持っています。皆様もこの世界に来たことでアビリティを手に入れているはずです」


 池照くんの言葉に頷いたお姫様は、言葉を選ぶようにゆっくりとそう説明した。

 俺たちの世界のことも知っているのか。

 さすがは俺たちを召喚した偉大なるフールン王国のお姫様だ――あぁ、クソッ! 頭が痛い。

 何故かはわからないがさっきから妙に違和感を感じるし、違和感を感じると頭が痛くなる。

 痛み自体はすぐに引くから良いけど、なんだか痛みが強くなっている気がする。

 まぁ、それはいい。

 それよりも能力アビリティだ。

 物語では、異世界に召喚されることで職業ジョブ技能スキルといったものを手に入れることは多い。

 それらとどう違うのかはわからないが、似たようなものなんだろうか?

 それにアビリティを得られない場合が怖い。

 物語では、勇者を召喚したはずが○○だったとか、一見すると役立たずな能力を得るっていう展開もありえるのだ。

 あくまでも物語のことなので、召喚を実行した人間たちはそんな外れを引いた勇者も手厚くもてなし、主人公の知恵によって能力の有効活用法を発見、最終的には魔王を倒すなどの結末を迎えることになる。

 だが、それはあくまでも物語だからそうなのであって、実際にそんな状況になれば見捨てられてもおかしくはない。


「アビリティには、武器の扱いを補助するものや肉体を強化するもの、魔法が使えるようになるものなど様々な効果があります。勇者様方であれば、この世界で生まれ育ったわたくしどもより強力な力が使えるはずです」

「ちょっといいですか?」

「はい。なんでしょうか?」


 お姫様の話を遮って挙手したのは、クラスでも比較的俺と親しい御宅みやけ 重雄しげおくんだった。

 彼が手を上げなければ、俺が手を上げるところだったが、さすがは御宅くんだな。

 俺と同じような知識を多く持っているだけに彼も俺と同じ疑問に至ったのだろう。 


「アビリティって言うのは、戦いに向いているものだけなんですか? もしもそうじゃないアビリティがあるとしたら、俺たちの中にもそんな戦いに不向きなアビリティを持つ人間もいるかもしれません。そういった人間がいた場合、どうなるんでしょうか?」


 そう。

 今のところ勇者という肩書きはこの場にいるクラスメイト全員に与えられているようだが、この世界の――いや、この国が求めているのは戦うための勇者ちからだ。

 先ほどのお姫様の説明では、武器を使うものや身体強化、魔法なんていう戦いに向いたアビリティばかりが例に挙がっていたが、そればかりなんてことはないだろう。

 元の世界でも見た物語のように、一見すると役立たずとしか思えない能力を得ることだって考えられる。

 少なくとも、この世界のことをまだよく知らない俺たちには、戦いに不向きなアビリティが存在する可能性は否定できない。

 仮に調理なんてアビリティがあったとして、それを手に入れてしまったらどう考えても戦いに赴けるはずがない。

 物語であれば、実は生きた魔物も食材扱いして圧倒的な包丁捌きで剣士顔負けの活躍をするってこともあり得るが、現実がそんな風に都合良く進むと考えられるほど楽観的な人間も多くないだろう。

 もしも戦えない人間は勇者ではないからと追い出されてしまうような可能性は、クラスメイト全員が同じ立場にある内に排除した方が良い。


「そのような心配はご無用です。たしかに直接的な戦いに不向きなアビリティもありますが、戦場に立たずとも戦う勇者様方をサポートすることはできます。戦いに不向きな勇者様には後方支援をお願いすることになるでしょう」

「……そうですか。ありがとうございます」


 御宅くんはお姫様の答えに満足したのか、一つ頷くと後ろに下がった。

 それにしても、こっちが不安に思う事なんて向こうにとっては予め対策していたんだろうな。

 なにせ、お姫様はまったく考える素振りも見せずに即答したのだ。

 まぁ、頭も良いお姫様なら俺たちみたいな木っ端が考えつくような疑問は予測できるだろうし、お姫様は心も優しいから、戦いに向いてないからって見捨てるようなことはしないだろう――ぐぅ……

 まただ。

 違和感と頭痛にまた襲われた。

 俺は偏頭痛持ちでもないし、風邪を引いたわけでもないのにこんなに頻繁に頭痛がするなんてことは生まれてからこの方なかったことだ。

 心がざわつくような違和感を感じるなんてのも今日が初めてのことだし、どうにも落ち着かない。


「ご心配なされているようですから、補足させていただきますね。わかりやすい例ですと、鑑定というアビリティがあります。こちらは見たものの詳細を調べるアビリティですので、戦場において敵を倒すことはできません。ですが、敵の弱点やどれだけの実力を持っているのかという情報を得ることが出来ます。このように直接戦えなくとも、十分に有用なアビリティはいくつもあります。その他にも――」


 俺が違和感と頭痛に襲われ、考え込んでいる間もお姫様は具体的な例を挙げつつ、戦闘に不向きなアビリティであってもこんな使い方があり、決して斬り捨てるようなマネはしないと説明を続けていく。

 どうにも落ち着かず、半分以上説明を聞き流していたが、一通りの説明が終わったのか、言葉を止めたお姫様は一呼吸の間を置いてから部屋の片隅に置かれた丸い水晶のようなものを指し示した。


「あちらの鑑定玉にて皆様のアビリティをお調べいたします。各鑑定玉の前に並んでいただき、順番に手を触れてください。そうすることで頭の中に自分のアビリティと魔力量が思い浮かぶはずです。そちらを確認いただきましたら、そちらにいる書記官にアビリティと魔力量の報告をお願いいたします」


 書記官?

 誰のことかとクラスメイトたちもそろって疑問に思っていると、お姫様の後ろから3人のフードをかぶった線の細そうな男が部屋に入ってきた。

 彼らが書記官なのだろう。

 疑問が解決したところで、皆は水晶の方へぞろぞろと移動を始める。

 前にいる奴から順番に水晶へ触れると本当に頭の中にアビリティや魔力量が思い浮かぶのか、一様に驚きの声を上げ、その後自分のアビリティを確認して一喜一憂しながら書記官の方に移動する。

 自分に特別な力が与えられたと言うのは、厨二病を発症していなくとも男の子であれば心躍って然るべきだ。

 女の子であっても、幼い頃に憧れた魔法少女になれる可能性があれば、テンションが上がるのではないだろうか?

 現実にはありえないと思っていた魔法なんてものを実際に使える可能性があるとわかれば、水晶に触れる順番待ちでそわそわしてしまうのも無理はない。


「うわっひょぁぁぁっ!」


 突然奇声のような雄叫びをあげた御宅くんに部屋中の視線が集まる。

 両手を掲げるようにガッツポーズを取っているその姿を見て、何事かと訝しげな表情を浮かべるクラスメイトたちの中で俺だけは、どうやら魔法が使えるらしいと察して、内心で拍手を送った。


「っと、俺の番か……」


 御宅くんの奇声に誰もが驚いていてもアビリティの確認は滞りなく進められていた。

 前の奴がいなくなったと後ろに催促され、俺は慌てて水晶の前に立った。

 何の変哲もないガラス玉に見える。

 無色透明で、水晶の中に何か別の石が入っているとか、紋様が浮かんでいるなんてこともない。

 ビー玉みたいなガラス玉をそのまま大きくしたような水晶玉である。

 もしかしたら俺も魔法を使えるようになるのかもしれない。

 御宅くんは魔法を使えるようになったようだし、同じオタ趣味持ちとしては是非とも魔法が使えるようになりたいところだ。

 だが、戦闘に不向きなアビリティになる可能性も否定できない。

 俺より先に確認を終えた中で肩を落としていた人間は、魔法が使えなかったことよりも戦闘に不向きで役に立てないことを悔やんでいるようだった。

 割合的に考えると喜んでいるのが7で悔やんでいるのが3といった所だろう。

 3割。

 実に嫌な数字だ。

 半分以上の確立で大丈夫だが、その実ほとんど3分の1の確率でダメだという結果になる。

 3分の1と言われると途端にありえそうで怖い数字になってしまう。

 後ろの奴が急かしてくるが、俺は気持ちを落ち着かせるために一度深呼吸してからゆっくりと水晶に触れた。

 すると何の前触れもなく突然、頭の中に文字と数字が思い浮かんでくる。


「英雄……召喚……」


 数字の方は3800と多そうだが、多いのか少ないのかわからない数字だった。

 それにしても、アビリティの方の英雄召喚ってなんだ?

 俺は後ろの奴に場所を譲り、書記官の方へ足を進めつつ首をひねった。

 勇者召喚ではなく、英雄・・召喚だ。

 勇者召喚だったならお姫様のように異世界から勇者と呼べる人間を召喚することが可能なアビリティだと思うのだが、俺のアビリティは英雄召喚なのである。

 そもそも、お姫様の口ぶりでは儀式と言うのだから、俺たちの召喚はアビリティによる召喚などではなく何らかの手順を踏むアビリティ以外の方法で行われた可能性が高い。

 そうであれば、勇者召喚とはまったく違うことになり、なおさら俺のアビリティはいったいどのようなものなのか想像がつかない。

 勇者と英雄の違いっていったいなんだ?

 ある意味では、物語で語られる勇者も英雄と呼べるだろう。

 だが、それらの物語において主人公を召喚する行為は英雄召喚などではなく、勇者召喚の名を冠している。

 なんか、学術的? とか、哲学的? みたいな疑問だな……


「アビリティはなんでしたか?」

「あ、英雄召喚ってやつでした」


 考えながら歩いていたらいつの間にやら書記官さんの前に辿り着いていたようだ。

 淡々とした口調で尋ねられたので、正直に答えると書記官さんはフードから僅かに覗く目を大きく見開いた。

 なにか拙いアビリティなのだろうか?


「それはなんと!? すばらしい」


 それまでの淡々とした口調から一転、諸手を挙げて歓迎するように喜色の混じった声で書記官さんは声を上げた。

 素晴らしいって喜んでるし、外れではなさそうだ。

 むしろ当りと言っていいアビリティなんじゃないだろうか?


「魔力値はいくつでしたか?」

「3800でした」

「こちらの数字も素晴らしい。あなたはきっと活躍できますよ」


 活躍できると太鼓判を押されるのは素直に嬉しい。

 だが、問題なのは字面からアビリティの詳細がわからないことだ。


「あの……英雄召喚ってどんなアビリティなんですか?」

「英雄召喚は、古の英雄をこの世に蘇らせ使役するアビリティです。かつて召喚された勇者は、このアビリティで大活躍し、当時世界を滅ぼそうとしていた魔王を倒したとされています」


 おぉ!?

 それはなんともすごそうなアビリティだ。

 過去に魔王を倒した実績があるというのが特に良い。

 だから書記官さんも喜んでいるんだな。

 これならきっとお姫様も喜んでくれるに違いない――っく、まただ……また頭痛がする。


「どうなさいました?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと頭痛がするだけなので……説明の続きをお願いしても良いですか?」


 突然蹲った俺を心配そうに覗き込む書記官さんに心配ないと笑顔で返す。

 本当にこの頭痛は突然来るから油断できないな。


「そうならいいのですが……英雄召喚は、英雄を使役するのですから自身が直接戦闘に関わることはありません。その分、英雄に的確な指示が出せるよう戦術の勉強をすると良いでしょうね」

「そうですか。ありがとうございます。ところで、魔力値の3800って高いんですか?」

「はい。我が国の魔法兵でも平均は50ほどですし、宮廷魔術師の筆頭でも500ほどです」


 それはまた……

 特に俺が高いのかと確認すると、高いには高いが今回の勇者の中では御宅くんが8700で最高値を記録し、他にも5000オーバーが4人いるという。

 俺の場合は英雄を召喚するのに魔力を消費するが、魔法使いのように何発も魔法を放つような消費の仕方とは違うため一概に魔力が低いとは言えないらしい。

 もっとも、勇者にしては低いだけで、筆頭宮廷魔術師の7倍以上なんだから低いと言う方が間違っているだろう。

 疑問なのは、英雄を召喚する時に魔力を消費するのか、召喚し続けている間は魔力を常に消費するのかが疑問だ。

 前者ならいいが、後者だとどれほどの魔力が必要になるのかわからない。

 物語では魔力回復薬なんてものが登場することも多いが、そのほとんどで味がひどいという描写が成されている。

 できることなら、飲みたくはない。

 俺は書記官さんにお礼を言って順番待ちをしていた次の奴に書記官さんの前を譲った。

 しっかし、古の英雄を召喚するアビリティか……

 歴史、嫌いなんだよなぁ……

 でもまぁ、かなり良さそうな当りアビリティみたいだし、この世界での俺は活躍できそうだな。

 先ほどまで抱えていた不安が解消され、自信に満ちあふれて胸を張る俺は書記官さんにアビリティを伝えた人間が集まる一角へと足を進めた。


小説を書いている間にまったく別の作品のアイディアが出てきて困る。

具体的に言うと、作中で出た調理の能力で魔物を倒せる話とか面白そう。

いつか書こうと思う作品がまた増えた……

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