この国の貴族は馬鹿ばっかりな気がするんですが?
昨日は2話更新できませんでした。
すんまそん。
23
「ほぅ……お嬢さんが私たちの狙っている相手だと?」
毅然と言い放ったキューティの言葉にもっさりと髭の生えた顎を撫でながら椅子に座る男は言った。
今の今まで逃げ出した女性たちを追いかけさせようと焦っていたのが嘘のように冷静な物言いだ。
表情を取り繕うのが上手いのか、それとも切り替えが早いのか。
それのどちらであろうと少なくとも見た限りでは冷静に話が出来るように見える。
「えぇ。私の名前はキューティ、キューティ・ワ・ジャスティ。狙いじゃないとしても私の価値はわかるでしょう?」
「なるほどなるほど」
今までとはまったく違う口調で話すキューティの姿に驚いてしまうが、これまでの彼女の口調など知らない髭男は、キューティの言葉にただ鷹揚に頷いた。
キューティの予想通り、本当にこいつらの狙いはキューティだったのか?
それにキューティは、例え自分が狙いじゃなくても自分には価値があると名前だけで相手に理解させられるような話しぶりだ。
もしかして、彼女はいいとこのお嬢様だったりするんだろうか?
「えぇ。たしかにその名は私たちが狙う相手の名前だ」
「そうでしょう? ならば」
「しかし、それが本当にあなたの名前だとどうやって証明するつもりですかな?」
「それは……」
髭男の言葉にキューティは二の句を継げなくなった。
どうやら証明は出来ないらしい。
ただ、証明できたとしても俺にはこいつらが素直に引き下がるとは思えない。
自分が身を差し出せば他の攫われていた女性たちを救えると思っているなら彼女の考えは甘いと言わざるを得ないだろう。
まぁ俺自身、人様を指摘できるほど深くものを考えて行動しているわけではないが、そんな俺でも甘いと思ってしまうぐらいキューティの考えは相手の考えを無視している。
「もしもあなたの言っていることが真実だとして、それが彼女たちを逃がす理由にはならないのですよ。何をしている。お前たちはさっさと追いかけろ!」
やっぱりな。
逃げ出した女性たちが逃げおおせれば憲兵を呼ばれてしまうかもしれないし、俺を売ると考えていたぐらいだから、ターゲットじゃなかった相手は全員売ってしまう心づもりだったのだろう。
ある意味で最初から全員がターゲットだったようなものなのだ。
髭男が怒鳴ると扉の前で止まっていた手下たちが慌てて外に出ようとしたが、扉の向こうに誰かの姿が現れ、彼らの進路を塞いでしまった。
「おいトン、姫は捕まえられたのか?」
「だ、旦那!?」
部屋を出ようとしていた手下たちをかき分け中に入ってきた人物が開口一番に言うと髭男が狼狽えた。
手下たちも再度立ち止まってしまうほどの驚きようだ。
なんだ? 誰だあの男?
誘拐犯たち相手に偉そうに接すると言うことはこいつらのボスか、そうでなければ依頼者か。
どちらにせよ上位者なのであろうが、仕立てのいい服に身を包んだ男だ。
飾りもなんだか品がある感じで、犯罪者のボスらしくは見えない。
だが、体つきはギルドで親切にしてくれた冒険者に勝るとも劣らないほど鍛えられているのが服の上からでもよく分かる。
いや、こっちの場合は何というか親切さんとは違ってただ身体を鍛えているだけという印象だ。
親切さんは何というか見るからにしなやかな感じの筋肉だったが、こっちはただただ筋肉をデカくしたような……そう、格闘家とボディビルダーのような感じの違いがある。
「モリスン様……」
「ん? おぉ、さすがトン。すでに姫を攫ってきたのだな…………って、姫ぇ!?」
キューティが呟くように名前を呼ぶとその時になって初めて彼女の存在に気がついたようで、キューティを見た筋肉は誰が見てもはっきり分かるほどに狼狽えた。
どうやらキューティの知り合いらしいな。
そして、髭男との会話から察するにこいつが誘拐の依頼者のようだ。
まさかこんなにあっさりと依頼者が誰だかわかるとは思わなかった。
物語であったなら、この手の黒幕はなかなか正体を掴むことが出来ないものだが、この場に張本人が現れるなど誰が予想できるというのか……
そして、それ以上に驚きなのはキューティが姫と呼ばれている点だろう。
姫って呼ばれるんだから、キューティはお姫様だってことだよな?
そう言えば、この国の名前ってジャスティ王国だった気がする……
キューティはフルネームをキューティ・ワ・ジャスティと名乗っていたから、たしかに名前に国名が含まれている。
さすがに王政の国で一般人が国名と同じ家名を名乗るなんてことはないだろう。
こんな形でお姫様と知り合うなんて思っても見なかった。
それ以上にキューティのように人なつっこい感じで庶民である冒険者――それも蔑まれることが多い街中での冒険者を尊敬するような子がお姫様だなんて信じられないことだ。
しかし、本当にお姫様なのだとすれば彼女の発言すべてに合点がいくのも確かである。
「……………………ん、ぅん。姫、この私モリスンが御身を救いに参りました。もう大丈夫です。ご安心ください」
筋肉はしばし沈黙した後、咳払いをして何事もなかったかのようにそう宣い、部屋に沈黙が訪れた。
誰も何も言えず、ただ唖然として筋肉の姿を見ることしか出来ない。
……いや、さすがにそれは無理があるだろう。
全員そう思ったに違いない。
もしかしたら、本人もそう思っているかもしれない。
誰が見たって、お前が依頼者だったのだから、助けに来たと言われて信じるような馬鹿はいないというものだ。
「旦那……さすがにそれは無理があるかと……」
手下のような髭男にまで指摘され、筋肉は恥ずかしいのか顔を赤くした。
そのまま何をどう言えばいいのかわからなくなったようでしばし頭を抱えているようだったが、考えをまとめたらしい筋肉は咳払いして誤魔化すように髭男を怒鳴りつけた。
「トン、なぜ姫がここにいる! お前が顔を見せる予定はなかっただろう! これでは姫を娶った褒美にお前を王家直轄の密偵筆頭にしようにも、姫に顔を覚えられてはできんではないか!」
「なっ!? そこまでバラすことないでしょう! そもそも姫が勝手に逃げ出してきたんですよ! それに旦那は迎えを出すまで来ないって話だったでしょうが! なんでアンタがここに来るんですか!?」
なんとも醜い言い争いである。
呆然とする俺やキューティを置いてけぼりにして2人はますますヒートアップしていった。
ついには日頃ため込んでいた愚痴にまで発展している。
もう完全に長いこと関係があったと自白しているようなものだ。
お姫様が証人となるのだから、今更誤魔化したところでもう遅い。
それにしてもやはりというか、この筋肉が黒幕で自作自演でキューティの救出劇を行うつもりだったようだな。
まぁ、お姫様が誘拐され、それを救い出したとなれば褒賞は相当なものになるだろう。
王家直轄の云々と言っているぐらいだから、キューティと結婚して自分が次の国王にでもなるつもりだったのだろうか?
とりあえずあの2人はこちらに気を向けていないので、背中と腹の痛みに耐えながらキューティの側に移動する。
「キューティ、あいつ……知り合いなの?」
「え!? うん……あの人はモリスン・ワ・オロカー。オロカー侯爵の長男で、自称私の婚約者……かな?」
自称ってことは本当に婚約しているわけじゃないんだよな?
うわぁ……お姫様の婚約者を自称する痛い奴かよ……
あれだな。
どれだけ婚約を申し込んでも頷いてもらえないから、実力行使に出たって感じなんだろう。
しっかし、フランシーヌさんといいこのモリスンといい、この国の貴族には馬鹿しかいないのか?
「はぁ、はぁ、くそっ! もういい。それよりもこれからどうするかだ」
「はぁ、はぁ、えぇ。そうですね」
どうやら言い争いは終わってしまったらしい。
動ける程度に痛みが引いても言い争いを続けていたらこれ幸いと逃げだそうと考えていたが、さすがにそこまで甘くはないようだ。
肩で息をする2人の意識がこちらに向けられてしまった。
「一番簡単な方法は姫を亡き者にすることです」
そりゃ簡単だ。
目撃者には死を。
暗殺者なんかの物語に出てくるような犯罪者が、犯行現場を目撃された時の常套手段だろう。
キューティには戦う力なんてないし、俺だってすでにまともに戦えるような力がないことはバレている。
これ以上ないほどに簡単な手段と言えるだろう。
俺はいないような扱いされているが、間違いなくキューティが殺されれば俺も一緒に殺される。
「それはいかん! 姫は我が妻となるのだからな!」
しかし、俺たちにとって最悪の提案は、意外なことにモリスンの一言によって否定された。
俺たちとしては助かる限りだけど、この期に及んでキューティと結婚できると思っているのはある意味すげぇよ……
前向きなのかただの馬鹿なのかはわからないけど……
まぁ、後者だろうし俺たちにとってはありがたいことだ。
「ですが、姫を攫った私たちと旦那に関わりがあることを姫は知ってしまいました。口を塞がねば、旦那もただではすみませんよ?」
当然だな。
王政の国でお姫様を誘拐した犯罪者にそれを依頼したのが貴族だったとなれば、どんな罰が下されるか分かったものではない。
この国の法律はわからないけど、よくても降爵、場合によっては奪爵されて投獄なんてことにもなりかねない。
最悪の場合は死刑だってあり得るし、俺の考えではこの可能性が一番高い。
なにせ、モリスンはまだ爵位を継承しておらず、貴族の息子という立場なのだ。
平民よりは上だが、まだ貴族として守られるような立場ではない。
貴族ですら死刑になる可能性があることをすれば、貴族の息子が死刑になってもなにもおかしくないだろう。
まぁ、表向きは別の罰で、事故死という形で罰を与えられることもありえるだろうが、結果は同じだ。
キューティはモリスンの父親がこうしゃくだと言っていた。
公爵だか侯爵だかはわからないが、どちらであろうと父親がモリスンを手助けするのも難しい。
そもそも、子どもの責任は親の責任と言う話になって実家も被害を被る可能性も高いのだ。
どれだけ強い権力を持っていても言い逃れは出来なくなる。
むしろ強い権力を持っていればいるほどに、ここぞとばかりに権力を削ごうと罰は重いものになるだろう。
自身も罰を受けるのだからモリスンを助けることは出来ず、罰を回避するためにはモリスンを見捨てるしかない。
どちらにせよ実家の力でモリスンが罪から逃れることはできないのだ。
さて、貴族としての教育を受けただろうモリスンは髭男の説得を受けてどんな答えを出すことやら……
いつもそうだと言うツッコミはなしにして、途中から無理矢理感があるのは、進めるのに詰まって無理矢理推し進めたせいです。
そして、昨日2話目の更新が出来なかった原因はそこが詰まったのが原因となります。
さぁ、どこだか当ててみましょうw