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謎の少女に絡まれたんですが?

人間、諦めなければなんとかなることも多い。

現在時刻は21:53。

今日は無理かと思ったけど、ギリギリセーフ。

18

 この世界に来て3日目になった。

 昨日は無事に冒険者の登録も済んで、なんとか依頼をこなしたことで普通の宿に泊まることも出来た。

 いやぁ…………二度と武蔵と一緒に討伐依頼は受けたくない。

 なんで辞めろって言ってるのに辞めてくれないんですかね?

 二度目の武蔵ジェットコースターに乗りたくはなかったよ。

 本当にマジで、切実に勘弁して欲しい。

 普通に行っても昼前には依頼の対象となるゴブリンの生息する森に着き、10匹ほど狩って戻っても夕方前には帰れるだろうと言うのに、歩くのが遅いという理由で担ぎ上げるのだ。

 さすがに崖や川なんかは通らなかったおかげで上下運動は小さく済んだので、3度目の嘔吐こそ免れたが、そもそも吐くものがなかったからじゃなかろうか?

 あれが食後なんかの胃の中が空じゃない状態だったらどうなっていたかと恐怖を覚える。

 しかも、依頼は2人で受けたのに俺は何一つしていないのだから、俺がついていく意味があったのか問い詰めてやりたい。


「だから今日は別々の依頼を受けよう」

「なにが、だからなのかしら?」


 朝食の席で突然俺から発せられた言葉に武蔵は首を傾げた。

 声に出さず頭の中で考えているだけでは、さすがの武蔵でも話を分かれという方が無理だったか……


「もうお前に担ぎ上げられるのはまっぴらだ」

「あらそう。お姫様だっこの方が良かった?」


 武蔵はそう言ってクスリと笑った。

 お姫様だっこってお前……


「お前、俺のことお姫様だっこしたいわけ?」

「伊織以外はごめんだわ」

「だろうな。俺もされたいとは思わない」


 女性にお姫様だっこされるのは男として何かが死んでしまう気がするので絶対に御免被る。


「昨日に比べてずいぶんずけずけとものを言うようになったわね」

「お前にはもう遠慮しないって決めた」


 下手に出たって担ぎ上げることすら辞めてくれないのだから、遠慮するだけ無駄だ。

 こうなれば、はっきりと自分の意見を押し通すしかない。

 まぁ、武蔵相手だとはっきり言ったところで押し通せるとは思えないから、せめて気持ちだけは負けないようにしたい。


「そう。残念だけど、あなたがそうだと決めたなら従うわよ。か弱い私は、あなたの言いなりだもの」

「か弱い?」


 お前がか弱ければ、世の女性はなんなんだ?

 自分じゃ何も出来ない赤ん坊か何かか?


「何か言ったかしら?」

「イエ、ナンデモナイデス」


 何も言ってないので睨まないでください。


「でも、あなた1人で大丈夫なの? 一昨日はあんな大きいだけのでくの坊にも勝てなかったじゃない」


 武蔵はため息をつくとスープを一口すすってからそう言った。

 どうやら無事に見逃してもらえたようだ。

 ていうか、でくの坊ってあのオーガのことか?


「あれに1人で勝てるのは武蔵ぐらいだよ……まぁ、王都の中だしそんな危険な場所もないだろ?」


 王都の中であんな化け物が出てくるはずはない。

 出てきたとしても俺が戦う必要もないはずだ。


「あら? あなたは王都の中の依頼を受けるの?」

「まぁな。せっかくの異世界だから、王都の中を見て回れるような宅配とかそんな感じの依頼を受けようと思ってるんだ」


 王都に詳しくなれば情報を集める時に役立つだろう。

 それにせっかくの異世界なのだ。

 外に出ないでこの王都の雰囲気を味わいたい。


「それなら安心なのかしら? 何かあったら助けを呼ぶのよ?」

「俺はガキか!?」

「似たようなものじゃない」

「そんな心配されるほどガキじゃないよ」

「あらそう。そうだといいわね」


 武蔵は不敵な笑みを浮かべ、虚空を眺めながら言った。


「……なんか武蔵にそう言われると何か起きそうで怖いんだけど?」


 侍学園で似たような表情を見たことがあるけど、その時はこの表情を向けられた相手が死ぬ伏線だとは思わなかったよ。

 あれ? 俺死ぬの?


「さあ? どうなのかしら?」

「怖いから大丈夫って言ってください」

「大丈夫よ……たぶん」

「最後に不安になるワードを入れるなよ」

「私にだってわからないわよ。でも、あなたは何かを持ってるんじゃないの? 厄介事を引き寄せるような何かを」

「……………………」


 そう言われてしまうと反論は難しい。

 なにせ、ゴブリンやコボルトしかいないはずの森で、上位の魔物に遭遇するどころか普通の強さではないオーガに出会したという実績があるのだ。

 いや、あれは偶然だ。


「どうする? 一緒に討伐依頼を受ける?」

「いえ、配達依頼を探します」

「あらそう」


 俺がトラブルを引き寄せるんだったら、むしろ武蔵の側にいる方が特大のトラブルを引き寄せてしまう気がするのだ。

 俺1人なら俺1人で対処できるトラブルしか引き寄せないだろう……たぶん。

 いや、そもそも、俺はそんなトラブル誘因体質じゃないので、トラブルなんて引き寄せたりしないさ……

 大丈夫。

 うん、大丈夫だ。



 そんな武蔵とのやり取りを終えて、俺は王都を歩いている。

 よくよく考えてみれば、王都の地理に詳しくない俺が王都内で配達のような仕事をするには力不足だと言うことに気づき、今回は指定区画の溝掃除の依頼を受けた。

 なんでも、先日大雨が降った影響で、溝の一部に泥がたまっているらしい。

 こう言う依頼も多いらしいのだが、冒険者はこの手の依頼を受けたがらない――なんてことはない。

 意外なことに依頼の受注率は高く、時には争奪戦紛いのことまで起きるほどだとか。

 俺のイメージでは冒険者と言えばモンスターと戦って、討伐報酬を受け取ったり素材を売るなんてのが好まれるものだ。

 その手の冒険者が多いのも間違いではないが、冒険者全体の2割ほどは戦闘に向かないため、この手の依頼を受けるか、せいぜいゴブリンの討伐ぐらいが関の山らしい。

 物語であればそんな絵にならない冒険者は描かれないのであろうが、現実であるこの世界においてはそんなことも言っていられない。

 現実とは誠に持って世知辛いものである。


「ふぃ~」


 最後の一掬いを終え、シャベルを杖代わりにしながら袖で汗を拭う。

 頑張ってはいるもののインドア派の俺にはなかなかキツい。

 腰は痛くなり、腕もぷるぷる震えて力が入らなくなってきた。


「おい、キツければ休憩しろよ?」

「あ、はい」


 同じ区画を担当することになった金髪の冒険者さんが俺の状態を見て呆れ顔で言った。

 町中の溝を掃除しないといけないのだから、当然俺1人でこの依頼を受けるわけではない。

 各区画を二人一組になって掃除するわけだが、残念ながら俺という足を引っ張る存在の相棒に選ばれてしまったのが、彼である。

 まぁ、よっぽど進展がなかったり真面目にやっていないという報告がなければ、細かくノルマが設定されているわけでもないので、各自で休憩は自由にとれる。

 時折、ギルドの職員が私服で巡回に来るらしいので、ずっと怠けているのはダメだ。

 どれだけやっても同じ給料だと出来る人間はやる気をなくしそうなものだが、なんでも私服ギルド職員は優秀者のチェックもしていて、ランキング上位に入ると追加報酬があるらしい。

 いつ来るのかもわからないのだから、出来る人間は常に全力を出すので、意外と進捗はよいのだろう。


「あれ? あなた新人さん?」

「え?」


 腰掛けるのにちょうどいい段差を見つけてそこに座っていると急に上から声をかけられた。

 驚いて顔を上げると人なつこい笑みを浮かべた少女がこちらを見下ろしている。

 歳は俺と同じかちょい下くらいだろうか?

 陽光を受けて光る金髪は活動的な雰囲気の少女に似合うショートボブで、顔立ちは美少女と言って過言ない。

 くりくりとした紫の瞳をキラキラと光らせながら見ているのは、俺で間違いないのかな?

 キョロキョロと左右を確認するが、視線の先にいるのは俺だけだ。


「もう、あなただよ。あなた以外にはいないでしょ?」

「あぁ……まぁ……」


 なんで俺はこんな見知らぬ美少女に話しかけられているのだろうか?

 残念ながら俺は、逆ナンパなんてされるほどイケテルメンズではないので、こんな美少女に話しかけられる理由に見当がつかない。

 あぁ、もしかしてあれか?

 壺なら買いませんよ?


「ねぇ、あなた見かけない顔だけど最近王都に来たの?」

「いや……まぁ、そうだけど……」


 グイグイくる女性は苦手だ。

 なんで、こんなにグイグイ来るんだ?

 俺なんかにどんな興味を持てるって言うんだよ……


「おいおい、なんだ? 嬢ちゃんまた来たのか?」

「あ、モッブォさんこんにちは!」


 少女に絡まれている俺を助けるように金髪さんが近づいてきた。

 どうやら、彼の知り合いらしい。


「この嬢ちゃん、冒険者が好きらしくてな。しょっちゅう街中で依頼を受ける奴に話しかけてくるんだよ」

「だって、冒険者さんがいるから街は回ってるんだよ? 冒険者さんがいなかったら、人手が足りなくてまともに街は回らなくなっちゃうもん」

「変わってるだろ? 普通は、街中での依頼しか受けないような奴は冒険者じゃないって言うのによぉ」


 金髪さんは少女のことを話す時にずっと笑みを浮かべていた。

 金髪さんも酒場にいた冒険者たちと同じく口は悪いが、体つきはかなり細い。

 きっと、戦闘系のアビリティもなく街中での依頼しか受けられないのかもしれない。

 そんな自分たちを認めて、尊敬してくれる少女の存在がよほど嬉しいのだろう。


「初めて見るお前さんに興味を持ったんだろうな」

「そうそう」


 金髪さんの言葉に少女はコクコクと頷いている。

 変わり者だから俺にも話しかけてきたってことか、それならまぁ納得だな。

 それにしても、こんな美少女だけど変わり者なのか。

 いや、実際に冒険者がいなくなれば困る人は大勢いる。

 今回の溝掃除だって、冒険者がやらなければ誰がやるのかという話だ。

 美化活動は疫病対策にも必要なことであり、絶対におろそかにしてはいけない。

 割れ窓理論なんてものもあるし、街中を綺麗に保つことはさまざまな副次効果があるのだ。

 そういうことを考えれば、少女はただ変わり者なのではなく、素直で心の優しい人間なのだろう。

 もしかしたら、政治のことも分かっているのかもしれない。


「ねぇあなた、お名前は?」

「俺は、柳野葉太だよ。よろしく」

「うん、よろしく!」


 こうして俺は少女と出会った。

 この少女と出会ったことが後にどんな影響をもたらすのか、この時の俺は知るよしもなかった。


正直、明日もどうなるか分からない。

更新できなければ、必殺『すみま閃』。

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