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悪いことは重なるものなんですが?

ギルドの設定説明回。

説明は読まなくても、それほど問題にならないと思います。

17

 フロンツさんはモノクルに手を当て、じっくりと魔石を観察している。

 10秒ほどの観察を終えると魔石をカウンターの上に置かれた台にゆっくりのせた。


「間違いなく第二級の魔石だ。これほどの魔石をギルドへ売却して構わないのかね?」

「え? あの……ギルド以外にも売れるんですか?」

「…………このレベルの魔石になれば、オークションで売るのが普通だろう。ギルドでは大金貨10枚ほどだが、オークションにならば最低でもその倍にはなるだろう」


 大金貨……

 お金のことは昨日説明されたので覚えている。

 この世界の貨幣は銅貨、銀貨、金貨の3種が存在し、銅貨と銀貨は小中大の3つに金貨は小と大の2つに分けられている。

 小銅貨、中銅貨、大銅貨って具合だ。

 中は省略される場合も多く、銅貨から小銀貨までは10倍単位で区切られているが、銀貨は小銀貨5枚で中銀貨になり、中銀貨2枚で大銀貨になる。

 また、大銀貨は100枚で小金貨になり、小金貨から大金貨は10枚となかなかにめんどくさいシステムだ。

 しかし、日本に換算する形で説明されるとけっこうわかりやすかったのが印象的だ。

 小銅貨は1円、小銀貨は1000円、中銀貨は5000円で大銀貨は1万円となり、その100倍の小金貨は1枚で100万円に相当する。

 最高金額の大金貨は、1枚あたり日本円にすれば1000万円ほどだということだ。

 つまり、この魔石1つで最低1億円…………

 マジであのオーガ大物だったんだな……


「オークションってやっぱり時間が掛かるんですかね?」

「そうだね……一番早く出品できるもので来月の頭、支払いがあるのはそのさらに1週間後と言ったところだろう」


 それじゃあダメだな。

 俺たちは一文無しだからすぐに現金化できないのはマイナスにしかならない。


「それじゃあ、ギルドで構いません」

「ふむ……もしかすると、すぐに金が必要なのかね?」

「……えぇ、まぁ」

「ギルドへの登録はしているかね?」

「いえ、してません」


 していないと何か問題があるのだろうか?

 昨日フールン王国で聞いた説明では、ギルドに登録しなくても魔石を売ることは出来て、見習い期間で給料が少ない人間は、ゴブリンなんかを狩って小遣いの足しにしているという話だった。

 もしかして、国が違うとその辺のルールも違うのか?


「額が額なので、ギルドでも支払いは一月ほどかかる。ギルドへの登録があればもっと早くなるが、今から登録しても見習い期間が明けねば支払われるまでの時間は未登録の場合と大差はない」

「え!? そうなんですか!?」


 まさかの展開だ。

 高く売れたのに、高くなったせいですぐに金にならないとは思わなかった。

 こんなことなら、森を抜けるまでにゴブリンを狩っておけば良かったな……


「そんなにすぐにお金が必要なんですか?」


 俺が頭を悩ませているとフロンツさんの横に立っていた職員さんが心配そうに問いかけてくる。


「あ、はい……お恥ずかしながら無一文でして……」

「ふむ……なるほどな。幸いにもまだ時間は早い。それならば今から冒険者登録を済ませて、なにか依頼をこなしたらどうかね? 高額の買取と違い、依頼の報酬ならばすぐに支払える」


 フロンツさんはまた武蔵にチラリと視線を向けてからそう言った。

 さっきからチラチラ武蔵を見てるけど、先ほどの冒険者たちと違って武蔵が美人だからって言う嫌らしい視線ではない。

 ギルドのマスターになるぐらいだから、武蔵の強さが分かるほどの強さだったりするのかね?

 こう、武蔵ほどの強さなら冒険者になればすぐに金ぐらい稼げるだろ? ってな感じで……

 さすがにそれは俺の考えすぎか?

 まぁ、でも他に選択肢があるわけでもないので、その方法を選ぶしかないだろうな……


「すいませんが、登録をお願いできますか?」

「うむ。アリアくん、登録手続きの準備を頼むよ」

「はい。わかりました」


 フロンツさんに言われ、職員さんは一度頭を下げてから奥に向かった。


「それで? 魔石の方はどうするかね? 余裕があるならばオークションに出すことを勧めるが」

「えっと…………それでお願いします」


 ギルドでも一ヶ月かかるなら、オークションと時間的な差はほとんどないだろう。

 それならば、高く売れる方がいい。

 一ヶ月後と言ったらクラスメイトの救出も終わってるかもしれないが、すぐに元の世界へ帰れるとは限らない。

 その時にはこの世界での生活を支えるためのお金は多い方がいいだろう。

 クラスメイト全員の面倒を俺が見る必要はないだろうが、余裕がある人間が余裕のない人間を助けられるよう準備するのは悪くないはずだ。


「準備ができたので、こちらにいらしてください」

「ふむ。では、魔石は私の方でオークションに回しておこう。君たちが冒険者として活躍することを祈っているよ」

「あ、はい……ありがとうございます」


 職員さんの準備が整い、買取りの話も終わったのでフロンツさんは奥へと消えていった。

 俺たちは職員さんに促されて、買取りカウンターより先のカウンターに向かう。


「こちらの用紙に記入をお願いします」


 そう言って渡された用紙には、名前と年齢の他に得意とする武器や魔法適正の有無などの記入欄はあるもののアビリティを記入する場所はない。


「あれ? アビリティとかは調べなくていいんですか?」

「はい。魔法系のアビリティだけは戦闘方に影響するので記入していただく必要がありますが、アビリティによる差別などもありますので、ギルドの方で調べるようなことはしておりません。戦闘系のアビリティですと得意な武器である程度わかりますしね」

「あ、そうなんですか……」


 それもそうか。

 戦闘系のアビリティなら、得意な武器である程度わかるのだろう。

 クラスメイトたちも戦闘系のアビリティと言ったら剣技とか槍技なんて明らかに得意な武器がわかるアビリティだったのだから、その逆もまた然り、ってやつだ。

 しかし、アビリティによる差別なんてものもあるのか……

 そんなものがあるから、戦闘系アビリティじゃない人が冒険者になった時のために調べようとしないのか?

 まぁ、それはいい。

 問題は、俺の得意武器をどうするかだな……

 武蔵は剣なのは間違いないが、俺は武器なんて使えない。

 まさか嘘を書くわけにもいかないだろう。


「あの……得意な武器がない場合ってどうしたらいいんでしょうか?」

「その場合は空欄で結構です」

「ねぇ」

「ん?」


 俺と職員さんのやり取りをただ聞いていた武蔵は渡された用紙をピラピラと振りながら俺の方に突き出してきた。

 なんだ?

 冒険者になんかならないとでも言いたいんだろうか?


「私、この世界の文字はわからないわ」

「…………なるほど」


 職員さんに聞こえぬよう耳元で囁かれ、耳がこそばゆくなって頬が紅潮する。

 なんとか、言葉を絞り出してから武蔵の用紙を受け取った。

 俺はこの世界に召喚された影響なのか、聞こえる言葉も目に入る文字も日本語に見える。

 どういう原理なのかはまったくもって謎だが、書いた文字も自動で変換されているようなので、問題はない。

 しかし、俺が召喚した武蔵は違うのだろう。

 受け取った用紙に俺の知る武蔵の情報を記入する。


「……これでお願いします」

「はい。お受け取りいたします」


 書き終わった用紙2枚を職員さんに手渡すと、職員さんは受け取った用紙をそのまま別の職員さんに渡した。


「手続きが終わるまで、ギルドの説明をさせていただきますね」

「よろしくお願いします」


 なんで別の人に渡すのかと思ったら、そう言うことか。

 たしかに説明をするなら手続きは別の人に任せるしかないな。


「この度はギルドへの登録ありがとうございます。本日の説明は私、アリアが担当させていただきます。手続きが完了しましたらお2人はギルド所属の冒険者となり、それと同時に冒険者としての義務が発生しますのでご注意ください」


 義務!?

 え、そんなものがあるのか?

 まさか冒険者に義務なんてものがあるとは思わなかった。


「義務とは言いましても、常識的なものです。冒険者として街中で一般人に危害を加えないこと、ギルドの規則には従うことの二点です」


 あぁ、なるほど。

 わざわざ義務などと言うからどんな大層なものがあるのかと身構えてしまったが、それぐらいなら当たり前のことだろう。


「規則と言われると拒絶反応を示す方もいらっしゃいますが、こちらもそれほど難しいことはありません。ギルドの不利益になることはしない、依頼者には節度ある対応をする、8級以上の冒険者は緊急依頼をギルドマスターが認めた場合を除いて受けることなどですね」


 こちらも特別理不尽なものでもない。

 特に最後なんかは物語においても定番だ。

 魔物なんてものが普通にいる世界では、氾濫とか暴走とか言い方は様々だけど魔物が大量発生したりして街がピンチってこともあり得るのかもしれない。

 むしろ、ギルドマスターの許可があれば拒否が出来る分だけマシな方だろう。


「冒険者は1級から10級までのランクで分けられますが、お2人は登録したばかりなので、2週間から1ヶ月の間これらのランクには含まれない見習いという扱いになります。依頼の受注や報酬額などは通常の冒険者と変わりありませんが、問題を起こした場合には通常の冒険者よりも重い罰則が科せられる他、登録証に身分証明の効果がない点にはご注意ください」


 ランク分けはアルファベットじゃないんだな。


「また、ランクによって受けられる依頼には制限があります。基本的には依頼書にある条件欄を確認してください。最初は条件に10級以上と書かれたものですね。あちらにあるボードは入り口に近いほど高ランク向けの依頼が貼られているので、最初はカウンターに一番近い場所からご確認ください」


 これもよくある制度だ。

 低ランクだと報酬も低くて、高ランクになるほど報酬は高くなるが危険度も上がるのだろう。


「ランクを上げるためには、各ランクで定められた回数の依頼を成功させる必要があります。失敗したからと回数がリセットされるようなことはありませんが、あまりにも失敗を重ねる場合はランクアップに必要な依頼数を増やすことになりますし、それでも失敗が多いようだと降格もあります」


 リセットじゃなくて、増やすのか。

 どちらにしろ大差ないだろうが、身の丈に合った依頼を受けろと言うことだろう。


「また、8級までは規定数の達成で自動的にランクアップしますが、7級から先はランクアップ時に試験を行うか、ギルドが指定する以来を受けていただく必要があります。基本的には以上となりますが、なにかご質問はございますか?」


 なるほどな……基本的には、物語でよくある冒険者のシステムとほぼ同じだ。

 おそらく、8級までは試験なしでランクアップするのに7級からは試験が必要になるのは、7級以上は危険度が上がるからなのだろう。

 規則の細かい内容など細々とした質問をしている間に手続きが終わり、俺たちは無事に冒険者になることができたのだった。


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