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悪い予感は当たるものなんですが?

神は言った。

ししだよ、小説を書け。と。

そうしてこの話は本日中に更新されたのである。

 なんとかの福音書4章1節


本日2話目

16

「なぁおい、小僧。ギルドに虚偽の申告をするのは犯罪なんだぜ?」

「女の前で格好つけたいのかもしれないが、やっていいことと悪いことがあるってもんだ」


 職員さんに早く戻ってきて欲しいと願う俺に、集まってきた冒険者からそんな声がかけられる。

 言っていること自体は親切心から来そうな言葉かもしれないが、表情と声色は親切心とは真逆のものだ。


「なぁ、姉ちゃん。そこの馬鹿の巻き添え食らうことねぇよ。あっちに行って俺たちと一緒に飲もうぜ?」

「そうそう。夜も楽しませてやるからさ」


 そんなことを言いながら酔っ払った冒険者たちが武蔵に近づいてくる。

 あろうことか、1人は武蔵の肩に手を回した。


「あ……馬鹿っ! 辞めろ! 武蔵に触るな!」


 周りは、俺が思わずそう叫んだことを愛しの彼女を奪われまいと虚勢を張っているのだと思ったのだろう。

 俺を嘲るような視線を向ける者はいるし、武蔵に絡んでいる酔っぱらいたちは優越感に浸るような表情を浮かべている。

 だが、それは違うのだ。

 俺が心配しているのは、当然のことながら武蔵を奪われるとかそんなことではない。

 今、自らの意志で処刑台に立とうとしているお前達の方だ。

 俺の心配は時既に遅く、ボトリと音を立てて何かが床に落ちた。


「は?」


 ことが起きた時、ギルド内は静寂に包まれた。

 武蔵の肩に手を回していた酔っ払いの間抜けな声が嫌に大きく聞こえる。

 彼は自分の身に何が起きたのかまったく分からなかったのだろう。

 音がした自分のすぐ下に目を向け、人間の腕が転がっているのを目にし、次いで武蔵の肩に回していたはずの自分の腕の肩口を見て絶叫を挙げる。


「う、腕ぇ! 俺の腕がぁぁっ!!!」


 ようやく事態を飲み込めた男は、悲鳴を上げて床を転げ回った。

 それまでは血の一滴すら零さずに時が止まったようだった男の傷口からも、男が転げ回る衝撃で時計の針が動き出したのか血が溢れ出している。


「汚い手で触らないでもらえる? 酷く不快だわ」

「武蔵さん、言う前にやったら注意の意味がないと思います……」


 転げ回る男を冷めた目で見下ろしながら吐き捨てた武蔵に思わず突っ込んでしまった俺は悪くないだろう。

 けんもほろろに袖にするとかそんな次元ではなく、二重の意味で文字通りバッサリといったわけだ。

 いくら見るからに酔っ払いで人の話を聞きそうになかった彼らが相手でも、警告もなしにいきなり腕を切り落とすのはちょっとばかりやり過ぎだ。

 あぁ、嫌な予感はしてたけど、こんないきなり刃傷沙汰になるなんて……

 チラリと周りに目を向けてみるとあまりにも突然のことに状況が飲み込めていない者が大半だ。

 中には状況は理解できているものの、どうしてそうなっているのか理解できずに混乱している者もいる。

 これってどう考えてもヤバいよな?

 捕まるようなことになるのだけは勘弁して欲しい。


「武蔵……あの……大丈夫なんだよな?」

「ふふ、何がかしら?」


 俺が何を心配しているのかなど当然のように理解しているだろうと言うのに、武蔵はクスクスと笑みを浮かべながら首を傾げた。

 俺の状況を、どうすべきかを知っている武蔵ならば、こんなところで捕まるようなマネをするのが悪手であることなど分からないはずがない。

 そうであれば、この状況で俺が武蔵に問いたいことなど彼女はよく分かっているだろう。


「捕まるのはまずいって……情報集めてすらいないのに……」

「仕方ないわね」


 武蔵は面倒くさそうにため息をこぼすと腕、腕と叫びながら床を転げ回っている男の頭を蹴り上げた。


「腕がどうかしたの?」


 蹴り上げて跳ね上がった男の胸ぐらをタイミング良くキャッチした武蔵は、ニッコリと笑みを浮かべながら男に問いかける。


「へ? あ、ある!? 俺の腕がある!?」

「腕をなくした幻でも見たのかしら? ダメよ? お酒を飲み過ぎたりしたら」

「ひぃっ!」


 男は、武蔵の腕を振り払うと怯えた表情で短く悲鳴を上げて一目散に逃げ出した。

 目の奥が笑っていない凄味のあるあの微笑みを見てしまっては逃げ出すのも仕方がないことだろう。

 あの男も自分がどうなったのか、わかっていないだろうな。

 それは周りにいる人間も同じで、誰一人として何が起きたのか分からなかっただろう。

 なにせ、手品のようなのだ。

 腕をなくして床を転げ回っていた男を武蔵が蹴り上げたと思ったら、なくなっていたはずの腕が元に戻っている。

 見間違いなどでないことは、男が転げ回っていた床にはっきりと残されている血溜りが証明していた。


「お、おい……どうなってるんだ?」

「回復魔法か?」

「いや、魔法だってあんな一瞬で治せるわけがねぇ」


 周りで一部始終を見ていた人間たちがザワザワと騒ぎ出す。

 俺も武蔵の実力を知らなければ同じような反応をしていただろう。

 武蔵がやったことは言葉にすれば至極簡単なことだ。

 斬った場所をくっつけた、それだけである。

 だが、言葉にするのと実際にそれを成すには天と地すらも越えた大きな隔たりが存在することは、誰の目にも明らかだ。

 絶対にありえないと断じることはできない。

 それは、試し切りの一種に戻し斬りというものがあるからだ。

 野菜などを繊維などは一切傷つけず、すっぱりと切断して元の位置に合わせると斬られた野菜がくっつくという超人的な技である。

 達人が名刀を用いることで、理論上は・・・・可能だと言われているが、実質的にはほぼ不可能な技術だ。

 しかし、そこはさずが武蔵と言うべきか、理論上可能な技術は当然のごとく簡単に成し遂げ、それどころかそのさらに1歩も2歩も――それどころかそれよりもはるかに先の技術すらも可能とする。

 今回も野菜の繊維を傷つけないなどという話ではなく、肩に腕を回してきた男の腕を細胞の隙間に刃を通し・・、腕を落とした。

 そう、武蔵は男の腕を斬っていないのだ。

 刃を通して男の腕を外しただけで、だからこそ元の位置に戻せばくっつくというわけである。

 侍学園の中で何度か登場した技術だったが、こうして現実になったのを見ると恐ろしいことこの上ない。

 武蔵には斬れないモノなど存在せず、その気になれば斬って戻せないモノも存在しないのだ。

 巻末のおまけ4コマでは、伊織が落として真っ二つにしてしまった彫像の切断面を改めて切り落とし、それをくっつけてみせるなどという離れ業までこなす話もある。


「これは何事かね?」


 ざわめく買い取りカウンター前にカウンターの向こうからの声が響く。

 モノクルが印象的なナイスミドルを連れてようやく職員さんが戻ってきたようだ。

 職員さんが連れてきたこの人はたぶんけっこう偉い人なのだろう。

 冒険者たちの表情が完全に、先生に拙いところを見つかったクラスメイトたちと同じだ。

 これは、下手なことを言ったら大変なことになるかもしれない。

 どうにか上手いこと話をしないと……


「酔っ払いに絡まれたからちょっと自衛したの。何か問題でもある?」

「ちょっとぉ!?」


 武蔵さんあーた何を仰ってやがりますの?

 あれのどこがちょっと何ですか?

 訴えられたら過剰防衛になるとしか思えないようなことしてたでしょうがあんた。


「ふむ……」


 モノクルさんはジッと武蔵を見つめた後、チラリと血溜りに目を向ける。

 顎に手を当てしばし考え込むような動作の後、静かにカウンターの向こうに腰掛けた。


「あまり他の冒険者を虐めないでもらえると助かるね。さて、私は彼らと魔石の話をするために来たのだ。関係のない者は下がりたまえ」


 明らかに刃傷沙汰が起こったと分かる血の量だが、そのことには一切触れずに集まっていた冒険者たちを散らせた。

 これは見逃されたと言うことでいいのだろうか?

 冒険者たちは我先にとその場を後にし、残されたのは俺と武蔵あとは買い取りカウンターを挟んで職員さんとモノクルさんの4人だけだ。


「…………ん、ぅんっ。君らの持ち込んだ魔石について確認したいのだが、構わないかね?」

「あ、はい」


 呆然と逃げ出していく冒険者たちの後ろ姿がなくなっても、そちらを見ていた俺はモノクルさんが咳払いをしたことで、慌てて視線を戻した。


「私はこのギルドの責任者マスターのフロンツと言う。彼女では対応しかねる内容となるので、私が代わりに対応させてもらうので了承いただきたい」

「はい。よろしくお願いします」


 モノクルさん――フロンツさんが軽く頭を下げたので、俺も頭を下げて返す。


「では、さっそく本題に入らせてもらうが、この魔石は16メートル近いオーガのモノだというが、どこで手に入れたものかね?」

「えっと…………」

「言いたくないのならば、深く詮索するつもりはないので、言わなくても構わない」

「あ、そうですか?」


 それは助かる。

 下手にフールン王国の王都のすぐ側にある森にいたオーガを倒したなどと説明すれば、面倒なことになってしまうだろう。

 なぜ途中の街で売らなかったのかとか、どうやってここまで来たのかとか、詳しく説明するわけにはいかない。


「念のために確認するが、盗品ではないね?」

「はい」


 フロンツさんはチラリと武蔵に目を向けると頷いた。


「では問題ない。査定させてもらおう」

「そうですか……あの……」

「なにかね?」

「その魔石に何か問題があるんですか?」


 盗品かどうかの確認を言葉だけで済ませて査定するのなら職員さんからギルドマスターに代わる必要なんてないはずだ。

 こんなにもあっさりとことが進むくらい簡単なことが、普段から買い取りカウンターで働くような人間にできないはずがない。


「魔石自体には問題はないね。ただ、この大きさを考えると彼女には扱える権限がない」

「やっぱりそれって、大きいんですかね?」


 俺の質問にフロンツさんは目を丸くした。

 まさか魔石の大きさってそんな常識のようなものなのか?

 少なくとも昨日習ったこの世界の知識には、魔石があるってこと以外は触れず、当然大きさなんかの説明はなかったのでわからないのだ。


「大きいね。15センチを越える魔石など市場に出るのは10年に1つあるかどうかだ」

「うぇ!?」


 予想外の言葉に変な声が出てしまった。

 あのオーガはそんなに大層な魔物だったのか……


ちなみに前書きにあるなんとかの福音書は、章を月に節は日に直すとエイプリルフール(嘘)になります(どうでもいい)

ここから先は基本的に下書き版とは別展開となります。


あと、今話は後から修正が入る可能性があります。

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