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ギルドでもトラブルの予感がするんですが?

昨日は間に合わなかった、スマソ_(:3」∠)_

15

 フランシーヌさんの言う通り、門をくぐってすぐに大きな建物は1つしかないのでギルドの場所はすぐにわかった。

 西部劇の酒場みたいな扉を押し開けて中に入ると俺は思わず足を止めてしまった。

 これぞギルドだ。

 門をくぐって街を見た時とはまた違う感動を覚えた。

 街を見た時は、異世界に来たことを自覚させられて心を揺り動かされたが、ギルドに入った感動とは違う。

 数多の物語に登場し、様々な形で描かれるギルドに自分が来ているのだと興奮しているのだ。

 入ってすぐの左側には大きなボードが並び、何枚もの紙が貼られている。

 あれが依頼書なのだろう。

 それぞれに金額や討伐、採取などといった文字が並んでいる。

 ボードとは反対の右側は、酒場スペースとでも呼べばいいのか、テーブルと椅子が並び、昼間から飲んだくれている荒くれ者たちの姿があった。

 そして、入り口の正面には銀行や郵便局のような受付カウンターがある。

 何人かがその前に列を作っているが、荒くれ者にしか見えない彼らも皆が揃ってお行儀良く並んでいる。


「何をしているの? さっさと魔石を売りましょう?」


 人が感動に震えているというのに、なんとも無粋に促される。

 不満に思うが、生憎と抵抗しても無駄なのは火を見るよりも明らかなので俺は渋々足を進めた。

 しかし、買い取りはどこでやってるんだろうか?

 取調べを受けていたとは言え、もともと王都に着いたのが明け方すぐで、取調べ自体もそれほど長い時間が掛かったわけでもないので、まだまだ朝と言っていい時間だ。

 まさか、夜通し依頼を受けて朝に完了の報告をする人間が都合良くいるわけもないので、受付に並んでいるのは紙を片手にこれから依頼を受けるのだろう人間ばかりだ。

 見たところ全ての受付に依頼を受ける人間が並んでいるようなので、買い取りカウンターだけがわかりやすく空いているなんてこともない。

 さて、どうしたものか……

 ただでさえ人と話すことが苦手なのに、DQNすら軽く越える厳い顔の荒くれ者共に俺が話しかけられるわけがない。

 人に聞けない以上は自分で探すしかないのだが、買い取りカウンターはこちら、などという文字はどこにも見当たらない。


「おう、坊主どうかしたのか?」

「え? あ……」


 傍目から見ても俺が困っていることが分かったのだろう。

 周りにいる冒険者たちの中でも一際厳い男が声をかけてきた。

 ただ、言葉遣いは乱暴だが、声の感じに攻撃的な色はない。

 困っている俺を見るに見かねて声をかけてくれたようだ。


「あの……魔石を売りたいんですが、どこに持って行けばいいのか分からなくて……」

「おぉ? 初めての魔物討伐か?」


 声をかけてくれた人はカッカッカと笑いながら俺の肩を叩く。

 丸太のように太い腕は、その太さに見合った力があるので非常に痛い。


「素材を卸すならあっちのカウンターだな。ここから見える一番端に並んでる奴の隣だ」

「そうなんですか? ありがとうございます」

「おう。俺がいる時に困ったことがあったら聞いてくれ。わかることなら教えてやるよ」


 親切な男は、そう言い残すとこれから依頼だからとギルドを出て行ってしまった。

 荒くれ者にしか見えないが、ああやって親切な人もいるんだな。

 親切な人を見送った後、俺は武蔵と並んで教えられた買い取りカウンターに向かうが、どうにも見られているような気がする。

 武蔵が美人なせいか、それとも俺以外には1人も見当たらない黒髪が珍しいのか、おそらく前者が原因だろう。

 酒場スペースの方から向けられる視線には下卑た感じのものが多い。

 さすがに見られることが不快だからなどという理由で暴れたりする武蔵ではないので、見るだけならいいが武蔵が暴れてしまうような下手なことは頼むからしないで欲しい。


「すいません」

「はい、なんでしょう?」


 朝はやはり依頼を受ける人間しかいない時間なのか、買い取りカウンターに並んでいる人間は1人もおらず、着いてそのままカウンターにいる職員さんに声をかける。

 まさか魔石を裸のまま持ち歩くわけにも行かず、袋から取り出したオーガの魔石をカウンターに載せた。

 ちなみにこの袋は武蔵のものである。

 普段から持ち歩いている設定があった袋とは言え、設定だけでほとんど出番のなかった小物まで再現できるのだから、英雄召喚はどこまで再現しているのかと驚いてしまう。


「これの買い取りをお願いします」

「はい、かしこまり――っ!?」


 魔石を見た瞬間、職員さんの表情が凍り付いた。

 なにか問題でもあるのだろうか?


「あの…………これは何の魔石でしょうか?」

「え? たぶんオーガのものだと思うんですが……」


 ゴブリンやコボルト以外はすぐに戦わないだろうからと詳しく教わっていないが、あの見た目はオーガ意外には考えられない。

 まさかあの見た目でオークなんてことはないだろうし、ああ見えて実はゴブリンキングだったなんてこともないだろう。


「オーガ……オーガですか? あの……ちなみに大きさはどれくらいありました?」

「どれくらいって……ギリギリここの天井を越えるかもしれないぐらいですかね?」


 酒場スペースと買い取りカウンターの上――入り口から見て右側半分は吹き抜けになっていて、この部分の天井はかなり高い。

 15メートルくらいはありそうなので、ちょうどここの天井ぐらいだったと思う。


「正確には1572センチメートルね。ここだと天井から頭の先が飛び出るわ」


 それまで黙っていた武蔵がそう言って補足する。


「らしいです。だいたい16メートルに届かないぐらいってことですね」

「じゅ、16メートル!? しょ、少々お待ちください!」


 大きさを聞いた職員さんは、慌てて立ち上がると魔石を引っ掴んでガンガンと椅子や机にぶつかりながら奥にある階段へと消えていった。

 そんなに慌てて何があったんだろう?

 もしかして、あのオーガは俺が思っていたよりも大物だったのか?

 しかし、ゴブリンやコボルトしか出ない危険度の低い森に現れたのだから、そんなに危険な魔物だとは思えないんだが……

 いや、そもそも武蔵がいたから倒せたのであって、俺や板垣さんだけだったら確実にやられていたのだ。

 俺自身がそんなに強いわけではないので、ちょっと強い魔物が相手になれば簡単に負けてしまうだろうが、ああも勝ち目が全くない状況に陥るぐらいなのだから、意外とあのオーガの強さは普通じゃないのかも知れない。


「くっくっく」

「おい、笑ってやるなよ」

「ん?」


 職員さんの慌て具合に俺が自分の認識がズレているのではないかという不安に駆られていると、横からかみ殺すような笑い声が聞こえてくる。

 そちらへ視線を向けてみると一番端のカウンターで依頼を受ける手続きをし終えたらしいイカにもと言った見た目の2人組の冒険者たちがいた。

 こんな時間に買い取りカウンターに来ている俺たちがよほどに珍しいらしく、ずっと観察していたのだろう。

 歴戦の戦士を彷彿させる装備に身を包んだ角刈りとスキンヘッドの男で、どちらもプロレスラーのような筋骨隆々とした男たちだ。

 さきほど親切に買い取りカウンターの場所を教えてくれた冒険者さんよりも全体的に小さいので威圧感も小さいはずだが、こちらを嘲笑うような態度にどうにも萎縮してしまう。


「だってよぉ、16メートルのオーガだぜ?」


 スキンヘッドの男がこちらを馬鹿にしたように笑いながら言った。

 なんだろう、クラスメイトに弄られることは今までにもあった。

 弄られるのを歓迎する気もないし、好きというわけでもないが、絶対に嫌だとは思わない。

 笑われて恥ずかしい思いもしたことはあるが、その時と比べてもここまで嫌悪感は抱かなかった。

 たぶん、クラスメイトに弄られるのが許容できるのは、彼らが俺と互いに友達だという認識があり、悪意とも取れる感情がないからだろう。

 目の前で笑っているスキンヘッドには悪意しか感じられない。

 まぁ、それが分かるからと言ってどうしようもない。

 彼らと喧嘩にでもなれば、俺は一方的にやられてしまうだろう。

 武蔵に頼めば話は別だが、馬鹿にされたから等という下らない理由で自ら暴力沙汰に持って行き、それで彼女に頼るのはあまりにも格好が悪い。


「おい、なんだ?」

「どうした?」


 スキンヘッドがあまりにも大笑いするものだから、周りにいた冒険者たちまで興味を持って集まってきてしまった。

 ぞろぞろと集まってきた冒険者たちにスキンヘッドは、目尻に涙を浮かべるほど笑いながら角刈りの制止も聞かずに大きな声で状況を話し出す。

 話を聞いた冒険者の反応は大きく分ければ2つだ。

 スキンヘッドと同じように笑うか呆れたような顔を浮かべるか、だ。

 極少数だがなにやら震えている人間もいるが、ほとんどの人間は笑っている。

 何というか、柄の悪いヤンキーに絡まれている気分だ。

 きっと笑っている人間たちは、俺や武蔵では15メートルを超えるようなオーガを倒せるワケがないと思っているのだろう。

 事実、俺1人では不可能なのでそう見えてしまうことを否定はしない。

 一見したらただの美女である武蔵にもそのような力があるとは思えないのだろう。

 一目見て相手の実力を見抜けない冒険者は間抜けだとどこかの物語で目にしたが、こと武蔵を見て実力が分からないことを責めるつもりはない。

 なにせ、侍学園においても武蔵の実力を見ただけで察することが出来たのは小次郎や柳生十兵衛などの極少数なのだ。

 多くのキャラクターは武蔵の実力を目にしてから、そのあまりの強さに恐怖するというのがパターンとなっていた。

 小次郎はなぜ多くの人間が武蔵の実力を見抜けないのかについて、あまりにも強すぎるために脳が彼女の実力をないものとして扱っているのではないかと語っている。

 正直それはどうなのかと思うが、あまりにも強すぎて強さが測れないのだろうと言われれば、まぁそうなのかもしれないとは思う。

 そうなのだから、彼らが武蔵の実力を測れないことを責めるつもりはない。

 だからと言って、気分が悪くなることに違いはないが、どうすることも出来ない以上は無視するしかないだろう。

 早く職員さん戻ってきてくれないかなぁ……

 なんか、このままだと武蔵が暴れそうな気がして怖いんだよ……


しかし、今日も12時と22時はどうなるか分からない。

どうなるかは蟹の味噌汁

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