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まだ見ぬ強者が恐ろしいんですが?

最近宣言を忘れていたけど、本日2話目

14

 詰め所から出て、門を入ってきたのとは逆の方へ抜けた先には異国情緒溢れる町並みが広がっていた。

 レンガや木造の建物が並び、地面には石畳が敷かれている。

 門を出てすぐ先の広場の一角は、バザーと言うのだろうか?

 布みたいな屋根と支柱だけの簡素な作りのテントの下に箱に入れた商品を並べ、店主が威勢の良い声を上げている。

 日本では祭りに並ぶ出店でもない限りはあまり見ない光景だ。

 ぐるりと見回してみてもアスファルトやコンクリートなんてものはどこにもなく、車やガラスなんてものも見当たらない。

 多数の人間が普通に生活している場所にも関わらず、このような光景が広がっているなど日本では――いや、地球ではまずありえないことだろう。

 そう考えると異国情緒と言うよりは、異世界情緒と言うべきなのかもしれない。


「うわぁ……すげぇ……」


 俺は思わずそうこぼした。

 この世界が異世界だと言うことは知っていても、この世界に来てこのように活気のある場所を見たのは初めてだ。

 精神操作がされていてお姫様やフールン王国を称えるような思考誘導がされていたことを差し引いても、城を見た時には一種の感動を覚えたものだが、この景色はその時とはまた違った感動がある。

 なんと言えばいいのか、自分の知らない世界に来たのだということを強く実感させられるのだ。

 人が多いとは言え、都心のラッシュアワーなどに比べれば大したことはない。

 それこそ人の多さだけで言うならば、有名どころではないがそれなりの規模のお祭りにすら劣るかもしれない。

 だが、それは周りにいるのがほとんど日本人だと分かっているし、見慣れた当たり前の光景の延長線上にあるものだ。

 しかし、ここは違う。

 道行く人は赤、青、黄とカラフルな頭髪をして、中には動物の耳と尻尾なんてものが生えている人間もいる。

 こんな光景は地球ではありえない。

 マンフェス――漫画フェスティバルのコスプレ広場では似たような光景があるかもしれないが、コスプレは何というか、コスプレ特有の不自然さというものがある。

 ここにいる人間にはそれがないのだ。


「っと……ん?」


 この光景を見ても全く言葉を発さない武蔵に比べ、自分は田舎者のような反応をしたことが急に恥ずかしくなり、半開きになっていた口を閉じて表情を引き締める。

 今の恥ずかしい顔を武蔵に見られていないかチラリと武蔵に目を向けると武蔵は笑みを浮かべていた。


「何を笑っていらっしゃるのでしょうか?」

「いえ……今のあなたの反応を見て、学園で初めて伊織と会った時のことを思い出してね」


 見 ら れ て た !

 恥ずかしい。

 穴があったら入りたい……

 クスクスと武蔵が笑っているのは、伊織のことを思い出したことだけでないだろう。

 笑い方がどう考えても昔を懐かしんでる感じじゃない。

 俺の間抜け面がよほど面白かったと見える。


「と、とりあえず無事に王都に入れたな。ここまで連れてきてくれてありがとう」

「あなたに従うという約束を果たしているだけよ。礼を言われるようなことじゃないわ」


 恥ずかしさを誤魔化すためになにか話題を探すが、気の利いた話題など見つからず、話題を変えるためには感謝を伝えるしかなかった。

 それがわかっているのか、武蔵は俺の言葉をばっさりと斬り捨てる。

 話題を変えるのが目的だったのは間違いないが、感謝していること自体は事実なので素直に受け取って欲しい。


「それでも俺はありがたいと思ってるんだ。感謝の気持ちぐらいは素直に受け取ってくれ」

「…………そう。それじゃあ、気持ちだけ受け取って置くわ」


 俺が本当に感謝しているんだと念を押すと武蔵は一瞬目を丸くし、気恥ずかしげにそっぽを向きながらそう言った。

 なんか意外な反応……

 あぁ、そうか。

 武蔵は侍学園においてあまりにも強すぎるため伊織を除いた周囲からは畏怖の対象だった。

 そのため、普段から彼女に近づくような人間はおらず、こうやって何でもないような状況で改まってお礼を言うような人間もいないのだ。

 だから、伊織以外にこうして素直にお礼を言われることに慣れていないのだろう。

 はは、そうやって考えると俺って結構すごいことしてるんだな。

 あの武蔵を照れさせるなんてそうそう出来ることじゃないだろう。

 …………いや、マジでなんかこっちまで恥ずかしくなってきた。


「…………」

「…………」


 なんとも気恥ずかしい感じの沈黙が訪れる。

 どうすればいいんだろう?

 武蔵はそっぽを向いたままだし、この空気をなんとかしたい。


「そ、そう言えば…………あれ……そう、フランシーヌさんってどうだった?」

「……どう?」

「いや、近衛の隊長とか言ってたし、けっこう強いと思うんだけど、実際の所どうなのかなって……武蔵ならわかるだろ?」


 我ながら取調べの時とは違って、上手い話を選べたな。

 フランシーヌさんは何かをやらかして門番の仕事をさせられているようだが、近衛と言えばエリートだろうし、強いんじゃないだろうか?

 物語だったら、強い場合もあるし、貴族が権力だけで選ばれていることもあるので必ずしも強いとは限らない。

 だけど、平民出身で叩き上げらしいストレートさん……そう言えば、名前知らないな……

 まぁ、叩き上げらしいストレートさんも副官らしいから、権力だけで近衛に選ばれるってことはなさそうだけど、実際の所は分からない。

 相手の強さを見抜く目もたしかな武蔵であれば、事実がどうなのかはっきりとわかるだろう。


「そうね…………」


 武蔵は少しばかり悩んだ様子でグルリと門前の広場を見回すとゆっくり口を開いた。


なかなかやるわ・・・・・・・

「………………は?」


 なかなかやる。

 武蔵がフランシーヌさんを総評したことに俺は言葉を失った。

 あんなチョロくて間抜けそうな人がそんなに強いわけない、等といった方向の驚きではなく、そもそも驚きなんてちゃちなレベルの話ではない。

 驚愕だ。

 なかなかやるという評価は、普通に考えれば悪くはないものの特別良い評価とは言えないだろう。

 だが、その評価を下したのが武蔵であったならば話は違う。

 侍学園という作品の中で、武蔵がなかなかやると評価した相手はわずか2人しかいない。

 そして、それ以上の評価を受けた相手も存在しないのだ。

 俺の知る限りで、武蔵のなかなかやるという評価は最大級の賛辞と言えるだろう。

 そもそも、神を相手にしても圧倒してしまうほど最強の武蔵に比べれば、誰であろうとも武蔵よりも格下の存在だ。

 そうだからこそ、自分には及ばぬもののなかなかやる。という評価は、武蔵が送る最高の褒め言葉だということになる。

 侍学園において武蔵がなかなかやると評価した相手は、主人公いおりにとって格上にあたるライバルであり、越えるべき壁、実際にラスボスとして立ちはだかった佐々木小次郎がいる。

 フランシーヌさんが小次郎レベルであったなら、俺もここまで驚くことはなかっただろう。

 小次郎の場合は、主人公のライバルポジションで、その強さを読者にもわかりやすく伝えるために、武蔵が彼女の強さを認めていることを伊織に伝えるためという演出だったという意見が読者の共通認識だ。

 それでもまぁ、武蔵を除いた人類の中では最強と言って過言ない実力を誇ってはいた。

 しかし、問題となるのは作中で武蔵になかなかやるという評価を受けたもう1人――いや、もう1柱の方だ。

 八百万の神々ですら倒すことが出来ず、古の時代に封印された――という設定の八百万の神々の異端、最強の邪神【禍津日神まがつひのかみ】という存在が侍学園の裏ボスポジションに存在する。

 この禍津日神はまぁ、色々と影で企む裏ボスだ。

 物語の終盤に差し掛かった頃から自身を復活させるために人間界にちょっかいをかけ、主人公たちが戦う相手は禍津日神の手下や禍津日神に操られた人間ばかりで、小次郎も操られることになる。

 そして、小次郎と伊織の最終決戦となるわけだが、実際には小次郎が操られる時点で禍津日神も復活している。

 小次郎と伊織の戦いの裏で、日本の八百万の神、北欧神話の神、ギリシャ、エジプト神話の神などが勢揃いで禍津日神を再封印しようとしたのだが、禍津日神の力の前に圧倒されてしまう。

 禍津日神の強さをわかりやすく言うと、僕の考えた最強のキャラクターである。

 相手の能力を完全コピーした上で上位互換した能力にしたり、どんな攻撃も吸収したり、果ては思考を読んだり、やっとまともにダメージを与えたかと思えば一瞬で回復までする始末なのだ。

 そんな禍津日神こそが武蔵になかなかやるという評価を受けた相手であり、演出などは抜きにして武蔵がそう評価する基準となる強さだとされている。

 あくまでもインターネット界隈でそう言われているだけだが、小次郎と禍津日神の力量差を考えるとなかなか信憑性のある意見だと俺も考えている。

 それはつまり、僕の考えた最強のキャラクターと同等の力を持つことが武蔵になかなかやると評価される基準だと言うことだ。

 この国に来ていきなりそんな実力を持った人間と出会ってしまったのだから、その事実に驚くなという方が無理な話だろう。


「本当になかなかやると思うのか?」

「えぇ」


 なぜ聞き返すのかと武蔵は不思議そうな顔をしている。

 武蔵のことをよく知る俺が、その評価を下す人間にいきなり出会って驚かないと思うのか?

 禍津日神はお察しの通り武蔵に一方的に切り伏せられ、再封印どころか滅神――消滅させられたのだから武蔵の強さがどれだけ異常なのかわかるエピソードでもある。

 しかし、さらにこの時、禍津日神はあまりにも一方的に自分がやられるものだから、要約すると「なんで自分がこんなにボコボコにされるんだ!? お前はどんだけ強いんだ!? それとも私が弱いとでも言うのか!?」と武蔵に問いかけた。

 そこでの武蔵の答えは「なかなかやると思うわよ? そうね……あなたと同じだけの実力者が50人も集まって一斉に掛かってくれば勝てるでしょうね」である。

 単純計算すると僕の考えた最強のキャラクターの50倍強いのが武蔵なのだ……いや、武蔵を超えるのが50倍だから、武蔵自身の強さは49倍だな。

 どちらにしろ、武蔵になかなかやると認められる実力者が50人集まれば武蔵を打倒し得るのだ。

 いよいよもって、この世界の実力者たちが恐ろしくなってきた。

 なにせ、たったの50人だ。

 1人1人は武蔵に及ばないだろう。

 だが、フランシーヌさんは自分が近衛の隊長だと言っていたが、罰として下っ端の仕事をやらされるような人間だ。

 それはつまり、彼女ぐらいの実力者は替えの効く人間である可能性が高い。

 もしかしたら、この国の兵士の中でも上位に位置づけられる実力はあるかもしれないが、最強とかトップ3に入るような実力者だということはないだろう。

 門をくぐっただけでは城までけっこうな距離があり、王都の広さもある程度察することが出来る。

 1つの街でこの広さがあるということは、この国全体で抱える兵士の数が100や200どころでないのは簡単に分かる。

 その中にフランシーヌさんを越える実力者は何人いる?

 兵士だけじゃない。

 この世界には冒険者だっているのだ。

 物語の話ではあるが、国の上位に入るような兵士を越える冒険者なんて珍しくもない。

 依頼を受ければ戦う冒険者という存在も含めれば、50人なんて簡単に集まってしまうんじゃないのか?

 そうすろとこの世界では、一国が総力を挙げれば武蔵を倒すことが出来る可能性は非常に高い。

 これは、クラスメイトたちを救うのはけっこう難しいかもしれない……


「はぁ…………」

「どうしたの? ギルドトやらに行くんでしょ? あそこに見えているのがそうなんじゃない?」


 俺がこれからのことに不安を感じていることなど露とも知らず、武蔵は右手に見える大きな建物へと歩き出した。

 なんとか気を取り直し、武蔵の後を追って歩き出す。

 この世界のまだ見ぬ強者に武蔵を超える実力者がいないことを祈りながら……


明日は6時と12時の更新は(おそらく)ありません。

下手したら22時も怪しいですが、がんばります。

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