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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

だから、獣になってください

 念のため……ここでいう狼人は、半獣人ではなく、人に狼耳と尻尾が付いている擬人化?の状態です。生まれつきその見た目で、狼になったりはできません。

 ちなみに主人公はお下げに頭巾を被った、赤ずきんスタイル。一見ただの村娘A。



 ここから補足です。読まなくてもいける! 多分!

※獣人は、古代から存在している真核生物 動物界 脊索動物門 哺乳綱 霊長目 ヒト科 獣人属(←ここが違う)という分類。一応人族だがその数の少なさと異質な見ため(獣耳と尻尾)、ずば抜けた身体能力により脅威とされ迫害されている。

 一方ゾンビやヴァンパイアは《怪物》という分類で、生物として認識されていない(人族視点)異形の類。いつもこの2つの種族で領土を巡って歪み合い、憎み合っている。


 そして今は2種族間の戦争の真っ最中、狼人は矢に射抜かれて、足手まといと判断され置いてかれた設定。

 迫りくる不自然な浮遊感。揺れる足元、ブレる視界。腹には焼けるような痛みが走り、呆気なく手から剣が落ちる。

 ああ、もうダメか、と消化しきれない諦めと共に瞼が落ちた。


 思えば悪くない生涯だったな、とありきたりなことを無意識に呟き、は、と低い声が漏れる。


 何が“悪くない生涯”だ。

 俺はまだ生きなければならない。それがこんなところで――

 「あの、大丈夫ですか?」



***



 「あの、大丈夫ですか?」

 もう日が西の方の山に差し掛かった夕飯頃、戦の前線から少し離れたところで人が倒れていたのを見つけた。

 いや、灰色のふわふわした耳と尻尾がついているから、狼人(ウォアウルフ)かな? 矢がお腹に刺さっていて痛そう。抜いてあげないと。


 私がそっと近づくと、その狼青年のフサフサした耳がピクッと動く。

 まだ辛うじてだが意識はあるようだ。

 よいせっ、と矢羽根を掴んで抜こうとして、しかし私は重大な事実に気づいてしまった。


 その人を揺さぶり微かに開いた灰色の眼をのぞき込んでひと思いに言う。


 「私、人間は苦手なんです。だから、獣になってください!」

 「はっ?」


 驚いたような思わず出してしまったと言うような狼人――もう狼さんでいいや――の声が響く。

 その拍子に矢傷の痛みが増して「――っ」って悶絶しているけれど、ここは引けない。


 「獣人さんって……というか男性の方って、皆獣になれるんですよね?」


 そう問うと、狼さんはパチクリと瞬きをした。

 あれ? その反応は想定外だな?

 首を軽く傾げると、狼さんは呆れたように言った。


 「獣人はそんな能力無い。ましてや男にそんなこと――」

 「? でもお姉ちゃんが男はみんな狼だって……」


 確か「気を付けなさい」って言ってたけど……。と呟くと狼さんの耳がピク、と動いた。戸惑うように小さくパタパタと動いているのは少し可愛い。


 「い、や、それはそうなんだが、そうじゃなくてだな」


 どっちなの? まあどちらにしろ私の返答は変わらない。


 「なって下さい。気合で!」

 人間その気になれば出来ないことはないのだから!


 「なれるか!! ――っ」


 またうずくまる狼さん。ピクピクってなっていて顔も青白くて結構本気でやばそう。

 今は興奮状態でなんとか血が回ってるけど、もう一刻を争う感じだ。……しょうがないなぁ。


 「……応急処置だけですよ」

 「初めか、ら、そうしてればいい……」


 ボソリとつかれる悪態には無視をして、治療に取り掛かる。

 膝も負傷はしているけど――まずは矢から。

 少し踏ん張ってもらって抜くと、更に血が出て顔が白くなってきた。

 血の匂いがたちこもって視界がくらくらする……。

 破けた服を剥がして、鍛えてある腹筋に手を添えると狼さんが微かに身じろぎをした。


 思ったより傷が深くて、命の危険を知らせていて、驚いた。

 とりあえず持っていた救急バックを探り、安心させるように満面の笑みで言う。


 「ちょっと待っていてくださいね、すぐに楽になりますよ!」

 「おい、それはフォークだ」

 

 「あれ、じゃあこっち」

 「それはナイフ! お前は俺を殺す気か!」

 「殺したら獣になりますか?」

 「そんなん為るか!!」


 「むう、じゃあどうしたらなるんです?」

 「こだわりすぎだろ……。お前に男でもできたら実験してみりゃいい。どうやってもならないことが分かる」

 「でもお姉ちゃんはなるって」

 「それは忘れろ」


 「ええ……」

 がっくしと肩を落とし、今度は包帯と消毒、水を取り出す。

 そこでピタリと動きを止めた。

 あれ、射抜かれた時って矢を抜いちゃダメなのでは……。


 ちろっと狼さんの方を見ると、呆れたようにため息を吐かれた。

 何も言葉を発していないが、言う前にお前が抜いたんだと藍色の瞳が物語っている。

 視線をスルーし、ふいと顔を背けた。

 強靭な狼人の体に密かにほっとして、さらと撫でるとぴくと再び身じろぎがされた。


 「――生きて帰れたら、実験台になってくれますか」

 

 「は?」

 「これは……」


 もう、助からない。

 直感的にそう思ってしまった。分かってしまった。

 だから――




 ふと姉の言葉が耳に流れる。

 「いい? 貴女は()()()を覚えてくるの。死にそうな兵を捕まえて、カプリよ。それなら誰にもバレないし――」

 ぞわりと身の毛がよだつほど甘い、慈しむような声。

 それは耳元で、ふわりと添えられて。


 「――魂の流れる最期の一滴は格別、なの」




 そう。私は吸血鬼(ヴァンパイア)

 血をモトメ、愛おしむもの。ああ、ほら、ほらね。

 こんなにも―― 美味しそう。

 狼さんの血濡れたお腹をペロリとなめ、身が高揚する。

 自分の姿は見れないが、たぶん、元の黒目は赤に染まっている。


 これが、血の味。

 そしてもう死にかけて過呼吸になっている狼さんの男らしい首筋をゆっくりと視界に捉え、(おもむろ)にくちをひらく。



 尖った吸血鬼特有の牙が唇から微かに覗き、無意識にほう、と吐息が漏れる。

 頬の赤みをそのままにふっ、と軽く息を吐き――



  ――自分の手首を食い破った。

 ポタ、ポタ、と血が滴る。


 それを狼さんの傷口に垂らし、嗤う。


 それはあっという間にその身に馴染み、傷を癒していった。

 みるみるうちにとは言わないが、血は体を巡り、狼さんの顔色はさっきより幾分か良い。


 「ねえ、吸血鬼に見初められた気持ちはどう?」


 まだ立ち上がれない狼さんの耳元で囁く。

 その姉と似た誰もを虜にしてしまうような声で甘く、甘く、甘く。

 ――愛おしむように、毒々しく。


 さぁ、吸血鬼(わたし)を憎んで。

 復讐に心血を注いで。

 いつか貴方の希望を見つけるまで――










  生きて。



ご視聴ありがとうございます。

今後の参考にしますので、評価・感想を頂けると嬉しいです。


余力がありましたら、

『ヴァンパイア姫は恋してしまった』『狼兵士は愛してしまった』『吸血鬼の初恋は叶わない』という続編も出そうと思っていますので、見つけたら覗いて頂けると有り難いです!

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