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春は君色

作者: 酒仙寺

真実の愛ってなんだろう?



「ねぇ、君は春が好き?」


彼女との最初の会話はそんなんだった。




「なぁ、お前ってあいつと話すっけか?」


「いや、しらねぇよ。今日初めて話したわ」


一週間前にクラスに転校生がやってきた。吉澤 春香。

正直、興味がなかった。みんなからは学校一の美少女だと言われてはいる。確かにその通りだが、そんなのは今の自分にとっちゃどうでもいいことだった。


「……」

「っ……!」


自分の視線の先にいた……工藤 静香は目が合うとすぐに目を伏せ、友達に「トイレに行ってくる」と言い、教室を出て行った。


「なぁ……やっぱりお前ら別れたのか?」

そう言いづらそうに辛そうな表情をする。

「まぁな……性格の不一致ってやつだ」

「そうは見えないがな……」


確かに俺らはごく一般的なお付き合いをしていた。デートに行くこともあればキスもすることもあったし、それ以上の事も何回かあった。


確かに最初は良かった。お互いに楽しかったし、愛しあえるとそう信じていた。だが、日が経つにつれてデートに行くのが苦痛になったり一緒にいるのに息苦しさを感じる事があったりした。


それでも、もう少し頑張ろうとした。だけどお互いもう無理だった。ついに限界を迎え、先日に俺から別れを告げた。「なんだが辛いんだ。別れよう」と言った。そしたら「分かった」と言われ、俺たちは別れた。



「ふー、やっと終わったぁ……おい大和!この後暇だったらゲーセン行こうぜ?」

「わりぃ、これから用事あるんだ」

「なんだよぉ?ノリ悪りぃな?」

「悪い。よかったら今度誘ってくれ、今日はダメなんだ」


俺は、そういい図書館に向かう。返していない本を返しに行くだけだ。なぜかゲーセンに行く気にならなかった。なぜかそんな事したって無駄だと思うようになった。


「すいません。これお願いします」


チラッと奥を見ると今一番会いたくない人がいた。俺は逃げるように図書室を後にした。



「はぁ、もう誰もいねぇか」

教室には静かだった。誰もいないかのように静寂に支配されていた。


「私がいるわ」

「うおっ」


声の主は廊下側の席に座っていた。そこには吉澤 春香がいた。どうしてここにと思った。だけど、口からは別の言葉が出た。


「春は好きだぞ」


彼女は少し驚いたような表情を作ると次に微笑みながら本を閉じた。


「なら、答えは出ているじゃない?」

「?」


彼女は何を言っているんだと眉を顰めると、彼女は立ち上がり、こちらに歩んでくる。


「重要なのは好きか嫌いかじゃないのよ、大和くん?」

「どういうことだ?」

「そこに自分の意思があるのかどうかなのよ」


彼女はそういい、そう言いながら胸に指を当てる。それでも俺は彼女が何を言ってるか分からなかった。


「だからs「それが彼女と別れた理由になるのよ」

「!?」


「ねぇ、大和くんはさ彼女と別れる時こう思わなかった。『彼女が幸せになってくれればそれでいい』って」


「っ!」


そうだ。彼女の言ったことは合ってる。俺はこんなおれじゃなく別の奴と幸せになってくれ。そう思った。そう思わなければやってられなかったから。


「だけど、貴方はそれでも彼女の事を愛していた。いえ、()()愛している、のよね?」

「……あぁ」


彼女が言ってる事は正しい。だけど、


「だからなんだ!?俺は彼女を幸せにさせてやる事が出来ないんだ。一緒にいるだけで苦痛なんて!彼女にそんな辛い思いはさせたくなんかない!!」


俺は思いをぶちまけた、そうだ。そうなんだと叫ぶ。愛しているのに愛す事ができないんだっと


「大和くん?人間でしょ?」

「もっとエゴになりなよ!『自分より〜……』とか『相手を〜……』とかどうでもいいんだよ。自分が一番なんだよ?他人がどうなろうと自分が自分を救えなきゃ、他人なんか救えっこないんだよ」


彼女の言うことに俺は……戸惑いを浮かべる。そんなのいいわけがない、自己中なんてダメだ。そういう今までの常識が俺を襲う。普通じゃないんだ……だけど、心の中ではそれに納得していた。それなら俺は救われる。そう俺は思った。


「……俺はどうすればいいんだ……?」

「ふー、まだ吹っ切れないか。ならこの本貸してあげる」

「なんだこれ?……」

とさっきまで彼女が読んでいた本が俺に渡され、読めっとおっつけられる。


「いいかい?愛には色んな形があるけど大体決まってるんだよ。お互いにお互いが依存し合う共依存。だいたいみんなこっちだよ。そしてもう一つが」


「手放す、見守る愛。タフラブってのがあるんだよ。だからわかって。貴方と相手。相手は自分と一緒の自我ある一人なの。理解できなくて当たり前じゃない!その結果寂しさを生もうとも、その寂しさと共に生きない」

「……」


彼女の言葉が心に響くのを感じる。初めての感動。

そうなのか……俺は愛してもいいのか……


「な、なんか哲学的な話になっちゃたね?で、でね何が言いたいかというと!!」


「いや、言わなくていい。彼女は……静香は今どこにいる?」


「そこにいるわよ。ずっと聴いてたし」

指差すその方向。そこには顔を赤くさせる静香がいた。

なんだいたのかという恥ずかしさと言おうという決意が溢れる。


「な、なんかご、ごめんね?ちょっと二人が何か話してるか気になって……い、いや、盗み聞きとかそんなんじゃ!!」


「静香」

俺は扉の後ろで隠れるようにいた静香の手を握りしめ目を離さない。彼女も目を離さない。

「ぁ……」


「さっき聞いてたようにまだお前のことが好きだ。これは俺の意思だ。お前が苦しい思いになることなんて考えちゃいない。俺がお前と一緒にいたい。こんな俺で良ければまたやり直して欲しい」


「……」


「ぐすっ……」

彼女は瞳を揺らしながら涙を溢れさせていた。そんな姿も愛おしいと思った。

「私で、よければ、よろしくお願いします!」

所々、言葉をつまらせながら彼女は自分の心から自分の本音を言ってくれた。



「はぁ……おい、吉澤 春香。あいつら止めてこい」

「えっやだよ。私あんな中入りたくない」


二人の見る先には大和と静香が幸せそうに見つめ合っていた。告白から二人の愛が止めどなく溢れ出し、学校だろうがイチャイチャするのだ。


「うえぇ……朝から糖分いっぱいで気持ち悪いぜ」

悪態をつきながらも二人の幸せそうな表情に頬を緩ませていた。


「ねぇ、私さこの案にあんたと静香ちゃんが乗らなかったらね、私さ彼に告白しようとしてたんだ」


だってイケメンだしっと彼女は付け足す。そういう彼女の表情はいつもみたいに飄々としたものだが、彼女の拳は、プルプルと増えていた。


彼女も彼女なりに本気だったのだろうと思った。


「そうか……」

そうしかいえなかった。彼女が悔しがっていて、それもふられていたのだ。


彼女の無念に俺も感化されたわけじゃ決してない。ただ、好きな女に好きな男がいて、それが自分じゃなかった……


「なんだ?飯でも行くか?」

とまるで同情するかのようにいう。声は震えていなきだろうかとか顔に出ていないかと不安な想いになる。


「……ふふっ、冗談だよ。でも、君の奢りだったらいいかもね?」


「はは、割り勘でどうだ?」


おそらく彼女なりに気付いていただろう。俺の気持ちに、それでも答えられない。そう、彼女が言ってるのだと思った。なら、彼女が立ち直るまでおれは待とう。


そうして、このあと四人で食べた飯はとても美味しく感じた。


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