俺の前世は、超天才暗殺者だった
俺は、飛龍未来、18歳。
10歳の時に父親の転勤でロンドンで暮らし始めた。四年後、母親とノッテンヒル通りを歩いている所を某有名モデル事務所にスカウトされ超美男子モデルとしてヨーロッパで活躍していたが、17歳の時に両親とテニス観戦の為、ウインブルドンに行く途中トラックとの衝突事故に遭い両親はトラックの荷台に挟まれ死亡。
俺は、奇跡的に頭部を強打するだけで命は助かった。一ヶ月の入院中に俺は、自分が『超天才暗殺者、桐生院春馬だった』と言う事を思い出した。
俺は、両親の事故死に疑問を抱き独自に調査した結果、暗殺者に意図的に殺された事を知った。そして、その暗殺者に19年前、巻き添えに殺されたの桐生院春馬の妻子の仇だと知り復讐する事を誓った。
その暗殺者は、俺(未来)の両親を殺した後、日本に帰国している事が分かり、俺も追うように帰国した。飛行機が、関西国際空港に到着すると待合ゲートには、先に帰国していた父親の右腕で義弟の須賀政宗が迎えに来ていた。
「坊、お久しぶりです」
「あゝ、早々だが、祖父母の事も調べてくれたか?」
「はい。5年前同じような事故で亡くなっていました。その後、すぐに経営破綻で【料亭 迎賓館】を失っていましたね」
「そうなる様に仕向けられたか?」
「証拠が無いのですが、飛龍夫妻と親しかった板前長とその妻も五年に事故死してます」
「何だと!有森夫妻が死んだ? その娘、さくらは? 死んだのか?」
須賀は、一枚の写真を俺に渡して『母方の祖父に育てられ、今は高校3年生になっていると教えられ安堵した。彼女、有森さくらは俺の帰国のもう一つの理由であったからだ。
「今、彼女、さくらは、何処に住んでいるんだ?」
「下町の安アパートに一人で住んでいます」
「そうか。良く調べてくれた。有難う」
「坊から、お礼なんて入りませんよ」
そう言って須賀は、俺のスーツケースを車に積み後ろの座席に俺を乗せ、マンションへ向かった。高速を通り一時間程で目的のマンションに着いた。このマンションは、両親所有で俺が10歳迄暮らしていた場所だった。最上階の全フロアーを改装し、俺の個人事務所、須賀の家と客用のロフト付きの部屋にした。俺の家は、須賀の倍以上の大きさだが… 気に入ったので、まあ、良いだろう。
俺の家には、ロンドンからの荷物が既に届き整理されていた。俺は、須賀から渡されたさくらの写真を寝室の棚に置いた。
明日の編入試験をパスすれば俺は、現役高校生、須賀政宗の弟、須賀未来に成る。
「明日は、早く起きないとテストに間に合わないから飯食ったんならすぐ寝ろよ!」
「ご冗談を、テストは、坊が受けるのですよ。早くご自分の部屋に戻って寝て下さい」
「クソッ、面倒くせえ。朝は起こしてくれよ」
俺と須賀の家は、外に出なくてもリビングの扉で繋がっているので食事は、須賀の家で取る事になっていた。
◆◆◆◆◆
「坊朝ですよ!」
「もう少し… 頼む」
「今朝のランニングは、取り止めますか?其れなら後、1時間は寝れますが」
「ん〜ん、コースは、決まっているのか?」
「はい、ジョギング用のウエアーも準備しています」
「あー、もうわかった。 起きるよ」
「外でお待ちしております」
俺は、慌てて顔を洗い歯を磨き、ワードローブにあるスポーツウエアーを着た。玄関には、既にジョギングシューズが置いて有り、其れを急いで履いて表に出た。
「早かったですね」
「当たり前だ。時は、金なりと言う言葉を知らないのか」
「ははは、では、此方のサングラスをかけて下さい」
「ん、今日から須賀未来に成るから宜しく」
「はい、了解です」
俺は、直通のエレベーターに乗り1階まで降り1時間程、政宗の案内で主立った場所を走りマンションに戻った。
「殆ど、変わっていた。これが、俗に言う『浦島太郎になる』って事か?」
「そうですよ。『帰ってきたら街が変わっていた』という事ですね」
俺は、シャワーを浴びてから政宗の所へ行き朝食を食べた。
「ワードローブに今日の洋服を準備していますので 其れを来て下さい」
「今日の洋服は、[ダサ男]になっているのか?」
「勿論です。仕事では有りませんから」
俺は、高校で「有名モデル]だと知られたくないので[ダサ男ファッション]で通学する事に決めていた。緑の瞳を隠す為にカラコンを入れて黒縁メガネを掛けた。勿論、頭は、ボサボサだ。
「よし、完璧な[ダサ男]だ」
「さあ、今日は、仕事が有りませんから電車で行きましょう」
「分かった」
懐かしい路面電車に乗り、地下鉄に乗り換え、更にバスで学園前まで行く。其れから10分歩いて王子姫学園に着いた。
「政宗、学園まで遠くないか?」
「通学は、車で送り迎えするので、30分程です。問題有りません」
私立王子姫学園は、典型的な進学校で東京大学を含む国立大学の進学率が全国で1位で寄付金を多く踏んだく… ゴホン、寄付金も多く、近代的な建物で設備も充実している。特にガラス張りのカフェテラスを含む学生食堂は、メニューも豊富となっている。
「では、先に校長室に行き、次に職員室で学年主任からテスト用紙をもらいましょう」
「ちょっと待て、何故そこ迄知っているんだ?」
「ここの学園長は、ちょっとした知り合いですので、坊の事は、ある程度知らせてあります」
俺は、学園長に挨拶を済ませてから、職員室に行き学年主任の寺岡雅子先生に会いテスト用紙(国語、理科、数学、英語は免除)を受け取り、別室に案内されてた。テストは、1時間も掛からずに終え直ぐに寺岡先生に採点されだが、俺は280点を取り余裕で合格した。
国立大学進学クラス(Aクラス)だと言われたが、さくらが居る私立大学進学クラス(Bクラス)を希望した。来週の始業式から出席する事となった。寺岡先生から学園指定の店と教科書等のリストを受け取って学園を出た。
「では、制服等を取りに行きましょうか?」
「[病弱なダサいガリ勉]設定だから大きめのサイズの制服が良いかもな」
「その様に既に注文していますので」
「流石だな」
◆◆◆◆◆
1週間後、俺は、私立王子姫学園の始業式に来ていた。講堂で学園長等の退屈、ゴホッ、タメになる言葉を聞いた時に政宗から、メールが届き『仕事の依頼です』との事、直ぐに貧血を装い倒れるフリをして担任の寺岡先生から帰宅の許可を取った。正門の近くで政宗が、仕事用の派手な外車に乗って待っていた。
「坊、急の仕事で申し訳ない」
「丁度、退屈してたから良かったよ。今日は、何処の仕事?」
「カンバンクラインの男性用オーディコロンのCMです。都内のスタジオだから時間には、充分間に合いますよ」
俺は、早速車に積んで有る私服に着替えて軽く昼食も済ませた。スタジオに入るなり、
「キャー、本物のMIRAIだわー」
「流石にぃ、カッコいい!」
「さあ、其れに着替えてねー。メイクとヘアーの担当君達、急いでイメチェンしてあげてー」
「あっ、カラコン取るの忘れてた。悪いちょと待て」
俺は、急いで政宗に預けてあるカバンからコンタクトレンズの容器を取り出しカラコンをしまった。
「MIRAIくーん、さっきの焦げ茶色の瞳も良かったのにー」
「あゝ、MIRAIの瞳の色は、エメラルドグリーンって契約書に入ってるから変えれませんよ」
「あら、そうなの。残念ね」
「はーい、ヘアー&メイク完成ですう」
「さあ、MIRAIくーん、スタンバイよー」
「動きは、顔を上げるだけで?」
「ええ、其れでお願いね」
カメラスタート!
アクション!
撮影は、順調に終り、3ヶ月間のキャンペーン等に駆り出される事になった。その間に雑誌の撮影やインタビュー等、スケジュールは、次々に埋まっていった。
夜遅くのキャンペーンの仕事が終わり俺は、缶コーヒーを車の中で飲みながらマンションに向かっていた。
「政宗、次は、いつ学園に行ける?」
「二日後ですね。夕方から仕事が有りますので昼食後お迎えに行きます」
「そうか、少し、スケジュール抑えめにしてくれ」
「さくらさんが、心配ですか?」
「あゝ、あの葛時が、さくらに… 」
「とっとと告白したら良いじゃ無いですか?」
「ブッ、ゴホッ、ゴホッ、煽るのは、辞めてくれ。俺は、告白して振られたら立ち直れないんだよ!」
「売れっ子モデルが… 困った性格ですね」
「う る さ い」
2日後、俺は、学園に行きクラスでさくらを探したが見つける事が出来なかった。アパートにも居ないと政宗に確認して貰った。昼食の時間になったが、さくらの事が気になったので保健室まで行った。
「失礼します。有森さくらは、此処に来ていませんか?」
「あれ、さっきまで居たのにぃ。お昼でも食べに行ったんじゃないかしら」
「じゃ、学生食堂にでも行って見て来ます」
俺は、食堂でさくらを見つけたので[お勧めランチ]と紅茶を注文して出来上がった昼食をトレーに乗せ、さくらが座っているテーブルまで運んだ。
「この席、空いているか?」
「えっ、ええ、どうぞ」
俺は、さくらの了承を得たので空いている前の座った。
「おいおい、お前、誰の席に座ってるんだよ!」
「此処は、葛時様の指定席だぞ!」
「ブサ男! お前がそこに座ったら、ブサイクが移るにゃ」
「あはは、ブサ男とデカ乳女じゃん!」
「お前らは、貧乳女と金魚のフン男だな」
「はあー、何を言ってるの バカじゃん!」
「酷いにゃ。 喋るなブサ男!」
其処へ葛時が、取り巻きに昼食を持たせてやって来た。
「誰じゃお前? この席は、俺の席って知って座っとんのか? ごらぁ〜」
「あっ、すまん。もう直ぐ食べ終わるから其れまで違う席で食べてくれ」
「なんじゃと! ごらぁ!」
葛時は、俺を殴ろうとしたが、俺のフォークに遮られ空振りに終わった。葛時は、一瞬驚いた素振りを見せたが、直ぐに殴り掛かろうとしたが、又俺に止められた。屑時は、顔を歪めながら殴り続けて来たが、俺は意にも返さず食事をしながらフォークで阻止していた。前世の記憶だが身体の動きは同じだなと思いつつ俺は、食べ終わると立ち上がりフォークの先を屑時の首に当てて耳元で『次は、殺すぞ』と脅してさくらの手を引いて立ち去った。
「須賀君って強いんだぁ」
「俺が強いんじゃなくて あの葛が弱いだけだ」
「ふふっ、そう言う事にしておくわ」
「悪い、教室まで一緒に行けないんだ」
「また、サボり?」
「お前も 良くサボるだろう?」
「私は、図書館で勉強して居るのだけど」
「そうなのか? じゃ、医務室では、昼寝か?」
「ふふふ、そんなとこかなぁ。須賀君は?」
「俺は、ひ弱なガリ勉だからな。ちゃんと家で勉強だ」
「へー、そうなんだぁ。あっ、じゃまたね」
「あゝ、またな」
さくらと別れ俺は、政宗が待っている駐車場に急いだ。
◆◆◆◆◆
俺は、政宗を見つけ車に飛び乗った。
「政宗、此の車は、どうした?」
「前の車は車体が低かったので思い切って買い替えました」
「いや、其れは、良いんだが、此の車って… 」
「いやー、分かりますか?」
「普通に分かるよ! なぜロンドンタクシー何だよ!」
「前から、運転してみたかったんですよ」
「はぁ〜、好きなだけ運転してろ」
「内装は、もう少し、お金掛けたくて、ですね」
「ふぁ〜、好きなだけ変えてろ」
俺の『ロンドンタクシーって、売ってるのか?』と語ちる声は、政宗には、届かなかっただろう。
着いたところは【料亭処 迎賓館邸】が良く見える丘の上。この料亭は、俺の祖父母が生前経営をし、さくらの両親が勤めていた場所だ。
俺と政宗は、車を降り地図を見ながら丘を下り、警備関連を調べている。
「かなり隠しカメラが多いな」
「分かりますか? 邸内もかなり有りましたよ」
「政宗、行ったのか? 此処は食事だけじゃ無いよな。あっ、あれ込みだよな」
「はい、大変でした」
「ブチッ、な に が 大変なんだ!」
「誰にするか、決められなくて」
「其れで、全員とやったのか? ん?」
「あはは、滅相も無い」
「『貞操も無い』の間違いだろ、あぁん」
「はぁ〜、誤解ですよ。決めないで帰ったんです」
「おお、政宗君、良く頑張ったなぁ」
「この頑張りは、大人としてどうなんでしょう」
俺と政宗は、一通り見ると【料亭 迎賓館】を後にした。そして、今度は、近くに有る葛時の家に行った。其処は、純和風の大きな家で昔、俺が良く遊びに行った祖父母の屋敷だった。
「此処から見た限りでは、全然変わってない」
「内装は、かなり変えてありますよ」
「調べたのか?」
「はい、内装を請け負った会社が倒産していましたが、何とか内装の図面は取れました」
「そうか、良くやった」
政宗は、次の行き先を告げずに歩き出した。暫く行くと下町のさびれた商店街に出た。
「もう直ぐですよ」
「何だこのレトロ感は… こっ、此れが、銭湯か? 此処は… このアパートは… 」
「そうです。 あの端がさくらさんの家です」
「 …… 」
俺は、何も言えなかった。2階建てのアパートは、夕方の日差しを浴びて 嫌にどんよりしていた。
「もう良い。 帰ろう」
「いえ、少し此処で待ていて下さい」
政宗は、背広の乱れを直して さくらのアパートの方に歩いて行った。そして、さくらの部屋に入った。
「はあ? 何で? しっ、知り合いなのか?」
俺は、イライラしながら政宗を待っていた。20分後、政宗は、悪ぶった様子もなく戻って来た。
「後5分遅かったら、殴り、ゴホン、迎えに行ってやったのに」
「其れは、残念でしたね。思ったより早く終わりました」
「何がだ? どう言う事だ?」
「立ち退きになるので、引っ越しを勧めてました」
「はあ? どう言うこ、と?」
政宗の話では、既にアパートの持ち主が代わっており、早々に引っ越さないと行けないらしい。其処で、政宗は、『大家の斡旋』と言う嘘をついて、俺の隣を貸すことになったと。
「『口八丁手八丁』って政宗の事を言うんだなぁ」
「お褒めに預かり… 」
「褒めて無えよ! でも、良かった。有難う」
「ええ、私も、ハウスシェア、いや、マンションシェアと言いますか、してみたかったんですよ」
「おまっ、ちょっ、ちょっと待て、2秒前の俺を殴りたいわ! 俺の『有難う』を返せ!」
「折角頂いたのに、返しませんよ」
「本当に?マジで? さくらと?同居?だと!」
「今の質問全部まとめて『はい』ですね」
「ゆ る さ ん! 絶対にダメだ!」
「もう、決まった事です」
「じゃ、さくらは、俺と住む。食事だけ政宗とだ」
俺達は、車に戻る間『あーでも無いこーでも無い』と散々議論を交わし、結局、さくらの意見を聞いて決める事になった。もし、さくらが、政宗との同居を選んだら、俺は、ぜーーーったい 政宗を許さないぞ! 俺の初恋成就を邪魔する奴は、誰であろうが万死に値するぞ!
◆◆◆◆◆
さくらの引っ越しが本格的に決まり、5月の大型連休にさくらの荷物を運ぶ手伝いをした。俺は、さくらとの同居を夢見ていたが、さくらは同年齢の俺よりも政宗との同居が良いと言ったので、俺の脳内は、爆発し、独断で客人用の部屋(1LK、ロフト付)にさくらを押し込めた。政宗、許すまじ!
夕食は、俺の仕事の都合も有るので朝食だけは、必ずさくらも一緒に取ることに決め、俺が学校に行く時は、一緒に電車通学する事にした。さくらが俺と居て恥ずかしく無い様に[ダサ男]から[普通男]に男子レベルを上げた。俺も恋する男子高校生だったのだ!
6月になり連日、雨、雨、雨だ。外国育ちの俺は、梅雨の蒸し暑さに耐えきれず保健室で涼む日が多くなったが、葛時と取り巻き連中が我先にと保健室のベッドを占領するので中々快適に過ごせないでいた。
取り巻きの連中は、全員同じクラスでは無い。俺と同じBクラスには、羽田薫、Cクラスには、阿部勉と芦田愛子、そして最下位クラスのDクラスは、笹野葛時、安藤信長、桐島安奈、計5人、葛時を加えた6名が休み時間毎に一緒に集まり行動していた。
誰も葛時に対して逆らったりはしない。何故だ? 俺は、取り巻き連中の事を調べた。
桐島安奈は、屑時の幼馴染みで今でも家が近い。中学校から一緒だった二人組、阿部と安藤は万引きの常習犯だったのを葛時に助けられたと、表向きはそうなっていたが、実際は、密告したのが葛時本人だ。後は、お金を与えて止めさせたんだろう。
中学時代の羽田薫はかなり荒れていた。父親は、一流企業に勤めていたが、愛人を作って殆ど家に帰って来なかった。母親は、寂しさから台所で隠れてお酒を飲んで精神的に荒でいた。そんな環境で真面な生活が出来るわけもなく薫は、夜遅くまで友達と遊びまわっていた。その遊び相手が、芦田愛子だ。愛子の両親は、離婚しており母親が、スナックに勤めているので朝まで帰って来無い。薫と愛は、小学校からの友人で気心も家庭事情も通じる所があったのだろう。
そんな中で二人の援助交際の噂が高校で広まり、両親でさえ薫と愛子を弁護せずにいた。その家庭環境に同情した葛時の母親、笹野真理子が、薫と愛を庇い二人で生活できる様にした。だが、その噂を流したのが葛時だった。
彼等が友達と呼べるのか判断に困るが、葛時親子が与えるだけで満足しているとは到底思えない。其れに全て屑時が仕向けた事だ。必ず何某かの利益を彼等から受け取っていると推測される。
俺が、奴等を助ける義理もなく、さくらに危害が加わってい無いので良しとする。まあ、笹野親子の酷さが分かっただけだが、ほって置いても俺が、全てをやり遂げたら開放されるだろう。
◆◆◆◆◆
俺の両親を殺した暗殺者の事も随時調査しているのだが、今の所、これといった情報も無いが、調べていくうちに反抗手順から暗殺者の人間像が浮かび上がってくる程度だ。
犯行の手口は、必ず交通事故を装っている事だ。其れに殺す相手の行動を把握し誘導している為、数週間から数ヶ月に渡り綿密な計画を練って殺人を犯していると理解できる。車の構造を知り何某かの細工が行える人物だろう。
暗殺者の依頼遂行のタイムラインを書いてみたが、同じ依頼者で有ると予測できその犯行が全て【料亭 迎賓館】を奪う為の犯行で有る事が簡単に見て取れる。暗殺者を[暗A]としよう
もし、前世の桐生院春馬の妻の交通事故死が[暗A]が関わっているとすれば… 2000年にセーヌ川の北岸のアルマ橋の下を通るトンネル内で起きた玉突き事故は[暗A]の犯行になる。此れもトラックが急ブレーキを掛けて背後の三つ車が追突して運転手が3人共(女性)死んでいる。[暗A]本人の事情か? 其れとも単に暗殺を引き受けただけか?
そして、2019年の俺の両親の事故死。此れもトラックの急ブレーキで荷台に突っ込んでいる。
2011年には、祖父母の事故死、同じ年にさくらの両親の事故死。
暗殺者としては、一流さに欠けるが、何故か、運転の急ブレーキが原因で必ず背後の車が止まれずに突っ込んで死亡しているという事だ。4件、いや、少なくでも3件は、【料亭 迎賓館】の略奪が目的の事故死に見せた暗殺だ。
俺は、さくらに桐生院の事以外の全てを話し事故当時の事を詳しく聞いた。さくらの両親と祖父母達は、経営が悪化の原因が誰かの妨害によるもので有ると考えてその対策を練っていたらしい。そして、事故当日、誰かに呼び出されて事故にあったという事。俺の祖父母に関しては、定かでは無いが、当日の行き先が不明の為、やはり誰かに呼び出されていたと推測出来る。
俺の両親は、呼び出されたのでは無いテニス観戦の行く途中の事故、いや、観戦チケットを誰かに貰ったと言っていたはずだ。俺の両親は、テニスをした事が無いはずだ。其れにテニスファンでも無い。有名なウインブルドン大会とは言えわざわざチケットを買ってまで観戦に行かないだろう。あの時、初めてチケットを見せて『テニスを見に行こう』と父が言い出したんだ。誰からチケットを貰ったのかは、一緒に仕事をしていた須賀政宗も知らなかった。
キーワードは、[誰か]つまり、[誰か]が故意に事故になる様に動いているという事。その誰かが、暗殺者だろう。
◆◆◆◆◆
今日から、期末テストで昼からは、『フリーだ』と言っても普通は、テスト勉強をするのだろうが、俺は、何故か仕事三昧のスケジュールになっている。
「政宗、良い加減にしろ!」
「何が、でしょうか?」
「俺は、高校生。今、テスト中だ」
「坊は、社会人ですよ。高校は、隠蓑でしょうか? そうそう、この前のCMの評判が良くて、仕事の依頼が増えてますから。兎に角お仕事頑張って下さい」
「あの半分裸みたいな奴か? あれは、多分、OK ROCKの音楽が良いんだろうな」
「いえいえ、坊の身体の見せ方でしょうか? 引き締まった素肌に青いシャツを着て、風でシャツが肌蹴る。そして、あの色っぽい顔のどアップ。担当者が『あのポスター貼ってもすぐに取られるんです』って泣いてましたよ」
「そう言えばキャッチコピーも良かったんじゃないか?」
「[匂い立つ 男]でしたね。まあ、コロンの宣伝ですから匂わないと困るでしょうけど」
「政宗が言うと味も蓋もないな」
「でも、あのCMでMIRAIがタトュー入れてるってモデル事務所には暴露ましたね」
「はぁ〜。 あんなに怒られるとは、思わなかったぞ。へその横から脇腹(死んだ両親のイニシャルと死んだ日時をデザインしたもの)だぜ。余程の服じゃなきゃ見えないだろ?」
「私も見た時は、驚きましたが… 契約違反とまでは言われませんでしたから、良しとしましょう」
テストが終われば、来週からはテスト休みに加えて夏休みが始まるので未来達は、仕事も兼ねてヨーロッパを回る事になっている。
その時に俺の前世、桐生院春馬の知り合いの情報屋に会いに行く。その男の名は、芝内恭兵でジョンと呼ばれている有名な情報屋(ハッキングして知りたい情報を得る)。完全に違法なのだが、情報を打って暮らしているプロのハッカーだ。
「坊、さくらさん、夕食の支度が出来ましたけど」
「はーい。今日は、お手伝い出来なくてごめんなさい」
「テストですから、その分頑張って勉強して下さい」
「あっ、今日から、カレーだな」
「大鍋で作ったので3日程カレー三昧ですよ」
「嬉しいです。カレーライス、カレー丼、カレーうどん,微妙に味が違うのが嬉しいですう」
「確か、カレースパもあったぞ」
「そう言えば、スパは、最近作ってませんね」
たわいの無い会話をするのは、俺、飛龍未来にとって大切な事だった。特に、さくらとの会話は家族の居ない俺にとって将来の嫁になり得る、ゴホッン、なるかも知れない人物なので慎重に愛を育んでいきたい、ゴホッ、ゴホッ、まだ片思いだが… 『愛を育んで』と思っているんだよ!
さくらは、とっても真面目な性格で物事をちゃんと見極めて判断できるし、派手好きじゃ無いところも気に入っている。小さい時は、ツインテールに大きなリボンを付け、フリフリのワンピースが良く似合った可愛い女の子だった。今のさくらは、どちらかと言えば地味で目立た無い美少女だ。だが、反則級にスタイルが良い、特に胸はやばい、『誰にも見せるな! 触らせるな!』と言いたくなる程破壊力が有る。だからさくらは、地味で良い、しかし、葛時がさくらにご執心なのは頂けない。俺は、絶対に阻止する! さくらは、幼馴染で俺の初恋の相手だぞ! 貴重だろ?
もし、さくらが俺以外を選んだら… 俺は、死に体になるだろう… マジで。
◆◆◆◆◆
テストも終わり、いよいよ明日から夏休みになるが、俺は日本の夏に耐え切れず一足先にロンドンに向かった。早朝、ヒースロー空港に着き地下鉄でダウンタウンに有るモデル事務所に行った。
暑い太陽に日陰の涼しい風、此れこそ俺の求めていた夏だ! 俺は、自分を褒めてやりたい。あの鬱陶しい生暖かい梅雨、朝からセミの大合唱のベタベタした初夏を過ごした事を。8年間、ロンドンで夏を過ごしていたら、当然、身体の体感温度もロンドン仕様に変わっているだろう。
ノーマ・ジーン社長に挨拶を終えたら、昼を過ぎてしまったけど近くのパブで定番のパブランチ(フィシュ&チップス)と洒落込もう。やっぱり雰囲気が大事なのか? 政宗が日本で作るより最高に上手い! まあ、普通の魚と芋を揚げただけだが… うん、黙っていよう。
今日は、このまま近くのB&B (朝食と宿泊)ホテルに泊まって、明日の朝一番に両親の墓参りだ。母の好きだったブルーベルの花も忘れずに持って行こう。
一人でロンドンに居ると自分は本当に一人ぼっちになってしまったと今更ながら実感してしまう。日本にいる時は、寂しさを感じ無いで良かったが、ここはハイゲイト墓地、俺以外誰も居ない、マジで怖過ぎ、ゴホン、寂し過ぎる。
政宗は、2週間後に来ると言っていたが、其れまでに事務所のジーン社長がウイークリーマンション(週契約のマンション)を手配してくれるだろう。そうなるとモデル仲間が遊びに来て煩くなるだろう。
翌朝、両親の墓参りの帰りにお世話になった警察官に会いに行った。当然の事だが、両親の事は、単なる事故で処理されてしまっていたが、被害者(トラックの運転手)も両親と同じ病院で死んだと言っていた。被害者には、小さい子供がいたのでポリスに住所を教えて欲しいと頼むと調べてくれた。
その住所を頼りに尋ねたが既に引っ越していた。隣の人に加害者の勤め先を覚えているか尋ねてみたら、会社名等は知らなかったが、定時の出勤で長距離用のトラックの運転手では無いと言うことか分かった。人の記憶は、不確かなので前世の桐生院春馬の知人に頼んで調べた方が良さそうだ。
ジーン社長の伝手で事務所近くのお手頃なマンションを借りる事が出来た。事務所が近い事もありモデル仲間が時々遊びに来たので寂しさを紛らわしていたら、あっと言う間に2週間が過ぎ、5日程予定より遅れて政宗がロンドンにやって来た。
俺が日本に居ない間、政宗に祖父母の料亭の経営破綻の経緯と借金や自宅等の財産関係等の法的な手続きを調べてもらった。兎に角、両親が死ぬ5年前に俺の祖父母とさくらの両親が続けて交通事故で亡くなっているのだが、【料亭 迎賓館】の経営関係の事をまず知らなければ、殺される理由も出てこないだろう。
「坊遅くなりました」
「大丈夫だ。さくらは、来ないのか?」
「あっ、其れがですね。夏期講習が有るとかで」
「何なんだよー。せっかくさくらと観覧車乗ろうと思ったのにぃー」
「私も乗った事が、無いですね。一緒に… 」
「要らね! じゃ、フランス行きの予定でも立てるか?」
「流石に塩対応ですね。坊は、電車のチケット取れますか?」
「ジーン社長に頼む」
俺達は、社長にパリでの雑誌取材の仕事を捻じ込まれたが、無事に電車のチケットも取れ旅の準備をしていた。
今回のパリ行きは、前世の桐生院春馬としての記憶が必要だ。特に協力者になって貰う予定の 情報屋は、アメリカ国籍の日系人だが、『アメリカの親元を離れて単身で日本の中学と高校に通った』と言う漫画オタクだ。昔にオタクと言う言葉があったかは、定かでは無いが、兎に角春馬の記憶だ。
パリに着いて最初に来たのは、墓地だ。
「どれでしょうね」
「神父に聞いたのに 間違ったのか?」
「あっ、有りました。これ奥さんのですね」
「えっ、俺の… 小さ!」
「まあ、春馬さんの墓石であって、坊のでは、有りませんから」
「其れでも、この大きさは、酷くね?」
「今更、文句言っても… ですね」
「まぁ、無いよりは、ましだな」
「じゃ、お好きだったお酒をかけますね」
「んじゃ、お裾分けで、乾杯」
墓守に志しを渡して予定のホテルに泊まった。
◆◆◆◆◆
桐生院春馬が何時も利用していた情報屋はこのホテルの近辺に住んで居た。まあ、『18年前の知り合いだから、生きているのやら死んでいるのやら、定かでは無い』と言う事で、余り期待はしないが… 会えれば強い味方が増えると言う事だ、が… うーん、やっぱり期待しないで待つ事にしよう。
ホテルのバーだからなのかオープンは、夕方の5時からだったので、食事をしてからバーに行くことになった。
「春馬さん、お友達来ますかね?」
「政宗、ちょっと待て、今の問い掛けは、可笑しいだろ。どうして、『春馬さん』なんだ?」
「坊の中に春馬さんがいらしゃるという事ですよね」
「いやいや、違うから。俺は[俺]だから。『単に桐生院春馬の記憶が有るだけ』だぞ。 ん? 違うのか? ラノベの異世界ものは、年齢を足してたなぁ… いやいやいや、俺は、おっさんでは無い」
「身体的には如何ですか?」
「記憶の作用なのか、身体の動きが敏速なんだ。ピストルやライフルなんかも打てるぞ!」
「其れは、良い事でしょう。既に経験値有りですから」
「喧嘩も曲芸的になったぞ」
「ほほー、宙返りとかですか?」
「いや、フォークを使ってパンチを止める」
「えっ、ナイフは… 」
「殺さねえよ!」
食事が終わり、バーに立ち寄り暫くカクテル等を飲んで目的の人物を待ったが、今日は空振りのようだった。その日から毎日バーカウンターで座って待っていたが、会いたい人には会えそうになく1週間が過ぎ、もう諦めた方が良いかと思っていたところで、バーテンダーからカクテルと一緒にチョコレートを貰った。
「シャポン?」
「ビーン・テッ・バー」
俺は、驚いた。20年前に決めた合言葉が未だに通じている事に。暫く待つとカウンターの奥から日系人らしき男が横に座って来た。俺は、顔のシワや白髪頭を差し引いて知っている顔だと思った。その男は、元FBLのサーバー犯罪の担当でインターネットの事なら彼の右に出るものはいないとさえ言われていたジョン桂木だった。
「桐生院春馬の紹介出来た、飛龍未来。隣に居るのが、須賀政宗」
「何が、欲しいんや」
「手が欲しいです」
「ブブッ、何やねん。おもろいにーちゃんやなぁ。普通は、『アレコレの情報が欲しい』って言うんやでー」
「いや、情報とも言えるが、一緒に日本に来て手伝って欲しい事が有る」
「はあ!日本に行け言うんかぁ?」
「ええ、桐生院春馬さんの奥さんの事故とも関係が有るかも知れないので」
「何やてー、アホ抜かせ! 何年前の話やと思てんねん」
「此処では、込み入った話がし辛いので… 部屋の方でお話ししたいのですが… 」
「よっしゃ、桐生院はんの紹介やから、受けるか分からんけど、聞くだけ聞いたるわ。ほな、行こかぁ」
俺達は、バーから出て部屋に戻った。政宗が、事件の荒増しを説明し、俺は、前世の桐生院春馬の記憶が有る事を説明した。
「うーん、信じられん話やけど… 流石に俺の恥ずかしい話し言いよったからな。春馬はんに間違い無いわ」
「坊、私も初耳です」
「政宗、俺じゃ無いからな!」
「もう、恥ずかしいから誰にも言わんといてや。頼んまっせ」
「大丈夫だ」
「よしゃ、春馬はんの頼みと分かれば、やりまひょ。日本に行くのも久しぶりやし。言いそびれたけど、ワイは、ジョン桂木いますねん」
「政宗、ジョンさんは、日本語を話しているのか?」
「坊、『大阪弁』て言う日本語です」
「コクニーと同じか?」
「おいおい、コクニーってロンドンの下町の言葉ちゃうんか? 大阪弁は、大都会の共通語じゃ」
「政宗、全く理解不能だ」
「これから一緒に暮らす様になるので慣れますよ」
俺は、ジョンの言葉に関してかなり不安だったが、仕事は完璧にこなしてくれるので頼りにしたい。もう、8月末なのでイギリスに戻らず、直接日本に帰る事にした。エコノミーの航空券を3枚予約しようとしたら、横から音速の速さでジョンがキーボードを打ち『あれよあれよ』と言っている間にビジネスクラスの航空券を3枚購入した。それも明日の早朝便だ。
「政宗、思った通りだ。ビジネスクラスを購入した」
「私、ファーストクラスの方が良かったのですが」
「何やねんな、一番安いの買う気やったんちゃうんか?」
「いえいえ、ジョンさんに選んで貰おうと思っていました」
「何やねんな。早よ言わんかい!」
次の日、シャルル・ド・ゴール空港から関西国際空港に戻った未来達は、急いで自宅に戻った。
「さくら!さくら! 居ないのか?」
「ごっつい、ええマンションやなぁ」
「此処は、坊、未来君の家です。私達は、隣です」
「政宗、さくらが、居ない」
「坊、勝手にさくらさんの部屋に入ったら… 」
ガチャ
「ただいまー」
「さくらー、お帰り」
「えー、未来君、いつ帰って来たの?」
「今、お土産渡すから、それに新しい同居人も」
「政宗さん、お帰りなさい」
「あっ、さくらさん、ただいま。新しい同居人の桂木ジョンさん」
政宗は、ジョンにさくらを紹介してから、さくらの両親の遺留品の事などを聞いていた。さくらは、祖父から母親の当時の日記を受け取っていた。俺達は、早速、その日記を見ることにした。
さくらの母親は、几帳面な人で日々の出来事を詳しく書いていた。要約すると10項目になった。
1)悪い噂(残り物を使う等』が広まる
2)マスコミが騒ぐ
3)経営者(未来の祖父母)と板前長
(さくらの父親)が、TVで事実無根と釈明
4)ネットでの噂が止まらず、経営悪化
5)板前の湯田が仕入金を持ち逃げ
6)信用を失す、銀行の融資も打ち切り
7)常連客の笹野真理子(葛時の母親)が、
お金を貸すと申し出る。祖父母が借りる。
8)未来の祖父母の事故死 (笹野が呼び出す)
9)未来の父親が葬儀後、経営権を持ちさくらの両親に委託経営を申し出て受理される。
10)さくらの両親が事故死 (笹野が呼び出す)
此処までの経緯から借入金の事で笹野真理子が、未来の両親とイギリスで接触したと予想される。【料亭 迎賓館】の土地権利書と祖父母の自宅は、現在、笹野真理子の名義になっている。そして、祖父母の借金は、返済済みになっていた。
全ての死因は、追突事故死。つまり加害者は、追突した車、俺の祖父とさくらの父になる
「うわー、きっちり嵌められてまんなぁ」
「此処まで経緯が明らかになったのは、さくらの母親の日記が有ったからだ。 有難う、さくら」
「ううん、私も日記読んだ時、驚いたよ」
「さくらさんは、これ以上関わりを持たない様にお願いします」
「政宗さん、それは無いよ。私の両親も殺されたんでしょう」
「此処からは、俺たち3人で大丈夫だ」
「でも… 仲間外れは、嫌だよ」
最終的にジョンが仲裁に入り『調べたり、計画を立てるのは、四人でするが、実行するのは3人で行なう』という提案をし、さくらもこの案を了承した。
「さあ、暗躍の時間だ!」
桐生院春馬が何時も言うセリフを未来が言うとジョンは、懐かしそうに口元を上げ親指を立てた。春馬が暗殺時に使うのは、スナイパーライフルのボルトアクションで、殺す場所も人通りの多い場所と決まっていた。
『適格に天候(特に風)を読み距離と銃弾の速度を見極めて一度の発砲で処理する。尚且つ犯人とばれずに人混みに消える』其れが、桐生院春馬が一流の暗殺者として言われる由縁であった。
最初に動いたのはジョンで暗殺者の足取りを掴むべくその筋の情報屋に会い情報を得ていた。そして俺と政宗は、横浜基地で秘密裏に軍用のスナイパーライフルC15(ボトルアクション)とM82(セミオート)の二長を購入した。
さくらは、コンピュータの前に陣取り【料亭 迎賓館】の内情を調べたり、店の中や外の隠しカメラをのぞき見たりしていた。
◆◆◆◆◆
未来とさくらは、夏休みも終わり学園祭に向けて忙しい日々を送っていた。
「はい、其れでは、先週決まったメイドと執事喫茶の準備の確認です」
「スイーツ担当は、有森さくらさんだよね」
「はい、パンケーキ、プリンアラモード、ショートケーキの3種類でパンケーキ以外は、前日に準備します」
「おお、良いね、良いね。次は、飲み物担当の須賀未来君」
「イングリッシュティー、エクスプレッソ、フィジードリンクの3種だ」
「えーっと、紅茶、コーヒー、炭酸飲料だよね。OK OK」
クラスルームは、生徒達の衣装や飾り付け等で意見が食い違いワイのワイのと五月蝿く、纏まらずに時間ばかりが過ぎるので、未来はモデル事務所の神崎社長に電話を入れ、メイド服と執事用の服を頼んだ。
未来の起点で衣装と飾り付けの目処が立ち、その他の準備も順調に進み、いよいよ今日から3日の予定で文化祭が始まった。
俺は、裏で飲み物やスイーツ等の準備で忙しくしていると何やら表の喫茶室で揉めている声が聞こえて来た。
「何だ此処は?葛時様のメイド喫茶と被ってんじゃねえよ!」
「この衣装、ウチらの真似して!」
「えーっと、お客様でないなら出て行って下さい」
「あれあれー、ブス女じゃん」
「おお、さくら、いつ見ても爆乳だなぁ」
「キャー、やめてー!」
葛時は、さくらの胸を鷲掴みしながら反対の手でさくらの腕を掴もうとした時、俺は胸を掴んでいた屑時の手の中に自分の手を滑らせさくらの胸を覆った。そして、同時に反対の手で屑時の指を掴みボキっと折った。屑時が、痛みで退けぞった拍子に後ろに回り込み思いっきり葛時を蹴って外に飛ばした。
「さくら、大丈夫か?」
「あっ、有難う」
「ひえー、お前、葛時様に… 」
未来は、葛時の取り巻きを無視して、真っ赤な顔のさくらを連れて裏方の仕事に戻った。取り巻き連中は、未来の行動の速さに唖然とし、我に返って慌てて廊下で蹲っている葛時の所に走って行った。
次の朝、俺とさくらが学園に行くと、学園長と学年主任で担任の寺岡先生から呼び出され、葛時が頭を打ち指も3本折れているので謝罪しに行くようにと理不尽な理由で怒られる羽目になった
俺は、出任せ半分で『レイプされそうな女の子を助けただけだ』と正当防衛を主張した。勿論、指など折ってませんと。
その後、さくらが理事長からの呼び出され『葛時が、今回の事で謝りたい』と言っていると言われて理事長に何処かへ連れて行かれた。
さくらが居なくなって未来は、さくらを一人で行かせた事を後悔し、急いでジョンに連絡を取り理事長の車の行き先を調べて欲しいと頼んだ。
政宗が、学園に迎えに来て『次の仕事の打ち合わせに行く』と主張してきた。
「はあ! 政宗、行くわけないだろう」
「今日は、大事な打ち合わせです。その為に場所を【料亭 迎賓館】にしたのですから」
「其れを早く言え。さくらは、其処にいるんだな」
「ええ、調べは付いています」
「着替えは、どうするんだ?」
「MIRAIで行きましょう。その方が、混乱するでしょうから」
「あゝ、分かった」
ジョンからの連絡が有り、さくらは二階の一番奥の座敷に入った事がわかった。
俺達は『懐石料理のみの食事客』と言う事で一階の座敷に案内された。ジョンの情報によると食事と床の準備が必要な客は、二階か三階の特別室が用意されるとの事。
座敷に入ると既に仕事関係の人とモデル事務所の社長、神崎桃花が来ていた。俺は、簡単に挨拶だけを済ませ、政宗に任せて二階へ上がった。今は、食事時なのか料理を運ぶ中居達❓が、廊下を行き来しておりその内の一人が、MIRAIだと気付き座敷の女性客らしき女と話しかけて来た。
俺は、『奥の部屋に挨拶に行くだけだから暫く待って欲しい』とだけ言い残し、直ぐに部屋に入り手際良く処理してから、奥の部屋で手足を縛られているさくらを開放して直ぐに女達の元に戻ったその間、3分足らずだった為、何も疑われる事なく理事長、板前らしき男と葛時によく似た男を仕末出来た。
さくらには、先に一階の座敷に行くように指示していたので、俺は、集まって来た女達と少しの間、話をしてから座敷に戻った。
「MIRAI、遅かったわね」
「すまない。神崎社長、女の子達に捕まっていた」
「ワハハ、若いって良いですなぁ」
「いいや、申し訳ありません。MIRAI、さっさと食事を済ませて、後、最終確認だけだから」
「あゝ、さくらが、食べたのか?」
「政宗さんが、『半分食べなさい』って言ってくれたから」
「政宗、メインが無いんだが… 」
「私のをどうぞ食べて下さい」
「ワハハ、もう一つ追加すれば良かったですかな」
「いいえ、取引先の方に気を使わせて申し訳ないですわ」
「あゝ、これで良い」
俺と政宗は、早々に話を済ませて何事も無かったように料亭を後にした。
◆◆◆◆◆
次の日の朝刊には、[私立王子姫学園理事長食中毒死]と記されていた。そして【料亭 迎賓館】には、食中毒事件として衛生局が立ち入り検査をし、一ヶ月の業務停止が求められた。週刊誌記者達は、板前長の湯田の食中毒死で調理場の杜撰な衛生管理とでかねてより噂のあった売春行為等も取り上げ世間を騒がせた。
「坊、思い通りに事が運びましたね」
「あゝ、予定外の拉致が絡んだが、上手くいった」
「未来君、どうやったの?」
「あゝ、挨拶しながら、彼奴の耳の穴に毒針を刺し脳内迄入れてやった」
「うわー、そう言えば驚いた顔で座ってたよ」
「さくらさん、あれは、猛毒ですが数分は、保ちますから」
「政宗はん、次の相手は、葛時の母親でっせ。此れが、高鳥屋デパートで必ず寄る宝石店とスタッフの資料やで」
「この子か。若いな… 未来の方が… 」
「俺、この手の子は無理」
「政宗はんやったら、イチコロでんがな」
「俺も、そう思う」
「換金場所は、ワテが抑えまっから」
「では、手筈通りお願いします」
理事長の急死で最終日の文化祭行事は、自粛されたが、来月には、体育祭と修学旅行が有り慌ただしく準備が進められていた。
「では、体育祭でのお遊び競争の二人三脚と借り物競争は、須賀君と有森さんで良いかな。文句ないかなぁ」
「あゝ、悪い。俺、身体弱いんで、無理」
「ええーっと、頑張って貰わなくて良いので。途中棄権 OK でもサボりは、NO」
「分かった」
「其れでは、お楽しみの修学旅行のグループ分けは、今から配る[しおり]に書いているので。文句は、受け付けませーん」
俺は、修学旅行には行けないだろうが、もし、全てが終わってなかったら… 考えないと行けないな。
ホームルームが終わり、俺とさくらは、学園を出てバスに乗り、地下鉄で高鳥屋デパートに向かった。
「私達、制服だけど大丈夫かなぁ」
「あゝ、其れなら考えが有る」
俺は、仕事で知り合ったスタイリストに連絡をし新真橋通りの洋服屋を紹介してもらい新しい服に着替えた。
「やば、サングラス忘れた」
「マスクにサングラスなんて、怪し過ぎて目立つよ」
「まあ、良い。今日は、普通男で行く」
「やっぱり、モデルだよね。普通男君でもカッコいいよ」
「ん?」
「ううん、何でも無い」
俺達は、ロッカーに制服を入れ急いでデパートに向かった。
時計を確認し、時間通りに俺達は、宝石店に入った。店に入り二人で指輪を見たりしていたら、笹野真理子が取り巻き達を連れてやって来た。
「奥様、いらっしゃいませ」
「この間、お願いしたの届いているかしら」
「はい、勿論でご座います。暫く此方の商品でもご覧になってお待ち下さい」
「ええ、見せて貰うわ」
笹野真理子は、出されたを宝石を手に取り見せびらかすように取り巻きの連中に見せていた。
さっきの店員が戻って来ると笹野真理子にかなり大きめのダイヤモンドの指輪を見せていた。其れと男物のブレスレットも一緒に買ったようだ。店員が、ホコホコ顔で指輪とブレスレットを箱に入れ包んでいる。そしてもう一人の若い店員が手提げ袋をもて来て商品を入れ笹野真理子に渡していた。俺は、其れを見届け店を出ようとしたら、さくらがじっと一つのネックレスを見ていた。
「さくら、欲しいのか?」
「ううん。可愛いなぁって、見てただけ」
俺は、暇そうにしている店員を手招きして、ショーケースから出して貰いさくらの首にそれを着けた。さくらが、鏡を通して着けているネックレス見ている間に支払いを済ませて店を出た。
「ちょ、ちょっと待って」
「政宗が、待っているから急ぐぞ」
「えっ、でも、ネックレス… 」
「逃さないた為の首輪だ」
さくらは、目を大きく開けて驚いていたが、俺がウインクすると顔を赤らめて『有難う』と呟いた。俺とさくらは、政宗の待っているホテルのロビーに行き、政宗から部屋の鍵を受け取りさくらと別れた。
◆◆◆◆◆
部屋に入ると桐生院春馬が何時も愛用していたのと同型のC15のライフルが鞄に入っていた。俺は、其れを取り出し感触を確かめてから別の鞄に入れてジョンからの連絡を待った。
「未来はん、今、女狐(笹野真理子)がデパートでよりましたわ」
「分かった。今から、屋上に上がる」
「南の非常階段でっせ」
「分かってる」
「ほな、ご武運を」
俺は、政宗が用意した上着を着てキャプ帽を深めに被り非常口のドアを開けて屋上に上がった。外は、日が沈見かけていたが、繁華街の煌びやかな電灯で視界は、悪く無かった。
「未来はん、聞こえまっか?」
「うるさい。何だ?」
「葛時が、合流しましたんや」
「問題無い。予定通りやる」
俺のスコープが葛時を捕らえた。一瞬の迷いが俺を襲った。
「チェッ、お前は、後だ」
バキューン
「政宗、今から部屋に戻る」
「坊、お見事です」
「ヒャホー」
「ジョン、うるさい」
俺は、急いで非常階段を降り部屋に戻った。ゆっくりシャワーを浴びてからルームサービスで夕食を注文した。外は、きっと警察と救急車のサイレンで煩いだろう。
食べ終わってからライフルを分解して用意してある箱に詰めた。後は、政宗を待つだけだ。
コンコン
「誰だ?」
「ルームサービスです」
「ちょっと待て」
俺は、携帯(電話)で政宗が何処にいるか、確認したら丁度、部屋の近くまで来ていた。
「坊、私が、対応します」
「分かった」
ガチャ
「坊、部屋を間違ったそうです」
「分かった」
「ジョンは、来てないのか?」
「今、バーで情報収集だそうです」
「じゃ、鍵は、部屋に置いておけば良いのか?」
「ジョンには、予備の鍵を持していますから」
俺と政宗は、箱だけ持って部屋を出た。そしてエレベーターで地下の駐車場まで行き車に乗りマンションに向かった。途中で警察の検問が有ったが、問題なく通れた。
「坊、箱は、何処に?」
「あゝ、このクッションだ」
「なるほど」
「政宗、あの子の方も上手く演ったみたいだな」
「ええ、暫くは、付き合わないと行けないみたいですけど」
「ええ? どうして? 相手は、万引きの常習犯だよな」
「はぁ〜、別れたく無いって泣かれまして」
「ブブッ、モテる男は、辛いな」
「MIRAIに紹介しても良いですか?」
「それ俺だろ? 生理的に無理だから」
「ジョンに… 」
「暫く、付き合ってろ!」
「イギリスに帰りたくなってきました」
「ブッ、帰るな」
俺達は、マンションに戻りマスコミにリークする準備をしてから部屋に戻った。暫くして、俺はある事に気が付いた。
「やべ、制服忘れてた」
トントン
「誰だ?」
「遅くに ごめん」
「さくらか? 入れ」
「…… キャー、なっ、なに裸で寝てるの!」
「うるさい。何だ?」
「もう、良いよ! 帰る!」
部屋を出て行こうとしたさくらに『制服は、無いぞ!』と言うと、背後を振り返り、指で目尻を下げ舌を出した。
「何だ? 解らん。 泊まってけ!」
俺の声は、寂しく響いただけだった。
◆◆◆◆◆
翌日[【料亭 晩餐館】の女将が、新真橋通りで射殺]とテレビのニュースで流れ、週刊誌は、射殺だけでは無く宝石を盗んでいた事や男遊び等書き立てていた。ジョンからの情報で夫婦とも金遣いが激しかったので保険金が出てもかなりの借金が残るだろうと言う事だ。
俺は、朝食を食べながらホテルで泊まっているジョンに電話を掛けた。
「ジョン、本命の相手の情報は、どうなってる?」
「かなり絞ってまんでー。もう1週間程もらえまっか」
「1週間後に分かるのか?」
「そうでんな」
「分かった」
今、政宗は【料亭 迎賓館】や祖父母の屋敷だった土地家屋の権利書に関して不正に横領された事への法的な処置が入れられるかを調べていた。そして、ジョンは、暗殺者の確定を急いでいる。
次の朝、政宗の家に行くとさくらが待っていた。
「未来君、お早う」
「あゝ、今日、一緒に出るぞ」
「制服だよね」
「そうだ」
「今日、ジャージで行こうと思うんだけど」
「ジャージでも良いのか?」
「今、体育祭の準備週間だから平気だよ」
「よし、そうしよう。制服は、政宗に頼むから」
学園では、体育祭の準備で忙しく動き回っていた。既に球技(男女混合のサッカー)
の予選が、始まっており汗臭い事になっている。
俺とさくらは、サッカーチームのレギュラーと補欠だった。勿論、『病弱』と言う理由の俺が補欠だ。実際は『日焼けがダメ』と言う女優顔負けの緩い理由だが。
「今から、試合だから応援宜しく」
「あゝ、サクラガンバレ」
「なに 棒読みなのよ! 補欠君」
「俺は、本当はサッカー小僧だ。イギリスに住んでたんだ。サッカー出来ないわけが無いだろう」
「あっ、そうだよね。ベッカムン選手のサッカー王国だもんね」
「ベッカムン居なくてもそうだけどな」
さくら曰く『次の対戦相手はDクラスで葛時がチームキャプテンだ』と言う腹立たしい相手だった。早くも、負けが決まっているようなものだ。実際、素人で気弱な審判なのだから葛時の反則三昧でもイエローカードの一つ出せないでいるのだから『ちゃんと見てろ!』と怒鳴りたくもなる。
俺が、イライラして観戦している時、ジョンからメールが来た。内容を見ると『暗殺者が確定した』と有り、写真も添付して有った。俺は、その顔、いや、その頬に有る傷を見て愕然とした。その後、俺は、直ぐに政宗に迎えを頼みマンションに戻った。
「政宗、暗殺者の資料は届いているか?」
「ええ、此れです」
「何なんだ、この分厚い資料は」
「あゝ、ざっと読みましたが… 読んで見れば分かりますよ。まあ、かなり念入りに調べたようです」
俺は、2度も読み返してしまった。
「何なんだよ 此奴は?」
《下記に要約:》
暗殺者の名前は、森伸治、44歳。
• 北海道函館生まれ、名は、田中圭
•7歳の時、両親が交通事故で死亡
• 東京の伯父に引き取られ、山本圭治になる
12歳の時、伯父が交通事故で死亡
• 大阪の叔母に引き取られ、八代刑になる
• 13歳の時、北海道網走の祖母に預けられる
• 15歳の時、祖母が病死
• 大阪の叔母の所へ戻る
• 16歳の時、叔母家族とアメリカに移住
• 18歳の時、義父の娘が事故死
• 家出 カナダ? ケイ・タナカと名乗る
• 20歳、カリフォルニアの中華街で働く
• 22歳、 車の修理工場で働く
• 23歳、桐生院夫妻の友と結婚
• 25歳 工場が倒産で無職になる
フランスで妻が交通事故死
保険金 500万円を得る
• 27歳、日本に帰国 結婚して真鍋浩になる
• 29歳、妻と妻の両親が交通事故死
財産と保険金 5千万円を得る
渡米 ケイ・タナカと名乗る
• 30歳、カリフォルニア 車の修理屋を経営
• 35歳、修理屋倒産
• 37歳 日本に帰国 田中圭と名乗る
• 40歳、笹野真理子の姉と結婚
森圭治となる
• 41歳、カナダに移住
妻交通事故死
後、シンジ・モリと名乗る
保険金1千万円を得る
• 43歳、ロンドン滞在
• 44歳、日本に帰国
現在、 大阪在住 森伸治となる
森伸治と葛時 叔父と甥の関係
俺は、ジョンも良く調べたと感心したが、森伸治の経歴を見て[交通事故死]の多さに驚愕した。
特に幼少の頃の両親と叔父の事故死が強烈に残っているのだろう。だから、森伸治は車の構造を熟知する為に修理工場で働き、交通事故死に偽装して保険金を騙し取ったりしたのかもしれない。
最悪な男だ。
そして、桐生院夫妻の知り合いの夫だった。
虫唾が走る。
そして、屑時は、この男の甥だとは…
偶然なのか?
其れに笹野真理子が姉の保険金目当の事故死に気がつか無い訳がない。何かが引っかかる、何故葛時が叔父を慕うのかも…
あゝ、そうか… 多分、そう言う事か。
DNA鑑定など、する必要も無いな
兎に角、すべは、繋がっていたという事だ。寧ろ、桐生院春馬が俺、飛龍未来の前世で有る事自体[偶然]では無く、[必然]だったのだろう。
「さあ、最後の暗躍の時間だ!」
◆◆◆◆◆
ジョンの調べでは、今日奴は屑時と会うらしい。場所は、天皇寺のミロ。四角い陸橋の上が暗殺場所だ。
今朝の俺は、すこぶる機嫌が悪い。昨日、体育祭の途中で帰った事を散々さくらに説教されたからだ。
「未来君、資料と体育祭、どっちが大切なの?」
「勿論、資料だ」
「はあ? 馬鹿なの? ん、馬鹿ね!」
「ううー、解せぬ」
「さくらさん、迷惑を掛けたでしょうが、もう其れぐらいで、坊を許して下さい」
「ええ、まぁ、そうね。 未来君も分かってるなら良いのよ。じゃ、そろそろ行きましょう」
「あゝ、政宗、午後の準備は任せる」
「承知しました」
さくらと学園に行き午後は、早退届を提出した。
急ぎ天皇寺ホテルに着いた。政宗が予約した部屋に入り、着替えてから屋上に有る貯水槽に上がる。俺は、M82のスナイパーライフル(セミオート)のスコープを除きターゲットを待っていたが、四角い陸橋の上にジョンと政宗を見つけ思わず『プッ』って吹き出してしまった。ジョンは、浮浪者の格好でダンボールの上に座って物乞いをし、政宗は、何十年か前のヒッピーの格好でアクセサリーを並べて売っている。
『彼奴ら、何やってるんだか』と俺は、語ちった。その時、ジョンからターゲットが上がって来るとメッセージが入り緊張が走る。スコープを除き奴が見えたので引き金を引いたが、奴は、秒差で体を屈め死免れた。奴の顔がもう一度見えた時、俺は引き金を引き、奴の額から一筋の血が流れたのを見て終わった事を確信した。其れからは、スローモーションの様に奴は、膝から崩れ落ち陸橋の上で待っていた葛時が何かを叫びながら走り寄り、ジョンは、店じまいのごとくダンボールを持って立ち去った。
俺は、貯水槽の上に分解したライフルを置き安物の手袋をホテルのフロント近くのゴミ箱に捨て路面電車に乗りマンションに戻った。暫くしてジョンもマンションに戻ったが、『大阪が気に入った』と言い『居候しながら情報を売る』とも言っていた。
政宗は、暫くさっき迄俺が居たホテルの部屋に滞在して【料亭 迎賓館】と俺の祖父母の土地家屋の権利書を巡る法的処理に勤しむと連絡が入った。
学期末テストが、修学旅行の為に3年生だけが早まったが、問題なく終わり、いよいよ明日から修学旅行となったが、俺は、仕事の都合でイギリスに戻り、其のまま大学卒業まで滞在した。
2年後、政宗は、全ての土地家屋を取り戻し、今では【食事坊 迎賓館】を俺の代わりに経営者として頑張ってくれている。因に女将として宝石店で働いていた女がなっている。
俺は、政宗に『ご愁傷様』とメールを送った。
ーーーーーーー
5年後、俺は、日本に戻った。
「未来君、今日は?」
「仕事が終わったら、マンションに迎えに来てくれ」
「パパー、早くー、幼稚園に遅れちゃうよー」
「分かった。直ぐ出発だ」
「パパ、この車タクシーなんでしょ」
「イギリスのタクシーだ」
「あ、この人、パパの初恋の人だよね」
「その、写真に触るな」
俺は、その写真を取り、
「待たせたな。もうすぐ暗躍の時間だ!」と呟いた。
コメントが有れば嬉しいです。