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1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-  作者: 丁玖ふお
第3章 秘めし小火と級友の絆編
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67.竜巻と魔力欠乏症










 






「なぁ、ウィンディ。一流のレーサーにとって一番必要なことを知ってるか?」



 ウィンディと呼ばれた五歳くらいの少女の頭を優しく撫でながら、男はそう聞いた。



「う〜〜〜〜ん、わかんない!!」


「それは、ズバリ"恐れないこと"だ」


「おそれないこと…………?」


「どんな不利な状況でも、勝てるチャンスが絶対来る。そんな、ここぞって時に恐れずにチャレンジできるのが、一流のレーサーってやつなのさ」


「わかった!じゃあ、アタシもいっぱいチャレンジして、パパみたいなすっごいレーサーになるー!!」






 ヒーティスの魔法によって作られた大きな火の球から発射された幾つもの火球が、既にウィンの目前にまで迫ってきている。



「さぁ、終局だ!我が魔法に恐れ慄くがいいさ!!」


「そんな魔法なんかに、絶対恐れたりするもんか!!だって、アタシは……………」



 ウィンは、ホウキに全身をピッタリと密着させるようにしがみ付くと、そのまま体を時計回りに回転し始めたのだった。


 そして、徐々にその回転数が上がるにつれ、ウィンの体の周りには渦を巻くように風が集まりだすと、あっという間に強力な竜巻を作り出したのだ。



「────"暴風(ウィンディ)少女(・スカイレーサー)"なんだからっ!!!



 ウィンを包み込んでいる竜巻は、既に彼女の目の前にまで迫ってきていた火球の間を綺麗にすり抜けると、その凄まじい回転を一切緩めることなく、ヒーティスの元へと一直線に突き進んでいった。



「……………パパ直伝!────"トルネード・ドライブ"!!」


「なっ!!……………その技はっ!?」



 ウィンの纏った竜巻は、逃げようとしたヒーティスを巻き込むと、吹き荒れる強風に数回もみくちゃにされた後、彼は無造作に宙へと放り捨てたのだ。


 おそらく、彼が床に落ちてくるまでに三秒もかからなかったであろう。

 しかし、そんな衝撃的光景を目の当たりにした人たちには、まるでスローモション映像のようにゆっくりと落下しているように見えていたのだ。


 この試合が始まるまで新品のように綺麗だった彼の制服は、袖や裾などがズタズタに引き裂かれていて、竜巻の中で蠢いていたであろう旋風の、容赦ない切れ味を物語っていた。



「そんな、バカなっ!?…………ヒーティス!!」



 そんなヒーティスのあられもない姿を目の当たりにしたスコルドは、思わず待機席から身を乗り出しており、今にもフィールド内に飛び出してしまいそうな様子であったのだ。



「はぁ…………はぁ……………初めて成功したけど、ちょーシンドいんですけど!」



 一方のウィンも、さっきの大技で魔力を使い果たしてしまったのか、空中から戻ってくるなりへたり込んでしまっていたのだ。


 愛用のホウキを杖のよう床に突き立てて、立ち上がろうとするのだが、今度は床に尻餅をついてしまっていた。



「ぐっ……………まだだ……………まだ、終わってない……………!!」



 ヒーティスは、体に残っている魔力を振り絞ると、腰のポーチの中から恐らく最後の一本であろう"ヒール・ポーション"を取り出すと、一気に飲み干すのだった。



「あ!!ソレ、まだ持ってたの!?」


「フッ。悪いが、この試合は勝たせてもらうよ!」



 先ほど飲んだ"ヒール・ポーション"で、体力と魔力が回復したヒーティスは、ゆっくりと立ち上がると、座り込んでしまっているウィンに杖の先を差し向ける。



「これで、私の勝ち…………だッ!?」



 今まさに、ヒーティスが自らの勝利を確信し、魔法を放とうとしたその時であった。


 突然、ウィンに向けられていた筈の杖は彼の手から離れると、そのまま床へと落とされてしまう。


 さらに、ヒーティスの顔は見る見るうちに青ざめていくと共に、彼が見ている景色の全てが一斉に歪み始めると、立っていることも儘ならないのか、崩れるようにその場に座り込んでしまったのだった。



「一体、何が起きてるんだ?……………体に力が入らない」



 ヒーティスは、今一度立ち上がろうと何度も試みるのだが、体が思うように動いてくれず、さらには魔力をいくら込めようとも、たった一発の魔法でさえ出る気配が感じられなかったのだ。



「あまり無理はせんほうがよいぞ。魔力欠乏症を起こしておるからの」



 不意に、背後から聞こえてきた老人の声に振り向くと、つい先程まで観客席に座っていた筈の校長がヒーティスの肩に優しく手を置いていたのだった。


「ウッドランド先生、この試合は両者共これ以上の試合続行が不可能のため、引き分けと言う形でよいかな?」


「はい。私も同意見です」


「君もそれでよいかね?ウィンディ・スカイレーサーくん。」



 校長のクライメットは、ヒーティスを他の職員に任せると、今度は未だ立てずにへたり込んでいるウィンに向けて、優しく微笑みながらそう問いかけたのだ。



「は、はい!アタシも、もう動けないので引き分けでいいです!!」


「君もよく頑張ったのぉ。流石は、"狂嵐(フレンジー)の疾風(・ゲイル)"の娘さんじゃ」


「えっ!?校長先生、アタシがパパの……… "狂嵐(フレンジー)の疾風(・ゲイル)"の娘だって、知ってたの?」


「まぁのぉ。それよりも、君も念のため医務室に連れて行ってもらいなさい」


「アタシは大丈夫です!まだ一試合残ってるし、応援しなくちゃ!!」


「だーめだ。お前は、大人しく医務室で寝てるんだ」



 おそらく、ウィンが試合の応援すると言うのが予想していたのだろう。他の七組のメンバーを引き連れて傍に寄ってきたレイヴンが、彼女の頭を軽く小突いたのだ。



「僕も先生の意見に賛成です」


「………………ウィンは、ゆっくり休んで」


「………そうだね!これ以上無理をしちゃうと、みんなに迷惑かけちゃうかもだし、アタシは医務室で休ませてもらうね!」


「じゃあ、俺がウィンを医務室まで連れてくから、ファイは試合の準備をしておいてくれ」


「うん、わかったよ!」


「あ、そうだ!………ファイ!!」



ウィンは、レイヴンの腕に掴まりながらではあるが、なんとか立ち上がってみせると、未だに足元がフラついた状態であるにも拘らず、自身の右の拳をファイに向けて突き出したのだ。



「負けたら、承知しないんだから!!」


「約束するよ、ウィン!絶対、勝ってみせるさ!!」



 ファイは、自信に満ちた表情で彼女から突き出された拳に、そっと自分の右の拳を合わせたのだった。



























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