62.風の盾と岩の拳
土の壁を壊されてしまったクランが、発動した魔法。
"岩の霊魂"。
果たして、この魔法でガストの猛攻を防ぐことが
出来るのであろうか──────。
「─────"岩の霊魂"」
砂煙の中から現れた、三つの岩の塊。
それが、クランの周りをフワフワと浮遊しながら回っている。
「…………クランのやつ、面倒になったから一気に決める気だな」
「え?あれって、そんなに凄い魔法なの?」
「う〜ん…………でもでも!あんまり強そうな感じじゃないけどな〜」
「まぁ、すぐに分かるさ」
「フンッ!壁だろうが、岩だろうが俺の魔法でバラバラに砕いてやる!!」
ガストがそう言いながら、右手の金色に輝く魔道具に魔力を込めると、両方の拳に風の魔法を纏っていく。
「喰らえっ!"ウィンド・ブラスト"!!」
ガストは、テンポよく左右の拳を交互に突き出すと、そこから風の衝撃波がクラン目掛けて飛ばされるのだった。
今まで、彼女を守っていた壁はもう無い。
だが、クランはガストが放った攻撃を避けたり、もう一度壁を作って防いだりするような様子は一切無かったのだった。
「………………"岩の霊魂"……………"防御形態"!」
クランがそう小さく呟くと、彼女の周りをゆっくり回っていた三つの岩塊が、一斉にクランの目の前に集合し、簡素な作りではあるが頑丈そうな岩の盾を作り出したのだった。
そして、その岩塊の盾が出来上がった直後に迫ってきていた風の衝撃波が、間髪入れず次々と打ち付けていく。
しかし、どうやら今度の岩の盾はつい先ほど壊されてしまった土の壁とは比べ物にならない程硬く、ガストが放つ風の衝撃波が何発当たろうとも全く壊れる様子は無かったのだ。
「俺の魔法が、通じないだと………?」
盾の予想外の防御力に、ガストは思わず攻撃を躊躇してしまうのであった。
「………………もう、終わり?じゃあ…………」
クランは、ガストからの連続攻撃が止まったこの好機に反撃するべく、彼女の目の前に浮いている岩の盾に魔力を注ぎ込むのだった。
「………………"岩の霊魂"……………"攻撃形態"!」
まるで、そう呟いた彼女の言葉に反応するように、今まで一箇所に集まり盾を形成していた岩の塊が一瞬にして三つに分かれたのだ。
「………………今度は、こっちの番」
クランがそう言いながら右手を前に向ける。
すると、今し方分裂した岩塊一つがガストの方へと勢いよく飛んでいったのだった。
「俺が、攻撃しかできないなんて思うなよ!…………"ウィンド・シールド"!!」
ガストが両方の掌を開いたまま突き出し、楕円型の風の盾を作り出すと、彼目掛けて飛んできた岩塊を難なく受け止めるのであった。
「………………まだまだ、いくよ!」
しかし、クランは続け様に残りの二つの岩の塊を、風の盾を展開させているガストに向けて一斉に飛ばし、一気に畳み掛けようとするのだった。
それにより、三つの岩塊から繰り出される容赦ない連続攻撃をガストは何とか凌いでいるものの、彼を守っている風の盾は次第に楕円の形を維持できなくなっていたのだ。
「………………これで、お終い!」
クランは、ガストに攻撃を繰り返していた岩塊を一度自身の元まで下げらせると、両手を顔の目の前で勢いよく合わせる。
すると、三つの岩の塊が彼女の目の前でグルグルと回転しながらバラバラに砕けるや否や、今度は大きな岩の拳へと形を変えたのだった。
まるでそれは、岩で造られた魔道人形、"ゴーレム"の拳そのものであった。
「………………"巨人の拳"!!」
そして、クランは今造ったばかりの、その大きな岩の拳をガストに向けて撃ち放ったのだ。
「フンッ!絶対、止めてやる!!」
ガストは、自身に残されているありったけの魔力を風の盾へと注ぎ込むと、既に目の前にまで迫って来ている岩の拳を、真正面から受け止めようとしていたのだった。
「───────うぉおおおーーー!!!」
しかし、岩の拳が触れた瞬間、ガストの風の盾は楕円の形状を完全に維持ができなくなったのか、まるで破れた風船のように呆気なく四散してしまったのだが、クランが撃ち放った岩の拳はまるで止まる様子を見せなかったのだ。
「…………そんな、馬鹿なっ!?」
先ほどまで、自信満々の様子で攻撃を止めるつもりだったガストであったが、未だ迫り来る拳に恐怖してしまい、情けなくその場に尻餅をついた挙句、目を瞑ってしまうのだった。
「ひぃっ!?た、たすけ…………!!」
だが、眼を瞑ってから何秒待っても自身の体に何も痛みがないことを不思議に思ったガストが、恐る恐る目を開ける。
すると、座り込んでいるガストの目の前には、岩の拳が寸止めの状態で止まっているのだ。
そして、青ざめたガストの顔の前で微動だにしない岩の拳の後ろから、いつの間にか近づいていたクランが相変わらずの眠そうな顔で覗き込むのだった。
「………………まだやる?」
「…………いや、参りました」
どうやら、魔力を使い過ぎたために気を失ってしまったのか、ガストはそのまま後ろに倒れ込んでしまうのであった。
「……………勝者、クラン・グランディール!!」




