59.魔道具と雷
交流試合、第一試合。
フリッドと戦う相手に選ばれたのは、以前食堂で腕
を氷漬けにされたミエルであった。
ミエルは、そのことを根に持っているようで
───────。
「いきなり僕ですか、まぁ良いでしょう」
「あのスカした氷使いか…………丁度いいぜ」
今し方、ディスプレイに表示され第一試合の選手に選ばれた二人が、フィールドの丁度中央に居る審判のウッドランドの元へと歩いていく。
「おい、お前。この前の借りを返してやるから、覚悟しろ!」
試合開始の所定の位置に到着するや否や、ミエルは、フリッドに人差し指を向けながら鋭い目つきで睨みつけたのだった。
"ミエル・トニトルス"。
トゲトゲした黄色髪が特徴の、小柄な男子生徒である。
右手には金色のブレスレット型の魔道具、左手の白いリストバンドには雷のマークが描かれており、頭のヘッドバンドにも同じマークがついていた。
「あぁ、腕に付いた火を消化してあげた件だったら、気にしないでください」
「…………相変わらずスカした野郎だ。決めた、絶対吠え面かかせてやる!!」
既にヒートアップ寸前のミエルに、やれやれと面倒そうにため息を溢すフリッドであった。
「両者とも、準備はいいみたいだね。それでは、これより第一試合"ミエル・トニトルス"対"フリッド・グラース"の試合を行う!!」
審判であるウッドランドの右手が徐に天へと伸ばされ、その一挙手一頭足に観客たちが息を呑んで見守っている。
「───────始めッ!!!」
天へと伸ばしていたウッドランドの右手が、一気に下へと振り下ろされる。
すると、ミエルの体が右へと傾いたのと同時に、右手首に付けられている金色の魔道具が眩しい黄色の光を放ち始めた。
「喰らえッ!"スパーク・ニードル"!!」
「……………ッ!?」
先手を打ったミエルによって放たれた、鋭い電気の針がフリッドへと飛ばされる。
フリッドは、咄嗟に右に飛んでそれを避けるとすぐ様反撃のために魔法を放とうとするが、その前にミエルからの二発目の魔法が放たれようとしているのだった。
「……………チッ!!」
フリッドは、魔法を放つのを諦めるとミエルからの電気の針から逃れるために、そのまま右方向へと走り出した。
「どうした、反撃してみろよ!?…………できるもんならなぁ!!」
「……………くっ!」
「フリッド、なんで反撃しないんだろう」
「ありゃ、しないんじゃなくて出来ないんだ」
「………………どう言うこと?」
「どうやら、相手の方が魔法を発動までの時間が早いらしい。あれじゃ、反撃しようとした瞬間、的にされちまう」
「そんなぁ〜」
「おそらく、あの"魔道具"の力で魔法を発動までの時間を短縮してるみてーだな」
ミエルが放つ雷撃の針が容赦なく襲いくる中、フリッドは反撃すら許されず、只ひたすらに避けるしかなかったのだった。
「…………やはり、食堂の時よりも1.5秒ほど早い。流石は、"カロール社"製の魔道具と言ったところですか」
「へぇ。この魔道具が"カロール社"製だって、よく気づいたな」
「しかし、それほどのスペックの物は今は販売されていない筈…………どうやってそれを?」
「どうしても知りたいなら、教えてやるぜ。お前が負けた後でなぁあッ!!」
再び、フリッドに対して激しい猛攻を繰り出すミエル。
そんな怒涛の攻撃に対して、フリッドは反撃など許される訳もなく、相も変わらず避け続けることしか出来なかった。
「チョコマカと逃げやがって…………だったら、これならどうだっ!!」
ミエルは、右手の金色のブレスレット型の魔道具に今までよりもさらに強い魔力を込めると、右手から三つの雷撃の針が飛び出したのだった。
「喰らえッ!"スパークル・スパイク!!」
間髪入れず撃ち込まれる三本の針を躱そうとするフリッド。
しかし、その放たれた三本の針は逃れようとするフリッドの行く先々に、撃ち込まれてしまい、いつの間にかフリッドは逃げ場を失ってしまっていたのだ。
「…………しまった!?」
「とうとう追い詰めたぜ!これで終わりだ!!」
ミエルは続け様に、魔力を右手の魔道具に込めると、今度は針よりも太くて長い雷の槍が姿を表したのだった。
「喰らえッ!────"スパークル・ジャベリン"!!」
ミエルによって投げられた雷の槍は、追い込まれてしまったフリッドへと目掛けて一直線に飛んでいく。
そして、その槍はまるで吸い込まれるようにフリッドへの体へと突き刺さったのだ。
「ぐわぁああああッ!!!」
丁度、フリッドの右肩に突き刺さった雷の槍は、触れるや否や物凄い威力の電流が彼の全身へと一気に流れ込むのだった。
「アッハハハハッ!いい様だぜ、そのまま黒焦げになっちまいな!!」
「フリッド!!」
「先生、早く止めないと!!」
「止める?なんで?」
「なんでって…………このままじゃ、フリッドが……………」
「落ち着いて、よく見てみろ」
「え?」
レイヴンに言われた通り、落ち着いてフリッドの様子を観察するファイとウィン。
すると、雷の槍が突き刺さっている部分から数本の亀裂が入り始め、その亀裂が全身へと広がった次の瞬間、フリッドの体は跡形もなく粉々に砕け散ってしまったのだ。
「……………なに!氷像だと!?」
なんと、ミエルが放った雷の槍を受けたのはフリッドではなく、彼の姿を模した氷像であった。
「僕が、ただ逃げ回っていたとでも思っていたのですか?」
いつの間にか、このフィールドの中に立ち込めていた白い煙の中から、ゆっくりと姿を現すフリッド。
そして、まるで苦虫を潰したような顔をしているミエルに対して、人差し指で眼鏡の位置を器用に直しながらこう言い放ったのだった。
「さぁ、勝利条件は整いました」




