58.マグネスと第一試合
いよいよ、"交流試合"当日を迎えたファイたち七組。
試合が行われる、"特別演習場"に待ち構えているのは恐ろしい罠か、それとも悍ましい陰謀か。
七組の運命は如何に!!!
"特別演習場"。実習棟の地下一階にある施設で、主に特殊な催しで使用されることが多い。
地下でありながら観客席もかなりの数があり、おそらく全校生徒も余裕で入ってしまうほどに空闊とした空間が広がっていた。
「わぁ〜、ひろーい!!」
「改めて見ましたが、結構広いですね」
「これなら、ウィンも空中で戦えるかもね」
「よーし、頑張っちゃうぞぉ!!」
「…………フン、相変わらず騒々しいな」
"特別演習場"のあまりの広さに、ウィンたちがはしゃいでいると、後ろから偉そうな声が聞こえてきた。
「まったく、担任も担任ならば、生徒も生徒と言うことかな」
「そうだな。俺みたいに"優秀"過ぎるかもな」
"交流試合"はまだ始まっていないのにも関わらず、二人の担任を筆頭に両クラスの間では既に火花を散らしているのだが、リッドだけはどうも浮かない顔をしているのだった。
「まぁ、いいだろう。その威勢がいつまで続くのか見物だ」
演習場の入り口に集まっているレイヴンたちを避けるようにして、スコルドと"交流試合"に挑むのであろう一組の生徒たちが通り過ぎていく。
しかし、先ほどからずっと俯いたままのリッドだけが、その場に立ち尽くしていたのだった。
「リッド?」
「ファイ、私は…………」
「…………キンバーライト君、何をしているんだね?」
ファイに何かを伝えようとしていたリッドであったが、一人だけ遅れているのに気づいたスコルドの呼ぶ声によって遮られてしまう。
「……………今、行きます」
リッドは、結局ファイに何も言わず先に行った一組を追いかけるように、七組の一行を通り過ぎて行ってしまったのだった。
「リッド、どうしたんだろう?」
「緊張してるんじゃないか?それよりも、俺たちもそろそろ行くぞ」
「うん…………」
「さぁ、お待たせしましたぁ!これより、一年一組と一年七組による、"交流試合"を始めたいと思いますッ!!」
魔力で声を大きくする、"魔道マイク"を握った一人の教師らしい人物が、集まった観客たちを煽るかのように、"交流試合"の開始宣言を行うのだった。
「司会進行は、一年四組の担任である。この私、"マグネス・カレント"が務めさせて頂きまーす!!」
これから"交流試合"が行われるであろう、床が白い線で囲われている巨大な長方形のフィールドは、一見サッカーのグラウンドのようであった。
しかし、ゴールなどは設置されておらずフィールドの中央にはクロノス魔法学園の校章が鮮やかに描かれていたのだった。
その中央の校章の上に、黄色の短髪に所々灰色のラインが入った独特な髪型が特徴の男性が、観客に向かって大袈裟に両腕を振りながら調子良く挨拶をしていた。
「では、ここで校長である"賢者"クライメット殿から挨拶をを頂きたいと思います、どーぞ!!」
司会進行役のマグネスが、校長が座っている席の方へと手を向ける。
すると、校長はゆっくりと立ち上がり隣にいた教頭から"魔道マイク"を受け取ると、一度咳払いをして喉の調子を整えた後、こう話したのだった。
「…………え〜、両クラスとも悔いがないように精一杯戦うように」
おそらく、この演習場に居る大半が、この続きの言葉が校長の口から出てくるのを、固唾を飲んで待っていたであろう。
しかし、十秒経っても次の言葉が出てこないのを不安に思った司会役のマグネスが、恐る恐る校長の顔色を伺うように見つめていると、それに気づいた校長が再びマイクを持ち直したのだが「以上じゃ」と、その短い一言で締めくくり、何事もなかったかのように席につく校長なのであった。
「…………どうも、ありがとうございましたぁ!挨拶をして頂きました、"賢者"クライメット殿に盛大な拍手をお願いしまーす!!」
あまりにも短すぎた挨拶に呆気に取られていた観客たちであったが、マグネスの迅速なフォローにより気まずい雰囲気をなんとか誤魔化すことができたのだった。
「さてさて、それでは試合を始める前に、事前に使い魔で連絡はしたとは思いますが、一応試合のルールについて説明をしたいと思いまーすッ!!」
マグネスの説明によると、今回の"交流試合"は、両クラス四人の代表からランダムで選出された選手にて行われる、一対一での実戦形式。
尚、今回はあくまで交流のための試合であるため、例え何れかのクラスが先に三勝したとしても、四回戦まで全てやるとのことだ。
勝敗は、相手を気絶及び戦闘不能状態、または降参させた方が勝利となる。ただし、大怪我をさせるような危険な魔法やは禁止で、その類の魔法が発動された場合は、すぐさま失格となるそうだ。
もし、万が一それの魔法が発動されてしまい、危険と判断された時には、マグネスたち教師一同が選手と観客を守るらしいので安全対策はバッチリのようだ。
「それでは、早速試合を始めていきましょう!!まず、第一試合は…………」
マグネスが、演習場の天井からぶら下がっている四つの方向に向いている四枚のディスプレイに手を向けると、両クラスの代表者の名前が目にも止まらぬ速さで次々と映し出されていく。
そして、その運命のルーレットが突然止まったかと思いきや、四つのディスプレイには二人の生徒の名前がデカデカと記されていたのだった。
「…………第一試合は、"ミエル・トニトルス"君VS"フリッド・グロース"君だぁああっ!!!」
待ちに待った初戦の組み合わせが決定されたことで、観客として見守っていた他の生徒たちによる割れんばかりの歓声が演習場の中に響き渡る。
「いきなり僕ですか、まぁ良いでしょう」
「あのスカした氷使いか…………丁度いいぜ」




