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1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-  作者: 丁玖ふお
第3章 秘めし小火と級友の絆編
55/72

55.紫の風と軍事区



美しい空の景色を見たことで、昔の事故の恐怖によって失っていた空を飛ぶ喜びを思い出したウィン。



果たして、ウィンはブジーアを捕まえることができるのか───────。

 






「………………ウィン、どこいっちゃったんだろう」


「もしかしたら、どこかの木に引っかかっているのかもしれませんね」


「じゃあ、早く助けに行かないと!」



 ウィンが、あの竜巻に飲み込まれてから一向に姿を現さないことに、地上で見守っていたファイたちの不安は募る一方であった。



「まぁ、そう慌てなさんなって」


「……………だけど」


「おっと、どうやら来たみたいだな」


「来たって、何が?」



 ふと、レイヴンが先ほどからずっと空を見つめていることに疑問を持ったファイたちであったが、半信半疑で彼と同じ方向を見ていると、何やら黒い点のようなものが段々とこちらに近づいて来ているのがわかった。



「さぁて、見せてもらうぜ。お前の、本気の"飛行"ってやつをよ」



 流れる風を、その身で切り裂きながら急降下していくウィン。

 その様子は、まるでそこを通ることで夕焼けに染まっていく空を、本当に切って真っ二つにしてしまいそうな勢いであった。


 もう時期、遠くに見える山の奥にゆっくりと消えていく日の光に反射して、目につけたラバーゴーグルのレンズが時折キラキラと輝いている。



「まだアタシの存在には気付いてないはず。一気に捕まえる!!」



 ウィンが、ホウキの柄をギュッと両手で握ると、今までよりも更に速さを増していく。

 もう殆ど魔力が残っている筈がないのにも関わらず、彼女は加速し続けていたのだ。


 ブジーアは、ウィンがどこから飛び出して来てもいいように、一定の高さを保ちながらぐるぐると旋回している。

 依然、空から猛スピードで迫ってくる彼女には、どうやら気づいていないようであった。


 やがて、もうファイたちの目でもしっかりと姿が認識できるくらいにまで双方の距離が縮むと、ウィンはブジーアをいつでも捕まえられるように体勢を整える。



「ウィンはどうやら、通り過ぎざまに掻っ攫う作戦のようですね」


「みたいだね。でも、もしこの奇襲が失敗したら魔力がもう残ってないウィンは………」


「………………ウィンなら、きっと大丈夫」



 そして、ブジーアを捕まえられる間合いにまで近づき、ウィンが右手を伸ばしたその時である。


 突如、ブジーアの姿が視界から消えたのだ。

 いや、消えたわけではない。

 なんと、彼女の気配を察知したブジーアが、伸ばした右手が触れるギリギリ手前で素早く身を翻したのだった。


 あっさりと躱されてしまい、そのまま高度を下げていってしまうウィン。

 そんな彼女の表情は、きっと悔しがっているのだろうと、誰もがそう思っていた。


 だが、それは全然違うものであった。

 彼女の目は、まだ微塵も諦めていなかったのだ。


 ウィンは、体に残されていた魔力を全て注ぎ込み、右手に風の球を作りだすと、それを軽く宙へと浮かせるや否やホウキで思いっきりぶっ叩いたのだった。



「これが、正真正銘アタシに残された最後の魔力…………"スゥトォーム・ストライクゥーーーー"!!!」



 ホウキによって打ち出された風の球は、先ほど放った一発目と同じように、地面当たると強力な竜巻を作り出し、地上へと向かっていたウィンの体をブジーアが飛んでいる方向へと鋭く転換させたのだ。




「────カァアアッ!?」



 強力な竜巻を使った急激な方向転換により、突如目の前に現れたウィンに、ブジーアはとても驚いていた。

 ついさっきまで退けたもんだと思い込んでいたブジーアにとって、この奇襲は効果抜群であったのだ。



「もらったぁああーーー!!!」



 それにより、ウィンは見事ブジーアを両手でしっかりと捕まえることができた。


 しかし、喜んだのも束の間、ウィンは魔力の使い過ぎが原因で気を失ってしまい、ブジーアをガッチリ掴んだまま地上へと真っ逆さまに落ちていってしまっていたのだ。



「ウィン!!!」


「ダメだ、気を失ってます!仮に、意識があっても魔力がなかったら"飛行魔法補助装置"は発動しません!」


「………………ウィン!!!」



 地上で見守っていたファイたちの慌てる声が飛び交う中、レイヴンは猛スピードで落下していくウィンを冷静に見つめていた。



「────ブジーア!"飛行魔法補助装置"に、魔力供給だ!!」



 いつも気怠そうな彼の口から出たとは、到底思えないほどの大きな声が公園に響き渡った瞬間、ウィンの足に装着されていた装置から紫色の風が噴出し、ウィンを優しく包み込む。


 なんと、地面までは僅か数メートルしかないと言った、実にギリギリのタイミングであった。



「ウィン!!」



 紫色の風が、ウィンとブジーアをゆっくりと芝生の上に降ろすと、心配そうな顔を浮かべたファイたちが彼女の元に駆け寄ってくる。



「ムニャムニャ…………絶対、捕まえてやるんだから…………」


「ウィンのやつ、夢の中でもブジーアと追いかけっこしてやがる」


「………ははは、ウィンらしいね」


「先生の使い魔が、咄嗟に装置に魔力を供給してくれたから助かりましたけど………これは、まだ改良の余地がありますね」


「……………無事でよかった。ありがとう、ブジーア」


「…………カァ〜〜〜」



 寝ているウィンの両手にすっぽりと収まっていたブジーアだったが、疲れた様子で一鳴きすると紫色に光る玉となって、レイヴンの体の中へと吸い込まれていった。



「………お疲れさん。ゆっくり休んでくれよな」


「それにしても、ウィンは起きる気配がありませんね」


「魔力を使い切っちゃったからかな?寝てれば、回復するとは思うけど………」


「このまま寝かせておくわけにも、な。仕方がない、ウィンは俺が家まで運んでくさ」


「………………私も、一緒にいく」


「じゃあ、ウィンのホウキを頼む」



 クランは頷くと、ウィンと一緒に落ちてきたホウキを拾い上げると、それを大事そうに抱えてレイヴンの元へと戻ってきた。







 その後、最寄りの駅であった"マナンティア駅"で、違う列車に乗るファイたちと別れると、レイヴンとクランの二人もウィンの家がある"軍事区"方面に向かう列車に乗り込んだ。


 ファイとフリッドもウィンの具合を気にしていたため、ついて行きたかったようなのだが、夜分にあまり大人数で押しかけると迷惑になる思ったレイヴンが、今日は帰るように説得したのだった。


 (しばら)く列車に揺られていると、車窓から見える景色が緑色から灰色へと変わっていく。

 今から向かう"軍事区"は、その名の通り幾つもの軍事工場が立ち並ぶ区域なのだ。

 しかし、"魔族侵攻"以降は"軍事区"にある軍事工場の半分が、冷蔵庫や洗濯機などの家庭用魔道機器や、日常品を生産する工場へと変わっていったようだ。







「えっと、確か………あった、ここだここだ」



 "軍事区"の一番大きな駅である、"インダストリア駅"で降りたレイヴンたちは、曖昧な記憶だけを頼りに、なんとかウィンの家へと着くことができたのだった。


 ウィンの家は、普通の住宅ではなく父親が経営しているのであろう工場(こうば)が合体していると言う特殊な構造をしている。


 レイヴンは、その家のドアをノックすると中からウィンの父親らしき人物が出てきたのだった。


 ウィンと同じ緑色の髪が特徴の男性。

 こんがり日に焼けた肌が印象的で、昔鍛えていたのだろうか、今着ているツナギの袖を捲った腕には結構な筋肉がついていた。



「!!…………アナタは!?」


「こうして会うのは十年ぶりだな。元気そうで何よりだぜ」


「………………レイヴン、知り合いなの?」


「あぁ、まぁな。っと今はそんなことよりも、ウィンを早くベッドに寝かせてやってくれ」



 レイヴンがそう言うと、背負っているウィンを父親へと引き渡したのだった。



「眠っているようですが、娘に一体何が?」


「飛行魔法の練習をしててな。ちょっと魔力を使いすぎただけさ」


「………そう、ですか」


「まぁ、詳しいことはウィンから聞いてくれ」


「わかりました。わざわざ連れてきて頂いてありがとうございました」



 男性は、抱き抱えているウィンが落ちないように注意しながら、丁寧に頭を下げる。



「なぁに、良いって。あんまり長居するのもあれだし、俺たちはそろそろ帰るぜ」


「………………お邪魔しました」



 そう言って、レイヴンとクランがウィンの家を出た数十秒後であった。



「………ま、待ってください!!」



 理由はわからないが、ウィンの父親がレイヴンたちのことを追いかけてきたのだ。


 それに気付いたレイヴンが足を止め振り返るのだが、近づいてきた彼の深刻な顔つきを見るや否や何を察したようであった。



「悪い、クラン。先に行っててくれ」


「………………うん、わかった」



 おそらく大事な話なのだろうと思ったクランは、レイヴンをその場に残し"インダストリア駅"へと向かったのだった。



「俺に何か用かい?」


「"総長"…………いや、"バーナー"さんが今どこにいるか知りませんか?」


「うーん、悪いが知らないなぁ。俺も"あの人"とはもう十五年も会ってない」


「そう…………ですか…………」



 レイヴンの返答を聞いた途端に、男性は肩を落とし、とても残念な表情を浮かべている。



「まぁ、"あの人"について何かわかったら知らせるよ。ただ、あんまり期待しないでおいてくれよな」


「はい!それで十分です………ありがとうございます!!」



 レイヴンは、先に行ってしまったクランの後を追いかけるべく駅のある方へと振り向くと、手を軽く振りながらその場を後にした。そんな手を振る彼をまるで見送るように、ウィンの父親は一度だけ頭を深く下げたのだった。







「さてさて、"熱風の鬼神"さんは。今頃、どこで何してるやら」







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