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1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-  作者: 丁玖ふお
第3章 秘めし小火と級友の絆編
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49.ケジメとウィスキー








フリッドによる"フェンリル"の話を聞いても尚、納得がいってない様子のクラン。



一方で、別の場所でも怪しい密談が行われようとしていたのだった──────。










 




「あら、ファイ。おかえり」


「ただいま帰りました、カルラさん。遅くなって、すみません」



 ファイが下宿先として住まわせてもらっている"燈のランプ亭"。

 "市場区"では、料理が絶品であると、ちょっとした有名店である。

 夜になると主に常連客でごった返しているのだが、さすがに平日の夜の9時頃となると客は居らず、カルラが後片付けをしているところであった。



「また、先生と剣の鍛錬かい?アンタも好きだねぇ」


「いえ、今日は友達の家に行ってて………」


「友達?」


「えぇ、クラスメイト4人と一緒でした」


「…………ふーん」



 カルラは、ファイの"友達"と言う単語に一瞬驚いたようにファイの方を見たが、その後は視線をシンクの中に溜まっている食器に向けては、手際良く洗っていった。



「そうだ、晩ご飯は食べたのかい?」


「あ、友達の家でカレーを…………」


「そうかい、じゃあお風呂入ってきなよ。フラウはもう入ったから、空いてると思うよ」


「はい、じゃあ先に入らせてもらいますね」



 ファイは着替えを取りに行くために、営業時間が終わって客がいないランプ亭のホールを通り、自室のある2階へと繋がる階段を登っていく。

 カルラも、後片付けが終わったのか店の入り口から外に出ると、着けていたエプロンのポケットからタバコを取り出し、自らの魔法で火を付けた。



「…………友達か。まったく、青春だねぇ」



 カルラが空に向かって吹き出した白い煙が、月明かりで仄かに淡い初夏の夜空に、まるで溶けていくように消えていったのだった。










 風呂から上がり、ベッドの上に大の字で寝っ転がっているファイ。


 やっと見慣れてきた部屋の天井を無気力にぼーっと見つめては、つい先ほどまで居たフリッドの家でのことを色々と考えていたのだ。





「………………それで、さっきの話の続きなんだけど、フリッドはどうして"あの日"のことを知りたかったの?」



 ファイから盛り付けてもらったカレーライスのおかわりを食べているフリッドに、クランが納得いっていような表情を浮かべながら問いかけている。



「"あの日"、クランが呼び出した"黒い腕"。あれに、兄さんが関わっていたからです」


「……………………」


「あの時、クランは先生の声に反応できていました。だから、僕もちゃんと意識を保てるようになれば、"フェンリル"の力だってコントロールできると思ったんです」


「なるほど〜〜〜。だから、クランの秘密を知っているお兄さんから、聞き出そうとしてたんだね」


「…………恥ずかしながら、その通りですね」



 ちゃっかり、ファイからもらったカレーのおかわりを満足そうに頬張っていたウィンが、自分の推理が当たっていることが嬉しかったのか、ウンウンと何度も頷いているのであった。



「…………今思えば、随分身勝手な行動をしたと反省しています。それに、皆に心配かけてしまって、本当にすみませんでした」


「過ぎたことだし、もう気にしてないよ」


「ファイの言う通りだよ!ね、クラン」


「………………うん」


「皆…………ありがとうございます」







 3人がフリッドの家を出ようとした頃には、既に日が暮れていたのだが、雲一つない空には無数の星たちが煌々と散りばめられており、それのせいか夜であるにも関わらず結構明るかった。



「3人とも、気をつけて帰ってください」


「うん!フリッドも、今日は早めに休んだほうがいいよ」


「じゃあね〜〜〜!!」


「……………また、明日」


「あ、クラン。ちょっと、待ってください」


「……………なに?」


「今日、"フェンリル"の話をしたのは"あの日"、クランに起きたことを知るためじゃありません」


「…………………」


「今回、僕が先走ったことで皆に迷惑をかけてしまいました。だから、"フェンリル"や"魔術書(グリモア)"について話したのは、あくまで僕のケジメです」


「………………ケジメ?」


「なので、"あの日"のことを知るのは、クランが話したいと思った時まで取っておくつもりです」


「……………そっか。ありがとう、フリッド」


「…………ッ!?」


 不意にクランの微笑んだ顔が街灯に照らされ、神秘的な光景に思わず胸の鼓動が高鳴るのを感じたフリッド。

 さらに、風に揺れる茶色の髪が月灯りに反射してはキラキラと輝いていて、それはこの世のものとは思えないほど美しかった。



「……………じゃあ、おやすみなさい」


「はっ、はい。おやすみ、なさい………」




 ファイたちが立ち去った後も、フリッドは未だ高鳴ったままの心拍数を落ち着かせようと外の夜風に当たっていた。

 そして、この突然に現れた謎の感情を必死に考えていたのだった。



「…………何だったんだ、今の…………」








 ドアを開き、店の中に入る。

 中には、黒いベストがよく似合う白髪頭の老人が、ワイングラスを丁寧にクロスで拭いているところであった。


 客は、やけに体格がいい軍服のような格好をした男性一人だけで、カウンター席の右隅で静かに酒を飲んでいた。



「いらっしゃいませ」


「いつものを頼む」


「かしこまりました」



 店主であろう、白髪頭の老人が今し方入ってきた客の目の前に、金色に輝く液体の入ったグラスを慣れた手つきで差し出す。

 そのグラスの液体からは、無数の泡が出てきており、それが店の雰囲気がある照明に当たると綺麗なインテリアのようであった。



「……………ぷはぁ!仕事終わりの一杯は格別だぜ」



 あまりに美味しかったのか、その客はグラスに入っていた金色に輝く液体を喉を鳴らしながら飲むと、とても満足そうな顔をするのだった。



「…………相変わらず、騒がしいな」



 突然、右の隅に座っていた男が声をかけてきた。左手には、ウィスキーらしき茶色の液体が入ったグラスが握られていた。



「あん?」


「もっと静かに酒を嗜めないのか?」


「こちとら、日々の授業で疲れが溜まってんだよ。それに、酒を飲む時ぐらい自由にさせてもらいたいんですがね、総司令官殿」


「疲れているならば、尚更静かに飲むべきだ。ゆっくりとした時間を過ごすことで、日々の疲れが癒えていくようだぞ」


「なーにが、"日々の疲れ"だ。どうせ、司令官室で一日中書類整理してるだけだろうが!」


「…………書類整理は苦手なんだ。私だって、好きでやってるわけではない!」



 お互い立ち上がって口論していたのだが、話が先に進まないと思ったのか、一度元居た席に戻るとほぼ同じタイミングでグラスに残っていた酒を飲み干したのだった。



「んで、なんだよ?わざわざ、じいさんに手紙まで渡して呼び出しやがって」


「キミに、ある依頼をしたい」



 ギルバートは、徐に懐から封筒を出すと、それを左端にいるレイヴン目掛けてカウンターの上を滑らせたのだった。



「なんだコレ?」


「それは、王国で管理している収支をまとめたものだ」


「それで?」


「実際数えて見ると、5000万ルスほど足りていないことが分かった」



 ルスとは、ここシャイニール王国で使用されている通貨である。

 種類は、紙幣の1万ルス、5000ルス、1000ルスと硬貨である100ルス、50ルス、10ルス、1ルスの計7種類である。



「数え間違いじゃないのか?」


「それはない。ハロルド殿の開発した魔道機器を使って何度も確かめた。念のため、私も数えてみたが間違いはなかった」


「…………まさか、王城から泥棒が盗めるわけがない、ってこと横領、か?」


「私も同意見だ。そこで、キミにある人物の調査をしてもらいたい」


「犯人の目星がついてるなら話が早い。誰なんだ?」


「それは……………」




 ─────ガッシャーーン!!!



 突然、さっきまで晴れていた空が一変して暗雲で埋め尽くされており、そこから放たれたのだろう凄まじい雷鳴が、王都中に響き渡ったのだ。


 そして、さらに今度は大量の雨が一斉に降りだし、先ほどまで静かだった夜の街は一変して、騒がしく降り続ける雨音一色となってしまったのだった。



「……………嘘だろ?まさか、あいつが?」


「確証はない。が、そうであれば全て説明がつく」


「けど、いいのか。もしバレたら、お前さんの立場だって」


「…………フン。私の立場など、どうでもいい。不要になれば他の誰かが、代わりに私の椅子に座るだけだ」



 いつのまにか、手元に置かれていた新しいグラスに入ったウィスキーを一気に飲み干すギルバート。

 その目には、元から覚悟を決めたいたかのような、揺るぎない信念が宿っているようであった。



「それに、バレないようにわざわざキミに頼んでいるんだろう?」


「買い被りすぎじゃないか?俺は一介の教師だぜ?」



 レイヴンも同じく目の前にあったグラスを勢いよく飲み干す。

 すると、立ち上がるや否や、全くふらついた様子がないしっかりとした歩みで、そのまま店の出口の方へと歩いて行ったのだった。



「…………けどまぁ、期待されんのは悪いはしないな。その依頼、この"レイヴン"が承ったぜ」


「では、何か分かったら報告してくれ」


「あぁ。あ、依頼料は今日の酒代でいいぜ〜」



 レイヴンが店のドアを開けると、外はいつも通りの静けさを取り戻していた。

 さっきまでの雷雨は、きっとどこかへと行ってしまったのだろう、空に浮かぶ雲の間からは月が顔を出しており、夜の王都を見守るように照らしているのであった。



「…………あぁ、それとキミのクラスに居るファイと言う少年なんだが」



 店から出ようとしていたレイヴンが、ギルバートの口から出た"ファイ"と言う言葉に反応したのか、丁度ドアを潜ったところで立ち止まったのだ。



「ファイが、どうしたんだ?」


「……………いや、何でもない。忘れてくれ」


「…………そーかい」



 レイヴンが店から出ると、ドアがバタンと音を立てて閉まり、店に残されたのは白髪頭の店主と客であるギルバートの2人だけであった。



「すまない、もう一杯貰えるかな?」


「かしこまりました」



 ギルバートは店主から酒を受け取ると、また一人で静かに飲み始める。


 そして、17年前に出会った"ある男"の言葉を思い出すのであった。





『ギルバート、お前はどうして強くなりたいんだ?』






「……………まさか、な」











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