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1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-  作者: 丁玖ふお
第3章 秘めし小火と級友の絆編
45/72

45.獣と檻

ハロルドが放った"アイシクル・ランス"によって、"梁"にされてしまったフリッド。

心配するファイたちのよそに、フリッドにある異変が起きようとしていた!!


フリッドの運命は如何に─────。

 






「フリッド、大丈夫かなぁ〜???」


「ハロルドさんも、いくらんでも弟のフリッドに大怪我とかはさせてないと思うけど………」




 ハロルドの放った"アイシクル・ランス"を受けて、両手を開くような体勢、所謂"(はりつけ)"の状態のまま凍てつく氷によって身動きができないようになっていた。

 だが、ファイの予想はどうやら当たっており、あそこまでの激しい"勝負(兄弟喧嘩)"の中でも、ハロルドはちゃんと手加減をしていたようで、フリッドは大きな怪我などはしていないようだった。




 フリッドの事で話し合っているファイたちをよそに、レイヴンは氷により拘束されているフリッドを深刻な表情で見つめていた。


 同じく、ハロルドも自らが発動した"完全防御機構(システム)-アイギス-"を未だ解除しておらず、なぜかフリッドに対して並々ならぬ警戒しているようであった。



「………やれやれ、相変わらず手間のかかる弟だ」




 ─────パキッ!!



 突然、フリッドを包み込んでいた氷に亀裂がが入る。

 さらに、そこから次々と亀裂が連鎖し、あっという間に氷全体にまで広がっていたのだ。しかも、その亀裂の中から眩い灰色の光が漏れ始めており、それは誰が見ても明らかに異常な光景であった。



「────ハル坊ッ!!!」



 レイヴンの大きな声が、ハロルドに向けて発せられる。その慌てた様子から、緊急事態だと判断し、彼に警戒を促したと言ったところであろう。



「ハル、坊………?」


「もしかして、フリッドのお兄さんのことぉ!?」



 唐突に"ハル坊"などと恥ずかしい"あだ名"で呼ばれたからか、ハロルドは呆れているかのように深くため息をつく。それと、少し怒っているのか不機嫌そうな顔でレイヴンを睨みつけていた。



「………わかっている。それより、弟やそのクラスメイトたちの前で“ハル坊“はやめてくれ」


「呑気なこと言ってる場合か!俺も手を貸すから、早急に………」



 慌てた様子でフリッドへと近寄ろうとしているレイヴンであったが、不意に伸ばされたハロルドの右手により行手を阻まれてしまうのだった。



「すまない。弟は………フリッドは、私に任せてくれないか?」



 その時のハロルドは、こんな状況でもいつもと変わらない涼しい顔をしていたのだ。

 そんな彼の顔を見たレイヴンは、僅かな時間ではあるが目を瞑ると、冷静に思考を巡らせるのだった。


 やがて目をゆっくりと開くと、いつにもなく真剣な表情でハロルドを見つめていた。



「………ちょっとでも危険だと判断したら、俺も即座に加勢する。それでいいな?」


「構わないとも。まぁ、万が一にも無いとは思うがね」



 レイヴンは、魔法剣をしまいながら振り返ると、ファイたちが居る場所までまで戻り、そのまま部屋の壁に背中を預けるのであった。



「………さぁて、今度は兄貴の方のお手並拝見といきますか」





 ─────バリィイーーーーン!!!



 ガラスが勢いよく割れたかのような音が部屋の中に鳴り響いた次の瞬間、フリッドの身動きを封じていた氷が、白い爆煙を巻き上げながら激しく砕け散る。

 それにより、フリッドが"(はりつけ)"になっていた壁際に、今し方発生した白煙が立ち込めてしまい、何が起きたのか状況が掴めなくなっていたのだ。




「────!?……来るぞ、ハル坊!!」



 それは、危険を察知したレイヴンの掛け声とほぼ同時のタイミングであった。


 突如、立ち込める白い煙の中から現れた"人影"が、目にも止まらぬ速さでハロルドへと駆け出すと、一瞬で間合いを詰められてしまっていた。


 さらに、その"人影"は氷で覆われた手から伸びる5本の鋭い氷の爪を、ハロルドの盾に思いっきり突き立てるのだった。



 けたたましい衝撃音が部屋の中に響き渡る。


 そんな大音量の衝撃にも確かに驚いたのだが、そんなことよりも更に驚くべきことが、今ファイたちの目の前で起こっていたのだ。



 なぜなら、それはいつも見ている冷静な"彼"の姿とは、明らかに違っていたからだ。


 両手、両足に氷を纏い、その先には凍てつく氷の爪が剥き出しとなっている。

 両目も普段なら彼の髪と同じ色である水色なのだが、なぜか今は赤く光っており、眼鏡の奥でハロルドを睨みつけていた。

 おまけに、氷の結晶で作られた尻尾を振るわせながら威嚇をするその様は、まるで獰猛(どうもう)な"狼"そのものであった。



 そう、フリッドは氷の獣と言う、異様な姿へと変わってしまっていたのだ。



「………あれ、本当にフリッドなの?」


「そ、そんな、嘘でしょ………?」



 あんなにも凶暴な姿に変わってしまった"級友(クラスメイト)"を見たファイたちも、正直言って動揺を隠す余裕などは有りはしなかった。



「…………レイヴンは、フリッドのあの姿について知ってるんでしょ?」


「まぁな」



 レイヴンは、もたれかかっていた体を壁から離し、そこから一歩前に出ると、豹変したフリッドの姿をじっと見つめていた。



「今、アイツの体を動かしているのはフリッドじゃない。アイツの中に居るもう一人………いや、もう一匹の人格………いや、獣格?………とりあえず、“フェンリル“って言う獣だ」


「“フェンリル“?」


「詳しいことはわからんが、フリッドの体の中に棲みついてるんだと。俺も実際こうやって見るのは初めてだがな」


「…………フリッドの中に“も“、あんな強い力が……………」




 ハロルドの絶対的な防御力を前に、奇襲が失敗したことを悟ったフリッドは、今度は氷の尻尾で薙ぎ払う。

 これも盾で防がれると思いきや、氷で作られているのにも関わらず、よくしなるその尻尾は別の生き物ように動くと、死角からの攻撃を可能にする強力な武器となっていた。



「────出でよ、氷の壁。"アイシクル・ウォール"!!」



 だが、ハロルドはそんなフリッドの動きさえも読んでいたかのように、頑丈な氷の壁を盾の横に造り出し、尻尾による攻撃を防いで見せたのだ。



 その後も、フリッドによる攻撃は何度も続いた。

 主に、スピードを生かした一撃離脱の奇襲であったが、尽くハロルドによって完封させられてしまっていたのだ。



「………グルルルル」



 フリッドは、このままでは拉致が明かないと本能で察知したのか後方へと大きく跳躍する。

 そして、十分な間合いを取ると、獣のような四つん這いの姿勢のまま、攻撃を仕掛けるチャンスを窺うかのようにハロルドを睨みつけるのだった。


 どうやら、度重なる攻撃でスタミナが切れてしまったようで、息を切らしているようにも見えたのだ。



「そろそろ、頃合いか」



 ハロルドは、そう呟くと盾を構えていない右手に魔力を込め始めたのだった。



「────ウォオオオオーーーーンッ!!」



 それを見たフリッドは、野生の"狼"のような遠吠えをあげる。

 知っていたかどうかは定かではないが、ハロルドが今から使おうとしている魔法を撃たせてはいけないと本能で感じとったのか、吠え終わると同時に猛スピードで駆け出すのだった。


 四足走行となったフリッドは、ハロルドとの距離を一気に詰めていく。

 その様は、(さなが)ら荒野で獲物を狩る“狼“のようであった。



「それも既に予測済みだ、“アイシクル・バインド“!!」



 ハロルドは、構えていた雪の盾から左手を離し、そのまま左手で拘束の魔法を放つ。

 それにより、床に現れた白色の魔法陣から氷で作られた鎖が何本も出現し、フリッドを捕まえるべく襲いかかってきたのだ。


 フリッドは、その襲いかかる鎖を軽い身のこなしで避けながらも、怯むことなく前進していった。



「────頑強たる氷よ、凍てつく牢獄にて閉じ込めたまえ。“アイシクル・プリズン“!!」



 突如、フリッドの足元に魔法陣が現れる。

 丁度、襲いかかってくる鎖を避けていた途中だったため、反応しきれなかったフリッドは、呆気なく魔法陣から出現した氷の檻に囚われてしまったのだ。


 そう、ハロルドにとってフリッドがどう鎖を避けるか、なんてことを予測するのも造作もないことだったのだろう。

 なぜなら、左手で放った鎖は、あくまで右手で準備をしていた“アイシクル・プリズン“で完璧に捕らえるための誘導でしかなかったのだ。



「グルルルルッ!……ガウッ、ガウッ!!」



 氷の檻に囚われたフリッドだったが、まだ諦めていないのか、檻を爪でこじ開けようとするの。

 だが、氷の檻が思ったよりも頑丈で、開く気配は全くなかった。




「"開放(リリース)限界(・リミテーション)"!」



 ハロルドがそう唱えると、氷の檻の中に白い煙が立ち込め始めたのだ。

 フリッドは、それを払おうと腕を何度も振り回すのだがするのだが、煙は容赦なくフリッドを包み込んでいく。



「………お休み。────"眠り(スリーピング)(・ビューティー)"!!」



 檻の中に複雑な術式の魔法陣が現れた次の瞬間、フリッドは抵抗する間もなく分厚い氷で閉じ込められてしまったのだ。

 しかし、驚くことに、そのフリッドの表情は苦しみや痛みなどではなく、安心して眠っている子供のようなあどけない顔なのである。


 ハロルドは、眠っているフリッドにゆっくり近づくと、優しく手を添えるのだった。



 その時、一瞬だけフリッドを見つめるハロルドが優しい"兄"の表情になっていたのであった。




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