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1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-  作者: 丁玖ふお
第3章 秘めし小火と級友の絆編
38/72

38.病院と保護者

王国軍から借りた馬車で、かかりつけの医師がいると言う“王都立インゲニウム総合病院“に向かうファイたち。果たして、クランは助かるのだろうか。

そして、レイヴンから明かされるクランとの関係とはーーーーーーー。





「レイヴン様、もうすぐ"王都フラッシュリア"に到着いたします」


「………ん?あぁ、意外と早かったな。お前ら、そろそろ起きろ」



"砂丘の町サーブル"から馬車で揺られることおよそ1時間、王都である"フラッシュリア"へと無事到着することができた。

決して長い旅ではなかったにしろ、ファイたちにとっては間違いなく疲労感が限界(ピーク)に達していたのは無理もなかった。

簡単な"依頼(クエスト)"と言われて、半分くらいは気が抜けていた事もあるが、突然現れた凶悪テロリストである"朧月(おぼろづき)"や、その研究室の室長が操る"合成獣(キマイラ)"まで襲いかかってきて、オマケにクランが呼び出した謎の巨大な"黒い腕"、本当に散々な目に遭った"遠足"であったのだ。

ゆえに、王国軍から無口だが優秀な運転手付きで貸してもらった馬車の中でも、レイヴン以外は当然の如く爆睡だったのは言うまでもなかった。



「ついでと言っちゃ悪いんだが、"魔道区"にある"国立インゲニウム総合病院"まで乗せてもらえないか?」


「問題ありませんよ」


「すまん、助かる」


「…………"インゲニウム総合病院"」


「フリッド、どうしたの〜?もしかして、馬車に酔ったとか?」


「…………いえ、大丈夫です」



"国立インゲニウム総合病院"。それは、数年前に亡くなったマーレ王妃が、愛する国民の為に最先端の魔道医療学技術と優秀な人材をこれでもかと言わんばかりに贅沢にぶち込んで作った、この国随一の超総合病院なのである。



「うわあぁ〜、おっきな病院ー!!」


「確かに、大きいね。学園ぐらいあるんじゃないの?」



優しい白を基調とした落ち着いたデザインの建物がいくつか並んでいる。おそらく、本館なのだろうか、中央に聳える一際立派な棟の周りを、一回りほど小さい4つの棟が立ち並んでおり、その棟と棟の間を渡り廊下が橋のようにかかっている。

また、敷地内の隅にはドーム型の不思議な施設があり、まるでそこだけが別空間であるような異彩な雰囲気を漂わせていた。




「クラン、大丈夫かなぁ?ね、フリッド?」


「…………僕に聞かれてもわかりませんよ。まぁ、ここの魔道医療技術は確かですから、心配いらないんじゃないですか?」



ファイたちを本館にあるエントランスに残し、受付をするためにどこかへ行ってしまったレイヴン。彼の意外にも落ち着いたその表情から、そこまで深刻な状態ではないと見て取れたのだが、何分詳細を知らないファイたちは、クランの無事を祈りながら待っていることし出来なかった。




「すまん、待たせたな」



20分ぐらい経っただろうか、一人になったレイヴンがファイたちの元に戻ってきた。その手には、クランが野外実習中に背負っていた白いリュックが握られていたのだが、黒いコートを着ているレイヴンとは、何とも似合わない組み合わせであったため、少し可笑しかった。



「先生っ!!クランは大丈夫なんですか?」


「あぁ、心配ない。ただ念のため2、3日入院するからしばらく学園も休むことになるかもな」


「そうなんだ。でも、大した症状じゃなかったから良かったよ」


「お前らにも心配かけて、本当にすまんな」


「何言ってるの、先生!クランは、アタシたちにとって大事なクラスメイトなんだから♪ね、フリッド!」


「えぇ、まぁ………。ところで、これからどうしますか?」


「もちろんっ!クランの病室に行って様子見に行こうよ!」


「………あぁ、そいつは無理だなぁ。ついさっき、魔道医療装置による治療を始めたところだから、今日は面会謝絶らしい」


「えぇ〜〜、そんなぁ〜〜〜」



折角、クランに会えると思って張り切っていたウィンであったが、レイヴンから唐突に知らされた“面会謝絶“と言う状況に思わず肩を落としてしまった。



「そう落ち込むな、ウィン。2、3日すれば元気になって、またすぐ会えるさ」


「………そうだよね!!それに、クランも疲れてるだろうし、ゆっくり休んでもらわないとね!!」


「と言うことで、今日はこのまま解散にしようと思う」


「そうですね。明日も授業がありますし、早く体を休めたいです」


「俺も〜。大したことしてないはずなのに、もうヘトヘトだよ」


「じゃあ、お前たち気をつけて帰れよ。俺も一応“ギルド“に報告がてら、クランの着替えとかを取りに行ってくる」


「え?先生、クランの家どこに住んでるか知ってるの?」


「何を言ってるんです、ウィン?先生なんですから、僕たちが住んでる住所なんて知ってて当然じゃないですか?」


「あ、そう言えば!学園に入学する時の書類にも書いたような?」



確かに、“クロノス魔法学園“に入学時に記入する書類に生年月日や今までの学歴などを書いた記憶があったのをウィンは思い出した。さらに記入項目には、現住所を書く欄もあったため、ほぼ同じ書類を書いたであろうクランの書類にも今住んでいる場所が載っている筈であり、先生であれば知っていて当然であった。



「まー、そんな書類見なくてもわかってるんだがな。なにせ、俺と“同じ住所“だからなぁ」


「“同じ住所“?あぁ、先生とクランって、同じアパートに住んでるんだね!」


「いや、俺は一軒家だぞ?」


「え?………じゃあ、同じ家にクランと一緒に住んでるってこと?それって………」


「………どどどどどどど、同棲ってこと〜〜〜!?」



病院のエントランス内に、ウィンの大きな声が響き渡る。天井が高い構造のせいか反響しやすいため大きな声を出せば確実に目立ってしまうのに、その上“同棲“と言う日常的にはあまり聞き馴染みがない言葉には、流石にエントランス居た他の利用客からの視線を一斉に集めるのは、いとも簡単なことであった。



「病院内ではお静かに!!」


「はっ!すすす、すみません!!」


そして、あまりにも大きな声だったのか、近くで受診の受付をしていた病院の従業員らしき女性に怒られてしまったウィンは、その場で何度も頭を下げて謝っている。



「“同棲“と言うよりは“同居“だ。一応、“保護者“だから家族ってことになるからな」


「“保護者“?クランの他の家族は?」


「あいつの家族は祖父だけだ。一緒には住んでないがな」


「お父さんと、お母さんは?」


「………それは、俺の口からは言えない。なにせ、“あの事“と関係あるからな」


「あ………」



レイヴンの言う“あの事“とは、先ほどクランの身に起こった不思議な出来事の事だろうと、察するファイたちであった。

つまりそれは、あの巨大な黒い腕とクランの両親が何かしら関係している、と言うことを意味していた。



「きっとそのことも含めて、クランの口からお前たちに話してくれる。だから………」


「わかってるよ、先生。俺もクランを信じてるから、もう何も聞かないよ」


「うんうん!誰だって、簡単に打ち明けられない過去の一つや二つあるだろうし、アタシもクランから言ってくれるのを待つよ!」


「お前ら………本当に、クランのクラスメイトがお前らで良かったよ」





「じゃあ、3人とも気をつけて帰れよ。明日も普通に授業あるから、遅刻するなよー」


「はーい、先生も気をつけて〜!」


「先生っ!クランのことお願いね〜〜!!



面会謝絶で、もう今日はクランに会えないと言うこともあり、ファイたちもそれぞれの家に帰るために“王都立インゲニウム総合病院“の外に出た、ファイたち7組一行はそのまま解散となった。

そして、“魔道列車“に乗るためにファイ、ウィン、それとフリッドは最寄駅である、“メディ・ケリア駅“まで一緒に歩き始めていた。



「よーし、帰ってトレーニングしたら、今日は早めに寝ようっと!」


「えー、さっきヘトヘトって言ってなかった?よくトレーニングなんてできるよね?」


「まぁ、小さい頃からの日課だからね」


「ふーん。ねぇ、フリッドは………あれ?」



なんと、先ほどまで隣を歩いていたフリッドの姿がそこにはなかった。辺りを見渡してみると数m後ろの道で立ち止まり、病院を囲む白い塀の上を怖い顔で睨みつけていたのだ。



「フリッドーー!!置いてっちゃうよーーー!!!」


「あ………すみません、今行きます」



ウィンの声に気がついたのか、2人に追いつこうと少し小走りで歩き始めたフリッド。

そんないつもと様子が違うフリッドを少しだけ気になったファイであったが、きっと疲れているんだけなんだろうと深くは考えなかった。


ふと、フリッドが睨みつけていた箇所を見るとそこには、病院の敷地内の隅に建てられていた異様な雰囲気を漂わせていたドーム型の施設が、まるで白い塀の上からこちらを見下ろしているかのようであった。






「先生、“フローレンス“の準備ができました」



ドアが開いたままの部屋の前で、礼儀正しく背筋をピンとしたまま立っている看護師らしき女性。

その女性の目線の先には、薄暗い部屋の中でコーヒーを飲みながら机の上の書類に目を通す男がいる。しかし、ゆったりと座れる椅子に深く腰掛け、足を組んでとてもリラックスしているその光景からは、とても医療関係の書類などではなく、暇つぶしに新聞を読んでいる風にしか見えなかった。



「すぐに行く」



その男はそう言って立ち上がると、今まで座っていた椅子にかけてあった白衣に袖を通すと、薄っすらと笑みを浮かべるのであった。






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