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1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-  作者: 丁玖ふお
第2章 秘めし小火と黒の教師編
37/72

37.受付係と白盾の守護者

突然のシャイニール王国軍の到着に動揺するファイたちであったが、さらにそこに現れたのは驚きの人物であったーーーーーーーー。





「"傭兵派遣ギルド王都本部受付係"の"ブリーゼ・ヴェーチェル"です!」



整列している重装備に身を固めた軍人たちの中から、慌てた様子で出てきた黄緑色の髪を横に束ねている女性。その彼女の着ている黒いベストの胸の所には、ギルドの紋章が金色に輝いていた。



「なんだってアンタがこんな所に?」


「実は、レイヴンさんに受けてもらった"依頼"に、今世間を騒がせているテロリスト集団、"朧月(おぼろづき)"が関与していると言う情報を入手しまして」


「なるほど、それで急いで駆けつけてくれたとって訳か。でも、何で"0番隊"と一緒なんだ?」



レイヴンの疑問も無理はなかった、何故なら本来凶悪犯やテロリストとの戦闘、及び鎮圧の任務には王国軍の中でも高い戦力を有している第1番隊、通称"雷牙隊(らいがたい)"が送り込まれる筈だからだ。



「…………それは、私がその情報の提供者だからだよ」



突然、整列していた"0番隊"の隊員たちが左右に分かれ、中央に道ができる。そして、間髪入れず胸に手を当てて姿勢を正し、所謂(いわゆる)"敬礼"をし始めたのだ。

すると、その中央にできた道を一人の男が歩いてくる。


その男は、頑丈で重そうな灰色の鎧を涼しい顔で纏っている。それは、鍛え抜かれた肉体による賜物だと言うことがわかる。

また、鎧と同じ灰色の髪を後ろに束ねているのだが、それにより顕になっている両頬の深いシワが日々の苦労の伺える。

そして、なんと言っても一番目を引いたのは、"白盾の守護者"と言う二つ名に相応しい白い大きな盾が、また主人と共に戦えるその瞬間を、彼の背中で静かに待っているかのようであった。



「あ、あの人ってもしかして!!」


「あぁ、15年前の"魔族侵攻"でこの国を救った"五大英雄"の一人、"白盾の守護者"ギルバート・ガードナーだ」





「ディルアくん、ここの指示は君に任せる」


「はっ!!第一班はテロリストの確保!第二班はあそこに倒れている生物兵器の回収に当たれ!第三班は…………」



ギルバートが、"0番隊"の隊員の間にできた道を抜け終えると、その一番最後にいた男にここの指揮権を委ねる。すると、その男は他の隊員たちに次々と的確な指示を出していったのだ。

暫しの間、隊員たちの仕事ぶりを見ていたギルバートであったが、問題ないと判断したのかレイヴンたちの方へ歩いてきた。



「君たちが、"クロノス魔法学園"の人たちだね?」


「王国軍の総司令官殿が、どうして俺たちのことを?」


「ここに来る途中でブリーゼ氏に聞いてね。生徒さんたちには、怖い思いをさせて本当に済まなかった」


「いえ、お………じゃない、私たちは平気でした。先生が守ってくれたので」


「そうか…………ん?」



反射的に答えたファイの方を見た瞬間、ギルバートは少し驚いたような顔をしていた。

そして、暫くの間ファイの顔をじっと見つめては難しい表情を浮かべ、何やら考えているようすであった。



「あの、俺の顔に何か付いてますか?」


「…………君、名前は?」


「え、あ、ハイ!自分は、ファイ・フレイマーと申します。い、以後お見知り置きを!!」



かなり緊張してしまっているせいか、ファイの口調や仕草は普段と違ってぎこちなくなってしまっている。

それもその筈である。なぜなら、このシャイニール王国に住む男子ならば誰もが憧れる存在と言っても過言ではない、あの"五大英雄"の一人である"ギルバート・ガードナー"が目の前に居るのだから、ファイがこんなガチガチな緊張状態になってしまうのも無理はなかった。



「そうか、ファイか。どうだろう、学園を卒業したら、我が"シャイニール王国軍"に入隊しないか?」


「え…………えぇっ!?」


「君はいい目をしている。きっと、いい軍人になれると思うんだが、どうかな?」



突然のギルバートからの王国軍への勧誘に戸惑うファイ。しかも、その軍を纏め上げている総司令官からの直々のスカウトとなると、戸惑わない人などいる筈もなかった。



「………ゴホンッ!」



どう答えていいのか分からず混乱していたファイを見兼ねたのか、レイヴンがあたかもわざとらしく咳払いをする。

それにより、話に水を刺されたギルバートが一瞬ではあるが不機嫌な顔をしたように見えたのだ。



「申し訳ありません、総司令官殿。我々はそろそろ"サーブル"の町長にこの事件の報告をしなければいけませんので」


「そうか、それは残念だ。そう言えば、先ほどから貴方の背中で寝ている少女はどこか怪我でもしているのかな?そうなら、私の隊の医療班に診てもらうといい」


「せっかくのご好意ですが、かかりつけの医師が王都におりますので、お気持ちだけ受け取っておきます。では、私たちはこれで…………」



眠っているクランを背負ったレイヴンが頭を軽く下げ、ファイたちを引き連れてその場から立ち去ろうとしていたその時であった。



「待ちたまえ」



不意にギルバートが、去ろうとするレイヴンたちを呼び止める。あまり大きな声ではなかったのだが、渋みのあるその声からは無意識に足を止めてしまうような威圧感が感じられたのであった。



「どうだろう、君たちの代わりに私とブリーゼ氏が"サーブル"に今回の事件の説明に行くと言うのは?」


「え?…………ぇええっ!?」



突然のギルバートの提案に、おそらく一番驚いていたのは、王国軍の"0番隊"と一緒に来ていた"ギルド"の受付をしている"ブリーゼ"であった。

なにせ、"依頼"受けたレイヴンたちの元に、ギルバートと"0番隊"を案内したらお役御免だとばかり思っていたため、まさか自分がレイヴンたちの代わりに"サーブル"に行かなくてはいけなくなるなど、思ってもいなかったからだ。



「それと、我々がここまで乗ってきた馬車の1台を自由に使うといい

。その子を王国に連れて行くなら、歩くより断然早いだろうからね」


「ちょっ、ちょっと!待ってください、ギルバート様!!」


「ん?なんだい?ブリーゼ氏」


「"ギルド"の定めた取り決めでは虚偽の報告や詐欺行為防止の為、依頼主への報告は基本的に依頼を受けた者がやらなくてはいけないルールになっています!」


「それは知っているさ」


「だったら!」


「ブリーゼ氏、今は急を要するんだ」


「し、しかし………」


「それとも、君はテロリストが関わっている事もろくに下調べもせずに、野外実習をする為に簡単な"依頼"を探していたレイヴン殿に引き受けさせてしまい、挙げ句の果てにその生徒さんにもしもの事があっても構わないとでも…………」


「わ、わかりましたわかりましたっ!わかりましたから、それ以上は言わないでください!!」



ギルバートが全部言い終わるまでに、ブリーゼは白旗を上げたのであった。戦闘だけではなくこう言った交渉ごとにも全く動じないのは流石は"五大英雄"と言ったところである。



「勝手に話を進めてしまったけど、君たちもそれで構わないかな?」


「早く王都に着けるなら、俺は特に異論はない。総司令官殿の好意に甘えるとしますよ」


「どうや決まりのようだね。ディルアくん、彼らを我々の馬車まで案内してくれ」


「はっ!!どうぞ、こちらです!」



先ほどまで、他の隊員に指示を出していたディルアと呼ばれていた隊員が、いつの間にかギルバートの近くで待機していた。周りを見ると大方の処理は済んでおり、ブルートを含むテロリストたちは捕縛され一箇所に集められおり、"合成獣(キマイラ)"も大型の荷台に積み込まれているところであった。



「………えっと、じゃあ私は"サーブル"に向かうギルバート様とブリーゼさんについて行けばいいんですね?」



どこかで聞いたことがある声に振り向くと、今まで姿を見せていなかった"サーブル"の町長の娘であるアレーナが誰にも気づかれる事なく、しれっとレイヴンたちの背後に立っていたのだ。



「…………アンタ、見ないと思ったら何処にいたんだ?」


「ずっとあの木の影に隠れてましたよ。すごい爆発音と衝撃波が発生した時はびっくりしましたけど、気付いたら解決してたんで良かったです!」



どうやら、アレーナにはその爆発音と衝撃波を発生させたのが、レイヴンの背中で眠っているクランだとは知らないようであった。






「それでは"クロノス魔法学園"の諸君、また会おう。それとファイ、さっきの話だが前向きに検討してくれると嬉しいよ」


「は、はい!」


「どうか皆さん、お気をつけて〜!」



手を振るアレーナに見送られながら、"0番隊"がここまで乗ってきた馬車が停めてある場所までディルアによって案内されるレイヴンたちには、王都にやっと帰れると言う安堵の表情とは別に、不安や焦り、戸惑い、迷いと言った表情が混ざり合っていたのであった。





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