1.プロローグ
周囲で爆発音がいくつも鳴り響いている。
立ち込める硝煙で、辛うじて見えるのは傷ついた同胞達と、異形の魔物の群れだった。
ここは戦場。
人と"魔族“との壮絶な争いが行われている地である。
空を不気味に飛ぶコウモリのような翼を背中に持ち、指の先に鋭く研ぎ澄まされた爪、そしてその体は灰色がかったそれは、誰がどう見えても人ならざる姿であった。
"魔人"、これが敵軍の大半をしめている。
魔族には大きく分けて2つの種類が存在する。
人型の魔人と、動物や植物、ゴーレムなどの"魔物"だ。
魔人は知性を持ち、魔物を従える事に長けているだけではなく、強力な闇の魔法を使うことができるが、魔物は一部を除き知性はなく、ただ目の前の標的を狩るまさに"怪物"である。
一方、そんな魔族と戦うのはただの人間ではない。
一太刀で巨大な魔物を一刀両断する戦士や、一瞬にして灼熱の炎で数多の魔人を葬れる魔道士たちだ。
そんな猛者達を率いるのは、"シャイニール王国軍"の若き王と、それに仕える五人の優秀な部隊長達である。
シャイニール王国は国王が若干18歳という異例の若さでその地位を築き、心から信頼する家臣達と共に建国した小国であった。
まだまだ小さい国であったが、自然は豊かで国民達も王を慕い、王もまた民に寄り添いとても幸せであった。
しかし、魔族による支配の拡大から我が愛する民を守る為に戦友と共に旗を上げ、各地で同志を募り総勢一万人もの大軍勢を作り上げた。
ーシャイニール王国軍陣営前ー
「――――ッ!!――――りしろ!!」
「――――様…――――…イト様…」
2人の声が、戦場に響く断末魔や爆発音に混じり、砂埃の中へと吸い込まれていく。
負傷し倒れている戦友を抱きかかえながら、普段の気怠そうな様子からは想像できない程に荒々しく彼の名を呼び続けている。
傍らで女が悲しみに打ち拉がれ、泣き崩れながらも最愛の人の名前を必死に繰り返す。
それはまるで、魂を狩り取りに来た死神に懇願するかのようであった。
これが後に、5年もの長きに渡り続いた"魔族侵攻"と呼ばれる、人と魔族による争いが終決する日に起きた悲劇であった。
―――15年後―――
まだ、日の出には程遠く、暗闇が支配する真夜中に突然目が覚める。
またあの夢だ。
15年前の戦いの記憶が脳裏から離れず、時々夢に出てくる。
「もう15年も経つのか……ブライト……」