第8話 パンツ男を連れて城下へ出る
3人で城下町へ出る。昨日、龍の国から宣戦布告をされたという情報はすでに国民へ伝わっているはずだというに、街の雰囲気に変わりは無く、皆、平日の朝を出勤や通学などで忙しく歩いていた。
「ふーん、やっぱり日本の江戸時代みたいな国なんだな」
そんな中、物珍しそうにキョロキョロするタキシードを着たパンツ男を連れて私は街を歩いている。できるだけ知り合いだと思われないよう、やや後方へ離れながら。
「けど、ちょんまげはいないな。着物が多いけど、ビジネススーツを着ているのもいる。鉄道はあるけ
ど、自動車は無いのか。鉄筋コンクリートで作られた家も無いな。木造ばかりだ。帯刀してる奴としてない奴がいるけど、武士階級があるのかな」
なんか呟いているが、よくわからない。いや、どうでもいい。私はこの男と一緒に歩いていることが恥ずかしく、せめて友達に見られないことを祈った。
「あ、女王様だ」
「相変わらずオーラないなぁ。普通に城下を歩いてるし」
城下の人間らが女王に気付き、こちらへ注目してくる。
この国は平和だ。少なくとも、宣戦布告されるまでは平和な国だった。百年前に他国との戦争があったきり、国内含めて争いごとはなく、犯罪件数も極めて少ないので、こうして女王がほとんど共も連れずに城下をぶらつくのは珍しくない。
この国は平和過ぎる。平和ボケしているのだ。ゆえに、隣国に宣戦布告をされてもそれほど重く考えず、日常を生きてしまう。危機感を持つほど、有事に慣れていないのだ。
「なんかパンツ被ったのと一緒に歩いてるぞ」
「パンツじゃなくてマスクじゃない? 今日は結構、花粉飛んでるし」
「なんだマスクか。ああいうのが流行ってるのかな」
平和ボケし過ぎぃ! こいつはパンツ被った変態だよ! パンツ被った変態が女王様と歩いてるの! もっと危機感持って!
とはいえ、パンツ被ってる変態を連れてると思われても嫌だ。もうマスクでいいや。そういうことにしとこう。この国の国民が平和ボケしててよかった。ちょっとホッとする。
「失礼な! これはパンツだ! 今朝方、女王から賜った脱ぎ立ておパンツだ!」
「うおぉぉい!」
パンツ男の頭をうしろからひっぱたく。
「余計なこと言うな! 黙ってろパンツ!」
「おいパンツだって」
「やっぱパンツなんだ。しかも女王様の」
「あの女の人も変態の知り合いなんだ」
ああもうだめだ。パンツと認識されてしまった。しかも頭を叩いてツッコミを入れしまったから知り合いともばれた。もう嫌だ。恥ずかしい。
「でもあれ、女王様のお供だろ。なんか深い意味があって被ってるんだよ」
「確かに。女王様がただの変態を連れて歩いてるわけないもんな」
深い意味なんかないよ。幼女のパンツを被りたいだけのただの変態だよ。
あまりに奇異な光景であるせいか、逆に意味があると思われたようだった。
しかしいいのかこの国はこれで? 普通、パンツ被ってる男がいたら通報しない? まあ、女王と歩いているからって状況もあるけどさ、ちょっと危機感なさ過ぎじゃない?
「あ、すいません。ちょっとそこの公衆トイレでおしっこしてきますね」
立ち止まった女王が左手に見える公衆トイレを指差す。
「待った。敵がどこに潜んでいるかわからないんだ。ひとりにならないほうがいい」
「パンツに同意するのは嫌ですけど、その通りです。ここは私も一緒に……」
「その必要は無い」
なにを思ったか、パンツ男は仰向けに倒れ、
「俺がトイ……ごふっ」
「死ね」
顔を踏んづけ、私は女王を連れてトイレへ向かった。