第7話 その正体はパンツ男
顔を上げたイケメンは、キリっとした表情を見せ、
「朝一番の脱ぎ立ておパンツをわたくしめにお賜りください」
「えっ? あ……ああっ! ひゃーっ! パンツーっ!」
フッと昨日のことが夢じゃなかったと思い出した私は、イケメン……もとい、変態パンツ男に蹴りを放つが、パンツ男は土下座のまま宙返りをし、それを避けた。カエルか!
「はーい勇策さん、パンツですよー」
いつの間にかパンツを脱いだ女王がそれをひらり振ると、パンツ男がそれに飛びつく。
「わーいパンツだパンツだー。ありがとうございまーす。装着! シャキーン! 元気百倍! ロリパンツ! 朝一番、フレッシュバージョン!」
「あああ……」
イケメンにパンツが被さり、そこに現れたのは、昨日の悪夢……いや、昨日、異世界から連れて来てしまったど変態ロリコンパンツ男、雷華勇策であった。
「うーん朝一番の脱ぎ立て幼女おパンツは、やはりフレッシュな香りがするぜ」
なんてこった……。一時でもこんな変態ロリコンパンツ男に心を奪われてしまった自分が恥ずかしい。というか、なんで変態のくせにあんなに顔が良いんだよ! 普通、不細工だろ変態は! ああムカつく! イケメンなのが余計に腹立たしい! シンパシーとか感じねーから! 気のせいだから! 前世では敵同士だったから絶対!
「熟成は四等級か。女王、寝る前にはき替えたな?」
「あ、はい。私、寝る前は必ずお風呂へ入るので。その、昨日からちょっとだけ気になってたんですけど熟成の等級ってなんですか?」
「うむ、良い質問だ。パンツが幼女の股に触れて匂いをつける期間、それを熟成と言う。熟成が長ければ長いほど、俺は元気になりパワーを増す。そして熟成された時間によって決まるのが等級だ。熟成時間が長ければ等級は上がり、短ければ等級は下がる。例えば6時間以下は5等級。それ以上の熟成なら4等級。半日以上なら3等級。丸1日以上なら2等級。3日以上なら1等級。そして1週間以上ならば超1等級だ。これは俺もまだ未体験のレアおパンツだ。生きている間にお目にかかれるかもわからん」
「た、確かに、1週間以上も同じパンツをはくなんて普通は無いですもんね」
真面目なトーンでなに話してるんだこいつら……。馬鹿なの? 変態なの? 私、帰っていいの? いなきゃダメ?
「あのー女王様、私はなんで休日に呼ばれたんでしょうか?」
「あ、そうでした。えっとですね、勇策さんはまだこの世界のことをほとんど知らないので、蛮奈さんに城下町の案内でもしてもらおうと思いまして……」
「嫌だ」
「って、なんでお前のほうから断るんだよ!」
私が即行、断ろうと思ったら、パンツがさらに早く断りやがった。いいけどムカつく。
「どうして嫌なんですか?」
「だってこの女、乱暴で怖いんだもん」
「私だって、パンツ被った男なんか連れて外を歩くなんてお断りじゃ! 他の誰かに任せてくださいよ! 私は絶対にいやですからね!」
「他の人たちはみんなハッピーモーニングデイで、今日は午後からなんですよ」
「私、休日だったんですけどぉー!」
なにがハッピーモーニングデイだよ! 隣国に宣戦布告されたってのに呑気すぎるだろこの国の役人連中は!
「まあ普通に休日を楽しもうとしてたお前も大概だけどな」
「人の考えてることを当てるな!」
パンツ男の頭を殴ろうと拳を振るが、ヒョヒョイっと避けられる。ムカつく。
「午後はみなさんに英雄の勇策さんを紹介しますから、午前中は案内をお願いします」
「だから嫌ですって。パンツ取るなら、ちょっと考えますけど」
「これはこういう顔なんで無理だ。取るとか意味わからん」
「おめえさっきはパンツ被ってなかったじゃねーか!」
「あれは仮の姿。こっちが本来の俺だ」
「なんで性格まで変わってんだよ! ずっと仮でいろ! このパンツ!」
「まあまあ、落ち着いてください。二人っきりじゃなくて、行くのは私も一緒ですから」
「それなら女王様がひとりで案内してくださいよ! こんなパンツと一緒に歩くなんて絶対に嫌です! 友達に見られたら恥ずかしいですし!」
「それでもいいんですけど、昨日のこともありますし、二人が側にいてくれたほうが安心できますので」
「昨日って……あ」
パンツ男が衝撃的すぎて忘れていたが、女王は昨日、龍の国から来た刺客に命を狙われたのだ。認めたくはないが、この変態パンツ男がいなければ女王も私も殺されていた。
変態だが、こいつは強い。女王の護衛として不足はないだろう。常識は不足しているが。
「けど、奴らなんで女王様を狙うんでしょう? 普通に戦争をしたって勝てるのに……」
「この国と龍の国は海で隔てられていて、大量の船を用意して敵地に乗り込まなければならないから攻め手が不利だ。ゆえ、戦力で勝っていても長期戦が予想される。長期戦となれば兵力や兵糧は激しく消耗し、最悪、負けることだってありえるだろう」
なんかまともなこと言ってるぞ。女王のパンツ被ってるくせに。
「だが、女王が殺されれば一時的にこの国は混乱する。その隙に乗じて、一気に攻め込めば短期に決着だ。早く終われば兵力の消耗も少なくて済む幼女のおパンツクンカクンカ」
「最後までまともを保て!」
「私の命を狙う理由が勇策さんの言った通りのものかは定かでありませんが、女王の私が死ねば国内に混乱が起き、龍の国に対して隙を見せるのは事実です。お2人で私を守ってください。これは国のためなのですから、お願いします蛮奈さん」
「いや、ならばこの男の案内などせず、城に篭もっていたほうが安全なのでは?」
「昨日の刺客はゲートを通ってまで追って来たのです。どこにいても一緒でしょう。むしろ人の多い街に出て大勢に紛れたほうが敵もやりづらくて、安全かもしれません」
「なるほど……」
こう見えて私よりも女王はかしこいのだ。伊達に八歳の幼さで女王はやってない。
「それに、このままパンツをはかずに外を歩くという興奮も味わってみたいですしね」
あれ? 変なこと言ってる。やっぱり馬鹿かな?
「ちょっと待ってくれ。おパンツを熟成させてくれないと、いざってときに困るぜ」
「あ、そうでした! じゃあ、ちゃんとパンツはかなきゃですね」
「昨日は躊躇してたのに、なんでパンツあげ慣れちゃってるんですか……」
「んー自分の命を守るためってのもありますけど、勇策さんってパンツをあげるだけですごく喜んでくれるんでこっちまで嬉しくなっちゃうんですよね。私も少し興奮しますし」
女王は股を擦り合わせ、恥ずかしそうに顔を赤らめてもじもじ動く。
この暗愚も変態なんだな。パンツと良いコンビだよ……。
「お前のパンツはいらないからな。えーと……バンソウコウさん」
「誰がやるか! あと名前は蛮奈だ! いいかげん覚えろ! 変態パンツ!」
「パンツは変態じゃない。変態は俺だ」
「黙れ!」
もう嫌だ疲れる。こいつがしゃべるたんびにほぼツッコミを入れてるぞ私。こんな奴と一緒にいたら喉がかれちゃうよ。
「じゃあさっそく出掛けましょうか」
「えっ? いや、私はまだ一緒に行くとは……」
「別に護衛は俺だけでもいいぞ。俺の目の前で幼女を傷つけさせることは絶対にしない。女王が幼女である限り、安全は俺というロリコンによって保障されている」
「わーなんか頼もしくて格好良いですっ!」
「それ逆を言えば幼女でなければどうでもいいってことですからね。格好良くないですよ。10年も経てば、私みたいに名前すら忘れられますよ」
「10年は長い。2年だな。幼女は年齢1桁までだ」
「はえーよ! 思ってた以上にロリコンだなお前! ほら聞きましたよね? こいつあと2年も経ったら女王様なんてどうでもよくなっちゃう最低な奴なんですよ」
「それはしかたがない。俺はロリコンだ。幼女のためにしか動かない。サンタクロースが子供達にしかプレゼントをあげないのと一緒だな」
「サンタクロースを変態と一緒するな! 謝れ! サンタさんに謝れ!」
「ごめんね」
「素直か!」
「俺、トナカイとソリは持ってなかったわ」
「そこじゃねーよ!」
「お前むっちゃ激しくツッコンでくるな。顔真っ赤だぞ」
「お前のせいだよ!」
スパーンとパンツの後頭部をひっぱたく。
なんだかんだで結局、護衛と案内に連れて行かれることになった私であった。