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第6話 一夜明けて自分の世界に戻ってくる

「――はっ!」


 目が覚めると、見慣れた天井がそこにあった。ここは私の部屋だ。

 ひどい悪夢を見て目覚めが悪い。なんか女児のパンツ被った男が英雄で、そいつに私が助けられるの。夢なのに思い出しただけで気分が悪くなって頭痛がしてきた。……トイレ行って、シャワー浴びてスッキリしよ。

 風呂場へ行き、やがてシャワーを浴び終わった私は脱衣所で鏡を見つめる。


「私って美人だなー。なんでイケメンの彼氏できないんだろ」


 胸だって大きいし、割と尽くすタイプなのに。やっぱ、武将ってのがダメなのかな。男って自分より強い女とか苦手だもんね。あーどっかに私より強いイケメンいないかなー。 ……そこで夢に出てきたパンツ男を思い出してしまう。

 いかんいかん。気持ちが悪い。あんな夢とっとと忘れないと。あ、そうだ。今日は休日だから刀剣男子の舞台を見に行くんだった。ふふふーん、イケメンいっぱい見て、変な夢のことなんか忘れちゃおー。

 ルンルン気分で私は脱衣所から出ると、


「蛮奈ー。あんたに電話だよー」


 そこでお母さんに声をかけられる。


「えー誰からー?」

「火鈴ちゃーん」


 お友達か!

 敬いのかけらもない母親の態度にツッコミを入れる。てか、配下の家に直接、電話をかけてくるってどんな女王だよ!

 しかし用件はなんだろう? 休日出勤しろとかだったら、体調不良って言お。

 電話のところへ行って受話器を取る。


「はいもしもし。こほこほ」

「あ、蛮奈さん。私ですよー。あれ? なんか体調悪いですか?」

「ええ、ちょっと寝冷えしちゃいまして……コホコホ。それで、どんなご用件ですか?」

「はい、お休みのところ悪いんですけど、ちょっとお城まで来て……」

「ごっほ! うごっほ! あー頭痛いわー。あ、すいません。よく聞こえませんでした」

「お城まで……」

「ごほほほほほほっ! えっ? なんですか?」

「……早く来なさい。来なければ処刑します」


 電話が切られる。

 くっそあの暗愚め。

 私はしかたなく、城へ登城する準備を始めた。


 城に着いた私は、めっちゃふてくされながら、廊下を歩いて大広間へ向かう。


「めんどくせー。あーめんどくせー。休日なのになんで職場に来なきゃ行けないんですかねー。本当なら今ごろ、刀剣男子の舞台を見ながら、イケメンふぉーっ! って、テンションあげあげマックス状態だったのにさー。労基署に訴えてやるからなあの暗愚」


 一体、なんの用があって休日に呼びつけたのか? 腹立たしい思いを胸に、私は大広間のふすまに手をかける。


「失礼しまーす……って、あれ?」


 女王様がいない。ったく、人を休日に呼びつけておいてどこに行ったのかあの暗愚幼女。帰ろうかな、もう……うん?

 こちらに背を向けて誰か座っている。誰だろう? その男が振り返る。


「ああ、これはどうも、おはようございます」

「えっ? ふぁ……」


 それはすんごいイケメンであった。

 くせっ毛の目立つゆるふわな黒髪。座っていてもわかる高身長。キュートな小顔。整った目鼻立ちに、長いまつ毛。水色の着物を着ており、傍らには刀剣が一振り。

 そこにいたのはまさに憧れのイケメン刀剣男子であった。

 私は思わず「ふぉーっ!」と声を上げ、顔を熱くする。

 なにあのイケメン。あんなの城にいたっけ? いやいやいない絶対いない。いたらイケメンハンターの私が絶対にチェックしてるもん。新しく雇った小姓かな? にしては歳が行き過ぎてるような気がする。たぶん私より年上だし。てかこんなイケメンがいるなんて思わなかったから、化粧してないよー。電話で言っとけよなー。あの暗愚ー。


「すいません、女王様はたった今、トイレに行かれてしまいまして……」

「いや、べ、別にいいけどー。うん。全然、気にしないし」

「そうですか」


 瞼を半分閉じた気だるげな目をこちらに向け、イケメンがさわやかにニコッと笑う。

 ふぉーっ! やっべ萌える。涎出てきちゃった。まさかあの暗愚、私にこのイケメンを紹介するために呼んだのかな? あー絶対そうだよ。このイケメン、美人の私とお似合いだもん。なんかシンパシーも感じるしね。前世で恋人同士だったよ。間違いないねこれ。

 すすっとさりげなくイケメンの隣に座る。

 横顔もセクシー! 名前聞いちゃおっかなー。でもがっついてると思われたりしないかな? えーい聞いちゃえ! がっついてると思われたって、私の美貌と自慢のEカップがイケメンを悩殺しちゃうぜー!


「あ、あの……名前を聞いても……」


 ぼそりぼそり、少しお淑やかさを意識してか細く問うたとき、間が悪くふすまが開く。


「戻りましたよー。あ、蛮奈さん来てたんですね。ごめんなさい。急におしっこ行きたくなっちゃいましてー」


 ちっ、タイミング悪いんだよ、クソ暗愚。空気読めよな。


「あれ? なんか機嫌悪いですか? そうですよねー。今日はお休みだったんですもんねー。あはは、すまーんです」

「いえ、そんなことより」


 女王の首に腕をかけ、耳に口を寄せる。


「あんなイケメン、どこで捕まえて来たんですか? あんな良い男を紹介するために呼んだのなら、事前に言ってくださいよね。すっぴんで来ちゃったじゃないですか。で、あの人、なんて名前なんですか? 教えてくださいよー」


「えっ? 名前って、嫌だなー昨日、自己紹介してたじゃないですかー」

「は? なんですかそれ?」


 昨日? 昨日ってなにしてたんだっけ? あんなイケメンに自己紹介されるようなことがあったっけ? 記憶に無いけど……。


「なんですかって、勇策さんですよ」

「勇策……勇策?」

「女王様」


 そこへイケメンが近づいてきて、恭しく平伏をする。そんな姿も格好良い。でも、この妙に綺麗な平伏……いや、土下座はどこかで見たような気が……。

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