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第5話 宰相ワンダラーと側近の悠那

「……なにぃ? ゴールドが死んだだと?」


 龍の国、宰相、ワンダラー。彼は側近の報告を玉座にふんぞり返りながら聞いた。本来ならば皇帝が座るべきその玉座に、皇帝でない男が座っている。数人の美女をはべらせ、不遜な態度で彼はそこに鎮座していた。


「はい。定時連絡が途切れましたゆえ、恐らくは死んだか、もしくは捕らえられたのではないかと思われます」


 側近の若い女、悠那( ゆうな)は美しい顔を微塵も崩さず無表情で報告をする。


「ふぅむ、ゴールドほどの男が……信じられんな」


 恰幅の良い中年の男、ワンダラーは自らの長いあごひげを弄びながら唸る。

 ゴールドは千もの敵をたったひとり、無傷で討ち果たせるほどの実力を持った男だ。そんな男を捕らえるなど、弱小な国家である倭羅の国の兵にできるだろうか。いや、できまい。捕らえるのは殺害するより難しいこと。ならばゴールドは死んだのであろう。ワンダラーはそう考えるに至った。

 問題はどのように殺されたかだが、まさか一対一の勝負であのゴールドが負けたとは思えない。多対一の勝負で油断したのだとしか考えられなかった。


「女王殺害の任務はいかが致しましょうか?」

「そうだな……」


 倭羅の国は弱小国だが、海を隔てた地を支配する島国家。そういう国と戦をする場合は多くの船を出さねばならず、地続きの国を攻めるより消耗が多い。戦が長引けば長引くほど、その消耗は莫大なものとなるだろう。ゆえに、戦は早期に決着させる必要があった。

 刺客によって女王を討ち取らせ、その混乱に乗じて一気に攻め滅ぼしてしまう。それが、こちらの消耗を最小限に抑える上策と、ワンダラーは考える。

 弱小国ごとき攻め落とすのに時間をかけ、その上、戦力を消耗させては、他の強国に隙を見せることになる。早期決着をするため、女王は先に討ち取らねばなるまい。

 そのための刺客。剣鬼はあと5人……いや、4人いる。さて、誰に行かせるか……。


「ガーネットに任せてはいかがでしょう?」

「ガーネット……あの女か。しかしあいつはどうも、性格に難がある。まともに任務をこなすかが不安だな」

「ですが、ガーネットは丁度、倭羅の国へ潜入中ですので、他の剣鬼よりも適任かと」

「うーむ……よし、ガーネットに任せよう。連絡を頼む」

「はっ」


 性格はともかく、あの女の腕は確かだ。真面目に取り組めば任務はやり遂げるだろう。しかし、油断があったとはいえ、ゴールドほどの男が失敗していることだ。ガーネットの性格も含め、安心しきることはできなかった。


「ふむ……」


 杯を手に持ち、中の酒を飲んだ。そのとき、


「ワンダラー」

「おや? これは皇帝陛下ではありませんか」


 扉を開け、玉座の間に入ってきた訪問者を前にのそり立ち上がったワンダラーが跪く。

 侍女を二人引き連れたその小さな女の子。前髪は綺麗に切り揃えられ、後ろ髪はぼさぼさで長く伸びているというより伸びっぱなしでだらしない。ややつり上がった目は眠たげに薄目となっている。

 彼女こそが龍の国、皇帝、エン・リュウ。この国の最高権力者だが、幼子ゆえ政治は宰相のワンダラーに牛耳られ、玉座にすら座ることはなかった。


「また、ずいぶんと汚れた格好ですな、陛下」

「んー? これか?」


 すでに昼は過ぎた時間だというのに、皇帝は今だパジャマ姿。猫の絵柄がついたそのパジャマはところどころ薄汚れていた。


「また夜には寝るのじゃ。着替えなど面倒じゃ」

「しかし同じものをずっと着ておられるご様子。せめて新しいお召し物にお着替えを」

「面倒じゃ。これでよい」


 風呂も禄に入らないため、頭を掻けばフケが落ち、身体は臭っている。とても皇帝とは思えないその姿であった。


「そんなことりワンダラーよ。予は暇じゃ。新しい遊びはなにかないかの?」

「はあ、新しい遊びでございますか」

「うむ。このけん玉という玩具はもう飽きた。この上の尖ってる部分に玉が入らぬ。予は難しいことが嫌いじゃ。もっと簡単な遊びを持ってきてたも」

「わかりました。早急に用意し、のちほどお持ち致しましょう」

「うむ。しかし、玩具もよいが、たまには外出もしたいの。王宮は退屈でたまらん」

「ですが陛下の御身は他の者共と違い、大事でございます。万が一のことがあってはこのワンダラー、先帝様に顔向けできませぬ。何卒、ご自愛いただき、王宮の外に出ようなどとはお考えなさらぬようお願い致します」

「そうか。残念じゃな。世は王宮の外に出て、あの列車と言う乗り物を見てみたかったのじゃが……うむ。残念じゃ」


 欠伸をしつつ、皇帝は玉座の間から出て行く。侍女が扉を閉めて行くのを見て立ち上がったワンダラーは、鼻でフンと息を吐く。


「皇帝陛下は相変わらず、ですね」


 悠那が呆れたように言う。


「あれで良いのだ。政に関心を持たれてはやりづらくなる」

「はい。ですが、幼子で無くなれば政にも口を出してくるやもしれませんね」

「なに、あれは遊び好きだ。そのときは男でもあてがえば黙るだろう。しかし、それでも口を出してくるならば、別の皇帝を立て、あれには消えてもらうことになる。亡き先帝様のように、な」


 ワンダラーは口の端に笑みを見せつつ、玉座へ腰掛けた。


「おお、そうだ。黄金宮の建設はどうなっている?」


 黄金宮とは、ワンダラーの指示で建設している、その名の通り黄金で作られた宮殿である。皇帝の住まいという名目だが、実際はワンダラー自身の住居として作らせていた。


「はい。黄金宮は金が足りず、現在は工事が滞っている状態です」

「……やはり金が足りぬか。ふふ、まあもうすぐ大量に手に入る。それまでの辛抱だな」


 倭羅の国は黄金の国とも言われるほど金の採掘量が多い国だ。領土拡大もあるが、その黄金を奪うことも戦争の理由であった。


「ついでに奴隷も手に入る、まったく戦争というのは良いことばかりだな」

「はい。勝てば、ですがね」

「勝つさ。戦争というのは、勝者の決まったギャンブルだからな。奴らが戦争に負け、わしの望みを叶える糧となるのは必然のことよ」


 はべらせている美女を抱き寄せ、ワンダラーはいやらしく笑う。扉の隙間からその姿を見る幼き目には気付かず、ワンダラーは笑い続けた。

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