第3話 変態の家にご招待されてしまう
なんだか話の流れで男の家に連れて来られてしまった。
だって火鈴様がこの変態を英雄だって言って譲らないんだもの。なんか話があるならうちへどうぞとか言われてほいほいついて来ちゃって、もうほんと嫌。変態邸なんかに来たくなかった。帰りたい。
お茶を出されるが飲まない。変態のエキスが入ってるかもしれないし。
「それで、どういう用件なんだ?」
「その前にパンツを脱げ。変態」
「おおっとこれは失敬」
男は立ち上がってズボンに手をかける。
「そっちじゃねーよ! 顔のだよ!」
「これはこういう顔だから」
「マスクレスラーか!」
「まあまあいいじゃないですか。こっちの世界ではあれが紳士の嗜みかもしれませんし」
「そういうことだ。さすが幼女。かわいくてかしこい」
「そんなわけあるか! 女児のパンツ被るのが紳士ってどんな世界だよ!」
突っ込み疲れる。こいつボケっぱなしじゃねーか。てか、存在そのものがボケだよ!
「えっと、まずは自己紹介からしたほうがいいですね。私の名前は火鈴です。信じられないかもしれませんが、異世界の女王なんです」
「異世界の女王様か。すごいな。まだ八歳なのに」
「えっ? そんなあっさり信じてくれるんですか?」
「ああ、幼女の言うことはすべて信じるのがロリコンだからな」
「そうなんですか。あれでも、私、年齢は教えましたっけ?」
「ふっ、ロリコンは見ただけで幼女の年齢がわかるのだ」
「わーすごいです!」
このアホ女王様、ロリコンの意味わかってるのかな。まあいいか。火鈴様のパンツが盗られても知ったことではないし。
「じゃあ次は蛮奈さんですね」
「あ、そっちはいいや、興味ないから」
別にいいけど、なんか腹が立つ。
「それじゃあ、パンツさんの自己紹介をお願いします」
「うむ。俺の名前は雷華勇策。歳は二十二歳だ。趣味は幼女のパンツを嗅ぐことかな」
「雷華勇策さんですかー。お仕事はなにをなさってるんですか?」
えっ? スルー? さっきの自己紹介でこいつおかしなこと言ってたよね。ちょっと格好つけた言い方で超絶変態宣言してたよね? いいのそこスルーで?
「仕事は小学校や幼稚園の警備だ」
「へー警備のお仕事ですか。お給料はどのくらいなんですか?
そんなこと聞いてどうすんだよ。お見合いか。
「いや、ボランティアだから金はもらってない。毎日、無償で朝から晩まで幼稚園と小学校の周りをぐるぐる歩いてる」
「それただの変質者だろ!」
「変質者じゃない。警備だ。さっきもぐるぐる回ってたところだった」
「女児用のパンツ顔に被って夜中に幼稚園や小学校の周りうろついてる奴が変質者じゃなくてなんなんだよ!」
「……こころやさしいボランティアのおにいさんだろ」
こいつ殺してぇ。なんで私がおかしなこと言ってるみたいな目して見てんだよ。おかしいのはお前だよ、絶対。
「夜の学校に侵入して幼女の体操着とかクンクンするが、決して俺は変質者ではない」
「そうだよお前は変質者じゃないよ! もう完全に犯罪者だよ!」
こいつ一番やばいタイプのやばい奴じゃねーか。英雄は英雄でも、変態の英雄だろ。
「でもボランティアじゃ、収入がなくて生活に困るんじゃないですか?」
「ああ、副業をやってるからな。生活費はそっちで稼いでる」
パンツ盗んで売ってるのかな? 絶対そうだろ。パンツ被ってるんだし。
「このパンツは盗んだんじゃなくて、もらったんだ」
「人の考えてること当てるな。気持ち悪いな。てか、なんだもらったって。幼女がお前にパンツをくれたのか? そんなわけあるか」
「本当だ。土下座して、譲ってもらったんだ」
わーすごい変態。やべえ変態だー。
「そんなことより、副業ってなんですか?」
なんでこの女王様、こいつと平気で話せるんだよ。まだパンツ被ってるんだぞ。土下座をして譲ってもらったとか言ってるパンツを。
「副業は暗殺者だよ」
「へー暗殺者ですかー。って、暗殺者!?」
「うん。そこにあるのが商売道具だ」
部屋の片隅に刀が転がっている。あんまり大切にされてる様子は無い。
「そしてそこのタンスの一番下にはいってるのが、今まで幼女にもらったパンツだ」
これはすごく大切に収納されている。
綺麗にたたんであるし、幼女らしき名前ともらった日付まで紙を添えて書いてあるよ。と言うか、ついタンス開けて見ちゃったよ。見なくてよかったこんなの。
「いただいたものを大切にされてるんですね」
「もちろん」
胸を張るな。別に偉くない。
「しかし時間が経つとどうしても鮮度が落ちるからな。それらのパンツはもう被れない」
「鮮度ですか?」
「ああ、脱ぎたてが一番最高の鮮度だからな。幼女の股から離れ、長時間経ってしまったそれらのパンツにはもはや匂いが無く、被るに値しないのだ」
「なるほど」
いや、なにがなるほど? ものすごい真面目な雰囲気でなに言ってんだこいつ? 女王もおかしいだろ。馬鹿なのこいつら? ここでまともなの私だけか?
「ちなみにいま被っているのは、小学三年生幼女の千里ちゃんから昼間にもらったパンツだ。土下座をしてな」
「プライドないのかお前は」
「プライドを捨て、パンツを得る。損して得とれ、だな」
「うるせえよ」
ものすごく格好悪いこと言ってるのに、ちょっと格好つけた口調で言うのが腹立つ。
「だが、脱ぎ立てからもうそろそろ半日は経つ。鮮度はだいぶ下がったな」
「鮮度が下がるとどうなるんですか?」
「俺の元気がなくなる」
「そのまま死ね」
「ううん。生きる」
腹立つ。
「千里ちゃんは朝にパンツをはき替えたらしくて、あまり熟成もされてないから、元々、パンツ等級が低くて鮮度が下がりやすいんだがな」
「もう黙ってろよ。変態言語を聞いてたら頭が痛くなってきた」
「言語といえば、どうして俺は会話ができるんだ? 異世界から来たお前らと」
「ああ、おじいさまによりますと、私達の国とこの国は表裏一体で、言葉は同じだそうです。死ぬと生まれ変わって、反対側の世界に転生するとも聞きました」
「つまり俺の前世はそっちの世界の人間ってことか」
「そうです! 勇策さんは前世で私達の国を救ってくれた英雄なんです! 今ふたたび、私達の国は脅威にさらされています! お願いします勇策さん! どうか私達の国を、かつてのように救ってくださいませ! もちろん、すぐに答えは出せないでしょう。わかっております。ですが、危機は差し迫っており、なるべく早く答えをお聞かせ……」
「いや、いいだろう。救ってやる」
「って、ええっ! 即答!? そんな……考える時間はいらないんですかっ!?」
「困っている幼女を助けるのはロリコンの義務だ。考える必要など無い」
「うわあ、なんかそれ格好良いですっ!」
いや、格好悪いよ。なにをするかもわかってないだろうに、幼女に頼まれたからって理由だけで引き受けちゃったただのロリコンだよ。
「引き受けた上で、もっといろいろ具体的に教えてくれるか?」
「はい! 実はカクカクシカジカなんです!」
カクカクシカジカって、漫画とかでよく使われる、ややこしい説明を省くあれだが、本当にカクカクシカジカとしか言ってないぞこの女王様。なにを考えて……。
「なるほど。お前らの住む倭羅の国が、海を隔てた隣国である龍の国に宣戦布告をされたが、戦力が圧倒的に劣っていて敗戦濃厚だから、じいさんの言葉に従い、龍の国から倭羅の国を救ってくれる英雄、つまり俺を異世界まで迎えに来たと、そういうわけだな」
「いやなんで通じてんだよ! カクカクシカジカとしか言ってねーぞ!」
「俺は幼女の口から発せられた言葉なら、カクでもアレでもソレでも理解できるのだ」
うわーすごい。すごいけどキモイ。
「それで、倭羅の国や龍の国ってのはどんな国なんだ?」
「倭羅の国はですね、アレって感じで、龍の国はソレって具合ですね」
「ほう、倭羅の国は日本の江戸時代みたいな国なんだな。しかしテレビや電話などの文明の利器があるということは、こちらに対してそれほど文明が劣っているわけではないか。龍の国はこちらの世界で言うところの、中国、明の時代に近い国のようだな」
アレやソレのどこから情報を得ているのか? わけわからん。こいつ人間か? 人間じゃないだろ。ロリコンパンツ星人だろ。
「ニホンやチュウゴクというのはこの世界にある国ですか?」
「ああ、ここが日本で海を隔てた隣にあるのが中国だ。そっちと違って戦争はしてない」
「へー。勉強になります! ね、蛮奈さん」
「ニホンやチュウゴク……ですか? そんな異世界のことを私達に教えられても意味無いですよ。こっちの人間じゃないんですから」
「確かに、お前達に教える意味は無い。けど、これをお前らにしゃべることによって、読者は倭羅の国や龍の国がどんな国なのかをイメージしやすくなっただろ。意味はある」
「メタ発言やめろぉ!」
ツッコミの手刀をパンツ男の頭に叩き込む。
「えーと……じゃあさっそく、私達の国へ行きましょう!」
なにか空気を読んだのか、女王が声を上げる。
「えっ? あ、ちょっと待ってください。本当にこいつを連れて行くんですか? この変態を。こんなの連れてって国の者らに英雄だなんて紹介したら、馬鹿だと思われますよ」
「確かに、お前の言うことももっともだな」
「ほら、本人もこう言ってますし、考え直したほうが……」
「鮮度の下がったおパンツを被って行っては、女王様に恥をかかせてしまう。行く前に鮮度の高い脱ぎ立て幼女おパンツを調達せねばなるまいな」
「本当におねがいします! こいつを一緒に連れて行かないでください! 戦争の件なら私がなんとかしますのでお願いします!」
「勇策さんをお連れするのはもう決まったことです。それに蛮奈さん、龍の国には戦争で絶対に勝てないって言ったのはあなたじゃないですか」
「う……それはそうですけど」
実際、戦争で勝てる見込みは無い。だからと言って、こんな変態を連れて行ってどうなる? 性犯罪の件数が増えるだけだろ。
もー嫌だーっ。こんな変態を英雄として連れて帰ったら、私まで馬鹿にされるーっ。変態の仲間だと思われて男が離れて婚期も遠ざかるーっ。
「……うん?」
トンと背後から肩を叩かれる。
「どんまい」
「お前のせいだっ! てか触るな変態!」
拳を振るうも、スカッと避けられた。腹立つ。
「ところで行く前にひとつ、女王様にお願いしたいことがある」
「えっ? なんですか?」
「うむ、実は……」
いきなりシャキンと正座した勇策が、床に両手をつき頭を下げる。
土下座。これは土下座であった。
「一目見たときからあなたのおパンツを欲してました! どうかこの俺にあなた様の脱ぎ立てホヤホヤおパンツを賜ってください!」
「うわー……」
いい歳した大人が幼女にパンツくれって土下座してるよ。素でドン引きしたわ。
「あ、あわわ……」
さすがの女王様も引いてる様子だ。そりゃそうだろ。パンツくれって言われてるんだもの。普通、引く。ってか、怖いわ。だがこれで考え直して、こいつを連れて行くのをやめてくれるだろ。あーよかった。
「ど、どうしましょう?」
「えっ? どうするって決まってるじゃないですか。こんな変態が英雄なわけないんですから、とっとと帰りましょうよ」
「そうじゃありません。私、パンツをあげるべきか迷っているんです」
「ええ……なんでぇ?」
思わずため口になっちゃったよ。
「だって見てくださいあの土下座。私は立場上、大勢の平伏を見てきましたけど、あんなに綺麗な平伏は見たことがありません。パンツあげてもいいかなってなっちゃいますよ」
いや、ならないだろ。確かにやたら見栄えのする綺麗な土下座だが……土下座だが……ああ、やばい。なんだろう。なんかこの土下座を見てると、私までパンツあげたい気分になってくる。なにこれやばい。見ないようにしよ。
「ふっふっふ、俺は幼女からパンツをもらうため、土下座を極めた男。俺の土下座からパンツを死守できる幼女など存在しないわ!」
「土下座しながら偉そうに変態発言するな!」
「あ、お前は俺の土下座を見るな。お前の汚くて臭いパンツなんかいらないから」
「ねえ火鈴様、こいつ殺していいですよね」
「だめですだめですっ! 勇策さんは英雄さんなんですからっ!」
「ちっ!」
腰に下げてる刀から手を離す。
まあ、こんな奴の血で刀を汚したくないからいいけどさ。
「ゆ、勇策さん、パンツの件は少し考えさせてもらってもいいですか?」
「もちろんだ。だが、パンツをもらえるまで俺は何度でも土下座をする。君のはいているパンツの匂いを想像しながら、君に最高の土下座をプレゼントし続けるからな」
「あ、なんかちょっと格好良いです」
「火鈴様、病院に行きますか?」
結局、私の反対も聞かず、火鈴様はロリコンパンツ男、雷華勇作を英雄として倭羅の国へ連れて行くことを決めてしまう。ゲートのある場所へ三人で戻ることになったが、パンツ男と一緒に歩くのがすげー嫌だったので、私は二人より思いっきり先を歩いてゲートへ先に着く。
「おや?」
ゲートの前にはガタイの良い男が座っていた。