第2話 パンツを被った変態と出会う
「……夜ですね」
ゲートを抜けるとそこは夜だった。
なんだか見たこともない建物がいっぱいだ。あれはなんだ? 四角くて細長いとても高い建物がたくさん立ち並んでいる。
「あれはなんでしょう? なんだかおっきい塊がすごい速さでたくさん動いてますね」
「人が乗っているようです。この世界の移動手段なのでしょう。それよりも火鈴様、英雄と言うのがどこにいるのかわかるのですか?」
「はい。おじいさまからもらったこのネックレスが英雄さんの居場所を教えてくれます」
浮き上がったネックレスが矢印の形となって方向を示す。
「あっちです」
「ここから歩いて行ける距離なんですか?」
「ゲートは英雄さんから近いところに開くんです。近いはずです」
歩き出した女王様のあとをついていく。
英雄ってどんな奴なんだろう。やっぱり高身長でイケメンかな。私、惚れられちゃったらどうしよう。化粧してくればよかった。
「あ、近いですよ。すごく近いです」
ネックレスが眩しいくらいにビカビカ光っている。
近いってどこだろう? 周りには民家みたいなのがいっぱいあるけど、人の姿は無い。……いや、誰か歩いてる。暗くてよく見えないが、確かに人の姿があった。たぶん男だ。
「あれじゃないですか?」
「あ、きっとあの人ですっ! 行きましょうっ!」
女王様が走り出す。そのあとを追う。
「あひゃああっ!」
不意に女王様が悲鳴を上げる。
なんだどうした? うんこでも踏んだのかな……。
「あひゃああっ!」
近づいた私も悲鳴を上げる。
そりゃそうだ。だってこの男、マスクみたいにして顔にパンツ被ってるんだもん。しかもたぶん女児用。なんでか服は蝶ネクタイつきのタキシードを着ていた。
「うん? なんだお前達は? 妙な格好をしているな。不審者か?」
「いや、不審者はお前だろっ!」
思わずパンツ男にツッコミを入れる。
関わりたくないのに、ついパンツ男としゃべってしまった。これは変態だ。はやくここから離れなければ、パンツを盗られるかもしれない。
「火鈴様、行きましょう。早く。素早く。早急に」
「……いえ、その必要はありませんよ」
「ど、どうしてですか? パンツ盗られますよ」
「お前の汚いパンツなどいらん」
「ぶっ殺すぞ変態パンツ」
「パンツは変態じゃない。変態は俺だ」
「自分で言うなっ!」
またしゃべってしまった。自分のツッコミ体質が憎い。
「まあまあ蛮奈さん落ち着いて。この人が英雄ですよ」
「そんな馬鹿なっ! パンツ被ってるんですよこいつ! ただの変態ですよ!」
「でもネックレスはこの人を指し示しています。間違いありません」
そのネックレスぶっ壊れてるだろ。絶対そうだ。そうだと言ってくれっ! 頼むーっ!
「あなたが英雄さんですね?」
「えっ? パンツ被ってるんだけど俺」
「それさっき私が言った! 自分で言うなっ!」
「気が合うな」
「合わなーい! 絶対に合わなーい! やめてー! 変態をうつさないでー!」
「はははっ、変な奴だな」
「お前にだけは言われたくないわっ!」
ガツーンと男の頭をぶっとばす。妙に硬かくて殴った手が痛かった。