第1話 英雄を迎えに行く私と女王様
「あなたのおパンツをくださーいっ!」
と、幼い女王に土下座するこの男、雷華勇策がわが国を救う英雄だなんて私は信じない。
いやいや、絶対無いでしょ。だってこの男、どう見てもだたの変態だもん。英雄なわけないじゃん。ただのロリコンだよ、こいつ。
「女王様、こいつ殺してもいいですか?」
やっちゃうよ。やっちゃうからね。マジだよ、私。
しかし女王は慌てた様子で首を横に振り、殺しの許可を与えてはくれなかった。そんな話をしている前でも、雷華勇策は土下座を続けていた。
…………
数時間前。
「――女王陛下っ! 女王陛下に火急のお知らせでございますっ!」
私こと倭羅の国武将、風紀蛮奈(ピチピチの18歳、巨乳、彼氏募集中イケメンに限る)は黒髪のポニーテールを左右に振りつつ、火急の知らせを持って、城の廊下をすりすり摺り足で急いでいた。
摺り過ぎて途中でこける。痛い。なんで東洋の城は靴を脱いで滑り安い木の廊下を摺り足で歩かなければならないのか? 西洋みたいに靴で入って歩ければいいのに。そしたら転ばない。あー痛かった。痛いのを堪えてようやく大広間につく。
「失礼しまう」
噛んだ。まあいいか。
大広間のふすまを開き、中へ入って閉じ、広間の中心へ進みそこで平伏する。
「女王様に火急のお知らせがあり、風紀蛮奈、こちらに参上いたしましてございます」
「うわぁ! びっくりしました。いきなり入ってこないでくださいよ」
倭羅の国女王様、火鈴様(ちんちくりんの幼女8才、最近おねしょが治った)は、金髪の頭を両手で押さえながら、なぜかスクワットをしている最中で、それを見られたのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めながらゆっくりとその場に正座をした。
「失礼しますって言いましたよ」
「失礼しまうでしたよ」
「聞こえてるじゃないですか。いや、そんなことはどうだっていいんです。火急のお知らせでございます」
「おお、ゴリラ武将こと、剣の達人でもある蛮奈さんにもついに彼氏ができたんですね」
「それを大声上げて一国の女王様に知らせに来たら私、馬鹿ですよね。てかゴリラ武将ってなんですか。自分で言うのもなんですけどね、私、美人なんですよ。モテるんですからね。彼氏なんて作ろうと思えばすぐに作れますけど理想を高く持っているので……」
「それで火急の知らせってなんですか?」
「そうでしたすいません。えっとですね、隣国の龍の国がわが国に宣戦布告しました」
「ええーっ!」
女王様が正座のままうしろに倒れる。
なんかお笑い芸人みたいなリアクションで緊張感ないな。大事なんだけど。
「それは大変っ!」
ダルマみたいなふざけた動きで火鈴様が起き上がる。本当に状況がわかっているのか?
「大変です。龍の国はわが国の十倍は兵力があると聞きます。まともに戦争をすれば、あっという間に倭羅の国は龍の国に滅ぼされてしまうでしょう」
「どうしたらいいですか?」
「戦っても勝てる見込みはありませんし、早めに白旗をあげるべきですね」
「降伏は嫌です」
「嫌と言われましても、勝てませんよ。絶対」
「嫌ですっ! 嫌ですっ! 降伏したら私、女王様じゃなくなっちゃうじゃないですか。そんなのは嫌です。民衆をこき使って私は一生、女王様として贅沢に暮らすのです」
「暗愚ですね」
「暗愚上等です。なんとかしなさい」
「なんとかと言われても……なんともなりませんよ」
「そんなんだから彼氏ができないんですよ。彼氏ができないんですよ」
「なんで2回言いました?」
火鈴様はふたたびうしろへコローンと正座のまま転がる。
「あ、思い出しました」
そう言って、コローンと戻ってきて座った。
「私のおじいさまがですね、困ったら英雄を頼れって言ってたんです」
「英雄? てか、火鈴様のおじいさまって、火鈴様がお生まれになったときから、すでにかなりボケておられたと思うんですが」
「蹴っ飛ばすとたまにまともなことを言ったんですよ」
「ブラウン管テレビみたいですね。それで、その英雄とはなんなんですか?」
「はい。100年くらい昔にですね、倭羅の国が今みたいに戦争を仕掛けられてピンチに陥ったときに、国を救ってくれた英雄です」
「100年前って、その英雄はとっくに死んでるでしょう」
「そうですね。おじいさまの話では転生して異世界で暮らしているそうです」
「異世界……ですか。それでどうするんですか?」
「今から異世界へ行って、その英雄を連れて来ます。ついてきなさい」
「は、はあ」
なんだかオカルティックな話になったなぁ。
とことこ前を歩く女王様について行き、やがて城の地下へ連れて来られる。
「なんですかここ?」
「ここは異世界へのゲートを開く儀式の間です。ちょっと下がってなさい。今からゲートを開く儀式を始めますから」
言われた通りちょっと下がり、変な魔方陣の中心に立つ女王様を見る。
変な踊りを始めた。シェイプアップ体操みたいなの。
うわーこんな薄暗いところで、しかも無音でシェイプアップ体操やってるよ。馬鹿みたい。今までなんでこんなのに仕えてたんだろ。そりゃ国も滅びますわ。
私の口から乾いた笑いが出た。
「ほいやーっ!」
格好悪い叫びが地下に響く。と、
「ひ、開きましたー」
「おお……」
なんか丸くて青いゲートが宙に浮いている。
絶対、じいさんに騙されてると思ってたのになぁ。本当に開いちゃったよ。
「さあ行きますか」
「はい、いってらっしゃい」
「女王の私ひとりで行かす気ですか? 蛮奈さんも行くんですよ」
「えっ、嫌です。怖いですし」
「命令です。来なさい。来ないと処刑しますよ」
「なにそれひどい。はあ、わかりましたよ、もう」
しょうがないので一緒に行くことにする。
どうせ国は滅びるんだし、どうでもいいや。
ぴょーんと跳んでゲートへ入った女王様を追い、私もゲートへ入った。
……その数分あと、それを追って妙な男がゲートへ入る。
「ふふふ、どこへ行こうと逃がさんぞ女王。わが龍の国のため、必ず殺してやる」
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