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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
南海のスーパー軍師大戦
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第八十八話 南海凪ぎ、東風吹くの巻

 セキテ城陥落から数週間後…

 捕縛されたボルチ=ソーンクレイルは斬首されて晒し首となった。

 当然だ、降伏すれば温情をかける余地はあったというのに最後までタイクーンに従わず逃亡したのだから。

 捕まった経緯も降伏した海賊たちから隠れ家を暴露されて居場所を割られるというなんともお粗末な結末だった。

 ユキムラちゃんは内輪揉めで急に総大将になった者はこんなものと評していた…ブンダが総大将のままならもっと苦戦していただろうとも。

 ともあれ…南部地方の争乱はこれにより一旦の平穏を取り戻すこととなった。


「南部連合を代表してお礼申し上げます…そして我々はこれより皇帝陛下に恭順を誓いましょう…」

「ええ、これからも公私共によろしく頼むわね、リキュー」


 カルタハ公国、カルタハ城…

 しずしずと頭を下げたリキューにリーデ様はにこやかに笑いかけ、その手を取った。

 ここまで交流ですっかりと打ち解けておられるようだ。リキューとは今後とも長い付き合いになるだろう。

 続いて、少し離れた場所で控えていた二人の“転生者”にリーデ様は目を向ける。


「貴女たちも…これからは南部連合に属し、東勢力と戦う際は力になってくれることを期待しています」


 イエヒサとテルモト。海賊連合から寝返ったその二人は配下たち共々南部連合に所属することになった。

 ここまで海賊として略奪や乱暴狼藉を働いていたにも関わらず甘い処断…イエヒサが言葉を返す。


「よかけ?おいたちは最終的に寝返りはしたが元は海賊じゃぞ」

「構わないわ、私に…皇帝陛下に従うというのなら過去の行いは不問とします…負い目があるというのならその分働いて返しなさい」


 そもそもヨルトミア軍にも元山賊はいるしね…とリーデ様はくすりと笑って付け加えた。

 これがリーデ様の器の大きさだ。従う…即ち自分の物になるというのならばその時点で庇護対象、有能な者ならば特にだ。

 それを聞いたイエヒサとテルモトの二人は神妙に頭を下げ、改めて従属を誓った。


「私たちの配下を含め寛大な処断…心から感謝いたします」

「こん恩ば次ん戦働きで存分に返す、いつでん呼びたもんせ」


 二人とも敵に回せば厄介だが、味方になるとなればこれほど心強い将はそうそういない。

 来たるべき東勢力との戦いでもきっと力になってくれることだろう。

 これで南部地方の沙汰は下りた…リーデ様はひとつ頷いて《皇帝の剣》各将を見渡す。


「さて、西部・北部・南部…三つの地方の平定が成ったわ、残すところはあとひとつ…東部地方」


 天下統一まで本当にあと少し…西部の弱小国だったヨルトミアがついにここまで来たのだ。

 ダイルマに迫られて滅亡寸前だったあの時から考えると随分遠くまでやってきた…あと少し、あと少しでこの戦いも終わる。

 皆、一瞬過去に思いを馳せるような遠い目をしたがすぐにその空気は引き締まる。


「最後の敵は王国から独立を宣言した、魔城オダワラを有するジークホーン公国…」


 魔城オダワラ…無数の砦と無数の城壁で鉄壁の防衛線を構築する超巨大城塞。

 これを落とすとなると並大抵の兵力では通用しない。だからこそ北部と南部を平定し戦力を増強する必要があったのだ。

 その名を聞いた“転生者”たちが各々の反応を見せる。どうやらオダワラという名は異世界でも知れ渡っているようだ。


「オダワラ…っちゅーのは小田原城のことか?こっちの世界でもその名を聞くとは思わへんかったわ」

「再現したのでしょうね、だとすると最後の相手は北条ですか…何代目かによりますが、初代か三代目であれば一大事です」


 マゴイチとハンベエが口々に言い、周りの将たちがざわめく。

 ハンベエをして一大事と言わしめる強敵…一体どのような相手なのか想像だにできない。

 これはかつてない激戦になるだろう、皆が覚悟を決める中で押し黙っていたカンベエがゆっくりと手を上げた。


「…その話だが…北条の“転生者”は国を奪われ何処かに消えた、と…新しい情報が入っている…」


 衝撃の新事実…俺たちが戦う前にその“転生者”は何者かに敗れ去ったというのだ。


「な、何やてぇ!?そらホンマかいな!?」

「…確かな情報筋だ…流れの商人たちの証言からも裏付けが取れている…」

「まさかの展開ですね…してカンベエ殿、一体誰が北条の“転生者”を打ち倒したか掴めているのですか?」

「…それは…」


 言い淀むカンベエの前、ユキムラちゃんがするりと手を上げる。

 カンベエと視線を交わしたユキムラちゃんは次に俺を見、そして最後にリーデ様を見た。

 その表情は…未だかつてない真剣な表情だ。いつもの余裕も不敵さもなく、決意に満ちた表情。

 俺は何となく心がざわついた。次の戦いでユキムラちゃんがいなくなってしまいそうな…そんな予感がしたのだ。

 ユキムラちゃんは重々しく口を開く。


「北条を倒したその“転生者”…わしはよく知っている…ミツヒデ殿と戦って推測は確信と相成った」


 静まり返る会議室の中、ユキムラちゃんはその名を出した。


「ヤツの名は、徳川家康…我らの乱世を完全に終結させた天下人じゃ」



 ◇



 東部、ジークホーン公国…

 魔城オダワラの大天守にて圧倒的威圧感を誇る一人の男が南の空を睨みつけている。

 その男の肉体はかつてはジークホーン公の物であったが、“魂器”が打ち込まれると同時に肉体が魂に引かれ変質を遂げた。

 今や完全に男の全盛期とほぼ同じ姿…時折定着を確かめるように手を握り開き、溢れ出る精気に熱い呼気を漏らす。

 傍に控えていた一人の青年がその背に言葉をかけた。


「…未だ慣れませぬか、この世界での肉体には」

「いや…」


 男は静かに目を伏せ、首を横に振る。


「むしろ慣れすぎて困惑しておる…老いた身から、再びこうして若返るとな…」


 その言葉を聞いて青年は笑った。どこか嬉しそうに。


「それは俺も同じです、こうして若い殿と若い俺が話しているとまるで夢を見ているようだ」

「夢か…そうだな、これは夢なのであろうな…」


 どこか含むところがあるように男が目を伏せて呟くと、黒い影が音もなく傍に着地した。

 片目を開けて男は影を見遣る。忍装束のその影が報告を始める前に男は口を開いた。


「天海は黄泉へと還ったか」


 影は静かに頷き、低い声で言葉を返す。


「打ち破ったのは真田源次郎幸村…ヨルトミアの“転生軍師”です」


 真田…まさかこの世界でもその名を聞くことになろうとは…

 男は物憂げに溜息を吐いた。前世で幾度となく立ち塞がったあの者が、この世界でも再び敵となるか。

 どこか憂鬱な空気を察した青年が思わず立ち上がり声を荒げる。


「真田何するものぞ!何を怖気づくことがありましょうか!殿は完膚なきまでにあやつらに勝っております!」

「いや、そうではない…」

「それでも案ずるとおっしゃるならば!俺が今から行ってヤツの首を獲って参りましょう!」


 ふんと鼻息荒く宣言する青年に男は苦笑、その肩を叩いて諫めた。


「そうではない、虎松…どこまで行っても因果のくびきから逃れられぬなと思うただけだ」


 男は再び大天守から大空に目を向け、そして広大な城下に目を落とした。

 この異世界でも民たちは基本的に変わらない。愚かしくも愛おしい、目を離してはおかれぬ幼子たちだ。

 だとすれば己がやるべきことはただひとつ…この世界に喚ばれた理由は明確である。

 そのためには、まず…―――


「《皇帝の剣》…あやつらを倒し、王都を落とし天下の支配権を得る…それが全てのはじまりよ」


 男は振り返り、大天守の座敷内へと目を向けた。

 虎松と呼ばれた青年と忍装束の影…それに連なる形でずらりと十四名の将たちが控えている。

 彼らを代表して青年は不敵に笑った。


「我ら“十六神将”、与えられた全盛の肉体と神権ちーとを以てあらゆる敵を打破して御覧に入れましょう」


 “十六神将”…

 そう呼ばれた彼らは全員屈強な肉体と同時に何処か浮世離れした覇気オーラを纏っている。

 中でも特に覇気が強いのが青年を含む先頭の四名…立ち姿だけでも並大抵の兵ならば戦意喪失するほどの威圧感である。

 だが、彼らを以てしてもその男の覇気には敵わない。青年は惚れ惚れとしながら続けた。


「この世界でも天下をお取りくださいませ、神君家康様」


 男は…神君家康はその言葉に表情を引き締め、重々しく頷いた。



【第五章 終】

ここまで読んでいただきありがとうございました。

予想以上に長くなってしまった第五章・海賊退治編はこれにて終幕、お付き合い頂きありがとうございました。

次回からはいよいよ最終章、ついにユキムラと最大の因縁を持つあの男の登場です!

果たしてユキムラは今度こそ勝てるのか!そしてヨルトミアの天下統一は成るのか!“転生者”と異世界に隠された謎とは!

しばらくお時間頂きまして十分に書き溜めてから連載再開いたします。しばらくお待ち下されれば幸いです。

頂いた感想は全て読ませていただいております、お返したいのですがネタバレしちゃいそうなのでご理解をば…

是非評価の方もよろしくお願いします!

では、短いですがこれにて…転生軍師!ユキムラちゃん最終章、お楽しみに!

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