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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
黎明のヨルトミア
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幕間その2 トビー、兵士道から脱線するの巻

「はっ!てやっ!とおーっ!」

「うーむ、見事…見事なまでに才能の感じられないへっぽこ剣術じゃ…」

「よ、余計なお世話ッスよ!」


 城の中庭の訓練場、その端っこで素振りする俺にユキムラちゃんが茶々を入れる。

 へっぽこなのは言われるまでもなく知っている。何せ俺は一度も実戦に出たことがない味噌ッカス兵士だ。

 だが、何もせずにいる気も起きない。何故ならここまでユキムラちゃんの護衛としての仕事すら全うできてないのだから。


「お前一人で鍛錬せずどこかの隊の訓練に加わったらどうじゃ?」

「そうしたいのはやまやまなんですがね…」


 そう言って俺とユキムラちゃんは訓練場中央に目を向ける。

 そこではヴェマとサルファス様が遊撃隊と重装歩兵隊に模擬戦形式で激しく打ち合わせていた。

 重い鎧を纏いながらどれだけ素早く動けるか、これが前衛としての生死を明確に分かつ一線になる。


「いいかテメエらァ!戦ってのは一に気合、二に気合!三四がなくて五に気合だ!!」

「我ら鎧は意地と矜持!それさえあればダイルマの剣など触れただけで砕け散ろうぞ!!」

「オオーッ!!」


 二人の無茶苦茶な精神論が飛び交うが不思議と兵士たちの士気は高い。

 …ちなみに俺があそこに参加すると二時間と持たずぶっ倒れてヴェマに蹴り出された。我ながら情けなさすぎる体力である。

 目を逸らすように東側に目を向けるとそこではリカチ率いる領民たち…義勇兵たちが異様に長い槍を素振りしている。

 およそ5m近くあるあの物干し竿のような槍はユキムラちゃんが考案した新武器、その名もサンゲン槍だ。


「アタシたちの戦術は一撃離脱!兵士たちと打ち合いなんかするんじゃないよ!勝てるわけないからね!」

「だけんどもリカチよぅ…こんな長げえ槍だと敵を突くのも一苦労だべ…」

「いいんだよ、こいつは突くんじゃなくてブッ叩く槍らしいから!相手の剣が届かない位置から一斉に振り下ろす!いいね!」


 戦い慣れしていない領民でもこれなら戦える、というのがユキムラちゃんの論。

 …ちなみに俺にはあの槍を振る腕力はなかった。日頃から畑仕事で鍛えている農夫たちだからこそ可能なのだ。

 無性に惨めになり訓練所の外を見ると…遠くでロミリア様率いる騎兵たちが近隣平原を自由自在に駆けている。

 白馬のロミリア様を先頭にしたおよそ五十騎の統率された動きはまるで一個の生物のよう。

 ユキムラちゃんが思わず感嘆の声を漏らした。


「ほう…やはりロミィ殿は凄いのう…あのような騎馬隊はわしの世界でもなかなかおらんかったぞ」

「そりゃそうッスよ、カッツェナルガの騎兵隊は七つ国でも有名でしたからね」

「まさしく鬼札じゃな…切りどころは慎重に選ばねば…」


 当然、俺が加わることはできない。あそこにいるのは兵士たちの中でもエリート中のエリートだ。

 そしてシア様配下の神官たちのように魔術が使えるはずもなく…結局、何もできないのである。

 がっくりと肩を落としすごすごと素振りに戻ろうとする俺に対し、突然ユキムラちゃんは背中に負ぶさってきて耳元で囁いた。

 まるで契約を迫る悪魔のように。


「力がほしいか…?」


 無茶苦茶嫌な予感がした。


「い、いえ…遠慮しときます…」

「くくく…そうじゃろうそうじゃろう…力が欲しいじゃろう…そんなサスケにおあつらえ向きの鍛錬法を用意してしんぜよう」


 聞いちゃいねえ!!

 不気味に笑うユキムラちゃんは一本の筒を懐から取り出した。そして…―――


「うろおぼえ万川集海~~~!!」


 キコキコキーン!

 なんらかの脳内効果音と共に取り出されたそれは巻物と呼ばれるシロモノらしい…が、肝心なのはその内容。

 そこには隠密行動のための鍛錬法や知識などがユキムラちゃんの適当な文章でびっしりと書かれている。

 いやまさか…この流れは…―――


「よいかなサスケ君、戦と言うのは敵と向かい合って斬りあうだけが戦ではないのじゃよ、重要なのはいかに敵の裏をかくか」


 にやりと笑ってユキムラちゃんは続けた。


「お前は本当に顔が特徴がなく存在感が薄いからのう!おそらくヨルトミアにその人ありと呼ばれる立派な忍になろうて!」

「け、貶されてるのか褒められてるのかわからねえーーーっ!!」


 その日から俺の工作兵…もといユキムラちゃんの世界でいうシノビとしての修業が始まった。

 嗚呼…兵士になりたての頃に目指した親父のような立派な兵士像からどんどんかけ離れていっている気がする…

 そんな俺の懸念はお構いなしにユキムラちゃんはくくくと笑うのであった。



【続く】

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