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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
南海のスーパー軍師大戦
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第七十六話 激突!マゴイチ対ミツヒデの巻

信長あいつの二番煎じっちゅーのは気に入らんが…成る程、こいつは負ける気せえへんわ!」


 イルトナ船団鉄甲船『黒鯨丸』一番艦…船団長を務めるマゴイチはご機嫌に鼻歌を歌う。

 幾重にも張りつけたクロノ鋼の装甲板は熱と衝撃に強く、どれだけ大砲を撃ち込まれようと敵の砲撃を一切受け付けない。

 そして船に搭載している大砲の性能は自軍の方が射程も威力も上だ。鉄砲が南部に流通しようと雑賀がそこで負けるわけにはいかない。

 “国崩し”の一斉射で次々と炎上撃沈していく敵船を見ながら同乗していたケインは唸る。


「うーむ…マゴイチさん、こんな火砲まで作れたんですね…これがあればあの時ヨルトミアにも勝てたのに…」

「ま、研究開発の賜物っちゅーやつやな!旦那はんが作って流通させた鉄砲よりウチらは二手も三手も先を行っとるで!」

「ええ…素直に認めましょう、ちなみにこれ…おいくらくらいで売ってくれます?」

「くくく…ウチに兵器の横流しさせるつもりかいな…相変わらず抜け目ないな、旦那はん」


 ケインも大概に転んでもタダでは起きない男だ。鉄甲船建造ですっからかんになりつつも既に次の商売を考えている。

 二人が悪い笑みを交わしつつ値段交渉していると遠眼鏡を覗き込んでいた副官のイズマが声を上げる。


「ギルド長!妙な紋章の船隊が出てきましたぜ!」

「妙な紋章…?―――“転生者”!毛利が出てきおったんか!?」

「い、いえ…前見たモーリ?紋とは違いやすが…ありゃあ…」


 イズマが言い淀んでいるとケインと共に同乗していたリキューが静かに前に出、目を細めた。


「桔梗紋…あれは明智殿の船でございましょう」

「明智!?明智光秀までおるんか!?」


 その名を聞いたマゴイチは仰天する。“転生者”が守りに出てくることは想定していたが、まさか明智とは…

 前世の苦い記憶が去来する…織田との戦いでも雑賀衆は明智隊には何度も辛酸を嘗めさせられてきた。

 ヤツの手管は冷静沈着にして情け容赦がない。敵に回すには羽柴隊の次に嫌な相手だと考えていた。


(―――せやけど今はこっちのが戦力が上!鉄甲船まである!明智光秀がナンボのもんや!)


 マゴイチはぱんぱんと自らの両頬を張って気合を入れ直す。

 前世とは何もかも状況が違う…前世は向こうが官軍でこっちが賊軍だったが今度は逆、皇帝陛下側のこっちが官軍だ。

 気を取り直したマゴイチは采配を振り、全船団に号令をかける。


「今更一船隊出てきたところで戦況は変わらへん!技術力の差で海の藻屑にしたれ!」


 その時だ。

 先頭を切っていた『黒鯨丸』五番艦が一射の砲撃を受け突然航行に変調をきたした。

 やがて同様に他船からの一斉射を受ければめきめきと大きな音を立ててその不沈と思われた船体が傾いでいく…!

 呆気に取られるマゴイチたちの眼前、五番艦は巨大な水柱を立てながら海の藻屑と化した。



 ◇



「鉄甲船は一見無敵の船に見えるが、その実態は装甲板を張り付けただけの強化木造船…」


 沈んでいく敵艦を指しながらミツヒデはにこりと笑い解説する。

 総大将船『ダイヤモンドドラゴーン号』の甲板から歓声が上がった。船団長ブンダもまた感嘆の声を漏らす。

 皆の尊敬の視線を一身に受けながらミツヒデは解説を続けた。


「不条理な存在は得てして危うい均衡の上に成り立っているもの…非常に堅牢であると同時に、非常に脆弱でもあるのだよ」


 かつて織田軍に所属していたミツヒデはその構造を熟知している…

 鉄甲船は砲弾や火矢すら無効化する装甲を持つと同時に重量は通常の船よりも遥かに重い。

 故にその船体には多大なる負荷がかかっており内部構造にダメージを受ければたちまちその自重で崩壊してしまう。

 つまり外からの衝撃にはめっぽう強いのだが衝撃を内に通してしまえば撃沈は容易いということだ。

 解説に納得する傍ら、ブンダは浮かんだ疑問を口にして顎髭を撫でる。


「しかしミツヒデよ、わしらは散々撃ち込んだんだぜ?おめえさん一体どんな大砲を使いやがったんだ?」

「ああ、違うのだよブンダ様、重要なのは砲よりも弾だ…実践して見せよう」


 ミツヒデが采配を振り、自船隊へと促すと再び砲撃が行われた。

 発射された砲弾は敵艦の二番手、『黒鯨丸』四番艦に着弾すると激しく炸裂し、その航行を狂わせる。

 一体何の違いが…海賊たちが首を傾げる中、見抜いたブンダはばしりと膝を叩いた。


「徹甲榴弾か!」

「そう…徹甲弾の貫通力だけなら装甲に阻まれるのみ、榴弾の爆発力だけなら装甲の表面を焼くのみ…だが両方兼ね備えた徹甲榴弾ならば」

「装甲にぶっ刺さった後に爆発でダメージを与えられるってワケだな…!」


 納得するとほぼ同時、多くの敵兵が小型船で逃げ出す中で四番艦が轟音を立てて撃沈する。

 さんざん驚かせやがって…勝機を見つけたブンダは巨体を立ち上がらせ、残忍に輝くカットラスを抜き放って号令をかける。


「テメエらッ!徹甲榴弾用意!ソーンクレイル海賊団をナメやがった代償を西部のゴミクズどもに払わせてやれ!」


 応!!

 海賊たちに鉄甲船の対策が次々と伝わり、一方でイルトナ船団は盾にしていた鉄甲船を守るべく慌てて後ろに下げる。

 船の性能が並べば海賊たちに比類するものはない、戦況は一転海賊連合有利へと逆転した。

 残る鉄甲船は四隻…しかしミツヒデは本能で何らかの予感を感じ取り、余裕の笑みを浮かべていた口元を引き締める。



 ◇



 どうする…どうするどうするどうする…

 マゴイチの脳内を動揺と混乱が駆け巡る。まさか無敵の『黒鯨丸』が早々に二隻も撃沈するとは…

 船員が甲板をバタバタと忙しなく走り回る中、マゴイチは額に脂汗を浮かべながら口元に手を当て高速思考する。

 隣のケインが平静を装いながらも曖昧に笑いかけてきた。こんな展開になるとは思ってもいなかったと顔に書いてあるようだ。


「…こ、困りましたねえ…ここは撤退しましょうか…」

「―――いや、無理や…『黒鯨丸』の速度では逃げきれへん…」


 撤退…一瞬考えたが不可能だ。何故なら鉄甲船は防御性能が非常に高い代わりにその重さにより速力が非常に低い。

 海賊の高速艇を相手にしては絶対に逃げ切れないだろう…追撃されて袋叩きに合うのがオチだ。

 さあっとケインの顔から血の気が引く。言ってみればこの船は逃げ場のない袋小路、自分たちは鮫の餌箱に入れられた小魚か。


「どっ、どうするのですッ!?他に手は用意していないのですか!?」

「やかましい!今それを考えとるんや!黙っとれ!」


 縋り付くケインを一喝…マゴイチは打開策を考える。その猶予は極めて少ない。

 敵砲が徹甲榴弾を配備し終えれば終わりだ、残る四隻の『黒鯨丸』は全て海上の棺桶と化す。そうなる前に手を打たねばならない。

 前戦のように敵大将を直接狙撃するか…否、敵大将船が遠すぎる。その上、周りをきっちり陣形で囲って守りも万全だ。

 いっそ『黒鯨丸』を捨てて他の船で戦うか…否、そうなれば海賊連合の方が明らかに強い。それこそ勝ち目がなくなるだろう。

 航路を北上に変更し陸地に上がって戦うか…否、陸地までは結構遠い。先も考えたが『黒鯨丸』の速度では途中で追いつかれる。


「八方塞がりやないか…!」


 マゴイチは頭を抱えて蹲る。どう考えてもまともな未来が見えない。

 その時だ。


「あ…?」


 シャッシャッと何かをかき立てる音が耳に届く…その音にマゴイチは振り返り、思わず目を疑った。

 こんな状況にも拘わらずリキューが正座し、茶を点てている。しかもご丁寧に野点の準備をした上でだ。

 マゴイチだけでなく全船員が呆気に取られる中、リキューはすっと黒茶碗を差し出した。


「マゴイチ殿、どうぞ」

「いや…そんなことしとる場合やないから…」

「どうぞ」


 有無を言わせぬ迫力…思わず気圧されたマゴイチは座り、茶を啜った。

 落ち着いた苦みが五臓六腑に染み渡る。今まで心を支配していた動揺や混乱が洗い流れていくような気がした。

 戦場で行われる茶会の中、一瞬の無音の間を感じたマゴイチは…最後に残った一手を垣間見る。

 茶碗から顔を上げるとリキューと目が合った。リキューは静かに笑う。


「そこに見えたのが貴方なのです、お忘れなきよう」


 心は決まった。

 目に炎が宿ったマゴイチはすっくと立ちあがり、采配を振って声を張り上げる。


「全船に告ぐ!イルトナ船団、全速前進や!!」


 どよめきが上がった。

 全速前進…眼前には無数の敵船団が待ち構えているのだ。敢えてその中に飛び込むというのか。

 まるで気が狂ったかのような命令に焦ったケインが慌てて止めに入る。


「ま、待ってください!ヤケになって自殺でもするつもりですか!?」

「ちゃう、逆や!ウチらの活路は前にこそある!敵が砲撃準備を整える前に突っ込んで、防御力と重量でゴリ押す!」

「んな無茶苦茶な…!」

「無茶も苦茶もあるかい!このままナメられっぱなしやと死んでも死にきれんわ!」


 やっぱり死ぬ気なんじゃないか…!

 だが絶望するケインとは裏腹に船員たちの表情は晴れやかになっていった。頼れるギルド長の下した判断だ、最後まで付き合ってやろうじゃないか。

 副官のイズマが爽やかに号令を復唱する。


「アイアイサー、ギルド長!!全速前進、ヨーソロー!!」


 ヨーソロー!!

 再び張られた帆が追い風を受けて大きく膨れ上がり、あるいは水夫たちが必死で梶を漕いでイルトナ船団は船体突撃を開始した。

 泡を食った敵船団が迎撃の砲火を浴びせかけるも四隻で単縦陣を組み突き進む巨艦はそう簡単には止まらない…

 前方の小型船を何隻も巨体で轢き潰しながら真っすぐに敵陣突破を図る。装甲が剥がれ落ちていくがお構いなしだ。

 銃火が飛び交う甲板でケインは悲鳴を上げ、マゴイチは高らかに笑う。


「あああああっ!こんな船乗るんじゃなかった!」

「はっはっはーっ!旦那はん、ひとつだけええこと教えたるわ!」


 顔を上げるケインに、マゴイチはにやりと笑って言う。


「南無阿弥陀仏!これだけ唱えときゃ死んでも極楽浄土行きや!!」



 ◇



「ぬおおおっ!!回避っ、回避ぃぃっ!!」


 ブンダは必死に腕を回しながら声を張り上げ、なんとかギリギリ大将船同士のぶつかり合いを避ける。

 船同士がすれ違う一瞬、敵船の甲板の手摺に立った少女と目が合った。少女の手には鉄砲が構えられている。

 しまった…!ブンダは死を覚悟する。しかし…―――


「雑賀孫市…やはり君だったか…」


 発砲音が二つ。

 一方はブンダの足元に突き刺さり、もう一方は敵船の手摺に突き刺さった。

 此方から発砲したのはミツヒデだ…いつの間にか彼女も鉄砲を手に取っており狙撃を狙っていたようだ。

 互いに警戒し狙いを外した少女とミツヒデは一瞬睨み合い、やがて両船の距離は離れていく…

 ブンダは思わず胸を撫で下ろす…“転生者”連中はまったく油断ならない。


「破れかぶれの突撃か…とんでもねえ真似しやがって…!」

「…破れかぶれ、果たしてそうかな」


 ざっくりと割られた自陣を見ながら呟くブンダに、ミツヒデが意味深に呟く。

 敵の狙いは耐久性と重量に物を言わせた敵中突破…だが突破されたところで何だと言うのだ。

 陣を割られはしたがまた陣を組み直して追撃し、速度差で追いつけば包囲し一斉射撃を食らわせる。敵の悪あがきもそれで終わりだ。

 こうして活路を切り拓いたつもりでもその実何も解決してはいないじゃねえか…―――

 そこまで考えてブンダは思い出す。自陣の背後に何があるのかを…


「まさか…連中の狙いは…!」


 気付いた時にはもう遅い。

 満身創痍ながらも敵中突破し、その数をたった一隻にまで減らした『黒鯨丸』…そしてそれを囲う船団は目標地点に到達。

 軋んだ音を立てながら巨大質量が逃げられない“其れ”へと迫っていく。

 そう…彼らの標的は海賊連合の本拠、海上要塞レクリフ城…


「や、やめねえかーーーーーっ!!」


 ブンダの叫びも虚しく、鉄甲船が轟音を立てて彼らの根城に突き刺さった。



【続く】

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