第六十四話 さらば北部地方!そして…の巻
「なんだよ、行っちまうのか?」
「ええ、これでも俺はサナダ忍軍の頭領なんで」
「ちぇっ…薄情なヤローだぜ」
旧ティーダ城…復興が行われる中、俺はマサムネたちに別れを告げた。
北部地方の統治は連合領と獣人領の五分五分で分割統治が行われることに決定。
長い迫害の歴史で未だに互いの偏見は残っているものの、人間と獣人の関係は変わりつつある。
マサムネはティーダ領に戻り、生き残った将兵や民たちを取りまとめて復興を開始。
北部連合の一員として“転生独眼竜”の手腕を発揮し、かつての力を取り戻しつつあった。
俺はその補佐にならないかとスカウトを受けたわけだが…
「あーあ、お前がコジュウロウになってくれりゃ色々捗るのによォ」
マサムネがつまらなさそうに雪を蹴ると、隣でガジマが苦笑する。
そう…ガジマだ。剣神のすぐ近くで戦っていたにもかかわらず奇跡的に無事だったのだ。
彼を見つけた時、俺は思わず胸の内にこみあげてくる熱いものを抑えきれなかった。
「マサムネ殿、サスケ君にはサスケ君の成すべきことがある…困らせてはいけない」
「ガジマさん…」
「良い子ちゃんぶりやがって…テメエだって行ってほしくねえくせに!」
「それはそうだとも…連合に通じていた時は驚いたが、私が君を尊敬し一族に引き入れたい気持ちは変わっていない」
こう言われると非常に心が揺らいでしまう…こうして素直に尊敬されるのは初めてだ。
俺の心の揺らぎを見れば、マサムネはすぐににやりと笑って顔を擦り寄せてくる。
「ほれ…お前も実はまんざらでもねえんだろォ…?残っちまえよ…」
「うぐぐ…し、しかし俺には使命が…」
「迷う必要あるかあ?一緒に悪巧みしてる時はあんなに楽しかったじゃねえか」
白状しよう。
マサムネに振り回されながらの共闘は大変でありながらも楽しかった。
いや、楽しいだけではない…俺はマサムネから色々なことを学ばせてもらった。
生き汚いとも言える精神的タフネスぶり、一度目的を見据えればどんな手でも一切躊躇しない徹底ぶり…
ユキムラちゃんについていたのでは到底できないような経験を僅かな間に積んだ。
しかし…だからこそ…―――
「だからこそ、俺は行かなきゃ…マサムネちゃんに教わったことを無駄にしないためにも」
マサムネは少し驚いたように目を丸くし、すぐに顔をしかめる。
一瞬…ほんの一瞬だがその口元が緩んだのを俺は見逃さなかった。
「ケッ、甘ちゃんヤローが!テメエなんていらねえよ!とっととどこにでも行っちまえバーカ!」
子供のような悪態…これが聞けなくなるのは少し名残惜しくもある。
俺は改めて二人の顔を見、一度深く頭を下げて踵を返す。そして《皇帝の剣》に合流すべく歩き出した。
この後は一度王都に帰還し皇帝に謁見、南部征伐に取り掛かるはずだ。
「おーい!」
マサムネの呼ぶ声…振り返ると、相変わらず不敵な笑みを浮かべて偉そうに叫んだ。
「死ぬんじゃねえぞ、サスケ!」
「……ああ!」
ありがとうマサムネ…俺は万感の思いを込め、一度だけ手を振った。
そうしたら、もう振り返らない…再び北部に来ることがあるならばそれはリーデ様が天下を取った後だ。
北部地方の今日の空は晴天、どこか暖かな風が吹く…
長い長い冬が終わり、春が訪れようとしていた。
◇
「…別れは済ませてきたのか?」
戻った俺にユキムラちゃんはそう問いかける。
どこか探るような視線…なるほど、マサムネにスカウトされたことも見抜かれていたようだ。
だが俺の心にもう迷いはない…
「ええ、もう十分ッス!さあ、次の地方に行きましょう!」
「くくくっ…」
それを聞いたユキムラちゃんは小さく笑う。そして訝し気にする俺の尻をぺしりと叩いた。
「少し見ん内に随分と立派になりおったのう!男子三日会わざれば刮目して見よというやつじゃな!」
そんなものだろうか…
見た目は変わっていない筈、と自分の体のあちこちを見回しているとそこにサイゾーがしがみついてきた。
こいつがこんなに懐いてくるのは珍しい…頭をぽんぽんと撫でてやる。
「サスケ…さみしいおもいをさせてすまなかった…」
「いや、俺は別に…」
「もうはなさない…くびわとくさりをつけてしっかりかうからな…」
「それはどうかご勘弁を…」
どうにも、しばらく離れているうちに色々こじらせたようである。
困り果ててユキムラちゃんに助けを求めるように見るが、ユキムラちゃんは愉快そうにくっくっと笑うのみ。
そこへ二つの影がやってきた…剣神とウサミ、別れの挨拶に来たようだ。
「残念だユキムラ、お前とはもう一度手合わせしたかったのだが…」
「わしとしてはもう二度と勘弁願いたいところです…」
「お前たちは次は南部征伐に向かうのだろう?いいなあ…我も連れて行って…―――」
「ダメでちよ、お屋形様!」
剣神の言葉にウサミから厳しいツッコミが入る。
「各領の復興に我らとヒューマン族との間の緩衝、あのマサムネの抑え、やることは山積みなんでち!」
「わ、わかったわかった…ちょっとした冗句だ、ちゃんと内政もやるから…」
たじたじの剣神に思わず笑ってしまう。
こうしてみるとあの恐ろしい軍神然とした姿が嘘のようだ。やはり“転生者”も人であるということだろう。
剣神はユキムラちゃんの方に向き直り、笑みを浮かべる。
「ま、ウサミもこう言っていることだ…北部の諸々は我に任せておくといい」
「お頼み申す、剣神殿が御味方してくれるならこれほど心強いことはありませぬ」
「その代わり、東のあの魔城…あれを攻める時は是非我らを呼べ、北条もまた我の宿敵だからな…」
その言葉、頼もしい限りだ。
ユキムラちゃんの知謀に剣神の武力があれば例えどんな要塞でも落とせない気はしない。
俺たちは別れを告げて二人へと一礼、丁度出立準備が終わった《皇帝の剣》は移動を開始した。
馬を歩かせながらユキムラちゃんは肩の力を抜いて一息吐く。
「ふぅ…なんとも骨の折れる戦じゃったわい…」
「ここまで搦め手を使いまくったのは初めてッスよね…勉強になりましたけど」
「そう…この経験で兵たちは一層強くなった、もはや大陸最強軍と言っても過言ではあるまい」
そんな大げさな…と思ったが、言われてみればそんな気もしてくる。
何せここまで経験を積んだ軍は大陸中に他にいないだろう…西から北へとずっと戦い通してきたのだ。
残すは南部の海賊連合、そして東部のジークホーン公国。
そのどちらにも最早負ける気は…―――
「伝令っ!伝令ーーーっ!!一大事でございます!!」
突然、声を張り上げながら一人の兵士が《皇帝の剣》の進路を塞ぐ。
その身なり、やってきた方角からして王都兵か…肩にはそのエンブレムも刻まれている。
「何事ですか!騒々しい!」
「も、申し訳ありません…!しかし一大事なのです…!」
ラキ様が一喝する中、伝令兵はリーデ様へと跪く。
王都からここまで休みなしで駆け続けてきたのか、装備は薄汚れてその表情には疲労の色が濃い。
明らかに只事ならぬ様相…リーデ様は顔を引き締める。
「一体何があったの?」
伝令兵から紡がれた言葉はおおよそ信じられない…信じたくない言葉だった。
「せっ、西部地方に南部の…海賊連合が大軍勢を率い侵攻開始…!」
ざわり。
兵たちに動揺が広がる…しかし衝撃の報はさらにその次。
「そして…―――御本拠ヨルトミア城が…落城いたしました…!」
【第四章 終】
ここまで読んでいただきありがとうございました。
サスケとユキムラの二視点で進んだ第四章・北伐編はこれにて終幕です。
次回からは海賊退治編、“転生者”の数もかなり多めに登場する予定です!
いよいよヨルトミアの天下取りも佳境…果たしてどんな戦いを繰り広げるのか、乞うご期待!
そして感想とレビュー、全て読ませていただいております、いつもありがとうございます!
言葉下手なため返信は致しませんがどうかご容赦を頂ければ幸いです!
是非評価の方もよろしくお願いします。
では、短いですがこれにて!第四章も是非お付き合いくださいませ!