表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
ドラゴンワンダーランド北方戦線
62/120

第五十五話 剣神の弱点を探せ!の巻

 スリア平原から軍を引いた《皇帝の剣》はそのままモーガン公国領内へ行軍。

 先の戦で連合軍の窮地を救ったということもあり、わしらは特に拒絶されることもなく受け入れられた。

 しかし皆の表情は一様に暗い…北部到着早々に剣神の圧倒的な強さを見せつけられる形となってしまった。

 先の戦いはあくまで剣神の気まぐれに救われたようなもの…

 危うく総大将であるリーデ様まで刃が届きかけた事実は重くのしかかっている。

 重苦しい空気にリーデ様は溜め息を吐いた。


「どうやら重症のようね…」

「無理もありますまい…あれほどまでに圧倒されれば…」

「…ユキムラは平気そうだけど」

「……わしは前世からこういう負け戦には慣れております故」


 わしのことはともかく…ヨルトミア軍がへこむのも無理はあるまい。

 これまでヨルトミアの兵たちはダイルマとの戦いを皮切りに常に戦い続け、戦いの中で成長し続けた。

 いつしか戦う相手は自然と自分たちより弱い兵が多くなり、強兵としての自信や誇りが培われていった。

 それと同時に驕りが慢心が生まれたであろうことは否定できない…

 剣神と獣人の基礎戦闘能力の高さ、それは鼻っ柱を挫くには十分すぎるほどの強さだった。

 謙虚になるのも慎重になるのもいい。しかし一度植え付けられた先入観による士気の低下は戦において致命的となる。

 なんとか戦意を取り戻したいところではあるが…


「連れ去られたサスケ殿も心配ですね…」

「うぅ…サスケぇ…」


 ラキ殿がぽつりと呟き、その名を聞いたサイゾーがしょぼしょぼと肩を落とす。

 普段反抗していてもサイゾーにとっては常に行動を共にしてきた兄のようなもの…

 予想以上に精神的にあやつに依存していたようだ。


「正直なところ、サスケに関しては心配しておらん」

「あら薄情…あんなに可愛がっていたのに?」

「否、だからこそでござる…ああ見えてサナダ忍軍で最も優秀な忍、きっと今頃あやつはあやつで行動しておりましょう」


 むしろ連れ去られたのがサスケだったのは不幸中の幸い…期せずして敵地への潜入に成功したことになる。

 そしてあやつは非常に賢しい。きっとわしならばどうするかを理解し、最善手を打ってくれる筈だ。

 此方は此方で動き、サスケはサスケで動く…内と外からの同時攻略…

 それこそがあの付け入る隙のない剣神打倒のカギとなるだろう。


「到着しましたね…ここがモーガン公国のようです」


 話しているうちに我が軍はモーガン公国首都モーガンへ到着。

 高い城塞に囲まれた都市…栄えてはいるのだが戦禍による影響があちこちに見受けられる。

 祖国が亡び、人狩りから逃れてこの城塞都市に身を寄せた難民の姿も少なくなかった。

 《皇帝の剣》は用意された駐留地に着陣し、ひとまず兵士たちに長旅の疲労を取らせることに決定。

 その間、わしらは北部諸侯と面会し作戦会議だ。

 今は剣神と獣人…その両方の情報が欲しいところである。



 ◇



「まずは我が北部連合軍を救援してくれたことに感謝を…」


 モーガン公は深々と灰色がかった頭を下げる。

 その表情は疲労の色が濃い。昼夜問わず襲い来る剣神と戦い続けてきたのだから当然だ。

 会議室には他の二国の君主…ナーシア公とラムダ公がいたがそのどちらも疲れ果てているようだった。


「そして、あの災厄と戦って無事に済んだこと…驚きを禁じ得ませぬ」

「無事か…まぁ、無事と言われればそうだな…」


 モーガン公の言葉にロミィ殿が自重気味に呟く。

 どうやら剣神はもはや同じ人とも認識されていないようだ…ただ災厄と呼ばれている。

 リーデ様はモーガン公に問う。


「剣神の目的は何なのですか?」

「それがわからんのだ…故に災厄、我らも訳も分からず国を脅かされておる…」

「まいったわね…話が通じないのかしら…」


 リーデ様が説明を求めるようにわしを見たが、なんとも言えぬ所だ。

 “上杉謙信”…時代が違うため直接面識はないが前世、戦国の世であってもひどく浮世離れした者だったと聞く。

 類稀なる武勇を持ちながらにして天下取りの大望を抱かず、ひたすら“義の戦”に明け暮れた将。

 立場の弱い者を庇護し、見返りも求めず武田や北条といった大敵と生涯を通し戦って勝ち続けた。

 もし獣人が迫害されていたならば、彼らの味方につくのは想像に容易い。


「建前としては…獣人に領地を取り戻し、彼らの平穏を取り戻すことが目的でしょう」

「そんなタマかよ、アイツが…」


 ぼそりと呟いたのはヴェマ殿だ。


「間違いなくアイツは戦いを楽しんでるぜ…でなければあの状況で退くはずねえ」


 そう、確固たる目的があるならば気まぐれを起こすはずがない。

 思うに…ヤツは“義の戦”を遂行することだけが目的であって、それによる結果は求めていない。

 ただ戦い続けることが目的で、その手段として獣人たちの味方につく逆転現象。

 真っすぐな人物に見えてその価値観は根本から常人のそれと大きくズレている…

 それが剣神なのだと、出会った瞬間そう感じた。


「…狂人であるだけならば良かったのだがな…」

「無茶苦茶強かったよね…あんな風に余裕を見せられても手も足も出なかった」

「剣神が戦場に到着してからです…突然戦の流れが変わりました…」


 ロミィ殿、リカチ殿、ラキ殿がそれぞれ思い返すように呟き、身を震わせる。

 古来より過酷な環境は恵まれた土地よりも強い兵を育むと言われている。

 獣の如き身体能力を持ち、極北の地でも生き抜いてきた獣人たち…

 それを剣神が率いれば、単純な武力は全盛期の上杉軍以上のものとなるだろう。

 ノブナガを打倒した時、あれは相手が織田軍でなかったからこそ勝てた。

 では今度はどうだろうか…勝てるのか、獣人軍を率いる剣神に…


「やめましょう!先の戦いを思い出して暗くなるのは!」


 沈みがちな空気を打ち切ったのはトウカ殿だった。

 攻めて勝ってきたヨルトミア軍に対し、これまで守りの戦に徹してきた王都軍の精神的被害は小さい。

 皆を元気づけるように人の好さそうな笑みを浮かべ、ぱしりと手を打つ。


「ユキムラ様、剣神の前世では一度も負けがなかったのですか?」

「いや…二度ほどではあるが負けている…筈…」

「では十分です!我々にも勝機があるということでしょう!」


 …と言っても生涯通して七十戦近く繰り広げた末の二敗なのだが…

 しかしその言葉で軍議の空気はいくらか明るくなった。

 いくら剣神が災厄じみた力と常人離れした思考を持っていようが所詮は人。

 人であるならば同じ人である我らが滅せぬ道理はない。

 皆が気を取り直したのを見、リーデ様が頷いて言う。


「ユキムラ、その剣神の二敗の詳細は?」

「“生野山の戦い”…そして“臼井城の戦い”…どちらも敗因は城攻めの失敗ですな」


 そして上杉謙信はそれ以外の戦でも城攻めに失敗し軍を引く例が多々ある。

 負けこそはしないにすれど、それらが導き出す答えはこうだ。


 剣神は攻城戦が苦手である…―――


 野戦では百戦不敗の強さを誇れど、城攻めとなると力攻めの一辺倒。

 だからこそ武田や北条はヤツ相手に最後の一線を守り続けられたと言える。

 そこまでの流れを聞き、モーガン公が唸った。


「既に剣神にはいくつもの城を落とされているのだが…本当にそうなのか?」

「それは守り方が下手なだけよ、ただ城に籠っているだけが籠城戦ではないの」


 ずばりとリーデ様が切り捨て、モーガン公は押し黙る。

 非常に申し訳ないのだがその通り…力攻めに対抗するには相応の作法が必要となる。

 そして何より立地の問題だ。平原に立つ城ではいくら城壁が高くとも力負けする場合も多い。

 このモーガン城に篭って戦うのは得策ではない。剣神を迎え撃つための防衛拠点が必要だ。


「モーガン公、この地方の地図は持っておられるか?」

「あ、ああ…少し待たれよ…」


 わしはモーガン公から受け取った北部の地図を凝視する。

 必ずどこかあるはずだ…お誂え向きの地が、絶対に…

 勢力図と照らし合わせれば、その場所はすぐに見つかった。


「ここじゃ!天然の要害!」


 戦略的要所。地方の北東から南西に横断する二本の長い川が合流する三角中洲。

 攻め込むには渡河する必要があり、また跳ね橋により四方自在に攻め込める戦術拠点。

 そして獣人軍にとっては目と鼻の先の脅威となって無視できない地…


「まずはここに城を建てる!ダイルマ戦以来の築城…サナダマル参式じゃ!」



【続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ