表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
上洛!黄金王都エドルディア
51/120

第四十四話 サスケとサイゾー、王都観光の巻

 リーデ様とユキムラちゃんたちが謁見していた頃、俺たちは王都内をブラブラ散策していた。

 王都には来たもののさすがに皇帝陛下には会えないらしい。

 上洛したヨルトミア軍は予め用意された駐留地に着陣し、後は自由行動となった。

 そこでさっそく俺とサイゾーは偵察に出発する。初めて来る地は土地勘が最重要だ。

 ―――いや、観光したかったという気がないわけでもないけれども…


「かんみ…しふくのとき…」

「さすが王都だな、栄えっぷりが桁違いだ…」


 西部では見たこともない冷菓に目を輝かせて貪りつくサイゾーを横目で見ながら改めて都を眺める。

 王都は人の多さもだが見たこともないようなものも大量に存在する。

 それは高い山で隔てられ基本的に交流を持たない各地方の文化が王都へと流れ込んでくるからだろう。

 直接の支配力は失ってもやはりここは大陸の中心、すべての始まりの地なのだ。


「おや、あなたたちは…確かヨルトミアの…」

「ああ、これはトウカ殿…俺はサスケ、こっちの小さいのはサイゾー、以後お見知りおきを」


 ベンチに座って休憩しているとそこへ先ほど別れた王都七騎士のトウカがやってきた。

 俺たちは会釈をして初対面時はできなかった自己紹介を改めて行う。

 トウカは軽く小首を傾げて訊ねてくる。


「こんなところで何をしているのです?」

「へへ…自由行動になりましたものでね、おのぼりさんらしく観光ってとこです」


 まさか偵察とは言えまい。

 それを聞くとトウカはぱあっと表情を輝かせ、ずいと顔を寄せてきた。


「でしたらこのトウカにお任せください!王都のオススメスポットを案内いたしますよ!」


 この人はあのマクシフと違いとても良い人なのだろう。

 その誘いを断るのも酷だ。ありがたく乗らせていただくとしよう。

 だがサイゾーは冷菓をぺろぺろ舐めながらふんと鼻を鳴らした。


「きをつけろサスケ…そいつ、われわれをかんしするつもりだぞ…」

「…あのねサイゾーちゃん、そういうことは思ってても言っちゃダメなの」


 あんまりな言い方にトウカはあはは…と苦笑した。苦笑するしかなかった。

 勿論、俺だってそんなことは分かり切っている。トウカは親切な素振りを見せる割に非常に隙がない。

 おそらくはかなりの手練れ、俺たちが忍であることもとっくに見抜かれているだろう。

 そんな連中が街中で偵察活動を行っているのを見かければ騎士としては見捨てておけないのが当然だ。

 だが、それでも観光案内という名目を作ってくれるあたりが人の好さがにじみ出ている。


「ホントすいませんトウカ殿…なにぶんコイツ愛想がなくて…」

「い、いえっ!いいですいいです!こっちも素直に言えば良かったですね…なんかごめんなさい…」


 お互いにぺこぺこと頭を下げ合うハメになってしまった。

 ともあれ、ここで監視の目を振り切って遁走するほど切羽詰まった偵察活動でもない。

 ここは今後の良好な関係を築くためにも敢えて観光案内に乗っておくべきだろう。

 サイゾーは若干憮然としながらもその意見には了承した。


「では参りましょうか!こっちに美味しい店があるんですよ!」


 観光案内を買って出ただけあってトウカの案内先は見たことのないものばかりだった。

 俺たちは田舎者丸出しでその後ろをついて回り、都会の美味に舌鼓を打つ。

 最初は警戒していたサイゾーだったが胃袋を掴まれると弱い…二件目ですぐに甘味の前に陥落したチョロ忍である。

 しかし俺も若干距離を置こうとはしつつも彼女の飾らない人柄にいつしか偵察の目的を忘れてしまっていた。人のことは言えない。

 そして彼女はどうやら王都の人間からも好かれているようで行く先々で住民にフレンドリーに声をかけられている。

 王都七騎士に数えられるだけあり実力や見た目だけでなく人望も優れているという訳だろう。

 しかし…


「そういえばトウカ殿、うちの主君が皇帝陛下に謁見してますが七騎士は同席しなくていいんスか?」


 ふと浮かんだ疑問、それは聞いてはいけないことだったらしい。

 トウカの笑顔が曇り、なんとも言い難い表情になった。


「あはは…そうですよね…やっぱり他の地方から見ればおかしいですよね…」

「い、いえ!そんな気に病むようなことでもないと思いますが!」

「いいえ、おかしいんですよ…―――…実は王都の騎士は王城への入城が認められてないんです…」


 はい…?

 騎士が城に入れない、そんなことが果たしてあるのだろうか…トウカはぽつぽつと語り始める。

 今や王都の全権は大臣連が握っていること…武力を持つ騎士がその大臣連に疎まれていること…

 ほぼ全員が門と都内の警護に回されて皇帝陛下には会うことすらできなくなっているということ…


「ですがそれでも!我々は皇帝陛下の忠実な騎士!例えどんな冷遇を受けようともそれは変わりません!」

「えらい…!サスケもみならえ…!」


 力強く言ったトウカに対しサイゾーが相槌を打つ。

 俺はパチパチと拍手をして見せながら心中で軽く思案する。

 実権を握る大臣連と冷遇される騎士、お飾りの皇帝陛下…王都の内情も一枚岩とはいかないようだ。

 それは即ち付け入る隙があるということだ。それだけでも聞いた甲斐があった。

 そして…これを俺たちに明かしたトウカは単に愚痴りたかっただけということは決してないだろう。

 ようは“皇帝陛下には絶対忠誠を誓っているが大臣連に対してはその義理はない”…

 おそらく彼女が伝えたかったのはそれだ。彼女はヨルトミアが体制を改革してくれることを期待している。

 尤も、皇帝を討つとなると彼女らは一変して俺たちの敵に回るだろうが…


「さあ、ここが最後のスポットですよ!伝説の英雄、タイクーン像です!」


 そうこうしているうちに煉瓦造りの小高い丘の上、王都が一望できる広場に到着した。

 その中央に鎮座する像こそが大陸を平定した伝説の英雄タイクーン…なのだが…―――


「これがタイクーン…結構意外性があるっていうか…リーデ様の祖先には見えないというか…」

「サルみたいなおっさんだな…」

「サイゾーちゃん!」


 俺がなんとかオブラートに包もうとしている矢先、サイゾーが直球を投げる。

 苦笑するトウカもきっとわかっているのだろう…伝説で想像される英雄像とはあまりにもかけ離れている。

 その像は背が低く、体格もどちらかといえば貧弱、顔立ちに愛嬌はありはするのだが到底美形とは言えない。

 祖先だというのに誰から見ても見目麗しいリーデ様や美青年だったツェーゼンとは似ても似つかない風体だ。

 表情も獅子のように厳めしいかと想像していたが破顔、口を大きく開けて屈託なく笑っている。

 それがなんともサルっぽさに拍車をかけており…大陸の覇王タイクーンの想像図ががらがらと崩れ去った。

 そして、俺はその台座に書かれた字に気付く。


「これ…異世界文字だ…ユキムラちゃんの書斎でよく見る…」

「あ、お気づきになられました?そう、タイクーンは“転生者”だったのです!」


 衝撃…というほどでもない。

 タイクーンが“転生者”だったかもしれないという説は元々広く知れ渡っている。

 むしろ一代で大陸をイチから征服したという史実に納得がいった。“転生者”であるならばそれくらいできる。

 つまり皇帝陛下もリーデ様も“転生者”の血を引いているということになるわけだ…


「しかしまぁ、この御方が大陸各地に種をバラ蒔きまくって混乱の元になる遺言残しちゃったわけか…」

「ええ、タイクーンは元の世界で子宝に恵まれなかったらしく…その反動でこっちの世界でハリキっちゃったみたいで…」

「男だからね…しょうがないよね…」

「“てんせいしゃ”だけど、ユキムラさまとはぜんぜんちがう…」


 なんとなく…現代の“転生者”が悉く少女の姿で召喚される意味が分かった気がした。

 おそらくタイクーンがこんなに沢山子を成し、血脈がここまでこの異世界に根付いたことは神にとっては想定外だったのだろう。

 その反省から、女神リシテンは“転生者”をひとまず少女の姿にして受肉させることにしたのだ。

 そうすれば少なくともタイクーンのように大量に血族が残ることもない。子を成すことはあってもせいぜい一人、二人だ。

 尤も、ノブナガのようにこの世界の者の肉体をベースに転生した場合となると話は別だが…


「むむ…となると…」


 このおっさんの像の顔を見ると妙に勘が冴える。

 もしやタイクーンがリシテン教を徹底的に弾圧したのは魔術の弾圧ではなく神の支配から逃れるためかも知れない。

 きっと女神リシテンは異世界を自分色に染めるタイクーンによる支配を快く思わず、何らかの介入を行ったはずだ。

 そして神との戦いをおそらくタイクーンは制した…少なくともこの数十年間戦乱の世に“転生者”の存在はなかった。

 その間、女神リシテンはこの世界に介入できずに封印されていたという推測が成り立つ。

 だがここ数年で“転生者”は召喚されまくっている…ヨルトミアを皮切りに、大陸全土各地にだ。

 それはつまり神の介入が再びこの世界に…―――


「…どうかなされました?」

「ああ、いや、なんでもないッス」


 ―――…なんて、誇大妄想が過ぎるだろうか。

 そもそもシア様には悪いけれど女神リシテンなんてものが本当にいるかどうかすら分からない。

 それにタイクーンは神に逆らってまで守った自分の支配を自分の遺言で壊すことになってしまっている。

 大陸制覇は本当に大業なのだがやらかしのスケールも天下一だ。


「それでは日も沈んできましたし、そろそろ帰りましょうか」

「ええ、トウカ殿、今日はありがとうございました」

「たくさんおいしかった…ありがとう…」


 俺たちが感謝すると心底嬉しそうにトウカは笑った。

 改めて、非常に魅力的な女性だ。この人と戦うことになるのだけは嫌だなあ…

 最後に俺はふと気になっていたことを聞いてみる。


「そういえばトウカ殿、あの台座の異世界文字は何と書かれているか知ってますか?」


 トウカは振り返り、少し困ったように言った。


「さあ…私も全部は読めはしないのですが『ヒデヨシ』と書かれていることだけは知っています」


 ヒデヨシ…

 どっかで聞いたことのあるような名前だ…ユキムラちゃんかマゴイチが言っていたような…

 まぁ、どちらにせよ大した問題ではなかったので俺は忘れ、サイゾーと共に宿舎へと戻る。

 ―――この後…リーデ様からとんでもない使命を与えられるとは知らずに。



【続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ