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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
包囲網を打ち破れ!
42/120

幕間その6 イルトナ公、その後…の巻

「あーあ、散々な結果になってしまいましたねえ…」


 ヨルトミア・オリコー・フォッテ連合軍の凱旋…

 カイル平原から少し離れた丘の上でケイン=ニル=イルトナは其れを見届けながらぼやいた。

 認識操作の術が解けてから隙を見計らって単身戦場を脱出、ここまで落ち延びてきた。

 フォッテを礎にイルトナを吸収したオダ帝国はノブナガが倒れることで解体。

 ラクシアが負けを認め、あの騎士女公に膝を屈すればきっと許されてフォッテは元鞘に戻るだろう。

 だがイルトナはそうはいくまい、何せこの包囲網の首謀者だ。負けを認めて降伏したからと言って見逃されはしないだろう。

 ダイルマ時代からヨルトミアを姦計にかけ続けてきたツケが回ってきたか…


「さて…本格的な捜索隊が出される前に逃げるとしますか」


 ヨルトミアにとって自分は二度にわたり危機に陥れた存在、捕まればおそらく首を刎ねられる。

 そんなつもりは毛頭ない…例え国を失ったとしても命を失ってしまえば元も子もないからだ。

 その場から立ち去ろうと踵を返したケインはそこに立っていた人影にぎくりと固まった。


「なんや、逃げるんかい旦那はん」

「マゴイチさん…」


 “転生撃手”マゴイチ…

 イルトナが呪術教団に頼って召喚した“転生者”。彼女のお陰でこの世界に鉄砲はもたらされた。

 ヨルトミアについたと聞いて、てっきりあの凱旋の列の中にいると思ったのだが…

 彼女も満身創痍のようだ、今なら倒せるか…糸目をさらに細めてケインは懐の短筒を探る。

 マゴイチはそれを見て呆れたようにはんと鼻を鳴らした。


「そないに警戒せんでもウチは捕まえる気あらへん、仮にも雇い主やしな」


 意外だった。

 てっきりヨルトミアの差し金で来たのかと思っていたが…


「では…今更何故私に会いに?」

「そらまぁ…一緒にヨルトミア公に謝ったろうと思ってな…」


 照れくさそうにマゴイチは頬を掻く。

 成る程、マゴイチはオダ帝国打倒のためにヨルトミアに多大な貢献をした。

 その功績を持って助命嘆願…そういったところか、意外にも義理堅いというか…情に厚いというか…

 ケインはくっくっと肩を揺らして笑う。


「お気持ちはありがたいですが遠慮しておきます、もうあの女に関わるのはまっぴらですからね」

「あらそう?アンタがそれでええならウチも無理にとは言わんが…」


 深追いはしてこなかった。こういうところはドライである。

 そして、僅かばかりの沈黙…

 お互い腹の底から信頼し合っていたわけではなかったが、短い間でも陣営を共にした者同士の奇妙な友情があった。

 先に沈黙を破ったのはマゴイチだ。


「…これからどないするんや?」


 ケインは僅かに思案して答える。


「そうですね…海路で別地方に渡って商売でも始めるとしますよ、焼け残った資産もそこそこあるのでね」


 抜け目ない彼のことだ…きっとそっちでも成功を収めるのだろう。

 マゴイチはにやりと笑って提案する。


「ウチもついてったろか?腕利きの護衛が必要やろ?」


 冗談半分、本気半分。

 ヨルトミアにこのままついていくのも良いが、ケインと共に商売を始めるのも悪くないとマゴイチは考えていた。

 だがケインはどこか爽やかに笑って言う。


「勘弁してくださいよ、“転生者”と連れ合っての旅なんてどんなトラブルに巻き込まれるかわかったものじゃない」


 ごもっとも…マゴイチは軽く肩をすくめ、近くの樹に背を預ける。

 ケインはその前を通り過ぎながら…ふと思い出したように言った。


「ああ…そうだマゴイチさん、私に少なからず恩義を感じているのならばひとつお願いがあります」

「…なんや?」


 小首を傾げるマゴイチにケインは言葉を続ける。


「イルトナ領の今後、貴女になら任せられると思うので後はよろしくお願いします」

「な…―――!」


 マゴイチは思わず絶句する。

 首都が焼け落ちたイルトナは今や荒れに荒れている。かつて最も栄えた国は今や見る影もない。

 ヨルトミアの管理下に置かれることになれば復興は行われるだろうが…それを“転生者”である自分に任せるというのか。

 軽く投げられるにはあまりにもでかすぎる責任だ…面倒なことになる気しかしない。

 そんなマゴイチの反応も気にせず、ケインは軽く片手を上げるとそのままスタスタと去っていった。

 遠ざかる背中にマゴイチは叫ぶ。


「ちょっ…ちょっと待てぇ!そんなもんウチに任されても困る!旦那はん!おーーーーい!!旦那はーーーん!!」


 返事はなかった。やがてその背中は小さくなって見えなくなっていく。

 マゴイチはしばらく恨めし気にその方向を睨みつけ…かっくりと肩を落とした。


「なんてもん押し付けてくれるんや…旦那はん…」


 雇い主の最後の依頼…ならば自分がイルトナの面倒を見るしかあるまい。

 マゴイチはしばらく呆然と青空を見上げ、やがて諦めたようにヨルトミアの方角へ向かって歩き出した。



【続く】

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