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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
包囲網を打ち破れ!
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第三十話 ユキムラちゃん、甲斐の虎と成るの巻

 ジンパチとウンノから送られてきた情報…

 そして見間違える筈もない、かつて日ノ本中に掲げられた織田木瓜紋…

 間違いない…フォッテに現れた“転生者”は織田信長公…突如現れたオダ帝国とは信長公が興した国だ。

 マゴイチが現れた時点でいつかはこんな日が来るとある程度は予測していた。“転生者”が二人で打ち止めの筈がない。

 呼ばれる魂には当然格上もいるだろうと覚悟はしていたが…―――


(なんとまぁ…大物が現れたものじゃ…)


 直接面識はないがその名は嫌というほど知っている。

 百年続いた日ノ本の乱世を終息に導いた風雲児。志半ばで倒れるも意志を継いだ太閤殿下により乱世は終結する。

 言ってみれば格上も格上…信濃の片田舎で足掻きに足掻いてなんとか生き延びてきた真田とは規模が違う。

 直接の関わりといえばやはりあの長篠の戦いか…武田家配下として戦った真田は伯父上二人を討たれる辛酸を舐めさせられた。

 そして武田が滅んだ後に真田は織田の軍門に下ることとなる…


(勝てんか…父上では…)


 今のわしは言わば父、真田昌幸の模倣をして軍師を務めている。

 父ならばこの局面でどうするか…それを常に想定しながら立ち回り、表裏比興と称された軍略を練り上げている。

 ヨルトミアの将たちもそれについてきてくれて今は極めて上手くいっている。今は、の話だが。

 しかし相手が信長公ともなれば父の模倣では到底敵わないだろう…一段階上の軍略が必要となる。

 父上のひとつ上…信長公すら恐れさせた甲斐の虎、乱世きっての稀代の軍略家…


(武田信玄、かの軍略を使うしかあるまい…)


 当然、信玄公とも面識はない。父より話を聞かされた程度の関係だ。

 しかしあの第六天魔王に勝つには同等、それ以上の軍略を模倣する必要がある。

 わしにできるのだろうか…―――

 そんな弱気を振り払うように暗い部屋の中…筆を執り、一筆書いた。


『疾如風 徐如林 侵掠如火 不動如山』


 風林火山。

 かの信玄公が旗指物にしたとされる兵法の極意である。



 ◇



「なあ~、そろそろ出してくれへんか真田ぁ~、何も悪いことせえへんから」


 牢に行くとマゴイチが憐れみを誘う声で縋り付いてきた。

 断っておくと牢の環境は決して悪いものではない。食事はしっかり出るし寝床は清潔。趣向品の読書まで認められている。

 しかしこやつにとってはやはり退屈なのだろう。持ってきてやった本には手を付けた形跡すらない。


「だから言うとるじゃろ、ヨルトミアに味方するならすぐにでも出してやるわ」

「あー、それはダメや、ウチにも傭兵としての“ぷらいど”ってモンがある…金貰った以上は裏切れへん」

「そのことならもう心配するな、イルトナは滅亡したぞ」

「え…?」


 突然の事実にマゴイチはあんぐりと口を開けて間抜けな声を漏らす。

 わしはマゴイチが囚われた後のイルトナ・フォッテの滅亡、オダ帝国の勃興を知る限り説明してやる。

 しばらく呆然と聞いていたマゴイチだったが、“転生魔王”の名を聞いてその表情は喜色や憎悪の入り混じった複雑なものとなった。

 雑賀孫市…織田信長の名を聞けばやはり黙ってはおられぬか。


「手を貸せマゴイチ、わしは信長公…いや、ノブナガを倒す!お主の力が必要じゃ!」


 そう、オダ帝国に対抗するには“とっておき”を使う必要がある…

 そのためにはどうあってもマゴイチと手を組み、ヨルトミアでも鉄砲を開発しなくてはならないのだ。

 マゴイチはわしの目を見、がりがりと後頭部を掻いた。


「信長がイルトナを占拠したってんならウチの作った鉄砲3000丁は全部ヤツの手の中ってわけやな…」


 確かめるように言って、ぱんと膝を叩く。

 どうやら意は決したようだ。マゴイチは強い光を宿した目でわしを見据える。


「それでヤツに天下取られたら面白おもろない、ウチはヤツの踏み台なんぞには絶対にならへん!」


 交渉成立…牢の扉を開ける。

 牢から出てきたマゴイチはぐっと伸びをし、次いでわしと握手を交わす。


「これまで色々あったがの、よろしく頼むぞマゴイチよ」

「ああ、お互い過去のことは水に流してあの魔王を打倒しようやないか」


 ぎりぎりぎり…

 水に流す…とは言いつつもお互い握手に力が籠りすぎていたのは気のせいではあるまい。



 ◇



 対オダ帝国対策会議…―――

 ヨルトミア城の会議室には緊急収集によりヨルトミア・オリコー・ハーミッテの三国の重鎮が集結していた。

 突然現れた“転生者”によって建国されたオダ帝国…あの存在は到底無視してはおけない。何せ敵対関係はそのまま移行している。

 そこにマゴイチを連れたわしが到着すると会議場は大きくざわめく。

 何せこのマゴイチはイルトナに鉄砲をもたらした“転生者”…立場的に言えば敵の中核だった存在だ。


「あー、皆、安心してほしい、わしが説き伏せた故…」

「それは本人の口から聞かせて貰いたいな、ユキムラちゃん」


 ざわめく会議場の中、ロミィ殿が代表して一歩前に出る。

 先の戦いで御相子に持ち込んだとはいえロミィ殿とマゴイチはお互いに複雑な感情を持っていることだろう。

 身長差頭二つ分ほどの剣呑な視線が交錯する。


「心変わりの理由を教えてほしい」

「……ノブナガはウチにとって前世からの因縁の相手…それだけや、アカンか?」


 沈黙…

 しばらく睨み合っていた二者だったが、先にロミィ殿が軽く笑った。

 僅かなやりとりでマゴイチの言った言葉に嘘偽りがないことを見抜いたようだ。


「十分だ…よろしく頼む、マゴイチちゃん」

「こちらこそ、アンタはもう二度と敵に回したくないもんやな」


 しっかとロミィ殿とマゴイチが握手を交わす。三国の重鎮たちにも納得の空気が流れた。

 わしは思わずホッと胸を撫で下ろす…大いくさを前にして仲間割れが一番危険な状況だったが心配は杞憂に終わったようだ。

 そして皆が着席するといよいよ会議が始まった…


「オダ帝国…どうやらこちらに敵対意思は持っているようだけど動く気配はなし、どうすべきかしら?」


 早速、リーデ様がわしに問いかけてくる。

 イルトナとフォッテに動きがなかったのならば様子見が最善手だっただろう…しかしそういう訳にもいかなくなった。

 ノブナガがこの世界に召喚された以上間違いなく歴史が動く。それだけの人物だ。

 対して待ちの姿勢を保ったままであれば間違いなくノブナガに先手を打たれるだろう。

 あの男を相手に後手に回って優位を取る自信は正直なところない。であれば…


「先手必勝、先に攻め入り主導権を握るしかありますまい」


 これにはもう一つ理由がある。

 ジンパチとウンノからの情報によるとノブナガはフォッテ公に憑依する形でこの世に召喚されたとのこと。

 そしてその肉体支配率は時間経過により完璧なものとなり、ついには“真の転生者”と成るのだという。

 “真の転生者”…それはおそらくわしが“再転生”した状態と同じものだろう…あれから時間制限が無くなるのだ。

 だとすれば、なんとしてもそうなってしまう前に討ち取らなくては…


「つまりまた相手の態勢が整う前に奇襲して倒すってことだね、いつも通りだなあ…」

「いいじゃねーか、わかりやすくて!チマチマ守ってるよりこっちのが性に合ってるぜ!」


 リカチ殿が苦笑し、ヴェマ殿がばしりと拳を打ち合わせる。

 他の将たちも意見は同じようだった。イルトナを焼いた“転生魔王”…あの存在は不気味すぎる。

 放っておけば自分たちの故郷もやがて炎に呑まれることになるだろう…

 満場一致で先制攻撃の意見が通されると、次に実際に戦闘状態に入った時の対策会議へと移る。

 そこで一歩前に出るのはマゴイチ…わしを含めこの会議の中では唯一ノブナガとの交戦経験がある貴重な将だ。


「ヤツの戦法やが…もし前世のまま引き継がれてるんやったら一番気ぃつけなアカンのは“野戦築城”や」


 “野戦築城”…

 かの長篠の戦いで武田軍は三千の鉄砲にさんざんに打ち倒されたとされているがその理由がこれだ。

 織田軍は驚異的な速度で戦場に土塁と防柵で無数の陣地を築き上げ、攻撃・防御その両方の起点とする。

 それにより敵の騎兵と歩兵は機動力を殺され、味方は鉄砲兵で固めた上で陣地内から一方的に敵を攻撃することができる。

 噂に名高い三段撃ち…あれは陣地内からの鉄砲足軽による間隙のない弾幕から生まれたあわせ技に過ぎない。


「つまり敵に陣地を作らせなければよいのだろう?」

「簡単に言うけどな、カッツェナルガの姐さん…イルノームを甘く見とったら痛い目見るで」


 イルノーム…この世界における四大精霊とやらの土の精霊・ノームの名を関する集団だ。

 土木・建築技術に優れた土手人足衆であり古くからイルトナ領を拠点にしていたのだという。

 本来なら戦とは無縁の者たちなのだが、戦闘における陣地構築を重視するノブナガは彼らを採用するとマゴイチは予想した。


「イルノームにとっちゃ迅速な野戦築城なんて朝飯前の準備体操や、妨害狙って攻撃仕掛けたら鉄砲のいい餌食やで」

「むう…厄介な連中のようだな…」


 鉄砲に苦い思い出のあるロミィ殿はマゴイチの言葉に唸る。

 機動力のある騎兵は鉄砲に有利を取れるがそれはあくまで疾走している時だけの話だ。動きを止めてしまえば的になる。

 そこでシア殿が首を傾げた。


「マゴイチ様はかの魔王と前世で戦われたご様子…その時はどう対抗したのです?」

「死を恐れない一向宗徒の物量でゴリ押しやな、アテにはならん」


 聞いたシア殿は思わず鼻白んだ。凄惨な戦場を思わず想像したのだろう。

 熱心なリシテン教徒でも同じことはできるだろうがそれはシア殿もリーデ様も絶対に許可しない筈。

 敵の作戦は分かるが対策が浮かばない…軍議が停滞し始めた。


「何、ようは野戦築城を行わせても陣地そこから誘き出せばいいのでござる」


 そろそろ献策のし時だろう。

 皆の視線がわしに集中するのを感じる。それができれば苦労はしない…そういったところだろうか。

 だがそれを可能にする方法が一つだけある。かの山本勘助が発案、そして信玄公が得意とした戦術のひとつ…


「木を突いて虫を出す…その名も啄木鳥戦法!」



【続く】

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