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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
包囲網を打ち破れ!
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第二十六話 激突!連合vs連合の巻

 ハーミッテ公国…

 賢君、ザイアー=サマナ=ハーミッテの珍しい怒り声が響き渡る。


「イオータ!お前は何をやったかわかっているのか!」


 その声に身をすくませる姫、イオータ=サマナ=ハーミッテ…

 彼女はイルトナに潜入し鉄砲の存在をヨルトミア軍へと密かに伝えた。

 結果、ヨルトミア軍は被害を最小に抑え窮地を脱して態勢を整え終えている。

 そしてそのヨルトミアの矛先は黒色火薬の原料・硫黄の産出国であるこのハーミッテへと向けられたのだ。


「お前の勝手な行動ひとつでこのハーミッテが再び脅かされるのだぞ!君主の娘としてあるまじき行いだ!」


 尤も、ザイアーも娘の気持ちは痛いほどわかる。

 かのダイルマとの戦い…敗れたハーミッテは圧政の対象となり、娘はあのツェーゼンに差し出さざるを得なかった。

 だがそれをヨルトミアが奇跡的に打ち破ることでこの国もイオータもすべてが救われた。

 そこで終われば未来永劫友好国としていられたのだろう…だがヨルトミアは、あの騎士女公の野心は…―――


「お、お父様…ヨルトミア公と対話を…きっと話せばわかってくださいます…」

「イオータ、お前は何も分かってはおらん…あの女はツェーゼンと同じ乱世の奸雄、五つ国の平穏を乱す悪党よ」

「ち…違います!リーデ様は決してそのような人では…お父様!」


 これ以上の問答は無駄。

 食い下がるイオータを振り払い、近衛兵に部屋へと連行させる。

 戦が終わるまでは閉じ込めておくしかあるまい…これより始まるのは血で血を洗う一大決戦だ。


「あーあー、可哀想になあ、娘さん誑かされてもうて」

「―――…“転生者”殿」

「せやからウチは!“転生撃手”マゴイチちゃんや!」


 イルトナからの派兵、うち鉄砲兵五百名…それを率いるのがこの得体の知れぬ少女、マゴイチだ。

 その腕前は僅かな兵で押し寄せるヨルトミア軍を撃退したと各国に噂が広がっている…

 マゴイチはにやりと笑ってザイアーに囁いた。


「ま、安心せえ…あの騎士女公はウチが責任持って仕留めたる、娘さんにはもっといい男紹介したり」

「…お願いします」


 ザイアーはこの“転生者”のことを好いてはいない。

 軽薄な言葉や態度と裏腹に人を殺めることに対する一切の躊躇いや憐憫が存在しない。

 国を守る騎士や兵士ではなく傭兵…営利目的で戦ってきた者の空気が魂の段階で染みついているのだ。

 そのような者に頼らざるを得ないのは不本意以外の何物でもない…しかし―――


「ヨルトミアを討つ…それしか我々の生き残る道はない…」


 例え不義理とのそしりを受けようともダイルマ時代の再来には決してしてはいけない。

 ザイアーはその決意に深く皺の刻まれた表情をいっそう引き締めるのだった。



 ◇



 数日後…俺たちヨルトミア・オリコー軍とハーミッテ・イルトナ・フォッテ連合軍はシスト湿原で激突した。

 兵数差は連合軍がおよそ1.5倍ほど。オリコー軍を加えても我が軍は三国分の兵力にはまだ及ばない。

 ヨルトミア軍の陣は五段に構えた横陣、対して連合軍が取った陣形は魚鱗の陣。鉄砲の火力に任せて正面突破してくる気だ。

 そんな連合軍に対し先手を打ったのは第一の段、リカチ=カーヴェス率いる猟兵部隊、次いでオリコー軍ガイツ将軍率いる弓兵部隊。

 二部隊の武器はいつものショートボウではなく自分たちの身長よりも遥かに長い異形のロングボウ。

 放物線状に重い矢を発射するその弓の射程は鉄砲の有効射程よりも倍近く長い。距離のアドバンテージを得ることができる。


「弾着確認!被害は…まずまずといったところですか」

「まずまずね…仕方ない!どんどん射っていくよ!」


 仰角45度以上つけて射なければいけないこの大弓は射手とは別に観測手を必要とするのが欠点だ。

 雨あられと矢が降り注ぎ連合軍に被害を与えるのを確認すると、二部隊はすぐに第二射の矢を番え始める。

 こうして距離を離しているうちは一方的に攻撃できるアドバンテージを得られるのだが…その時間は長くはない。

 ガイツ将軍の頭のすぐ傍を鉛玉が通過した。


「うおっと!?この距離でもう届くのです!?」

「危ないね!そろそろ潮時だよ、散開する!」


 敵軍との距離が詰まると仰角を必要とするこの弓は次第に使いづらくなっていき、次第に鉄砲に射ち負け始めていく。

 リカチとガイツ将軍はそれを察すると撤退…否、統率を放棄し壊走。猟兵と弓兵たちは湿原の四方へと散り散りに逃げていく。

 ヨルトミア軍何するものぞ…敵軍は勢いづいて突撃の速度を上げる。すぐに第二の段との交戦が始まる。

 第二の段に待ち構えるのはヴェマ=トーゴ率いる軽装歩兵部隊、さらにオリコー軍サマス将軍率いる重装歩兵部隊。


「テメェら!竹束は持ったな!いくぜえっ!!」

「俺は剛力のサマス!いざ参る!」


 オオッ!!

 気合の雄叫びと共にこれまた異形の緑の盾を構えて荒々しい男たちが突撃を開始する。

 タバナ竹は昔持ち込まれて以降異常な速度で繁殖した外来植物だ。異常な速度で成長する割に使いどころがあまりない困った植物である。

 しかしその外殻は硬くさらに幹の中は空洞になっているため軽い。それを束ねて持つだけで立派な盾となる。

 その盾は表面が丸く、衝撃を受け流して鉄砲の威力を殺すのに役立つ…というのがユキムラちゃんの豆知識だ。

 事実、イルトナ鉄砲隊が轟音を響かせるが…―――


「っおぉ…!ふ、防げてるか…?」

「問題ない!被害は最小だ!」

「…へっ、ビビらせやがって!掛かれぇっ、野郎ども!!」


 轟音に思わず首をすくめたヴェマも竹束の防御性能を知れば強気な態度を取り戻す。

 鉄砲隊装填の隙をついて二部隊の兵が猛然と襲い掛かった。一度距離を詰めてしまえば第二射は撃てない。

 庇うようにハーミッテの重装歩兵部隊が前進、激しい混戦が展開される。

 しかし…


「ちいっ!やっぱ数が多いな…散開だっ!」

「むううっ!無念だぜ!」


 個々の戦力では勝るものの平地で数の差をつけられればさすがのヴェマたちも分が悪い。

 二部隊は撤退命令と同時に陣形を崩し、湿原の方々へと散り散りに逃げていく。

 第二の段も崩れた…次いで第三の段として連合軍に立ち塞がるのはシア=カージュス率いる重装聖戦士団。

 敵軍の姿が見えると同時にシア様たちは詠唱完了、光壁の防御幕を展開した。


「《聖盾セントウォール》!」


 発射された鉛玉は光壁をも貫くがその威力は明らかに減衰されている。

 全身を鋼鉄の鎧で覆った重装聖戦士団は鉛玉を受けながらも勇ましく前進して手にしたメイスで敵軍先鋒を叩き伏せる。

 その機動力は低いが後方支援としてシア様が発動する回復魔術により非常にタフで粘り強い。

 何より聖戦士たちは死を恐れない…女神リシテン様の下で戦っているという心境が死の恐怖を忘れさせるのだ。


「今だ、かかれェい!オリコー魂を見せてやるのだ!」


 そして鈍重な聖戦士たちの援護を務めるのがオリコー軍ロックナール将軍率いる遊撃部隊。

 打って変わって必要最低限の軽装歩兵が機動力のある牽制攻撃でかき乱し、敵の注意を引いては聖戦士団の後方に回る。

 ヴェマ隊ほど練度が高いわけではないが聖戦士団との波状攻撃は連合軍をさんざんに苦しめていた。


「はぁ…はぁ…」

「司教殿!あまり無理はなされるな!」

「わかっています…止められないのは残念ですが下がりましょう…」


 だがやはり物量の前にはいずれ限界が来る。

 聖盾セントウォールで何度か銃撃を受けるうちに次第に魔力の枯渇を感じた聖戦士団は後退、戦列を崩した。

 同じくして盾となる聖戦士団を失ったオリコー軍遊撃部隊も散開。湿原へと散っていく。

 破竹の勢いで三つの横陣を貫いた連合軍は士気も高くさらに前進、本陣を狙う。

 本陣に掲げられたヨルトミア公国旗…その下には総大将のリーデ=ヒム=ヨルトミアが居る。


「来ましたね…!迎撃します!」

「我らの背後はリーデ様がおわす本陣!一歩たりとも踏み入れさせるでないぞ!」


 本陣を守る最後の一段、ラキ=ゲナッシュとサルファス=ガオノー率いる護衛部隊が敵軍を迎え撃つ。

 それを確認した俺はいよいよモシケ草の発煙筒に火をつけ狼煙を上げた。

 ユキムラちゃんの策は既に動き出している…―――



【続く】

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