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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
包囲網を打ち破れ!
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第二十四話 囚われのユキムラちゃんの巻

 イルトナ軍に囚われてから一夜明けて…

 わしはイルトナ領前線砦の一つに身柄を移されていた。

 何故そのまま直で本国に移送せずわざわざこのような手間を取るのか…考えられるセンは二つほどある。

 一つはわしを釣り餌にしてヨルトミア軍を誘き出すセン…鉄砲での戦いは如何に相手を自軍側に引き寄せるかが肝要。

 ヨルトミアがこの砦を攻めざるを得ない状況になればマゴイチにとっては思う壺だ。

 そしてもう一つのセンは…―――


「おーい真田、マゴイチちゃんが直々に飯持ってきたったでー」


 コツコツと階段を下りてくる軽い足音。

 しばらくして手に食事を持ったマゴイチがこの地下牢に現れた。


「ありがたい…ついでにこの縄を解いてはくれんか?」

「そら聞けん相談やな、また変身されたら敵わへんし…」


 献立は麦のぱんと豆のすぅぷ、それに干し肉。

 この前線砦なら本来将官級が口にする内容だろう。捕虜に出す食事としてはかなりの豪勢さだ。

 ここでわしは確信する。やはりもう一つのセンか…

 縛られているわしの前、マゴイチは無造作にぱんを千切って口に運んでくる。


「はい、あーん」

「…飯の前に話をせんか?お主、このわしを懐柔する気じゃろう?」


 その言葉を聞いたマゴイチは少し驚いたように目をぱちくりと瞬かせ、次いでにやりと笑みを浮かべる。


「なんや、分かっとんなら話は早い…真田、ヨルトミアを捨ててこっちにつかへんか?」


 案の定…妙に甘い態度からもバレバレだ。

 鉄砲を主戦力とする雑賀にとっては鉄砲の弱点に精通したわしはこの世界における邪魔者だろう。

 しかしそれでもこうやって生かし厚遇するということは目的は一つ…このわしを味方に引き入れることが目的だ。

 マゴイチはずいと顔を近づけ、囁くように言葉を続ける。


「天下…取る気なんやろ?ウチもや…ウチとお前が組んだらこの世界には敵無しになるでぇ…」


 こやつも天下か…

 一介の傭兵集団だった雑賀が天下取りとはあまりにも大きすぎる野望だが境遇でいえばこのわしも似たようなもの。

 さらにこの世界で鉄砲の独占開発に成功したというのならばその野望は一気に現実的なものとなろう。

 しかし…―――


「天下を取ったとてタイクーンには誰がなる?よもやイルトナ公ではあるまい…」

「けけけっ、そりゃ旦那はんは到底そんな器ちゃうからなあ…有能には違いないが天下人になる器やあらへん」


 マゴイチはぐっと親指を立てて自信満々に自分を指し、次いでわしの方を指す。


「異世界人なんぞを上に立てる必要ないやろ、ウチとお前で天下をはんぶんこ…ええ案やと思わへんか?」


 成る程…

 イルトナ本国に移送しなかったもう一つの理由がこれだ。こやつはイルトナ公に対し謀反を企んでいる。

 転生したてのわしならその案に乗ったのだろう…何せヨルトミアも乗っ取る気だったのだから。

 しかし今は…自分自身で天下を取るよりももっと天下人にしたい御方がいる。その御方の天下を見たい欲がある。

 その時わしはその隣に居られさえすればいい…そう思うようになってしまった。

 言葉にはせずともマゴイチにもそれが伝わったのか、マゴイチは面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「なんやつまらん、すっかり牙を抜かれおってからに…そんなにあの騎士女公がええんか?」

「くくっ、リーデ様は大器じゃぞ?まるで信長公や太閤殿下を思い出すわ」

「ケッ!秀吉はともかく前の名前は聞きとうもない!」


 マゴイチは愛想をつかして立ち上がる。どうやら飯を食べさせてはくれんらしい。

 このままでは這いつくばって食うしかなくなるのだがどうしたものか…


「まぁ、時間はある…心変わりするまでこの地下牢でしばらく考えとき、ウチもなるべく殺しとうないからな」


 敵同士とはいえど同郷の情けか、それともまだこのわしに利用価値があるとの見立てか…

 マゴイチが踵を返すと同時に再びコツコツと地下牢の階段を下ってくる足音が聞こえた。イルトナ兵だ。

 そちらに目を向けるとイルトナ兵は敬礼、報告し始める。


「お話し中失礼しますマゴイチ様、鉄砲の整備について相談があると兵長が…」

「ああ、今行く…ほな真田、大人しゅーしときや」


 マゴイチは軽く返事をすると階段へと向かっていった。

 報告に来たイルトナ兵はちらりとこちらを一瞥しそろりそろりと牢の扉に近づいてくる。その手には牢の鍵。

 わしも近寄るまで見抜けなかった完璧な変装術…このイルトナ兵、正体はサスケだ。

 早くもわしの居場所を調べ上げ潜入したようだ。それでこそ先の戦いで逃がした甲斐があった…まったくもって見事である。


「ああ、それと…―――」


 だが、階段に向かっていたマゴイチが不意に立ち止まった。


「―――…君、誰や?」

「くっ!」


 振り向きざまにいつの間にか手にしていた短筒で発砲。サスケは咄嗟に柱の陰へ飛び下がる。

 間一発、柱が甲高い音を立てて火花を散らした…マゴイチは驚くべき速さで次弾装填する。

 サスケはさせじと手裏剣を投擲。マゴイチは横跳びで柱の陰へ回避。暗い地下牢内で遭遇戦が始まった。


「我ながらカンペキな変装だと思ったんスけどねぇ…ッ!」

「臭いがキレイすぎや!ウチの鉄砲兵は近寄ったら硫黄の臭いがするんやで!」

「勉強になりますっ!」


 銃声。風切音。銃声。

 互いに軽口と牽制を交差させながら戦闘は激化していく。

 今はまだ互角だがこのままではまずい…すぐに異常を察知したイルトナ兵が駆けつけてくるだろう。

 だが一瞬後、階段を駆け下りてきた第三者の影はイルトナ兵のものではなかった。

 小さな影は階段を駆け下りると同時に毬のように跳ね、マゴイチを強襲する。


「なんや!?」


 マゴイチは咄嗟に振り返り発砲するがその影は至近距離で軽く跳ねて銃弾を回避。マゴイチの目が驚きに見開かれる。

 このような芸当ができる味方と言えばたった一人しかいない。


「ころす…!」

「うおおおっ!?んなアホなっ!!」


 苦無で斬りかかるサイゾーの一太刀をかろうじて回避したマゴイチは階段方向へ転がって距離を離す。

 まさか鉄砲を見てから躱す化け物がいたとは…さすがに肝を潰したのか遠目からでも動揺しているのがわかる。

 サスケもサイゾーに加勢し二人はじりじりとマゴイチへと距離を縮めていく。


「腕の立つ忍が二人…こらアカンわ!一旦退却や!」


 二対一、さすがに分が悪いと悟ったマゴイチは脱兎の如く階段を駆け上がっていった。

 二人は後追いしない。素早く牢のカギを外し、わしの縄を切って救い出してくれる。


「ユキムラさま…けがはないか…?」

「すまん、二人とも!わしは無事じゃ!しかしここはまずい、追っ手が来る前に逃げねば…」

「大丈夫、モチヅキが時間稼ぎしてくれてます!」


 言うが早いか、頭上でなんらかの爆発音が鳴り響き地下牢の埃がぱらぱらと落ちてくる。

 サナダ忍軍モチヅキ…おそらく火薬庫に侵入して火を放ったか、しばらくこの砦は大混乱に陥るだろう。

 わしは驚く。なんと頼もしい忍たちだろうか、たった一年でここまで育つとは…

 それも全てはこの目の前の冴えない顔の男に才あったからこそ…


「サスケ!転生して最初にお前に会えて本当に良かった!」

「な、何スか急に…さ、急いで脱出しましょう!俺の背に乗って!」

「せんこうする…つゆはらいはまかせろ…」


 サイゾーが前を走り、サスケはわしを背負って地下牢を脱出。てんやわんやの混乱を抜けて夜闇に紛れた。

 砦の北部…火薬庫があったと思しき方角はごうごうと燃えて天を赤く照らしている。今頃砦の兵士は消火活動に必死のはずだ。

 この世界は見ることがなかったであろう異様な光景を前に、サスケがぼそりと呟く。


「火薬…でしたっけ、恐ろしいブツですね…」

「ああ、わしらの世界の乱世をまったく変えてしもうた力じゃ…」


 だがイルトナと戦うならばこの力と正面から戦わねばならない。

 脱出してきたモチヅキと合流しヨルトミアへと帰還する中、わしはマゴイチの顔を思い浮かべる。

 一筋縄ではいかん相手だ…しかし次こそは勝たなくてはなるまい。

 天下人への道はちょうど一人分しかないのだから…



【続く】

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