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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
黎明のヨルトミア
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第十四話 決戦、決着するの巻

「馬鹿な…」


 リーデ姫率いる襲撃部隊とツェーゼン護衛部隊が激しくぶつかり合っていた頃…

 増援を率いてきたイズール=ディフォンは眼前に広がるあまりの光景に言葉を失っていた。


「食らいつけ!!」


 白馬の騎士が剣を振るい駆ければわずか五十騎あまりの騎馬が寸分違わずその後を駆け抜け兵力を“削り取っていく”。

 さながら狼が食らいついて巨獣の脇腹を食い破るかのようにその騎兵隊は突撃と離脱を繰り返し千の軍勢を相手取っている。

 カッツェナルガの騎兵隊…その練度の高さは七つ国でも度々噂になっていたが、眼前の五十騎は先代の実力を遥かに凌駕するだろう。

 こういった局地戦闘の場合、兵の数が多いということは必ずしも良いことばかりではない。

 何故なら全兵に命令が行き届く前にあの恐ろしい騎兵は二手も三手も攻撃を仕掛け都度その態勢を変えていくからだ。


「密集陣形だ!隊列を乱されるな!密集して対処せよ!」


 それが根本的な対応にならないのはイズールは理解している。

 むしろおそらく足止めを目的としているあの騎兵にとってはこの完全に行軍を停止してしまう陣形は思う壺のはず…

 イズールは歯噛みしながら今なお危険にさらされている若君の地点へ兵を送る方法を考える。


「若…どうか御無事で…!」


 ヨルトミアの策を見抜き、敢えて留守居命令を無視して後詰軍団を動かした…

 河川氾濫の策をいち早く見抜き行軍をわざと遅らせて敵の策を先出しさせた…

 ここまではよかった。

 だが、だがしかしまさか僅か五十騎の騎兵にこうも足止めを受けるとは…

 歴戦の将軍はかつてない戦況に焦りを覚え始めていた。


「どうする…無視して合流を最優先すべきか…だがそれでは被害があまりにも…」

「イ、イズール様っ!!」


 俯いて考え込む最中、兵士の悲鳴じみた声が上がった。

 次の瞬間、イズールの禿頭を黒い影が覆い隠す。


「は…?」

「見つけたぞ、イズール=ディフォン将軍…その首、ヨルトミアのため貰い受ける」


 跳躍する騎馬の鞍上…見惚れるほどに美しい騎士がイズールの眼前で刃を閃かせた。

 イズールはその刃の向こう、騎兵に対抗するため取ったにも拘らず見事なまでに突き崩された密集陣形の跡を見る。

 この騎兵は密集する剣林に正面から飛び込んで切り払いながら突き抜け、隊列中腹に構える自分の下へと最短距離で到達したのだ。

 そこでイズールは瞬時に理解する…この騎士は密集陣形に変えさせることが目的などではなかった、最初からそんな消極的な思考はしていなかった。

 突撃と離脱を繰り返していたのは“探るため”…この軍の頭であるこの自分の居場所を…


「御覚悟!」


 その答えに至った時には既にイズールの頭は宙を舞っていた。

 瞬く間に指揮官を討たれた後詰軍は頭を潰された蛇の如くのたくり一瞬にして隊列を瓦解させる。

 これでしばらくは統制を失い足止めは成るだろう…

 大混乱の軍中を騎兵隊を率いて突き抜けたロミリア=カッツェナルガは軽く息を吐いて西方を見やった。


「足止めは…必要なかったかな」


 歓声が上がっている…ダイルマ兵が我先にと逃げ出しているのが視界に入った。

 勝利を悟ったロミリアはへにゃりと、久方ぶりに柔らかい笑みを浮かべた。


「お見事だ姫様、そしてユキムラちゃん…」



 ◇



「ぬおおおおおおおっ!!」

「だらああああああっ!!」


 ヴェマとダンゲの激しい打ち合いは未だに繰り広げられていた。

 既に常人ならば肉体が悲鳴を上げる継戦限界時間を遥かに超えて、互いにボロボロになった武器で打ち合っている。

 打ち合いの最中…ダンゲは戦場の空気の変化から既に自軍の劣勢を悟っていた。

 兵の数は多けれど退路は突如出現した濁流に絶たれ、前方は未だに防衛能力を保っている砦が健在。

 川の向こうでツェーゼン様が討たれたと流れてくる風の噂に兵士たちの士気は下がりきり攻め手も鈍り切っている。

 ここが潮時か…打ち合いの最中、そんな僅かな弱気がダンゲに一瞬の隙を生んだ。


「そこだっ!!」

「ぐおっ!?」


 槍の穂先で敵の武器を跳ね上げながら、さらに振り下ろす斧の刃で斬る…

 ヴェマの神速の二段攻撃を受けたダンゲは右肩から胸までばっさりと斬り裂かれる深手を負ってずしりと膝をついた。

 息を荒げながらヴェマが眼前に立つ。


「ハァッ…ハァッ…オレの勝ちだ…おっさん…!」


 ダンゲは歯を食いしばって立ち上がろうとするが、斜めに裂かれた傷口から血が噴き出す。

 致命傷か…ゴボリと吐いた血塊にダンゲは己の死期を察した。

 そして笑う。ヴェマへと向けて、豪快に。


「あの泣き虫が強くなったものよ…まさかこの俺を倒すとはな…」

「アンタが教えてくれた技だろ、今のはよ…」


 そう呟くヴェマの声は感情を押し殺すかのように低い。

 嗚呼、このガキは昔から何ら変わっていない…どんなに悪ぶって見せても中身は未だ甘ちゃんのままだ。

 ならばそうだ…国は違えど一度は弟子としたこのガキにしてやれることは唯一つ…


「ヴェマ=トーゴ、見事なり!さあ俺の首を獲って手柄とせい!」


 叫んだ。

 ヴェマは一瞬、一瞬だけ泣きそうな子供のような表情を浮かべて…声を押し殺しながら斧槍を振るった。

 ごとりとダンゲの首が落ち、巨体が崩れ落ちる。

 そして…―――


「敵将ダンゲ=ディフォン!ヴェマ=トーゴが討ち取ったあ!!」


 砦前の戦場にヴェマの声が響き渡る。

 宣言と共に残るダイルマ兵は諦めの境地に達し…バラバラと武器を捨て始めた。

 ツェーゼンが討たれ、前線総指揮官であるダンゲも討たれた。もはや戦う理由はない。

 戦気が次第に収まっていく空気に、自らも槍を持って戦い傷だらけになったサルファスが呆然と呟いた。


「終わっ…たのか…?」

「ええ…、…そのよう…ですね…」


 肩で息をするシアが小さく頷く。その顔色は青白い。

 攻撃に治癒にと魔力を使いすぎたのだ。おそらく少なからず寿命も削られただろう。

 同じく神官兵士たちも揃って疲弊しきっており地面に伏せて動かない者も数人いる。

 だが、今まで修行してきた魔術が現代戦において通じた…その実感だけはあるようだ。皆どことなく充足感を感じているようだった。


「勝った…アタシたち勝ったんだ…」


 泥まみれになったリカチが反芻するように言った。

 その言葉を皮切りにヨルトミア軍に歓喜が伝播していく…自分たちは守り切ったのだ。

 地響きのような歓声が響く中、サルファスは思い出す。

 そうだ、勝ったならばユキムラに教えてもらったアレをやらなくては…


「皆、行くぞぉっ!!―――…エイッ!!エイッ!!」

「オーーーーッ!!」


 その鬨の声は幾度となく繰り返される。

 喧騒は、やがて帰還した本陣襲撃部隊…リーデ姫たちを熱く出迎えるのだった。


 〇 ヨルトミア軍 2000 対 ダイルマ軍 21000 ●


 これが後の世に伝えられていく歴史的大勝利、第二次ラノヒ砦・カヤマ平原の戦いである。

『サナダマル弐式』という呼び名がほとんど定着せず後世に伝わらなかったのはまた別の話…

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