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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
黎明のヨルトミア
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幕間その3 決戦前夜、それぞれの想いの巻

~シア=カージュスの場合~


「おや…眠れないのですか?」


「無理もありませんね、明日はついに決戦なのですから…」


「落ち着くまで少しお話しましょうか…ええ、気にする必要はありません…これも人を教え導く者の務めですから」


「“転生者”としてのユキムラ様の評価を聞きたい…?」


「そうですね…正直なところ想像していた“転生者”とは全然違っていました」


「絶大な力も持たず、異界の叡智らしい叡智もない、私たちの住む世界の人間にごく近い方だと…最初は落胆いたしました」


「ですが…今思えばそれで良かったのです、たった一人がすべてを解決したところで私たちは何も変われはしないのですから…」


「そう、ユキムラ様だったからこそ姫様も…」


「…明日は勝ちましょうね…私は最後までユキムラ様を信じ、戦うことにいたします」


「え…?信じるのは女神の加護ではないのか、と…?」


「ふふふ…ご存じありませんか?」


「女神リシテン様は最後の最後まで己の力を尽くす者にこそ祝福を与えるのですよ」





~ヴェマ=トーゴの場合~


「ああ?酒飲んでるって?細かいこと気にしてんじゃねえよ、こんなもん呑んでるうちに入らねえって」


「明日はいよいよ決戦だな…」


「んだよその目は…まさかオレがダイルマ相手に手を抜くとか考えてるんじゃねえだろうな」


「ケッ!馬鹿馬鹿しい!あのいけすかねえツェーゼンをぶちのめせるんだ、手を抜く必要がどこにある!」


「ま…先の領主様にはさんざん世話になったがな…そこだけはちょっと、悪いと思ってるよ」


「貧民出であるオレでも正当に評価して騎士に取り立ててくださったんだ…返しきれてねえ恩がいくつもある」


「本当に…素晴らしい領主様だったんだ…」


「だがよ、あの人はこんなダイルマを望んじゃいなかったはずだぜ!いつだって第一に領民の平穏を考えてた人だったんだ!」


「だからよ…ツェーゼンを止める…それが今のオレにできる唯一の恩返し…な気がするんだ…」


「…はん!言い訳がましいと思ってんなら素直に言え!オレだってそう思ってる!」


「とにかくオレは手を抜く気は一切ねえ、安心しな」


「例え敵に誰が出てこようがな…」





~リカチの場合~


「ああ、うん、もう出発するよ、アタシたちが偵察しないと敵が今どこにいるかわからないからね」


「速度的には多分ノーサ山のあたりかな…さすがに夜間行軍はしてこないと思う」


「怖くはないのかって?うーん、そりゃまぁ、少しは怖いけど…」


「でもさ、生きていれば人も獣も遅かれ早かれいずれは死ぬんだ、あんたもアタシも」


「大事なのは死んでそこに何を残すか…っていうのが山に生きる者の永遠の課題なんだよね」


「獣が死んで皮と肉を遺すように、今アタシたちがやってることも後に何かを遺せるんじゃないかってアタシは思ってるんだ」


「あ!もちろん死ぬつもりはないよ?ただの心構えの話ってこと!」


「少なくとも今は生きてる!って感じがするからさ…多分きっと間違ってはないんだと思う」


「だから怖くない…―――やっぱりちょっと難しいかな?この話…」


「…じゃあ行ってくるよ、帰った時にはツェーゼンの詳しい地点を教える」


「また明日ね!」





~ロミリア=カッツェナルガの場合~


「ああ、楽しみだな…敵の兵力はおよそ二万、こちらの約十倍だそうだ」


「この大軍勢を打ち破りツェーゼンを討つ…これほど心躍る戦いがあろうか」


「ふふふ…不謹慎だな、今の発言は内緒だぞ」


「死が怖くないのか、と…?」


「そうだな…今の私は一度死んだようなものだから…」


「父と兄が討たれながらも私を逃がした先の戦…本当は私もあそこで父や兄と共に討たれたかったんだ」


「戦場で死ねず、降伏した先で剣も取らずに無為徒食な生を送る…それが私の一番怖いことだった」


「だから死んでいたんだよ…ユキムラちゃんに出会うまではね」


「あの日の会議…人形であった姫様にユキムラちゃんが命を吹き込んだあの日、あの瞬間私にももう一度命が宿ったんだ」


「嬉しかったよ、またこうして騎馬を駆り戦場に立てる日が来ようとは…」


「だから怖くない、怖いのはまた討死できなかった時のことだけさ」


「えっ…引く…?正気じゃない…?」


「失礼な、私にも多少は女らしいところはある」


「この戦が終われば君にも私のお手製ケーキを御馳走しよう、きっと驚くはずだぞ」


「…おっと困ったな、約束した以上必ず勝って生きて帰らなくてはならないじゃないか」





~ガオーノ兄弟の場合~


「ふん!決戦を前に余裕なことだ!一体何をしに来た!」


「サルファス、お前はもっと落ち着きなさいよ…まったく申し訳ないですねぇ、こんな夜中に大声を出して」


「兄上!兄上とて書類がまったく進んでおらんではないか!」


「う、うるさいですね!こんな時に仕事が手につくわけがないでしょう!まったく!」


「我が兄ながら情けない……で、貴様は何だ!まさか怖気づいたとでも言わんだろうな!」


「困りますよ敵前逃亡は、うちはただでさえカツカツなんですからねぇ…」


「…ふん、まぁそんなことはないだろうがな!」


「ええ、信じる…なんて無責任なことは到底言えませんがねぇ、もう皆さん一人一人に託すしかなくなってるんですよ」


「明日は全身全霊!全力全開で戦って、勝つぞ!俺に言えるのはそれだけだ!」


「…本当は一番大変なのは事後処理なんですがねぇ…ま、その時は私が地獄を見るだけですよ」





~リーデ=ヒム=ヨルトミアとラキ=ゲナッシュの場合~


「高揚するわね、父も決戦前はこんな気分だったのかしら」


「多分違うと思います…あの時は先領主様も父も皆思い悩んでましたから…」


「あらそう…少しは父の気持ちも分かるかと思ったのだけど」


「ともかく、明日は姫様もご出陣なされるということ…土壇場ですが私はやはり承服しかねます」


「ラキ…あなたは…」


「ですが、姫様がもはや私の言うことを聞いてくれないということも存じております…かくなる上は地獄の底までお供いたします」


「ふふふ…ありがとう、でも魂のない人形って果たして地獄に行けるのかしら?」


「ひ、姫様…」


「私はまだ人形…座っているだけのお飾りではなくなったけれど、ユキムラの糸に吊られて躍るおかしなおかしなマリオネット」


「今の姫様は決してそのようなことは…!」


「いいえラキ、私はこの戦いでようやく魂を得るの…」


「………」


「だから力を貸して頂戴、私の一番の騎士よ…私が真にあなたの主となるために…」


「…わかりました!例えこの身がどうなろうと姫様の願いを叶えてみせます!」





~ユキムラちゃんの場合~


「…ついに決戦じゃな…」


「やれることは全てやった、後は全てが策通りに進めばそれでよし…進まなければ…―――」


「やれやれ…何度経験しても戦の直前と言うのはつい悪い考えが過ってしまうものよ…」


「ああ…?なんじゃと?わしらしくない?」


「くくくっ…わしとて人の子よ、大いくさを目前にして不安に駆られることもある」


「であれば…ほれほれ、今は小娘の身…抱いて安心させるのが男の務めであろう?」


「なんてのう!ははははっ!」


「―――…サスケ、わしは今度こそ勝つぞ」


「そのためにこの世界にやってきたんじゃからな…」


【続く】

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