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転生軍師!ユキムラちゃん  作者: ピコザル
不滅の六文銭
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第百五話 南部連合、徳川を倒す者の巻

 ガハラカーン平原・南方…

 硝煙の上がり続ける低地をカンベエは険しい顔で睨みつける。

 釣り野伏によって死地に誘い込まれ、イエヒサ隊もろとも殲滅射撃を受けた徳川軍は沈黙。

 一兵たりとも生かして帰す気のない情け容赦なき飽和攻撃は兵士だけでなく神兵をも行動不能に追い込んだ。

 かすかに頭部の魔力光を明滅させる機体もあるが、その多くは四肢が破損し立ち上がることすら不可能だ。


「カンベエ殿…おっしゃられた通り全弾撃ち切りました、もう弾切れです」

「…うむ…」


 第三軍でタイクーンの影武者を務めているトウカが報告を上げる。

 イエヒサが作った勝機を逃さず、一気に決着すべく全ての火力を叩きこんだ。

 相手取っていた十六神将も徳川兵や神兵同様に全員沈黙したまま…

 いくら神権ちーとがあろうと耐久力は人間と同じ、先の鉄火の嵐の中では生きてはいないだろう。


「…南方ここの戦いは制した…本陣の援軍に向かうとしよう…」

「りょうか…―――カンベエ殿ッ!!」


 咄嗟にトウカが飛び出し、硝煙を突き抜けて襲い掛かってきた人影の一撃を防ぐ。

 カンベエが珍しく驚愕に表情を崩して目を見開いた。馬鹿な…生きている筈がない…!


「…酒井…忠次…ッ!?」


 徳川十六神将にして徳川四天王が一人、酒井忠次。

 その姿は煤と埃、他者の血によって薄汚れてはいるが本人は無傷。

 そう、無傷だ…あの飽和攻撃の中において一切の攻撃を受けていないのである。

 忠次は獰猛に歯を剥き出して忌々しげに吐き捨てる。


「やってくれたな黒田…貴様らの計略によって大久保や内藤は黄泉に還った…―――…だが!」

「はあああっ!!」


 槍を受けたトウカが反撃を繰り出すと同時、側面からマクシフが、背後からヴォーリが同時攻撃を仕掛ける。

 武勇に優れた三者の多方面同時攻撃…これにはいくら十六神将と言えど対応できまい!


「無駄だ」


 しかし忠次は微細な攻撃タイミングのズレを看破。

 全員の太刀筋を読んで活路を見切るとするりと滑り込むようにして回避する。


「なっ…!?」

「馬鹿な…!!」


 そして呆気に取られる三者の隙に一撃ずつ的確な反撃。

 トウカ、マクシフ、ヴォーリは攻撃を受けてそれぞれ弾き飛ばされ地に転がった。


「がふッ…!」

「…この動き…神権か…!」


 カンベエは咄嗟に察する。

 酒井忠次は優れた武将ではあったもののこうした剣の達人のような武勇を誇る将ではなかった筈。

 だとすればこの世界にて特殊能力を後付けされたに違いない。先の飽和攻撃を凌ぎ切ったのはその力故だ。

 忠次は面白くもなさそうにその言葉に答えた。


「その通り…我が神権、“背目”は全方位ありとあらゆる攻撃を見通す…」


 かつてあの織田信長にも“背に目を持つ如し”と言わしめた忠次の視界の広さ。

 それは神権により強化され、実際に視覚としてありとあらゆる戦況を把握できる能力と化した。

 “背目”を発揮すれば戦場全域を見渡す俯瞰視覚から先のような瞬時の攻撃軌道予測まで自由自在。

 例えそれが四方八方から弾丸飛び交う死地であったとしても活路を見出し生き残ることが可能。

 全てを理解したカンベエは後ずさる。自身の武勇ではどうあっても太刀打ち不能だ。


「…くっ…!」

「貴様にもここで死んでもらうぞ、黒田…徳川の世における不穏分子は全てここで始末する」


 忠次はすらりと手にした愛槍…甕通槍を構える。

 万事休すか、しかし諦めるわけにはいかない…カンベエは高速で思考を巡らせ活路を探る。

 その時だ。


「やああああっ!!」


 いつの間にか“再転生”を行ったテルモトが、カンベエの後方より一気に駆けて忠次に打ちかかった。

 無謀だ!特に優れたる武勇もなく、計略や権謀術数を得意とするテルモトが酒井忠次に敵う筈もない!

 忠次は軽く鼻を鳴らすと決死の一撃を軽く捌いた。テルモトは勢いあまって無様に転倒する。


「やぶれかぶれか?毛利らしくもない…」

「う、うるさい!イエヒサ殿が命を賭けて貴方を倒そうとしたんだ!私だって…!」

「それが毛利らしくないと言っておるのだ…」


 再び立ち上がったテルモトは破れかぶれに打ちかかっていく。

 忠次はまるで子供をあやすように一太刀一太刀を捌く。神権を使うまでもない…戦闘経験の差が圧倒的すぎる。

 それも当然か…目の前の存在は毛利と言えど当然元就ではなく、吉川や小早川といった曲者たちでもない。

 乱世に適応できず、元就が築いた毛利の所領をほとんど没収された出来損ないだ。


「や…やああっ!!」

「見苦しい…あくまで身の程を知らぬと言うのならここで終わりにしてやる!」


 斬り上げの一太刀を軽く後ろに跳んで躱した忠次の目が殺意に光り、甕通槍が唸りを上げた。

 攻撃の隙で遅れた防御もろとも槍の一撃はテルモトの胸を深々と貫き、穂先が鮮血と共に背より飛び出す。


「ぐ…あああっ!!」

「テ、テルモト様…!!」


 珍しくカンベエの悲鳴じみた声が上がる。

 胸は貫いたが魂器を砕くには少し位置がズレたか…だがもはやこの傷では戦闘続行できまい。

 忠次が冷徹に思考する中、テルモトは血を吐きながら壮絶に笑う。


「はは…ははは…やっと攻撃してくれましたね…!」


 破れかぶれだった先ほどとは打って変わった冷静さ…忠次は訝しむ。


「気でも狂ったのか…?」

「ええ…そうかも知れません…!どうやら、感化されちゃったみたいです…―――イエヒサ殿!!」


 猿叫。

 死地から、黒い塊がもうひとつ飛び出した。

 その場の全員が一瞬唖然とする中、敵味方の血や臓物を浴びて化物の様相と化した人影は疾駆。

 一息に忠次の間合いへと突入する。その者の正体は…―――


「ば、馬鹿なッ!!島津ッ!!」


 イエヒサだ。

 カンベエの容赦なき飽和攻撃の中でも己を庇った味方、そして倒した敵の死体の中に埋もれ、凌ぎ切ったのだ。

 ただし当然無傷というわけではない…全身は満身創痍、魂器もひび割れ今や気合だけで存在消滅を防いでいるようなもの。

 だが大刀を担いで疾駆する力強さは一切揺るぎない。敵を倒すか自分が死ぬまでは決して止まらない、それが薩摩隼人だ!


「くっ…!だが“背目”の前には…!」


 テルモトに突き刺さった甕通槍を引き抜こうとした忠次だが、その槍は岩に突き刺さったかの如く微動だにしない。

 なんと己を深々と貫通したままの槍の柄を、そして忠次の腕をテルモトがしっかり握り締めているのだ。

 忠次はそこで察する。何度も無様を晒して攻撃を誘ったのはこれが狙いだったということか…!

 いくら攻撃を予測できようと対応できなければ意味がない。この状況、イエヒサの攻撃を前に打つ手が…ない!


「チェストォォォォーーーーーッ!!」


 タイ捨流渾身の一撃が振り下ろされる。

 時間感覚が鈍化し、泥のように動く時の中で忠次は獰猛に吼えるイエヒサを、不敵に笑うテルモトを見た。

 島津と毛利…やはりこの二者は危険!

 直接的な意味ではない、この二家の血を継ぐ者からいつか必ず徳川を倒す者が現れる!


(殿…!真田などにかかずらわっている暇はござらん!真に徳川を脅かすのはこの二家の…―――)


 前世…遠い未来…

 “背目”によって無血開城する江戸城を垣間見た忠次は今ここにいない家康へ向けて心の中で叫ぶ。

 だが次の瞬間、大刀の刃が頭頂部に到達…

 そこで徳川四天王・酒井忠次の意識はぶつりと途切れた。



【続く】

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