表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

結編


 ゲームなので、魔法というやつが存在する。

 高ランクプレーヤーとの対戦では、これにしばしば悩まされた。

 しかしそれも、ほんのわずかな期間でしかない。魔法を使う連中は、呪文を詠唱するための時間が必要なのだ。その間だけは隙だらけになる。

 そこはおいしい狙い目だった。

「右翼、来るぞ!」

「弓兵! 弓兵はいないかっ!」

 敵軍のあわてふためく声が聞こえる。

 もちろん、俺の突撃におののいている声だった。

「弓兵到着!」

「ネームドが来るぞ! 射よ! 射よ!」

 本来ならば気構えをつくり身構えを立てて、しっかり狙わなければ弓矢など当たらない。

 しかしそこはゲーム故の実力補正。

 矢は俺を目掛けて飛んでくる。もちろん軽く払った。二の矢も落とす。

「クソっ、こちらもネームド! ネームドを集めろっ!」

 ネームドとは、称号持ちのことのようだ。

 和風ファンタジーのゲームなので、公式ではそのような呼称は無いのだが、プレーヤー同士で広まった言葉らしい。

 猛者の誉れ高いプレーヤーが二人、三人。

 しかしゲームに補正された剣など、俺の敵ではなかった。


 斬って、斬って、斬りまくる。

 広い戦場、森林の中。市街戦を問わず、戦って戦って戦い抜いた。

 そして現実世界にもどると、愛刀を撫でる。

 もしかしたら、左手を失ったこの体でも、まだ剣が振れるかもしれない。

 左手を失ったならば失ったなりに。

 いやそれ以上に、左手を失った程度で負けを認めるのは、愚かな考えであると悟る。

 そうだ。

 たとえ左手を失おうとも、まだ右手がある。

 俺はまだ、闘えるじゃないか。


 ゲームの中でも、極力左手を使わないことにした。

 俺の称号は、人斬りから隻腕の剣士へと変わる。

 そんなある日、街中で師匠に出くわした。

「傷の具合はどうかね?」

「はい、もう傷みません」

「最近はどうしている?」

「しばらくは落ち込んでましたが、先生からいただいたゲームで気を晴らし、学校にも復帰してます」

「………ふむ」

 師匠は五〇歳を越えている。

 が、意外なことを訊いてきた。

「なんというゲームをしているのかね?」

 まほろば神謡というゲームだと答えた。

「最近、ヤクザ者にからまれたりとかは無いかね?」

「? とくには………むしろおかしな連中は、俺を避けているようですが」

「女の子たちはどうだい?」

 それも妙な質問だった。

「最初から縁がありませんから」

 そう答えた。


 上位者との対戦は、協同しての戦いが求められた。

 当然フレンド申請を受けることが増え、ギルドというチームにも入ることになる。

 そんなある日、初心者からフレンドの申請を受けることになった。

 現実でも剣士らしい。

 しかし現実で立ち会いなどできないので、このゲームに入ったということだ。

 わりと身につまされる話だった。フレンドを受けると、案の定一対一での練習試合を申し込まれる。

「あのね、俺の剣はいわゆる剣道とは違うから。練習試合をしても、あまりいいことは無いですよ?」

 丁寧にお断りしたが、「でしたらなおのこと、是非!」と熱心なことこの上ない。

 仕方ない。

 部屋を借りてタイマンの練習試合だ。

「恐い目をしてますね?」

 向こうからの言葉だ。

「剣士だからね」

「剣士だから、という目じゃありませんよ?」

 俺の目を覗き込んで言う。

「その目は剣士の目じゃありません、人斬りの目です」

 言うね、キミ。

「じゃあ、人斬りの太刀を味わってみるかい?」

「是非とも」

 向かい合う。最初は左手も使って………。

 ヴゥゥン!

 右手にバイブレーションが走った。

 これは………。

「小手をいただきました」

「なに?」

 撃たれたのか? いつの間に?

「もう一手、お願いします」

「お、おう!」

 何があった!

 バイブレーション一回ということは、弱攻撃をもらったってことだけど。

 それにしても、何があったんだ?

 相手が動く。

 上段に来る、と思ったら胴にバイブ。小手と思ったら姿を消して、背後からの袈裟。

 もう、何がなにやらわからない。

「殺気が凄いですね。………でも、そのせいで何をしたいのか? どこを狙っているのかが、丸わかりですよ?」

 クッ………こんな初心者に!

 こちらから出る。

 無拍子の強撃だ

 しかしかわされる。

 ならば連撃。

 すでに目の前にはいない。

 どこだ!

 フワリ………。

 足が地面から離れた。

 しまったと思った時には地べたに叩きつけられ、組み伏されてしまった。

 ………この技は。

「隻腕の剣士さん」

 頭上で、初心者の声がする。

「その剣は、よくないなぁ。そんな剣で、しあわせになれますか?」

 一度、師匠が語ったことがある。

 剣士にとって本物は、剣を置いてからわかると………。


 道場にゆく。

 命を捧げた、わが差し料をたずさえてだ。

 忘れていたことがある。

 それを思い出させてくれた人がいる。

 その人に、俺の剣を預けるのだ。

 剣を失うことに、もう迷いは無い。

 剣を手離すことで、掴めるものがあるからだ。


 俺は今日、剣を置く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ