中編
チュートリアルさんに見送られるようにして、いざプレイ開始だ!
「天狗が飛べるのは、バトルの最中だと一回だけ! 五秒間だけですから、使い方に気をつけてくださいね!」
「あぁ、わかったよ!」
まずは少人数、六対六のド突き合い。
倒されたらインターバルをあけて、また復活。制限時間の中で、どれだけ倒せるかを競うルール。非常に簡単だ。
「ということで戦場へイン!」
ゲーマーではない、剣士として戦場に降り立った。
パッと見て六人の剣士槍士が並んでいる。
いずれも額に鉄を呑んだ鉢巻きで、撃剣の胴と袴の裾を脚絆で巻いた姿。もちろん和装である。
俺もすばやくタスキをかけて、戦闘準備完了。
空間に浮かんだ数字が、3から2。そして1から0へ!
ドンという太鼓の音、そして何者かの「戦闘開始!」という宣言。
六人の戦士に向かって、天狗と河童の魔軍が駆け出した。
まずは天狗が二人抜け出した。天狗の得物は剣、河童の得物は槍なので、天狗は後からの攻めが良いのではないかと思うのだが。
あ、やっぱりサムライの槍士に一人殺られた。
天狗が一人殺られた穴は、すぐに俺が埋めた。
サッと剣を振る。
サッと言ったが、槍を払うのと小手を斬る動作が一拍子
怯んだようだ。さらに首をねらう。サムライの首に電撃のような演出が走る。
サムライは姿を消した。撤退したようだ。
槍士の背後から、剣士たちが現れた。
二人とも八相。一度頭上に構えてから、降り下ろして来るが。
当然かわして下から斬り上げる胴。それを二人とも。
俺だけで三人。
左手は剣から伝わる斬撃の感触に悦んでいた。
河童たちの奮戦で、さらにサムライを一人仕留めていた。もう一人の天狗は、すでに撤退。
魔軍とサムライの戦力は、四対二。そのうち一人を俺が一人倒し、逃亡しようとする最後の一人を、河童たちが捕らえた。
あとは残酷な各個撃破である。
俺が斬る。河童たちが攻める。復帰した天狗たちも二人がかりで、サムライを斬り刻んだ。
結果。
大差をつけて、魔軍の勝利。わが軍は最初に撤退した天狗二人と、河童が一人殺られただけ。
サムライ軍団に関しては………。
撤退を何周したのだろうか? というくらいに撤退を繰り返した。
しかし、ラウンドの勝利など俺にとってはどうでも良い。
剣を活かすことができた。
子供の頃から習い覚えた技を、存分に振るうことができたのだ。
それも、失った左手がよみがえった状態でだ。
涙がこぼれそうになった。
もう駄目だ、俺には何ものこされていない。そう思っていた俺に、新しい光が差したのだ。
仮想現実かもしれない。
擬似体験に過ぎないかもしれない。
しかし剣をとる左手はここにあり、人を斬り倒していた。
よみがえった俺とともに。
生きる望みが湧く。
かつてこれほど、左手健在の頃もふくめて、生き生きとすることができただろうか?
いや、無い。
剣は現代において不要無用のもの。
しかしこの世界ならば。
仮想現実の世界であるならば。
俺の技術もまた生き生きと閃いている。
あっという間にレベルが上がる。
クラスが変わった。
難敵と誉れ高い称号を持つ者も、すべて俺の前に倒れてゆく。
慢心してはならないが。一週間ほどで強豪たちに挑むことができるようになっていた。