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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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犯人の供述

私たちの性別はめでたく元に戻った。


サードはファジズの心臓である蝙蝠を紐でグルグルに縛り付けて、


「もし逃げようとしたら殺す、変な動きをしても殺す、俺の言うことに逆らったら殺す」


と散々脅しつけて、女の魔族…ファジズという名前だった女の魔族もはや抗うことはせずに深くうなだれながらサードの言葉に頷いて、ただただ従った。


その元に戻す方法は再びファジズに口にキスされるというもので…正直、恥ずかしかったけど、キスされた次の日には元の性別になって、もう一歩で完全に男化・女化しそうだった私たちの見た目も二週間の時間をかけて元の姿に戻った。


そしてファジズが性別を変えた人々に会いに行って元に戻すためにキスをして回ったのだけれど、その人数の多いこと。

一日で回り切ることが出来ずに五日以上かかってしまった。


でもよくこんな人数を覚えていたものだわと思ってそのことをファジズに伝えると、ファジズは、


「とりあえず見た目がタイプの子を選んで、そのうち誰かつまもうと思ってたから家は完全に覚えてたもの」


…そう言われてみれば会いに行く皆が美男美女揃いだったことにその時気づいた。


ちなみに花屋のネイリスは女の姿のままでいいと拒んだからそのまま。

新婚だったタリアン夫婦の旦那、ヌノウが喜んだのは言うまでもなくて、様子をたまに見に行くと完全に男にしか見えなかった奥さんのノーアは日を追うごとに愛らしい姿の女性になって、最終的に、


「あら、この壁の穴ってなぁに?…え?私が斧を叩きつけた?ないわよぉ~、斧なんて持ったことありませんもの~」


と男になっていた記憶が全て消えていて、朗らかに笑ってヌノウの腕に寄り添っていた。


そうやって全ての人を元に戻し終えて、今さっきファジズをどうするかで私の部屋で話し合っていると、ファジズは、


「お願い、殺さないで。私はダンジョンを持ってる魔族じゃないから倒されたらそのまま死んじゃうの」


と必死に泣きながら訴えてきて、これ以上追い詰めるのは可哀想と私・アレン・ガウリスがサードをひたすら説得し、ファジズの心臓である蝙蝠はサードから渋々とファジズに返還された。


「ファジズはこれからどうするの?このままホテルの支配人として暮らしていくの?」


私はファジズに質問する。


そう。ファジズがサードに心臓を取り上げられ脅されながらも、昼近くになると、


「支配人の仕事があるの、コック見習いの仕事も途中で抜け出してきたのよ、お願いだからいかせて。心臓はあなたにあるのだから、悪いことはしないから…」


と必死に頼み込んでいて、結局カールとピーチの体に分かれて仕事をしに行っていた。魔族なのに真面目に仕事に行くんだ…と驚いた。


その時のことを思い出して私が聞くと、ファジズは悲し気にスン、と鼻をすすりながらうつむいて、泣きそうな震えた声で口を開く。


「だって人間界で暮らすにはお金が必要なんだもの。どうして人間がお金を欲しがる生き物なのか人間界で暮らしてみてとてもよく分かったわ。何でもお金、とにかくお金、お金が無いと食べ物も買えないし屋根の下で暮らせない。だったら働くしかないじゃないの。

私には際限なく人間界のお金を作り出す力なんてないし、頼れる魔族も居ないまま一人で生きないといけなかったんだもの」


だから一人で二人分の仕事をして、そのうちにカールという男の姿に化けていた方は支配人という地位まで登り詰めたというわけなのね。


「…私は神話の時代から続く格式ある魔族の家の出なんだけど、代々引き継がれている能力は人の性別を自由に変えられるってもので、魔界にいたら何の役に立たない力なの。魔界に人間なんて居ないし」


ファジズはポソポソと話し続けている。


「それ以外の力といったら、体を別の姿に変化させることと、体のパーツを蝙蝠にして自由に飛び回れること、それだけ。魔界だとその程度の力じゃ生き残れない。けど私の家は格式のある家だからそれでも他の魔族から一目置かれていたのよ。

でも今の魔王は私が人間界にいるって知ってるくせに何も言ってこない…。私の家なんて、もう古いだけの価値が無いものなんだわ…」


ファジズは顔を押さえて、ウウウ、と泣きだしてしまった。


「そりゃあ家格だけが高くて他の奴らから一目置かれてるわりに力の無い奴が傍にいたら最高権力者から見れば目障りだろうよ」


男の姿に戻ったサードが長テーブルの上にある菓子をつまみながら気もなさそうに言う。


アレンも、


「この菓子美味いんだよなぁ」


と言いながら口にしたけど、


「ウエッ甘っ!」


と言いながら紅茶で流し込んだ。


どうやらアレンは女の子の時には美味しいと感じた甘味が、男の姿に戻ったら甘すぎる食べ物になっちゃったみたい。残念だわ、そのうちお菓子屋さんに一緒に行こうと思ってたのに…。


「しかし、魔王が復活しているとは思いませんでした。魔が魔を倒したから魔王となる核が消えたから魔王は現れないと聞いていたので」


ガウリスがいうと、ファジズはティッシュで鼻をかんでから、


「この前言った通りよ。王が死んだら次の力のある継承者に譲られる。ただ今の魔王は地上に出てこないってだけの話。前魔王のせいで魔界が荒れてるから魔界の立て直し優先で色々やってるんでしょ」


と簡単に言う。


「…」

私はサードをチラッと見た。


サードは前、魔王がいるならぶっ潰して自分がその地位に収まるとか言っていた。

だから魔王を潰すとか言いださないかとずっとヒヤヒヤしているけど、サードは魔王関連のことで特に何を言うことはない。


それが余計に不気味に感じる。一体何を考えているのかしらこの男…。


でも、とサードからファジズに視線を移す。


ファジズはこうやって全面降伏してからずっと落ち込んでいて、魔界に戻れないことを嘆いて泣いている。

その話口に落ち込んでいる様子を見ているととても不安そうで、どこか寂しそうな雰囲気を感じていた。


思えばミステリーサークルに行った時も聖教者が言っていたもの。


『前は一人が寂しいとかでよく顔を出していましたけど』


って。


多分ファジズは人間界で一人でいて本当に寂しかったんだと思うし、戦っている時に同情を引くためにって私たちに話した内容も本当のことなんだと思う。


大量の人間を巻き込んで私たちを呼びよせて勇者御一行を消滅させようとしたのは、魔界に戻るための魔王への必死のアピールだったんだ。

でもそのアピールもう出来ない。それならファジズはまた一人、ここで支配人と見習いコックとして仕事をしていく。


…そう思うとなんだか可哀想…何とかできないものかしら…。


そこまで考えて、私はふと思った。あれ、もしかして今考えたのってとってもいい考えなんじゃない!?


私はガバッとファジズに向かって身を乗り出す。


「ねえ!もしあなたを受け入れてくれる魔族がいたら、行く気ある?」


ファジズが顔を上げて私を見た。


「あるわけないでしょ、人間界で。魔王の配下じゃないからダンジョンを持ってる魔族の所に行くわけにもいかないし、前魔王に殺されそうになったからって言っても勝手に魔界から人間界に来たルール違反者だし、なまじ私の家は格式が高いから並の魔族は私が行くだなんて言ったら扱いに困って拒否するに決まってる」


あれこれというファジズに私はゆっくりと首を横に振った。

そう、あの人ならこのファジズを受け入れてくれる。きっと受け入れてくれるわ。


「あなたの知ってる本当の神話の話を聞かせて、本の整理を手伝うだけでいつまでもここに居てもらってもいい…っていう魔族が居るとしたら?」


その一言に他の皆も私が誰の事を言っているのか分かったみたい。


「ロッテだな!」


アレンが弾んだ声で私に言うから、私は頷く。


そう、ロッテ。


ファジズは魔界の本当の歴史をきっと知っている。それを聞かせて、本の整理を手伝うんだとしたらロッテは二重に喜ぶに決まってる。

それにロッテは魔王の側近のラグナスとも知り合いなんだから、あわよくば口添えしてもらって魔界に帰れるかもしれない。


だけど唯一の問題は…。


「ロッテに聞いてからじゃないと無理だけど…」


ロッテといつ会えるかなんて分からないのよね。こっちから会いに行くってのはちょっと遠すぎるし、ロッテから会いに来るなんてこともほとんどないし。


ファジズはまだ涙で潤んでいる目で私を見た。


「…どうして人間なのに魔族の私にそんな風にしてくれるの?私はあなた達をこの世から消そうとしていたのよ?」


「私たちは色んな魔族に会って来たわ。そうしたら魔族もあまり人間と考え方が変わらないって思っているの。

あなただってそれまで苦労したことも無いのに急に一人で人間界に来て、そして戻りたくても戻れない状況で必死に毎日過ごしてきたんでしょう?」


言っていて、なんとなくこのファジズの境遇は私の境遇とどこか似ているのに気づいた。


ファジズは魔王に家族を殺されて魔界から逃げ出した。

私は家族を殺されてはいないけど、家族と離れ離れになって故郷を離れざるを得なかった。


でも私には最初からサードとアレンという手助けしてくれる人が居た。けどファジズは最初から今まで百年もの間…私とは違って誰に助けられることなく、一人で人間界をさまよって必死に働いてきた。


「…大変だったわよね?」


心からの声が出た。


そう思うとなんて私は恵まれていたのかしら。ファジズみたいに家族を殺されていないし、最初から守ってくれる人もいて…。そんな私とは違って、ファジズはどれだけ大変で、不安な時を過ごしてきたの…?


ファジズは私の言葉に声を詰まらせ、テーブルに突っ伏して、


「う、うう~…」


とまた泣き続けて、ヒック、ヒックとしゃくりあげている。


「ま、魔族、なのにっこんなにっ優しくしてくれる人、居なかった…!魔族だって、知ったら皆っ攻撃して、追い立てて…!それまで仲良くしてたのに、怖がって、逃げられて、攻撃されて、殺されそうになって…!」


「そりゃあなぁ、人間と魔族は仲悪いのが普通だしなぁ」


アレンはうんうん、と頷いている。


「エリーはわりと魔族と親しくなるよな」

「やはり血筋でしょうか」


サードの言葉にガウリスがそう返している。


「いつになるか分からないけど、ロッテにあなたのこと言ってみるわ。たぶん二つ返事でいいと言ってくれると思うけど、それまでは今まで通り過ごしてくれる?人にはあまり被害を出さないようにして」


ファジズに声をかけると、ファジズは頷いて、またティッシュで鼻をかむ。


「あなたの言うとおりにする、エリー」


そう言うや否や、ファジズは見る見るうちに色気のある女性の姿からスッキリとした身なりの男の姿へと変化して、私の手をキュッと両手で握ってきた。


「え…な、何…?」


ファジズは私の目を真っすぐ見つめてきて、


「こんなに優しくしてくれる人初めてなの」


と色っぽい囁きをしながら私の手に頬ずりしてくる。


驚いてファジズの両手の間から手を引き抜いた。


「ちょ、あなた女でしょ?」


「女であって、男でもあるもの。私は人の性別を変えることのできる家柄。だから私の家系はどちらの性別も持っているの。だから性別なんてこだわらないのよ。どっちかと言えば男が好きだから女の姿でいたけど、今はあなたのために男になりたいわ、エリー」


と言いながら私の手を取って、んー、と口をつけてくる。


「ちょ、やめて!」


そりゃ貴族のたしなみとして男の人に手の甲や指に口づけされることもあるわよ、ってお母様に言われていたけど…!これって違うわよね!?


するとサードがバンッとテーブルの上に何かを叩きつけた。


その音に全員がサードに注目する。サードが手を離すと、そこにはシノベア国国王と女王から渡された、読めない文字で書かれた葉っぱが置かれていた。


「ずっとこの首都に居たってんなら、精霊が営んでる仕立屋の店、知ってるな?案内しろよ」


あ、そう言えばこのウィーリに精霊が営む仕立て屋があるんだっけ。ここに来てすぐに性別が変わったから忘れていたわ。


ファジズはサードにそう言われて、私から一旦離れた。


「いいわ、連れて行くだけなら」


ファジズはそう言うなりバラバラと蝙蝠の姿になり、二つの塊に分かれる。すると一つの塊はカール。もう一つの塊はピーチに変化した。


「カールは仕事に行く時間だから私が連れて行くわね」


色っぽい仕草のピーチは私たちを促して、カールは人の良い笑顔で私たちに会釈すると廊下に出ていった。

…何度見ても一度に二人分の体を動かすなんて、すごいわ…。


そうしてピーチ姿のファジズに促されてお洒落な町中を歩いていく。そうして路地の裏に入り込み、人通りの少ない所に差し掛かったころ、ピーチ姿のファジズが立ち止まってスッと一つの店を指さした。


「あの店よ。ここしばらく休業してたんだけど、やってるみたい。運がいいわね」


「じゃあ、あそこでガウリスの服作ってもらおうな。ガウリスいちいち素っ裸になるし」


語弊(ごへい)のあることを言わないでください」


ガウリスが即座にアレンに突っ込む。


ピーチ姿のファジズは素っ裸のところでクス、とかすかに笑うと、


「それじゃあピーチも戻らないといけないから。また後でね、エリー。好きよ」


と投げキスをして駆け足でホテルへと戻っていった。これからホテルに出勤する時間なのね。


「…思えばカールとピーチの住んでる所も調べたけど、どっちも怪しい所は無かったけどなぁ…」


「あいつは細かいところまでしっかりカールとピーチの役を作り込んでたからな。今魔族だとバレたら支配人っていういい金を貰える役職から撤退しないといけないと思ってしっかりその人物になって怪しまれないように過ごしてきたんだろ。あいつはいいスパイになれるぜ」


サードはそう言いながら表向きの表情に切り替わって、ファジズがさっき指さしたお店…「エローラ仕立屋」という看板のかかっている店のドアを押した。


カランカランカラン、という扉に取り付けてある鈴の音が響き渡り、


「いらっしゃ…」


と中にいた女の子がこちらに目を向けてから口をつぐんで目を見張る。


「えー!ちょ、マジ?勇者御一行様だ!あの宗教家もいる!」


「ええ!?」

「嘘マジで?」


と、二人の女の子たちが店の奥の部屋から飛び出してきた。


その三人の顔を見て、私もガウリスも驚いて目を見開いて、


「あっ」


と指さす。


その女の子三人は、船の中でガウリスに「勇者どこだよ」と言って、そして男姿の私に声をかけてきたあのエローラたちだった。

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