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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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他の性転換した人々

「クソみてえな情報しかねえな」


サードがそう言いながら手に持っている紙をテーブルの上に放り投げる。紙はスー、と私の前まで滑ってきて止まった。


その紙を指先で引き寄せて内容を確認してみる。


蝙蝠(こうもり)が集まって人の姿になるのを見た、すぐに逃げたたけどあれは魔族だったのかもしれない。暗がりで後ろ姿の一瞬しか見ていないけど、ピンク色の長い髪だった気がする。性別は女なのかも』


「…私たちが知ってる情報しかないわね…」


今まで見てきた内容のほとんどが似たり寄ったりの内容で、私たちが知っているものばっかり。こんな情報に銀貨数枚分を払ったのかと思うとお金が勿体ない気がする。

それでもサードは一枚ずつ見ているから私も情報に目を通す作業に戻るけど、それでも同じ内容を繰り返し繰り返し読んでるだけになってくるからすぐ苦痛になって紙を持つ手を下ろすけど、それでもサードは真剣に一枚ずつ読んでいく。


「サードはこんな情報の中から何が知りたいの?全部同じことしか書いてないじゃない」


「魔族を目撃した情報はどうでもいい。俺は性別が変わった奴の情報がねえか知りてえんだ。もしそいつがこの首都に居たら話を聞きに行く」


ああ、そういうこと…。


それならと私もまた情報の紙に目を落とすけど、性別が変わった人の情報はないまま全ての情報を確認し終わってしまった。

結局無駄金を使っただけだったわねと思っていると、エリー、とサードに声をかけられたから顔を上げる。


「消えていなくなる、自然消滅する。これを聞いてお前はどういう状態になると思う?」


「え…」


いきなりそんなこと言われても、と思ったけど、とりあえず私の考えを言う。


「消えて消滅するって言うなら…体が少しずつ消えていってパッと居なくなるような感じなんじゃないの?」


「つまりは死ぬってことか?」


「…うん…まあ?」


何その質問、と思ったけどそういえば魔族はサードに向かってそんなことを言ってから去って行ったんだっけ。


そこまで考えて、今私が言ったことを頭でかけ合わせてゾッとした。

今私は自分で自分は死ぬって言ったようなものじゃないの。


でも、と私はサードに身を乗り出す。


「それなら性別が変わる意味が分からないわ。徐々に消えていなくなって自然消滅するなら元の性別のままでも…」


「そこが分からねえ。魔族は人をからかって遊ぶのが大好きみてえだからわざわざ俺らを混乱させるためにこうしたのかもしれねえが、もしかしたら性別を変えたのも意味があるのかもしれねえ」


サードはそう言いながら身を乗り出そうとしたけど胸がテーブルにつっかえて、テーブルの上に胸を乗せ直してから身を乗り出す。


「今こうやって魔族関係の情報を全部見ても性別が変わって困っているなんてものは一つもねえ。だが依頼には魔族によって行方不明者が多数出ているとしっかり書いてある。おかしいだろ?それなら魔族はどうやって行方不明者を多数出している?」


「直接殺してる…」


「ハッキリ殺してるなら依頼の紙に殺害されているって書かれているはずだ。ただその手口が分からないまま行方知れずになる奴が多いから行方不明者が出ているとだけ書かれている。

だから被害に遭った奴らは俺らみてえに性別が変わって、何かしらの方法で少しずつ存在が消えていく…んだと俺は思うが」


その存在が消えていく方法も分からないし、何で性別を変えるのかも分からないと言いたげにサードは口をつぐんだ。


すると部屋のドアがノックされたからドアの穴から外を見てみると、アレンとガウリスの二人が立っている。

鍵を開けて二人を中に促した。


「そちらはどうでしたか?」


ガウリスの質問にサードは傍にあった情報の紙を一枚手に取って、ガウリスに指で弾き飛ばす。


「ハロワにはクソみてえな情報しかねえ。性別が変わってる奴らの情報でもあればと思ったが…」


「あ。それなら俺ら見つけたよ。元々男だったけど夢の中で女の人にキスされた次の朝に女になったって人。さっき会いに行ってさ。ネイリスって名前の人で」


いきなりの大収穫の話に私たちは目を見開く。本当にアレンはこうやってフラッと情報を持ってくるわ。


「そのネイリスって人どうだった!?」


アレンに掴みかかる勢いで聞くとアレンは、


「花屋で働いてるホワッとした雰囲気の女の人だったよ。だから元々男だったの信じられなくて、男だったの本当?って聞いたら…」


アレンがその時の話をする。


「男だったの本当?何か他のお店の人があんたの性別が変わってるみたいな話してたけど」


アレンの言葉に、花に囲まれたホワホワとした雰囲気の女性…ネイリスはキョトンとした顔でアレンの顔を見上げてきて、すっげ可愛いって思ったって。


まあそれはどうでもいいとして、アレンの質問にネイリスは、


「そうですけど」


とあっさり返した。ネイリスが言うには、一週間前に夢の中にピンク髪の毛のセクシーな女の人が現れて口にキスされて、生々しい夢を見たと思いながら起きたら性別が変わっていたんだって。


ドンピシャだと思ったアレンは、夢の中に現れたという女の人は何か言っていなかったかってきいてみた。


でも、


「いえ覚えてないです」


とまたもやあっさり返されてしまった。それならその姿になったのはいつごろかとアレンが聞くと、


「一週間前ですかね。先週僕の誕生日だったんで」


誕生日に性別が変わったというのにあまりにも落ち着いているネイリスを見てアレンは疑問を投げかけた。


「性別変わったのにすっごく落ち着いてるよな?」


するとネイリスは嬉しそうに微笑みながら頬に手を添え、


「実は僕、元々女の子になりたくて…だからこれって神様からの誕生日プレゼントかなって」


そこでアレンはネイリスとの会話を離し終えて一旦口を閉じてから、


「ってわけで、ネイリス的にはラッキーって感じだったみたい」


と言い終わると、ガウリスが続けた。


「ネイリスさんの件で他に性別が変わった人はいないかと聞き回っていたら、もう一人見つけたので会いに行きました」


性別が変わった人を二人も見つけたのと興奮しながら、目でどうだった、と話を促す。するとガウリスは軽く頭をかいて、


「会いに行ってみたらノーアという名前の男性でした。しかし元々は女性のようです。それでもノーアという方は自分は生まれた時から男だと私たちに言い張っておりました。性別が変わってから四ヶ月ほどたつとご家族の方はおっしゃっていましたが…」


「四ヶ月…経ってるんだな?性別が変わって」


サードの質問にガウリスは、はい、と頷く。


「何かそのノーアって野郎の体に異変は無かったか?自然消滅するような兆候は」


「いいえ、見る限り健康なお方でしたよ。ただノーアさんは結婚なさっていたようで、旦那さんは泣いておられました…」


そりゃあ、奥さんが男になったらね…。


サードは少し黙り込んで、アレンとガウリスを見た。


「お前らは何人性転換した奴らに会ったんだ?それともその二人だけか?」


「そう、今言った二人」


アレンの言葉にサードは椅子から立ち上がる。


「その二人にもう一度話を聞きに行く。案内しろ」


* * *


「あ、どうも」


まずは花屋の男性だったネイリスの元に訪れた。ネイリスはオレンジに近いブロンドヘアーで、アレンの言う通りホワホワとした雰囲気で明るい口元の可愛らしい女性だった。

ピンク色のふんわりしたドレス、そのドレスに合わせたフリルの帽子をチョンとかぶっていて、赤い花を一輪持っている姿…もう完璧に女の子だわ。


「さっきこっちの奴も色々聞いただろうが、俺からも話がある」


どうせ勇者サードだと分かる奴はいないとばかりにサードは裏の顔のままネイリスに話しかけて、サードの自分の俺呼びと明らかな男だと分かる仕草を見たネイリスはピンときた顔をしている。


「もしかして元々男性だった…とか?」

「まあな」


ネイリスは自分以外にも同じように性転換している人がいるんだと驚いたような顔でサードを見ていて、もしかしてとサードの後ろにいる私たちに視線を動かした。


「…皆さん、性転換したってことですか…?」


ガウリスはしてないけどねと思ったけど、そこは何も言わないで私は頷いておく。ネイリスは、ありゃりゃ…と同情するような顔付きになった。

自分はちょうどよくなりたかった性別になれたと喜んでいるけど、他の人は違うだろうなぁと分かって同情している顔だわ。


「もう一度聞くが、夢の中に現れた女は何か言ってなかったか?」


「…そういうの全然覚えてなくて…。ってことはあれって夢じゃなくて現実にあったことだったんですか…」


「体が女になって何か体に違和感はねえか?前の体で感じなかった違和感。何でもいい、少しでもあれば話せ」


「違和感…」


ネイリスは少し考え込んで、ああ、とこちらに顔を向けた。


「前に比べて力が弱くなりました」


そりゃあ男の人から女の人になったらそうなるわよ。アレンとサードだってそうだもの。


「他は」

「他…」


ネイリスは色々考えているみたいだけど体に感じる違和感は特にないみたいで、後はないです、と首を横に振った。


それならとサードはネイリスに別れを告げて花屋から立ち去る。そのまま結婚しているノーアという元女性に会いに行った。


その家は首都の大通りから逸れた所にある閑静な住宅地。大通りに立ち並ぶ家々と比べると小さめだけど、それでも家の造りは貴族の小さい別荘とでもいえるほどの出来栄えの家だった。

サードがその家の扉をノックすると、やつれた表情の若い男の人が出てくる。白いブラウスにサスペンダーをつけたズボンを履いている清潔な姿。

大通りを歩いている男の人たちは皆燕尾服を着ているけど、家にいる時は皆こんな姿なのかしら。


その若い男の人はアレンとガウリスの姿を見て、ああ、と声を漏らす。


「さっきの…」

「俺からも話が聞きたくてな」


女の子の見た目なのに男の口調と仕草のサードが言うと、若い男性は、あ…と何か言いそうになって、サードは、


「俺らも元々性別が逆だ。元に戻りてえから色んな性転換した奴らから話を聞きてえ」


と何か言われる前にさっさと事情を説明すると、若い男性は、グス、と泣きそうな顔になった。


「僕もノーアを元の性別に戻したいです。何が原因で性別が変わって、自分は元々男だったと言い張っているのか全然分からなくて…。もしノーアが元の性別に、元の性格に戻れるんだとしたら喜んで協力します!」


どうぞ、と家に通され、若い男性は振り向きながら、


「僕はヌノウ・タリアンと言います。妻はノーア・タリアン。半年前に結婚してノーアの家に婿としてやってきました。ノーアの両親たちは他の国の魔導士らに妻のことを相談しに出かけている所でして、今は僕とノーアがこの家に住んでいます」


「そのノーアってのはどこだ?」


「…」


ヌノウは何とも言えない表情で家の裏手のドアを開けて裏庭に出ていくから、私たちもついて行く。


と、カコンカコンと薪を割る音がする。その音の出所に視線を動かしていくと、そこには上半身裸で斧を持ち上げ次々に薪を真っ二つにしていく男の人の姿があった。

黒髪の坊主頭でその筋肉のついた首筋から背筋からは…女の人だった面影は見うけられない。


皆の視線を感じたのか、ノーアはこっちを振り向いた。その顔は無精ひげで覆われている。

でもヌノウの姿を見ると嫌そうに眉をひそめて薪割りの作業に戻った。


「…あのね?ノーア。君のことについてこの人たちが話をしたいんだって…」


ヌノウが恐る恐る声をかけると、ノーアは無視して薪割りを続けている。


「…ノーア。君の体を元に戻すために…」


ヌノウが声をかけるとノーアが大きく舌打ちして振り向いた。


「だから俺は元々男だつってんだろ!今から女になってどうしろって!?てめえと夫婦ごっこでもやっててめえの下でヒィヒィ言ってろってか!ああ!?ざけんなぶっ殺すぞ気持ち悪ぃんだよ!」


「ちょ、そんな品のないこと大声で言わないで…!君はレディなんだから…!」


ヌノウはあわあわと手を動かしていると、ヌノウより体格が立派なノーアはヌノウを片手で突き飛ばした。ヌノウはいともたやすく突き飛ばされて地面にはっ倒される。


「誰がレディだ、ふっざけんなよ、俺は生まれたころから今までずっと男なんだよ!いい加減俺の家から出ていけ!」


「でも、でも…僕たち結婚したじゃないか…!」

「してねえ!」


ノーアはブルッと身震いして、あー気持ち悪い気持ち悪いと自分の腕をさすっている。


「…女だった面影が一切ねえな…」


サードが呟くと、ヌノウは涙目でうんうん、と頷いている。


「ちなみにノーアはお前のことが嫌いで別れたがっていたからこんな風に言ってるわけじゃねえよな?」


ヌノウはギョっとして首を大きく横に振る。


「そんなわけありません!数年おつきあいして、それから正式にプロポーズしてノーアも頷いて結婚したんですよ!?ノーアがこの姿になる前は毎日手を繋いで近所の公園を散歩してましたし…!」


なるほど?とサードは頷いて、質問を重ねる。


「ノーアは最初から自分は男だって言っていたのか?」


ヌノウは首を大きく横に振る。


「違います、ノーアも最初は男になった自分に困惑して戸惑っていました。ですからこの国の色んな医者に行って、色んな魔導士にも診てもらったんですけど原因が分からなくて、そうしているうちに行動も口調も顔つきもどんどん男っぽくなって…!」


ヌノウは顔を両手で覆ってついにグスグスと泣き出した。


「いくら好きでも、ノーアは今どう見ても男です。ノーアのことは好きです、でも前のように愛せるかと言われれば愛せる自信がありません…!もうどうすればいいのか…!」


グスグスと泣いているヌノウの声を聞いて、ノーアは殺す気かという勢いで斧を振り上げて怒鳴った。


「るっせええ!いい加減にしろてめえの頭かち割るぞクソがぁあ!」


ノーアは斧をぶん投げて、斧はギュンギュン回転しながら家の壁を破壊しながらガンッと突き刺さる。ヌノウはヒィッと身をすくめて頭を押さえた。


「落ち着いてください、そのように怒鳴らなくてもよろしいではないですか」


ガウリスがノーアの前に立って落ち着かせるように声をかけると、ノーアはもう沢山だとばかりに坊主頭をガシガシとかいてガウリスを睨みあげる。


「気持ち悪いんだよ!こいつ俺の旦那だとか何とか言ってずっと同じ家にいやがるんだぜ?俺は男を好きになる趣味もねえのに、いきなり知らねえ男にお前の旦那だとか言われてずっと家に居座られてみろよ、それも親公認で居座ってやがるんだぜ?どんなに気持ち悪いか分かるだろ?なぁ、男のお前らなら分かってくれるよな?な?」


ノーアはわずかにすがるような顔でガウリスと、私にも顔を向けてくる。


…つまり今のノーアからしてみたら、男として生きてきたのに知らないうちに男の人と結婚していて、それを皆が受け入れているって訳が分からない状況で困惑しているってこと?


…まあ確かに知らない男の人が「僕はあなたの旦那です」とか言いながら親公認で家に居着いたら気持ち悪いし怖いわよね…。


サードはノーアに近づく。

ノーアはサードの大きい胸を見てどこか気分が和らいだのか…少し落ち着いた表情で胸をガン見している。


「じゃあノーア。お前は本当に生まれてからずっと男だったと、そういうことだな?」


「今の俺をみて女だって言う奴がいたら眼科を勧めるね」


ノーアは皮肉のようなことを言いながら両手を広げる。

薪割りをし続けて手に入れたような上半身の筋肉、体を覆う体毛。やっぱりどう見ても今のノーアは男にしか見えない。


サードは無言でノーアを見ていて、まだ地面に座り込んでいるヌノウに視線をずらす。


「ちなみにノーアはどれくらいの時間が経ってから元々自分は男だったと言い始めた?」


「…一ヶ月から二ヶ月ぐらいしてからだったと思います。今は男になってから四ヶ月目ぐらいで」


「…」


サードは渋い表情で口を引き結ぶと、「行くぞ」と私たちに声をかけて歩き出した。


「え、あの、ノーアを元に戻す方法とか…」

「俺らも探る。お前は頭かち割られないようにそれまで上手くやっとけ」


ヌノウは立ち上がってサードに声をかけるけど、サードから戻ってきた言葉に、そんなぁ…と膝をついて絶望の顔をしている。


二人のいる家から離れてから、サードは私たちに向き直った。


「あの女の魔族の言った消えていなくなる、自然消滅するってのはノーアのあの状態だ」


「…どういうこと?」


いきなりの言葉に聞き返すと、アレンも何か分かっているような表情で私の肩に手を乗せて、不安そうな顔をしている。


「あの二人は何年も付き合って、結婚してからも手を繋いで公園を散歩していた仲なんだぜ?でもノーアは自分が女の子だった過去も、結婚したヌノウの顔も分かんなくなって知らない他人だと思ってんだよ」


「…?」


アレンの言いたいことは何となく分かるけど、それでもまだピンとこないでいると、ガウリスが続けた。


「エリーさんたちも一ヶ月か二ヶ月ほどでノーアさんのように記憶が混乱して、四ヶ月が経つ頃には完全に男性として、そして女性として今まで共に冒険してきたこともお互いの顔すらも分からなくなるかもしれないということです」


そう言われたら一気に背筋が寒くなってきた。


ならこれって性別が変わるだけじゃないんだ。ジワジワと自分が自分でなくなっていくということなんだ。


「…そうやって性別が変わって互いの顔も分からなくなったら何で一緒にいるのかも分からなくなって、あとは別々の人生を歩むことになるだろうよ。だったらあの女の魔族の言った通り、元々の俺たちは自然消滅して消えていなくなる」


サードがそう言って考え込む顔になるけど、私はガウリスの腕を掴んだ。


「でもガウリスは無事だもの。いざとなったらガウリスに皆を引き留めてもらって事情を説明してもらえば…」


でもそうやって性別が完全に変わった後のことを考えるより、女の魔族を見つけて元に戻ったほうがいいわ。そのためには何をすればいいのか…。


するとサードはスッと歩き出す。


「だがまあ、裏を返せば最低でも一ヶ月余裕はあるってことだ。俺はちょっくら行きたいところがあるから行ってくる」


「どこ?」


もしかしてサードの頭の中にはこれだ、とアタリをつけていることがあるの?それならサードの手伝いをしてさっさと元の姿に戻らないと。


サードの言葉を待っていると、サードは振り向いてきて、ニイ、と口元を大きく歪めて笑った。


「決まってんだろ、女風呂だ」


サードはサクサクと早足で歩いて行く。思わずずっこけそうになって、


「ちょっと!こんな時に何言って…!」


とサードに声をかけるとアレンが、


「おいサード!」


と普段あまり出さない強い口調でサードを呼び止めた。サードは立ち止まって面倒な顔で振り向いてくる。


そうよ、こんな状態なんだからアレンだって怒るわよと思った次の瞬間、アレンはいい笑顔でサードの元へ駆けていった。


「俺も連れて行ってぇー!」

「っし、ついて来い!」


サードは親指をクイと動かしながら歩いて行って、二人はさっさと曲がり角を曲がって消えてしまった。


「…。信じらんない、馬鹿じゃない…?」


思った以上に自分から男の野太い低い声が出た。


「ええとまあ…こんな切羽詰まった状況でも楽しみを見つけられるのが皆さんの美点ですよ」


ガウリスはフォローしているけど、あんなのにフォローする必要なんてないわよ。


「まず二人は放っておいてホテルに戻りましょ」

「ええ」


…ちなみにウィーリに公衆浴場は無かったみたいで、サード達が諦めてホテルに戻って来たのは日没後だった。

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