夜の一線、越えちゃう?(後半サード目線)
わたしたちはその日のうちにウィーリにたどり着いた。
町に到着すると同時にハロワでウィーリの中を周回する魔族の討伐の依頼を正式に受ける申請をして、すぐさま首都一番だというホテルにチェックインした。だってもう町にたどり着いた時には日も沈みかけている時分だったもの。
でも、と私は暗くなっていく街並みに、通り過ぎる人々を見渡す。
遥か向こうまで整えられた石畳、色も統一されているレンガ造りのモダンな建物、道端に点々と立っているのは街灯で、暗くなった所から自然に炎がボッと灯って道を照らしていく。きっと明かりの魔法だわ。
道を行く男の人たちは黒い燕尾服を着て高いシルクハットをかぶりお洒落な杖を腕にかけて颯爽と歩いていて、女の人たちは腰の細いドレスを身にまとって綺麗に髪の毛を結い上げふわふわの毛のついた扇を持って肩もろくに揺らさず、地面を滑るように大きく膨らませたスカートの端をちょいとつまんで歩いて行く。
まるで行き交う人が全員が貴族に見えるけど、それでもこうやって歩いているのは全員庶民なんだって。
それでもその庶民だといわれる人たちの口調も物腰も貴族と言われても十分に通るくらい洗練されているし、街並みもそんな人々に負けないぐらい整っているし…。
今まで見てきた国の中心都市の中で一番物も人も洗練された都市なのかもしれないわ、ウィーリは。
こんな洗練された都市を私はこんな姿…。
チラと自分の服を見てみる。
冒険者なのだからドレス姿の女性たちに見た目で圧倒されるのはしょうがない話だけど、ただでさえ今日は熊のモンスターと戦っている際に土砂降りに打たれて、そのぬかるんだ土の上を歩いて来たから靴もローブの裾もドロドロ。
…しょうがないことだけど、見た目が綺麗な人たちの間を通り抜けるのがちょっと恥ずかしい。
とりあえずチェックインしたホテルでクリーニングサービスがあるって聞いたから、あとでそこに服を一式預けることにして、部屋にたどり着いてすぐお風呂に直行。
まずはゆっくりお風呂に浸かって疲れを癒そう…と荷物を置いたら、
「頭洗うぞ」
とサードが部屋に乗り込んできて、いつものルーティンワークで頭を洗い髪の毛梳かし、そのまま手早く去って行った。
嵐のような奴、それでも早く去ってくれてよかった、そのままゆっくりお風呂に浸かり、部屋の中に用意された寝間着に着替える。
まるで上流貴族が着るようなシルクで出来上がったドレスのような寝間着、それを着ながら改めて部屋の中を見まわした。
「…豪華だわ…」
赤地に金の刺繍の入ったシックな絨毯、年季の入っているお洒落な暖炉、天井からはキラキラと輝く小さいシャンデリアが等間隔で吊るされている。
どこの王家の食卓なのかと思うほどの長机のテーブルにはいつでも召し上がれとばかりに日持ちのするお菓子の盛り合わせがこれまた等間隔で置いてあって、何人か人を招待できそうなほどのティーセットにお皿にスプーン、フォークまで準備されている。
なんとなくそのお皿にカップが輝いているから手に取って見てみるけど…。このティーカップに食器にスプーン…銀製じゃないの?もしかして…。
私だって貴族だけど銀で出来た食器なんて初めて見た。家で使っていたのは木の食器に木のコップに木のスプーンで、ガラス製のコップが家で一番良い代物って感じだったもの。
とんでもなくお高い部屋だわここはと思いながらも、広くふかふかしたベッドに吸い寄せられる。
それに明日はゆっくりできる。サードはウィーリに到着と同時に宣言していたもの。
「魔族については明後日から本格的に始めることにして、今日と明日は自由に過ごしましょう。連日の山歩きで皆さん疲れていると思いますのでゆっくりお過ごしください」
だから、明日はいつもより遅くまでゆっくり眠っていられる。
「っはぁ~~…」
大きい枕に抱きついて、その柔らかさに埋もれていく。ああ、もうこのまま溶けるように眠ってしまいたい…。
ウトウトと気持ちよく眠りに落ちかけると、トントン、とドアをノックされた。
ハッと目覚めてノロノロと起き上がり、誰よ気持ちよく眠りかけていたのにとイラついた気持ちでドアについている丸い穴からノックしてきた人を見る。
…アレンだわ。
鍵を開けてドアを開ける。
「どうしたの?」
アレンはホクホク顔で腕の中に持っているボトルを一本丸ごと私に押し付けるように渡してきた。
「それがさー、さっき外に飲みに行こうとしたらホテルマンに声かけられてさ、色々話したら気が合っちゃって酒貰ったんだ。人数分もらったからエリーにもあげるよ。なんならこれから二人で飲まない?」
私は半ば無理矢理渡されたボトルを両手でもてあそびながら、アレンを見上げた。
「アレンごめんなさい。誘ってくれて嬉しいけど、私疲れてるから今日は眠りたいわ」
「えー、でも俺、エリーと飲みたいなぁ」
「…」
アレンは急斜面の山を平然と歩くサードとガウリスのことを化け物か、って言ったけど、私からしてみたらアレンのそういう遊びに対して体力があり余ってる所こそ化け物みたいよ。
無言の私を見たアレンはこれ以上誘っても無理と判断したのか、残念そうな顔をして渡してきたボトルのラベルが見えるようにクルッと回す。
「これ寝る前に一杯飲むとゆったりした気分で眠れるんだって。最近ウィーリの女の子の間で流行ってるんだってさ。牛乳のお酒で甘めなんだって」
「へえ」
ホットミルクを寝る前に飲むと気持ちが落ち着いてゆっくり眠れるっていうし、この洗練されたウィーリの女の子たちの間で流行ってると言われると気になるわね。
それにこのウィーリのどこかにいる魔族をどうにかするまでここに連泊するつもりだから、ボトル一本丸ごと渡されても毎日一杯ずつ飲めば数日で飲み終わるでしょうし。
「ありがとう、これを飲んでから寝るとするわ」
と言いながら、私は少し眉間にしわを寄せてアレンを見上げる。
「明日もゆっくりできるからってはしゃぎ過ぎちゃだめよ、アレン」
アレンは外に飲みに行くと、行き合った人たちと盛り上がりすぎて一睡もしないまま飲み屋をはしごして、朝帰りをした挙句に二日酔いになっていることが度々ある。
サードはそんな朝帰りして二日酔いになっているアレンを見ては「馬鹿か」と吐き捨てている。
アレンは私の注意する言葉を聞いて笑った。
「大丈夫、これ貰ったから部屋で飲むつもり。サードとガウリスにも渡してくるから。じゃあ、おやすみエリー」
アレンはさよならする時のように指先をヒラヒラと動かして、私を流し目で見るようにしながらフッと微笑み、私の部屋の前から去って行った。
「…」
あれ?何か今のさよならの手の動かし方がアレンっぽくなかったような…。アレンが手を振る時は子供みたいに大きく手をブンブン振るし、最後に見せた微笑みだって何か…すごく大人っぽいっていうか、色っぽかった?男の色気みたいな、男の余裕みたいな…。
…色っぽいアレン…。うん、違和感だわ。
鍵を閉めてからボトルをクルクル回してラベルに書かれている文字を見る。
ミルティ、って名前なのね。折角だから飲んでから寝ようかしら。
銀のティーカップを用意して、お酒のキャップを開けてからゆっくりと注いでいく。
トットットッと音を立てながら白い液体が注がれた。ティーカップにお酒ってかなり違和感だけど、他にないものね。
まあまずはこれを一杯飲んで、あとはゆっくりと眠りましょ。
お洒落な椅子を引いて座り心地のいい座面に座って、お酒の匂いを嗅いだ。
まるで甘いお菓子のような匂いが鼻をくすぐる。
一口飲むと味は牛乳そのもの。でもアルコールのキュッとした感覚が舌の上に広がる。そのまま喉の奥に流し込むと、甘い匂いが口に鼻に抜けて行った。
私は思わず指の先で口を押さえる。
「…美味しい…!」
思ったよりアルコールは高いけれど、お酒に飲み慣れてない私でも分かる。これは美味しいお酒だわ。
私はチラ、とティーセットに目を向ける。
この部屋の長テーブルには、ある魔法陣が設置されている。
寸胴のような細長い形のポット。その下に敷かれている魔法陣。それはいつでも自由にお茶を淹れて飲めるようにと適温にお湯を沸かすためのもの。中身のお湯はルームサービスの一環でもう沸かされてある。
ティーセットにそのポットを見て私は思った。
もしかしてこのミルティって、紅茶で割ったら美味しいんじゃないの?
思いついた私は手早く紅茶を淹れようと動き出した。料理はからきしだけど、冒険中でも紅茶だけは美味しいのが飲みたくて、ある喫茶店で淹れ方を特別に教えてもらって自分でも納得する味が出せるから、紅茶を淹れることだけは自信がある。
私は飲みかけのミルティに紅茶を注ぎ入れながら、ゴクリと喉を鳴らす。
きっと美味しい。これは美味しい。
でもクイ、と一口飲んでみて「くっ」と悔やむ声が出た。
「ミルティも温めておくんだった…!」
ミルティは冷えているから熱い紅茶を入れたらぬるくなった。それでも十分美味しいのだけれど、何か惜しい気持ちでいっぱいになる。
その一杯を飲み干して、ミルティのボトルを寸胴型のポットの中に入れた。マナーが悪いやり方だけど、どうせ私しか飲まないし、他の人が来てこのポットを使おうとしたら新しい水を入れて沸かせばいいわ。
ついでにカップも温めておいて、先に温めたミルティを入れて、紅茶を入れる。
それを一口飲む。ああ…なんて幸せなの。
思わず目を閉じてうっとりした。
温めたことで増えた牛乳の甘み、それに鼻に抜けるミルティの匂いと紅茶の匂いときたら…!温めたら口の中に広がるアルコールの強さも増えたけど、それでも飲みやすさは変わらないで、まろやかに喉を流れていく。
「なんて贅沢なの、こんな部屋でこんな風に美味しいお酒を飲むなんて…」
ほう、とため息のような吐息をついて、残りのお酒をゆっくりと胃に落としこんでからベッドにもぐりこんだ。
やっぱりアルコールが高いのか、二杯飲んだだけでもう体は熱くなってきたし、気分もふわふわと良い感じ。これは気持ちよく眠れそう。
「…」
私はチラとミルティをベッドから見る。
ベッドにもぐりこんだけど、もうちょっと飲みたい気がする。…飲んじゃおうかしら、明日はゆっくりできるんだし…。
私は起き上がると、また同じ手順でミルティをティーカップに注ぐ…。
* * *
ドアを連続で激しく叩くドンドンドンッという音で俺は目を開けた。
思わず今何時だとベッドの脇に置いてあるアンティーク調の置き時計に目をずらす。
夜中の…十二時十分。
くあ、と欠伸をして左手側に置いてある聖剣を抜いて右手に持ち、ドアに近づく。
誰だこんな夜更けに。こちとらアレンに渡された酒を一杯ひっかけて、あとは眠ってたっつーのによ。
ドアの丸い穴を覗くと、ドアの前にはエリーが立っていた。
…?エリー?なんでエリーが俺の部屋の前に立っていやがるんだ?大体十二時ごろだとエリーは寝ているはずだが。
ドアを開けるとエリーはどこかフラフラした足取りで俺を見上げてくる。
「…どうした」
エリーは赤らんだ顔でフラフラしながらしまりのない顔で、甘えるように口を開いてきた。
「お酒飲んだら眠れなくなっちゃった…ちょっと話しましょ?」
「寝ろ」
酔っ払いの相手は面倒だとドアを閉めようとすると、エリーはガッと足をドアに挟んでくる。
「いいじゃないの!私と話ができないっていうの!?」
エリーはドアにタックルするようにしながら体をねじこませ、無理やり俺の部屋に入って来る。
こいつ、いつもすまして自分は貴族だって言うくせに、押し売りみてえに部屋に入り込む技術は一流だよな。アレンにフラれた後もこんな風に人の部屋に入ってきやがったし…本当に育ちのいいお嬢様かよ。
エリーが通過すると甘い匂いとアルコールの匂いがする。これだけ酒の匂いがするなら確かに酔っぱらっていやがる。
そういやアレンは酒をもらったとかで俺に酒を一本渡して一緒に飲まねえかと言ってきたが、何が楽しくて男二人で酒を飲まねえといけねえんだって断ったら、それなら他の奴らにも酒を渡しに行くって去って行った。
つまりエリーはこれだけ酔っぱらうほどアレンに渡された酒が気に入ったのか。ろくに酒を飲まねえエリーが酔うほど美味い酒…気になるな。
「さ、座って。何か話しましょ」
エリーが俺のベッドに断りなく座って、隣をボンボン叩きながら俺に声をかけてくる。
酔っ払いの相手は面倒くせえと俺はそっぽ向いた。
「てめえと話すことなんて何もねえよ、部屋に帰れ、俺だって寝てたんだぞクソが」
いくら俺でもあの連日の山歩きには疲れた。
だからわざわざ魔族のことは明後日からと宣言までして早めに寝ていたのに、酔っ払いがわざわざ俺の睡眠を邪魔しに来やがって…!あークソ、腹悪い、ぶん殴ってやろうかこのアマ。
「いいじゃないの!何か話しましょうよ!それともなに?私に話せないやましいことでも何かあるっていうの!?やましいことが!!」
エリーが大声で喚きながらベッドを平手でボンボン叩き続けている。
ダメだこの酔っ払い、早くなんとかしねえと。
俺は椅子を引っ張ってきて、ベッドに座るエリーと対面する。そして目を見て口を開いた。
「般若心経の話でもするか?」
エリーはキョトンとした顔で俺を見る。
「ハニャ…ってなに?」
「呪文みてえなもんだ。人生のすべてが詰まってるっつーありがたーい教えだ、どうだ聞きてえだろ」
エリーの顔を覗き込むと、エリーはむぅ、と頬を膨らませてベッドをボンボンと両手で叩き続ける。
「やだ!つまんなそう!」
「つまんねえならすぐ寝るだろ、戻れよ」
つまんねえ話するなら部屋に戻るって言え。そら言え、今すぐ言え。とっとと帰れ。
「寝たくないの!」
「戻って寝ろよ」
「寝ない!起きてる!そんでもっと楽しい話する!」
…面倒くせえー…。
エリーが酔っぱらったところなんて初めてみたが、思った以上にウゼエ。もっと肩にもたれかかるような酔い方してみろってんだ。
こうなったら腹に一発拳を入れて気絶させてからエリーの部屋に戻すか。
そう思っていると、エリーの手が伸びてきて俺の手を掴んだ。
暖かく柔らかい両手に引き寄せられ、思わずそのまま立ち上がって引き寄せられるまま俺はエリーの右隣に座った。
「何か話しましょうよ、出会った時の話とか」
「なんで」
この位置からだと腹に一発喰らわせるより、親指と人差し指で頸動脈を押して気絶させる方が手っ取り早そうだ。そうだな、酔っ払いの胃袋に一発喰らわせたら吐くかもしれねえ。
何事もない顔でエリーの首元までの距離を測り隙を狙いつつ、そんな素振りなど見せないままエリーをふっと見た。
…何だこいつ、近え。
気付くとエリーは酔ってる奴特有のとろんとした目で身を乗り出してきていて、俺の目を見つめている。
エリーの性格は好みではないが、エリーの見た目は好みだ。身を乗り出して見つめてくるその目に見入って思わず頸動脈を押すタイミングを逃した。
そうしているうちにエリーは俺の体に体重をかけながらゆっくりと頭をもたれかけてくる。
…あ?
エリーから伝わる女特有の柔らかい体に、思わず俺の体が硬直する。
エリーが、俺の肩に頭をもたれてきた?何やってんだこいつ、馬鹿か?いや思えば夜中に部屋に二人きりで、しかもエリーも俺もベッドの上。まさか誘ってんのかこいつ、やってもいいって意思表示か?
興奮しかけてエリーの肩に手が伸びかけたが、すぐさま冷静な俺の考えが浮かぶ。
待てよ、いつものエリーの言動からは全くそんなことは想像できないだろ。なら単に酔っぱらって一番近い俺の部屋になだれ込んできて、酔っぱらってるから自分でも何やってんのか分かってねえんだ。このまま事を進めてみろ、後が面倒だぜ。
…そうだな、後が面倒だな。
冷静になってエリーから視線を逸らして長々と息をついて気を沈めていると、エリーの手が俺の太ももに手を乗せスルスルとなぞっていく。
ゾワッとした感覚が体を突き抜け、思わずエリーの目を見る。
エリーの目はさっきよりも潤んで熱を帯びていて、口をほんの少し開けて自分の顔を見上げている。
…お前、そんな男を誘う表情なんてできたのか…。いや、落ち着け。後が面倒になるだけだ。これは何も分かってないからこそやってる…。
「ねえ…もう分かってるでしょ?」
甘ったるい吐息と同じぐらいの甘ったるい声でエリーは俺に腕にしがみついてすり寄ってきて、頬に柔らかい唇がそっと当たった。
「…」
ゆっくり息をつきながら唇を離していくエリーを俺はジッと見る。
エリーは俺の目を見て、男を誘うような表情のまま唇を軽く突き出して「ん?」と誘ってきやがる。
…たまんねえ、その顔。ゾクゾクする。いつもこうだったらとことん可愛がってやるのに。
俺がそっとエリーに顔を近づけていくと、エリーは微笑んだ顔でゆっくりと目をつぶる。
かかったな。
俺は左足をベッドに座っているエリーの両膝の裏に滑り込ませ、そのまま蹴り上げるようにしてエリーをベッドの上にひっくり返した。
エリーから「やん」と享楽の声が漏れるが、俺はそのまま全体重をかけてエリーの腹の上にドッスと馬乗りになる。
「っぐ!」
さっきの享楽めいた声とは縁遠いうめき声が出たが、俺はすぐさまずっと抜き身で手に持っていた聖剣をエリーの首に突き付けた。
「…えっ」
エリーから驚いた声が出て、目の前の聖剣に釘つけになっている。
「な、なにをするのサード…!」
エリーが暴れて手を動かそうとするから、首に聖剣を突き付けたまま両足でエリーの両腕に足の爪を食い込ませるようにして踏みつけて押さえ込む。
「痛い!痛い、サード!やめて!」
エリーがもがいている。俺はニヤニヤと笑いながらエリーの様子を眺めた。
「おいおいやめろよ、これ以上俺を興奮させようとでもしてんのか?ええ?」
エリーの首筋に浅く聖剣の先を食い込ませると、血がプックリと首筋に膨らんだ。
「や…やめ…」
恐怖にゆがんだ顔でエリーがわなわなと震えている。そうだよなあ、怖えよなあ。俺が誘いにのったと思ったのに急に聖剣を首につきつけてきたら、そりゃあ怖えよなあ。
喉の奥でクックッと笑いながら、すっとぼけた口調で呟いた。
「しっかし、幼馴染のお前がこんな風に俺を誘ってくるとは思わなかったぜ、俺とお前は昔から仲が悪かったのに…」
するとエリーは目を動かし俺を見た。
「その幼馴染に何してるのよ、こんなこと…」
その言葉を聞くとおかしくて、大声を出してのけ反り返ってゲラゲラ笑った。
何がなんなのか分かっていなさそうなエリーは恐怖の顔のまま俺を見ていて、俺は目を見開きながらエリーに顔を近づける。
「自爆しやがったな!俺とエリーは幼馴染なんかじゃねえんだよ!」
エリーは目を見開いて俺を見上げる。その目の奥に、しまった、という感情の揺れを感じた。
俺はそんなエリーの…いいや、エリーの顔をした何者かの顔をじっくり眺めて、囁いた。
「お前、誰だよ」




