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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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勇者がデレた(当社比)

それからしばらくしてアネモが「おーい」と声をかけながら戻って来て、二本の枝が刺さったかごの中で静かに膝を抱えて座っている蜂を見つけて驚いた顔をしていた。


「こいつ…あ、いえ、この方は…今我々の国の頂点に近い…人を傷つけているリーダー的存在の者で…エーデルというんですけど」


アネモは人を傷つけているリーダー格、の所だけを小声で私たちに言いながらかごの中の蜂の説明をする。


どうやらかごの中にいる本人の言う通り、このエーデルという蜂が主犯みたい。


そう分かると憎たらしい気持ちも湧くけど、さっきサードが散々脅していたからこれ以上の言葉も何も必要ないわね。今はそれくらいエーデルは憔悴(しょうすい)しきっているし。


「で?そっちはどうだ」


サードがアネモに聞くと、アネモは頷く。


「はい、仲間に事情を説明しました。…人間にシノベア国のことを言ったのは頭ごなしに怒られましたが、あなた達が女王と国王を助ける手伝いをしてくれると伝えたら大喜びで例の熊のモンスターを探しに行ったところです。

最近はこの道のあたりで熊型モンスターの目撃が多いようですし、ここを歩いてる人もあなたたちだけなので何かあればすぐに知らせがくると思います」


するとエーデルがかごの網目にガタッと張りついて、


「お前か!人間にシノベア国の事を言ったのは!馬鹿が、死ね!人間が俺たちを捕まえに来たらどうするつもりなんだ!死ね!」


と騒ぎ始めた。


でもすぐさまサードがギッと睨みつけると、エーデルはすくみ上って黙り込んで反対側の方まで逃げ下がっていく。


それを見ただけでアネモは自分が居ない間に何があったのかを察知したのか、憎たらしい目つきでエーデルを見ていたのに少し同情する目になった。


すると蜂が群がって飛ぶ…ブゥウウンという羽音が聞こえてきて、それがどんどん近づいてくる。どこから聞こえるのと見回しているうちに、木々の隙間を縫うように黒雲を作った蜂たちが私たちの方に飛んできた。


あの蜂の全員がアネモの仲間で何もされないと分かっているけど、思わず恐怖を覚えるわ、これ。


「あなた方が女王と国王を助ける手伝いをして下さるという人間か」


しわがれた声でゆっくりと飛んできた蜂がサードに話しかけいて、アネモは人の姿のまま簡単に紹介した。


「この方は国の古老です。ハルピュイアに頼んでくださったのもこの方で、女王と国王からの信頼も篤い方です」


よろしく、と紹介された古老の蜂が言うから私たちもよろしくと返したけど、絶対他の蜂に紛れ込んだらもう見分けがつかない。今は一番前にいるから分かるけど。


古老は嬉しそうにその場をウロウロと飛んでいる。


「ハルピュイアにも断られ我々ではあのモンスターに太刀打ちもできず困っていたのです、人間とはいえありがたい申し出、感謝の言葉しかありません」


サードも目の前にいる古老の蜂を見上げた。


「こちとら自分の手で仲間殺す所をそっちのアネモが幸運の力とやらで止めてくれてたらしいからな。その礼だ」


仲間。


思わず私とアレンは目を見合わせた。


四年旅をしていてサードが私たちの事をハッキリと仲間と言ったのはこれが初めてかもしれない。


「もしかして、そのことでさっきあんなにエーデルに怒ってたのか?」


アレンが言うと、サードは当然とばかりにアレンを見返す。


「俺だってわざわざ殺したくねえよ、てめえらのことは別に嫌いでもねえし」


サードの口から出てきた言葉に、私たちの間にざわ…ざわ…という雰囲気が流れた。


「サードが…!」


アレンがおののいた表情で私とガウリスを見る。


「サードがデレた!いきなりデレた!」

「…んだよ、でれって」


サードは意味が分かっていない目でアレンを見ている。


でも今の言葉は…正直嬉しい不意打ちかも。

いつも悪態しかつかないサードにこんな自然な流れでハッキリ仲間だって言われて、嫌いじゃないだなんて言われたら…。


思わず私の顔がほころんでニコニコと笑っていると、私と同じようにガウリスもニコニコと微笑んでいる。

もちろんアレンもニコニコと…ううん、アレンはニヤニヤしてるわね。


「なんだてめえらのその顔、気持ち悪」


サードが引いた顔をしてから視線を古老の蜂に戻して、


「で、その熊はどこに居るか分かったのか?」


と聞くと、後ろにいた蜂が一匹前に飛んできた。


「あの熊はここからもっと下にいったところに巣をつくって眠っているの。今はもう起きて食べ物を探してるところだと思うわ」


その蜂から出てきたのは女の子の声。


「ならその辺りまで案内してくれ」


サードはそう言いながら、


「行くぞ」


と私たちに声をかけてきた。


「うん」


ニヤニヤ顔のアレンがそう言って、


「ええ」


とニコニコ顔の私も返事をして、


「分かりました」


と温かく微笑むガウリスがサードの言葉に頷いて応える。


私たちの表情を見てサードは何かイラッとしたのか、


「だから何ださっきからてめえらのその顔、気持ち悪いんだよ!」


と怒りだした。でもアレンはニヤニヤ笑いのまま、


「だってサードって誰に対しても友情表現も愛情表現もゼロだし、仲間とかそういう風に思っててくれてたんだなぁって思ったら嬉しくってさ。嫌いじゃないってことは俺らのこと好きってことだろ?な?」


サードは嫌な言い方しやがる、と言いたげに眉間にしわを寄せたけど、


「誰が嫌いな奴と行動なんてするかよ」


と吐き捨てた。


ああなんだ、散々あーだこーだと文句言ってきていても、私たちのことは気に入っててくれてたの。


そう分かったら余計に顔がニヤけちゃうわ。特に私なんてサードと気が合わなくて言い合いも多いもの。それに魔法の力と純金になる髪の毛目当てで一緒にいるだけって思っていたし。そっか、それでも嫌いじゃないんだ。


「サードももっと今みたいな言葉を私たちに言えばいいのに」


るんるん気分で言うと、


「軽々しく言わないからこそ先ほどのような言葉が映えるんですよ」


とガウリスが私にそっと声をかける。


そんな私たちを見ているサードは怒った顔から少しずつ呆れた顔つきになってきていた。


「…最近なんでてめえらは一々結託してかかってくんだ?楽しいのか?」


「だってねぇ、嫌いじゃないとかいきなり言われたらねぇ」


アレンとガウリスの顔をニヤけた顔でチラと見ると、ニヤニヤとアレンは笑ったまま私の言葉に被せてくる。


「だよなぁ、サードはそんなこと滅多に言わないから、もうちょっと引き出したいよなぁ」


「私はサードさんに仲間と言ってもらえて嬉しいですよ。一番の新参者で半ば無理やりついてきたようなものですから」


サードは呆れ顔のまま前を向いた。


「んなことより気ぃぬくなよ、これからこの山のボスをぶっ倒しに行くんだからな」


サードはそう言うと私にエーデルの入った虫かごを持つよう指示しを出すと歩き出した。それに合わせて蜂の大群もわんわんと羽音を鳴らしながら動いて行く。


サードの後ろを歩いていてふと思って聞いてみた。


「思えばサードって昔から好きとか言わないわよね?女の人にもろくに」


ラブじゃなくてライク程度の意味合いでもサードが誰かに好きと言ってるのを見たことがないのに今気づいた。そう、それが女性を口説いてる最中だったとしても。


わずかにサードは私を振り返る。


「悪いか」


「悪くないけど…口説いてる女の人にも言ってないなって思って」


「俺の生まれ育ったところじゃてめえらみてえにホイホイ言わねえんだよ」


そうなんだ、と思ったけどこの世界じゃないサードの故郷の話となると少し気になる。


「じゃあサードの故郷でハグとかは?」


「親子だろうがやらねえよ。男女間では知らねえ。向こうでそんなもん知る前にこっち来たし」


サードが前を向きながらそう言う。


好きとも言わないでハグもしないって…。サードの故郷のサドの人たちってどうやって愛情表現をしていたの…?


でも十四歳の頃、サードと仲良くなろうと勇気を出して朝の挨拶と共にハグをしたら体を硬直させて、「なんだ!?やめろ!」と拒否してきたのも、そういうハグをしあう習慣がなかったせいで混乱したのかしら。分からないけど。


まあ、好きだ愛してるなんて言葉を軽く言って簡単にハグするようになったら女遊びが酷くなりそうだからサードはこれくらいでいいのかもね。


…でも口説いている女の人に好きとは言わないけど、肩に手を回したり腰に手を回したりっていう普通以上のスキンシップはごく自然な流れでしているじゃないの…。サードの中ではそれとこれとは別なの?…分からない、何が違うのかさっぱり分からない。


たまに私かごの中のエーデルをチラチラと見るけど、エーデルは大人しく膝を抱えたままでちっとも動きやしない。

あまりに静かすぎるからショック死したんじゃ、と思わず目線の高さまでかごを上げて見ると、うつろな目が瞬きをしている。


ああよかった、生きてた。


すると一匹の蜂がサードの前まで飛んできて止まった。


「例の熊がいました!ここから数百メートル下方にて野うさぎを食べています!」


緊張が走る。


「そういえば熊型のモンスターって、俺たちも食べたりするのかな」


「だと思いますよ。獣型のモンスターは大体人を食べるはずです」


アレンがふと思いついたように言うと、後ろからガウリスが簡単に答える。アレンは「うへえ」と嫌そうな声を出した。


「下方のどっちだ」


サードが前から飛んできた蜂に聞くと、蜂は鎧を着た兵士という人型の姿になって、指を左下方を指さす。


別に危険な状況にならなくても人型になれるのね。


兵士姿の蜂が指さした方向は道のない、鬱蒼とした木々の生い茂る山。


サードは自分のひとさし指を舐めて空中に掲げる。


「…こっちが風下だな、ちょうどいい」


サードは改まったように私たちを見た。


「できるだけ短時間で仕留めてえ。エリー、お前はドラゴンのガウリスを押さえ込んだ時みてえにひたすら周りの木で熊を絡めとれ。暴れて木の枝へし折ろうが、ひたすらがんじがらめにしろ。そこをひたすら俺たちが突き殺す」


私は頷いた。


「足音はできる限り立てるなよ」


サードはそう言いながら周りを飛び回っている蜂たちに目を向けた。


「てめえらも集団だと羽音がうるさくて勘付かれるかもしれねえから戦えねえやつは帰れ。戦える奴は十匹から二十匹程度に別れて散れ。このエリーが木で熊を絡めとったら一斉に攻撃しろ、分かったか」


蜂たちはサードに指示されて少し戸惑った様子を見せたけど、戦えないと判断した蜂たちは遠くへと散り散りに去っていって、戦い蜂らしい蜂たちはあちこちに散っていく。

でも数十匹ずつに別れて、というサードの指示だったけど、パッと別れもしないでわちゃわちゃ飛びながら少しずつ散り散りに離れていっている。


…兵士ってもうちょっと隊列を組むとか自分の配置につくとかあるものじゃないかしら。戦い蜂は兵士の見た目だけど、あんまり戦闘には向いて無さそうだわ。


「…どうもあいつら、戦闘に関しては素人だな」


サードも蜂たちをみて私が思っていたようなことを思ったのか独り言のように呟くと、ブツブツと文句のように続けた。


「大体にして国の大将が敵いもしねえ奴に向かうことからしておかしいんだよ。普通は大将が討ち取られねえように家臣がどうやっても命がけで守るもんだろうが。上の奴らが居なくなればあとは敗走するだけって、誰か気づかなかったのかよ」


「だって普通の熊がシノベア国に現れたことすら妙な出来事だったんだろ?アネモの話聞いてると建国以来ずっと平和だったみたいだから、戦い蜂でも一度も戦ったことないんじゃね?」


アレンの言葉にサードは「平和ボケか」と吐き捨てながら道なき道を少しずつ下っていく。


岩だらけのガレ場も歩きにくいけど、こうやって草と低木の枝が張り巡らされている斜面も歩きにくいわ。


なるべく足音を立てないように、斜面を滑り落ちないように…と気をつけながら進んでいくと、強い獣臭が臭って来た。


と、サードがいきなり手をこちらに向けてくる。止まれの合図…ウッ。


あまりにも急に伸びてきたサードの手の平は、衝撃のほとんどを吸収する質のいいローブをすり抜けて、そのまま私のみぞおちにドッと綺麗に入ってきた。

でもうめき声が出る間もなくアレンが私の口を後ろからふさいで声を押さえてくれる。


普段だったらサードにもアレンにも文句を言うところだけど、サードが慌てて止まれと合図を送って、アレンも今私のうめき声が出たら危ないと判断したから口をふさいだのは知ってるから私だって何も言わない。

っていうか、あまりに綺麗にみぞおちに攻撃された鈍痛で息が詰まって何も言える状態じゃない。アレンを支えにしておかないと倒れてしまいそう。


そんな苦しい中でも私は十一時の方向、三十メートルほど先にいる黒いものを警戒するように見続けた。


そこにいるのは熊型のモンスター。熊なんて近くで見たことがないけど…四つん這いの状態でも私より大きいんじゃないの?


でもさっきの蜂は数百メートル先にいると言ったはずなのに、何でこんなに近くにいるの?…ちょっと待って、思えば蜂と私たちの体格は違うんだから距離の感覚も違うんじゃ。


でも熊型のモンスターは私たちの方向に背を向けていて、こっちには気づいていないみたい。


サードが熊型のモンスターから目をそらさないまま、やれ、と私に指で合図を送ってくる。


あんたのせいで痛くてろくに動けない状態なのに…!この…!


怒りも湧くけどそれより今はあの熊のモンスターをどうにかしないといけないんだと自分に言い聞かせて、鈍く痛むお腹を押さえながら魔法を発動する。


周りの木は静かに静かに枝をシュルシュルと伸びてねじ曲がって、熊のモンスターを捉えようとする。


よし、まだあの熊のモンスターは気づいてないわ。あともう少し。まずは首と手足に木の枝を巻き付けて動きを少し止めて、あとはそのまま体をがんじがらめに…。今!


木の枝はザザザ、と熊のモンスターの首に、手足にと伸び…。


「ぶほっ」


熊のモンスターからそんな音が聞こえたと思ったらその重そうな頭が前に動いて、そのまま斜面で足が滑ったのかゴロリゴロリと転がっていった。私が動かした木の枝は熊のモンスターがいたところで行き場を失ってそれぞれがこんがらがってしまう。


熊のモンスターは少し下の木にどすんとぶつかって止まる。そして起き上がって、


「ぶほっ」


とさっきと同じ音を出して、ズビ、と鼻をすすった。そのまま熊のモンスターは私たちの方をチラとみてくる。


「まさか今のは…クシャミ…?」

「わぁ、くしゃみで避けるなんて運がいいやつだなぁ」


ガウリスの言葉に、アレンから感情のこもっていない、これやべえじゃんと言いたげな引きつった声が出る。


熊は私たちを視界に捉えて、敵が来たと感づいたみたい。歯をむき出して、口を大きく開けてウオォオオ!と叫ぶと私たちに向かって斜面を突進してきた!

子供のころ、きょうだい喧嘩で綺麗にみぞおちに肘を入れられたことがありました。みぞおちに綺麗に攻撃が入ると人って本当に動けなくなるんですね。

しばらくの間、私は横たわってピクリとも動かなかったのできょうだいは多少心配したそうです。

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