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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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驚きの再会!そして始まる恋バナ

ガワファイ国を目指し西へ西へと歩みを進めていた途中。

立ち寄った国で丁度よく数ヶ月に一度行れる冒険者試験があったからガウリスは試験を受けて、冒険者の戦士として登録された。


ガウリスを見送りに試験会場に皆で一緒に行ったら冒険者になろうとしている人たちに気づかれてあっという間に囲まれてしまって、あまりに騒ぎが大きくなったからガウリスを置いて先に宿に向かったのよね。


その数時間後。


ガウリスは微妙な表情を浮かべながら宿にやって来たから、もしかしてあの簡単な試験に落ちたの?って心配したら…、


「…サンシラ国出身だと言っただけで口頭試験も実技試験も合格したのですが…本当にこれでいいのですか…?」


と何とも言えない表情と納得できない声色で言っていた。


まあね、ガウリスの体格も身のこなしもただ者じゃないって分かるし、この辺でサンシラ国の人って聞いたら合格は間違いないわよね…。


ガウリスが冒険者カードを手に入れた次の日にはガウリスを仲間として申請して、出発した。


「仲間が増えるっていいなあ。最初はサードと二人だけだったけど、成り行きでエリーも一緒になって、ガウリスも仲間になって…」


アレンはガウリスが正式に仲間になってから嬉しさを隠しきれてなくて無駄にガウリスに絡みにいっている。でも私だってガウリスが仲間になってくれて嬉しいけどね。


最初は神殿に送りに行くだけと思っていたけど、そんな短い間だけでガウリスは私たちから絶大な信頼を得てほとんど仲間状態になっていたんだから。


サードだって表にはろくに出さないけど、ガウリスを信頼していると思う。

私の髪の毛のことを言ったと伝えてもろくに怒りもしなかったし、思えばパーティ内で決めるような重要な話にもガウリスを普通に交えていたし…。


最初はガウリスの神様寄りの言葉にギスギスしていたけど、サードは孤児院の神父が面倒になってアレンと仲間になって冒険に出たみたいだから、宗教関係の人がいたらまた面倒なことが起きるって警戒していたのかも。どうかは分からないけど。


そうやってその日も日が暮れそうだから町で宿にチェックインした。


もちろんそれぞれが個室で、私だけが一番いい部屋をあてがってもらっている。

そのいい部屋でサードも毎日のルーティンワーク、『寝る前の私の髪の毛とかし』を終わらせて、部屋を後にしていく。


「…ふう」


サードが部屋から出ていったのを見送ってから、私はポフンとベッドに横になった。


「疲れた…」


ベリロッド国からここまでの道のりは険しい山の連続で、足場が岩だらけの…アレン曰くそういう場所はガレ()って呼ぶらしいんだけど、転んだらそのまま数メートル下まで滑落するような危険な地帯を通って来た。


その全部の山がカームァービ山の一部の尾根だとか山脈だっていうんだから、カームァービ山がどれだけ大きいのかこの数日で体感して改めて分かったわ。


山岳地帯の小さくてかわいい花、透き通った山の湖…そんな夏場にしか見られない見応えのある景色も見られて心が洗われたけど、それでも足場はやっぱり悪くて、緊張しながらずっと歩いてきたのが今ドッと押し寄せてきている。


急ぎの旅じゃないから明日は一日この町でお休み、朝ごはんも各自好きな時に。って決まったから、明日はいくら遅くまで寝ていてもサードに叩き起こされることもない。


明かりを調節できる魔法陣をいじって薄暗くしていそいそとベッドの中に潜り込んで、シーツを肩までかけて目を閉じた。

目をつぶるだけで睡魔が襲ってきて、ゆるゆると眠りに落ちかける。


この眠りに落ちる時のフワフワ感…最高…。


するとガチャッと扉の開く音が聞こえて、素早く起き上がってドアに視線を移す。


「なに?サード?」


鍵も閉めているのにわざわざドアを開けて入ってくるのはサードしかいないわ。

せっかく気持ちよく眠りに落ちかけていたのに、という不機嫌な声を出しながら起き上がってドアに向かって睨むけど…。


「あ…れ?」


ドアの前で立っているのはサードじゃない。女の子…ううん、この子は…!


「ラグナス!?」


スライムの塔のラスボスの魔族で、魔王の側近で、でも仲良くなったラグナスだわ!


私の眠気は吹っ飛んで、ベッドから飛び降りて駆け寄った。


「どうしたの?なんでここに?」


するとラグナスはムフフ、と笑って私の手を握る。


「言ったでしょ、私は転送と転移の魔法が得意なの。一瞬で遠くの国にだって来れちゃうの」


「あたしもいるわよ」


ラグナスの後ろから聞こえた声に顔をあげてラグナスの後ろを見ると、黒髪の黒い目、でも明かりに当たるとうっすら青く光る瞳を持つ美人な女の人…!


「ロッテぇ!」


思わず飛び上がってラグナスとロッテの手を掴んでその場で飛び跳ねた。


旅の途中なのにいきなり知り合いが現れた時の感動は言い表せない。とにかく嬉しい。眠気どころか疲れも吹っ飛んだ。ような気がする。ううん、体はともかく気持ちの疲れは吹っ飛んだ!


「なになに、どうしたの?どうしてここに来たの!?何でここに私がいるって分かったの!?」


はしゃぎながら聞くとロッテは、チョイチョイと自分の首を指さした。


「別れる時に渡したでしょ?それ、居場所がわかる首飾りだから」


そういえばずっと身につけてたこの首飾りってそういうものだっけ。でも一ヶ月以上もかかる場所から一瞬でここまで来られるなんて…。


「まあ渡したわりに全然確認してなかったんだけど、今ラグナスがうちに遊びに来てエリーの話になってさ、今どこに居るんだろうって確認してみたんだ。そうしたら目的地のサンシラ国通り過ぎてるからどうしたんだろうって気になったから来ちゃった」


てへ、という声が聞こえてきそうな顔でロッテが言う。


なるほど、それでラグナスの得意な転移でここまで来たというわけね。

ドアの向こうには一面本棚に覆いつくされた大広間が広がっているから、確かにロッテのあの本屋敷からここに来たみたい。


するとラグナスが私の腕を指でツンツンとつついてきた。ラグナスに目を向けると、ラグナスは紙の箱を抱えていて、


「デン、デン、デン、デーーン」


と音階を一つずつ上げて、その声に合わせながら紙の箱を少しずつ開けて全開にした。


その中には美味しそうな見た目の茶色い…マフィン?これはもしかしてマフィンなの?


「昨日チョコマフィン作ったの。ちょっとずつ私のおやつのレパートリー増えてるんだ。皆で食べようよ」


「いいの!?」


「当たり前じゃーん、なんのために見せびらかしたと思ってるの。食べるためだよ。せっかくだから女子会しようよ。私、家からミルクティー持ってくる」


ラグナスは一旦ドアの向こうに消えてドアを閉めて、すぐに可愛らしいティーセットを持って戻って来た。


その後ろの空間は本棚だらけの大広間じゃなくて、ラグナスが生態調査員という名目上住んでいるあの小屋。


一ヶ月以上もかかる場所をこうやって行き来できるなんて、羨ましいわ。これだけ自由にあちこち移動できるんだからラグナスはあんなガレ場も歩く必要もないのね。


「それでエリーは?サンシラ国を通り過ぎてるけどどんなことがあったの?あたしの屋敷から去った後から話聞かせてよ」


ロッテにそう言われて私は今まであったことをかいつまんで話した。


海の上でのサードのグロッキー状態、海賊との遭遇、ヤッジャ船長のこと。

サンシラ国での子供誘拐事件、誘拐事件の解決、ゼルス神にさらわれ襲われかけたこと、神との対話。

水のモンスターは冥界の王がどうにかしてくれること、サードの過去の話、ガウリスが正式に冒険者になって仲間になったこと…。


かいつまんで話したけど、あまりにも色々とありすぎてかなり時間がかかってしまった。


でも二人は集中力を切らすことなく、頷いたりたまに質問をしてきたりと話を聞いていた。二人とも魔族だけど一ヶ所に定住していて歩き回ることがないから、色んな国の話、そこで起きたちょっとした出来事は全てが新鮮みたい。


「けどサードの名前って本当はキーチって言うんでしょ?サード呼びのままでいいの?」


「それなんだけどね」


冥界でサードの話を聞き終わったあと、アレンもサードに聞いていた。


「じゃあ俺らもこれからはサードじゃなくてキーチって呼んだ方が良い?」


するとサードは即座に渋い顔をして首を横に振って拒否した。サード曰く、


「通行手形も冒険者登録もサードで登録してるし、サード呼びも慣れた。そもそも『はじめに喜ぶ』っつー名前、俺には合ってねえんだよ」


その話をするとロッテとラグナスは吹き出して、大笑いしてテーブルをバンバンと叩いた。


「自分で言うか!」

「自分で言うな!」


二人とも腹を抱えて大笑いし続けている。笑い過ぎて流れる涙をぬぐいながらロッテは、


「しっかし、本当に別の世界があったんだね」


と呟くと、ラグナスはまだひーひー言いながらも頷いて、


「ねー。しかも別の世界の神様がこっちに来てるみたいじゃん?元々いた世界から引っ越してきたのかな」


と返す。ロッテはさあね、と首を傾げながら、


「でもエリーの会ったバーリアスっていう神の話だと、自由に行き来できるんじゃないの?ヨモツなんだかみたいな冥界に行く道もサードが元々いた国の神話に出てくるものなんでしょ?」


ロッテが質問してくるから頷きながら…とはいっても曖昧(あいまい)に覚えていることだから控えめに頷き返した。


「バーリアスはそういう所は色々繋がってるとは言ってたわ」


ようやく笑いの収まったロッテは、息をついて、少し悔しそうな顔をする。


「やっぱりそういう所を自由に行き来できるのは神ぐらいのものか。行けるんならあたしだって別の世界に行って色んなもの見てみたいけど…神とは関われないからなぁー…」


「私はサードの踊る姿見てみたいけどね。あんな俺様が一番みたいなプライドの塊が女装して踊るなんて信じらんない。私だったら笑っちゃうかも」


ラグナスは、もっもっ、とマフィンを頬張りながらそんなことを言っているけど、私は真面目な顔でラグナスを見た。


「笑うより言葉を失うわよ。本当に」


ちなみにサードの過去…養父に襲われかけた話はサードの気持ちを考えて話していない。でもサードの女装して踊った姿は未だに頭の中に鮮やかに残っているからつい話してしまった。


あの姿を思い出しながら私はうっとりと続ける。


「本当に凄かったの。正体は男のサードだったけど、女の私が女性相手に恋に落ちそうになるくらいだったのよ?それくらい凄かったんだから」


「…そんなに?」


ロッテが信じられない、という顔をしながらも興味の引かれた表情になっている。


「そう言われると見たくなるよね」


ラグナスはそう言っているけど、冥界で踊った時も何度も倒れそうになったって言っていたんだからもう二度と踊らないでしょうね。それにあの踊りに必要な物も神のバーリアスでさえ集めるのに苦労していたんだから。


でも二度と見れないとなるとすごく残念な気持ちだわ。


「本当に綺麗だったなぁー、サード…」


ほぅ、頬杖をつきながらため息をつく。


「本当に恋する乙女みたいな顔じゃないの」


ロッテが茶化すように言うから慌てて表情を戻した。これ以上そんな恋する乙女みたいな話題でからかわれたくない。


するとロッテはふと思いついたように聞いてくる。


「そういやアレンとはどう?上手くやってる?」


私はミルクティーに手を伸ばしながら、


「ええ。アレンも海賊に襲われた後、強くなりたいって言って自分から特訓を始めてるわ。私は魔法を教えててね、まだアレンは全然使えないみたいだけど…」


ロッテは首を横に動かした。


「違うくてさ、アレンとの仲よ。進展した?」

「…仲?進展?」


何のこと?とロッテを見返す。ロッテはじれったそうに身を乗り出した。


「ほら、あたしの屋敷にいるときに二人で部屋にいて、お互いに好きって言い合って良い雰囲気になってたじゃないの」


「えー、うそ。あの赤毛の子と出来てたの?そんな感じしなかったけどなぁ」


ラグナスも驚いた顔で私を見てくる。けど私はラグナス以上に驚いた顔になって、慌てて腰を浮かせて身を乗り出した。


「ななな、何を言ってるの!アレンとはそういう関係じゃないから!旅の仲間だから!」


「あの雰囲気は恋人同士にしか見えなかったけどなぁー」


怪しいー、とロッテが笑いながら見てくるけど、ちょっと待ってよ、何を勘違いしてるのよ!


「違うってば!そりゃ昔はアレンのこと好きだったけど、今はそんなんじゃ…」


「好きだったんだ?」


ラグナスは興味を持ったみたいで目を見開き、身を乗り出して聞いて来る。


「へー、聞かせてよ。人間の恋愛話って興味あるわ」


ロッテは興味津々で、ラグナスも期待しているような顔で私をジッと見つめてくる。


「い、いや、でもそれって過去の話だから…」


自分の恋愛話に食いつかれると恥ずかしい。


「いいじゃん、いいじゃん、聞かせてよー」


ラグナスが私の手を掴んでブンブンと振り回してくる。


…恋愛話が好きなのは人間の女の子に限ったものじゃないのね。でも恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけど…。


しばらく黙っていたけど二人の熱視線に押し負けて、ポツリと語りだした。


「あれは私がサードとアレンに出会って旅を始めて…半年くらいだったかしら…」

Q,明かりを調節できる魔法陣…あれ、サード魔法使えないから魔法陣があっても部屋の明かりいじれないんじゃね?


A,黒電話のジーコジーコ回す部分みたいな魔法陣が壁にある。魔法の供給は宿側の魔導士がやってるから魔法使えない人でもその魔法陣をジーコジーコ回せば明るさを適当に調節できる。何かトラブルがあって明かりが落ちた時用に部屋にロウソクもあるけど、これくらい完備されてる宿はお高い宿。

あと黒電話はジーコジーコ回すのめっちゃ楽しい。

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