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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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出発と別れ

どれくらいハチサブロウと話し合ったのか。

影みたいな男に促されて八三郎は戻っていって、私たちは再びレデスの元に呼ばれて目の前に行って、告げられた。


「魔界の微生物は数が増えているから一度に冥界に引きずり込むことはできない。だから少しずつ数を減らすよう努めよう。人間の時間で長く見積もって五週間くらいか」


十分に短い時間だわ。

魔族でも手を上げたのに神様の手にかかるとあっという間に解決するのね、すごい。


アレンと一緒にそんな尊敬の目をレデスに向けていると、その気持ちが伝わったのかレデスはどこかはにかんだ雰囲気で視線を私とアレンから逸らして、その後全然こっちに目を合わせてくれなくなった。


神様なのに尊敬の目を向けられただけでそこまではにかまなくても…。


「いい加減地上に戻れ」

「本当は寂しいくせに」

「やかましい、出ていけ」


バーリアスが茶化すようなことを言うとレデスが静かに言葉を放って、私たちは気づいたらレデスのいる整備された居住地の外に立っていた。


「あーあ、追い出されちゃった。ま、用も済んだし戻るか」


バーリアスはそう言いながら歩いて行く。


「けどレデスには迷惑をかけたなぁ。本当はやりたくもなかったんだろうけど」


アレンが呟くとバーリアスは笑いを押し殺しながら振り向いた。


「何言ってんだ、オッサン、本当は東洋の踊りすっげー見たがってたんだぜ。だけどそれだけでホイホイ引き受けたら冥界の王としての威厳が損なわれるから、ああやって俺に無理やり頼み込まれたからしょうがなくって構えを見せたかったのさ。プライド高いからさ、あのオッサン」


「面倒くせえー」


面倒くさい性格のサードが何か言っている。


「何言ってんの、そこがレデスのオッサンの楽しい所なんだよ」


バーリアスは笑いながら冥界に来る時にも通った崖のある急な道…ヨモツヒラサカっていう道を通って戻っていく。

そういえばサードから聞いたんだけど、ヨモツヒラサカってサードの元居た世界の神話に出てくる冥界に繋がっている道なんだって。


私は気になって一番前を歩いているバーリアスに声をかけた。


「ところでこの道ってサードが元々住んでた国に繋がっているの?」


「繋がってるぜ。色んな世界のこういうところは全部繋がってるのさ」


「マジで!?俺サードの住んでた国に行ってみたい!」


アレンが目を輝かせたけどサードは笑う。


「やめとけ、バテレンだって殺されるぜ」


「え?何で?つーかバテレンって何?」

「話すと長くなるから面倒だ」


サードはいつもの決まり文句を言うとそれ以上何も言わなかった。アレンも死にたくないからいいや、とそれ以上何も言わなくなった。


そうやって崖を登り切って外に出ると、元々の地上に出てくる。

明るい日差しが降り注いできて、とても生まれ変わったみたいな…清々しい気分。


「じゃ、四人ともお元気で!これからの旅先の安全を、このヘルメスことバーリアス神が見守ってやろう!あんたらに幸あれ!」


バーリアスが腰に手を当てて、片手を上げてバチンとウィンクしてくる。あまりにも嫌味らしくないこなれたポーズには感嘆すら出るわ。


サードはもうバーリアスに関わりたくないみたいで遠く離れた所に立って明後日の方向を見ているけど、アレンはバーリアスと握手した。


「ほんっと、あんたが居なかったらあの水のスライムとかどうにもできなかったよ。ありがとう」


「どういたしまして。素直にそう言われると気分いいね」


バーリアスも嬉しそうに笑ってガッチリとアレンと握手をした。そしてその後、ガウリスの前に歩いていく。


「ガウリス、あんたももう人間じゃねえけど、なんでドラゴンにされたかわかるか?」


バーリアスはガウリスとも握手しながらそう聞いた。


ガウリスは少し戸惑ってから、


禁足地(きんそくち)に赴いたから…」


と言うとバーリアスは「違う違う」と笑って首を横に振った。


「サードの方があのドラゴンについては詳しいだろうけど、あれは天候を操る神みたいな存在なんだ。あんたもあの姿になって空を駆け回って、何度も雲を作って雨を降らせて薄々勘付いただろ?こうやって水不足のサンシラに雨を降らせればいいのかって。

アポロ…ああ、ここではリンデルス神か。あいつがあんたの姿を変えたんだけど、そいつは俺と一緒に東洋に行ったときにその存在を知ったんだ。だから禁足地に来たあんたをその姿に変えた」


バーリアスは少しふざけた顔を引っ込めて、腕を組んでガウリスを見上げる。


「知ってる通り俺の親父のゼルスも天候を操る神で、人の願いに応え続けた。でもそのせいで存在が軽んじられてつけあがる神官も出てきたから今は人間の願いは無視してる。けどそれだと作物の実りに影響があるだろ?

それなら自由に動ける神じゃないけど願いに応えられる存在が一人でもいれば…ってリンデルスは思って、罰を与える形でどうにか水不足を解決したかったんだよ。別に俺ら人間のこと無視してても嫌いなわけじゃないし、ガウリスなら神と会ってもつけあがる心配もないだろうし。

…けど予想外に人間があの姿にビビッて追い出しちまった。そこまであいつ気ぃ回らなかったんだろうな。大事な所で抜けてるからさ」


バーリアス楽しそうに笑っている。そんなに笑うことじゃないと思うんだけど、ガウリスは。


「じゃあ、ガウリスここに残った方が良いってこと?やだ寂しい」


アレンが悲しそうな顔でガウリスを見ると、ガウリスは首を横に振った。


「いいえ、私はもう神官を除名処分された身です。これはもうどの神殿にも行けないということ示しているのでもう戻るところはありません」


そう言われると両親たちと生き別れた状態で故郷を出た私からしてみたら胸が締め付けられる気持ちだけど、ガウリスは神殿から立ち去る時と同じさっぱりとした表情をしている。


「おい、まだかよ」


サードが離れたところからイライラした口調で怒鳴ってきた。


「おーこわ、嫌だねえ、別れくらいゆっくりさせてくれたっていいじゃんかねえ」


バーリアスは怖い怖いと言いながら私の肩に両手を回して抱きつく姿勢になる。


「やめて」


私はさっくりと肩から手を払い落す。


「俺、性格も含めてエリーのこと結構タイプなんだけど、結婚しない?」


「しない!どうせ会う女の人全員に同じこと言ってるんでしょ」


バーリアスを睨みつけながら言うと、


「まあね」


と、悪びれもせず笑って離れたけど、思い直したみたいに私の肩に手を置いた。


「エリー」

「何よ」


バーリアスの顔を睨みあげると思ったより真面目な目つきで、黙って肩を抱かれるがままに見返した。


「忘れるなよ、お前の中には神の血も入ってるってこと。お前はいつでも神に愛されている。それと同じく魔族にも愛され、精霊にも愛され、モンスターにも愛されてる。世界の万物がお前を愛してる」


…何言っているの?この人。


妙な顔をしてバーリアスを見ていると、バーリアスはニッと笑った。


「そのことに気付けたら、エリーはもっと強くなれると思うぜ。じゃあな」


バーリアスは素早く私の頬に唇を当てた。


「ちょ…!」


バーリアスを突き飛ばそうと手を伸ばしたけど、その前にバーリアスは消えていて私の手は虚しく空を押した。

後に残ったのはアハハハ、と楽し気に天に昇っていくバーリアスの笑い声だけ。


「わぁ、エリー神様からキスしてもらったじゃん。ラッキーだな」


アレンがそう笑っていて、ガウリスも、


「祝福ですね。きっと幸がありますよ」


と微笑んでいる。


「笑いごとじゃないわよ!いきなり…」


唇を当てられた頬を押さえていると、遠くに見えるサードが憎たらしいものを見る目つきで私たちを見ていた。


いい加減こっちに来いってこと?


「…まあ、行きましょう」


まあ別に唇を奪われたわけでもないし、ほっぺだったし…まあいいか、と歩き出してサードと合流する。

でもやっぱり納得できなくて、文句たらたらとガウリスに顔を向けた。


「ガウリスが信仰してる神様たちって手が早い人が多いんじゃないの?そういうの分かって信仰してるの?」


「そのような人間臭いところも人気があるのですよ」


ガウリスは笑いながら言う。


…まあ確かに、私の思っていた完全完璧な神じゃなかったけど、全員が完璧ってわけじゃなくて自分の思った通りに動き回る神様たちだった。そのせいで妙に身近に感じられるところはあったけど。


でもサードの国のヒトコトヌシという神様は段々と落ちぶれて汚い身なりになっちゃったみたいだし、神様の世界も色々あるのね。


「とりあえず水のモンスターの件はレデスがちゃんとしてくれるから安心だな」


アレンの言葉に皆が頷くとアレンは続ける。


「用件も終わったから、ハロワに行って別の依頼探すか?」


「おう」


サードがそっけなく返事をすると、おーい、という言葉が聞こえる。立ち止まって辺りを見渡すと、またおーい、という言葉が聞こえてきて、皆が声の主を探した。


すると丘を誰かが槍を持って駆け上がって来るのが見える。


なに?盗賊?と身構えたけど、よくよく見るとそれはヒトヌスのお父さんで神殿の副神官補佐のツリアヌスだった。


「ツリアヌスさん」


ガウリスが声をかけながら近づいた。


ツリアヌスはホッとしたような顔で駆け寄ってきて、ゼーハーと肩で息をしている。


「よかった、もうこの国から出てしまったのかと思っていました。こっちの方に勇者御一行が向かったというから慌てて走ってきましたよ」


ゼーハー言いながらツリアヌスは顔を上げる。


「どうかしたのですか」


ガウリスが問いかけると、ツリアヌスは持っていた槍をガウリスに渡した。


「アポリトス様からあなたへこれをと」


ガウリスは槍を受け取り、ツリアヌスを見た。


「これは、父の槍では…」


ツリアヌスは微笑みながらガウリスを見た。


「これを渡してきてほしいと頼まれました。『古い物だが質は良いものだ』と、これを旅の守りにしてほしいと…」


「…」

ガウリスが黙ってその槍を見ていると、ツリアヌスはそっとガウリスに声をかけた。


「アポリトス様は少々愛し方を間違い、あなたはその愛され方に反発しました。しかしあなたのお父様は昔から今でもあなたを愛していますよ。そのことは分かっていただけますよね?」


ガウリスは眉をひそめながら目をつぶって、少し考え込んだ後に目を開けた。


「…はい。分かっています」


ガウリスはサードに目を向けて申し訳なさそうな顔をする。


「せっかく買っていただいた槍ですが、父の槍と交換してもよろしいですか?」


「ええ、ガウリスが思ったようになさってください」


声が聞こえた時点で表向きの顔になっていたサードは微笑む。

でもあっさり手放すことを認めたんだから、きっとガウリスはまた中古の安い槍を買ったのね。


そして元々持っていた槍をツリアヌスに渡して、受け取った槍をしっかりと持ち直した。


「…父は私のためを思っていたのだと頭では理解しています。しかし目の前にするとどうにもならず口調や態度が悪くなってしまいました。

そのことは本当に申し訳ないと思っています。ここまで育ててくれた恩は忘れない、私も愛していますとお伝え願えますか」


ツリアヌスはホッとした顔でガウリスの手を取って額に近づける。


「神の名において、あなたに愛と祝福を」


そう言いながらツリアヌスは顔を上げてガウリスを真っすぐ見上げた。


「いつでも帰ってきてください、それがかなわないのならば手紙を送ってください。皆…あなたのご両親も神殿の皆も喜びます。あなたがどんなことになってもここはあなたの故郷なのですから」


そう言われたガウリスはさっきまでのさっぱりとした表情が崩れて、少し泣きそうな顔つきになって、


「はい」


と震える声で何度も頷いた。

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