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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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サードの会いたい人

「本当にあれってサードだったの?嘘だろ?」


元の男の姿に戻ったサードに、アレンが悲しそうな表情で問いかけている。


「違うって思いてえんだったら違うって思っとけよ、うぜえ」


サードは私たちに合流するときには元々の不満気な表情と傲慢な態度に戻っていた。…さっき私が見たサードは夢だったのかしらと思えるくらい。


「しかし素晴らしい踊りでしたね。あのような踊りは初めて見ましたよ。まさか女性の格好をして踊っているとは思いませんでした」


ガウリスが素直にサードを褒めると、サードは鼻で笑う。


「俺の所では女が舞台の上にあがると風紀が乱れるとかで男が女の役もやるんだ。元々は女が男装して、男が女装して怪しい芝居してたらしいけどな。あーあ、俺はそっちの方が良かったな」


本当にさっきあった出来事って夢だったのかしら。…まあ元気そうならまずいいけど…。


今は影みたいな男の後ろを歩いて移動している。

冥界は案外と広くて、暗いようでもそれなりに周りを見渡せるくらいはボンヤリと明るい。


それに冥界に到着するまでは自然の洞窟みたいな所を通ってきたけど、冥界はわりときちんと整備されている。

バーリアス曰く、整っているのはレデスがいる辺りだけみたいだけど。


私はさっきレデスとサードが交わした話を思い出した。


「お前が会いたい者は別室に移動させている。気がすむまで話すといい、案内は他の者がやるからその者についていけ」


男の姿に戻ったサードは軽く鼻を鳴らして頷くと、レデスはサードをまっすぐ見る。


「弟…ゼルスは勇者であるお前にも目をかけていた。元々この世界の者ではないようだが、他の世界に移動するような力を持っていないお前がどうしてここにいるのか不思議に思っていたらしい。

どうやってここに来たのかはゼルスにも、私にも見えん。他の者の力が働いているのだろう。無理に連れてこられたのならば元の世界に戻してやってもいいと言っていたが?」


そう言われたサードは少し眉間にしわを寄せて、


「いらねえ、ほっとけ」


とそっけなく返していた。


やっぱりサードは別の世界の人なんだとそこで思ったけど…。


すると影みたいな男はある部屋の前で立ち止まると、フッと消えた。

アレンがビクッと肩を震わせて、キュッと私のローブを掴んでくる。でも普通、女の私が脅えて男のアレンの服を掴むものじゃないの?


サードがその部屋の扉を開けようとするのを見て、今更ながらに「あっ」と思ってアレンとガウリスに声をかける。


「サードは二人で話したいんじゃない?私たちはあっちに行ってる?」


つい影の男に案内されたから一緒について来ちゃったわ。


「そうですね。私たちは遠慮しましょうか」


ガウリスもふと気づいたみたいでそう言うとサードは、


「別にいいだろ。人見知りする奴じゃねえ」


とさっさと扉を開けて中に入る。


でもサードが真っ先に会いたいと思い描いた人…冥界にいるから死んだ人でしょうけど、一体どういう人なのかしら。やっぱり家族?


皆で中に入ると、中にいた人は一瞬私たちを見て固まった。


でもマジマジとサードを見て、


「お、おー?その目…なんだもしかしてお前、キーチか?キーチだな!?」


と駆け足でサードに近寄る。


中にいたサードの会いたい人は…変な頭の男の人。


一瞬、頭のてっぺんが綺麗にハゲ上がっているのかと思った。

でも良くみると両脇には髪の毛があるし、ハゲてるのかと思った頭のてっぺんには棒状にまとめられた髪の毛?が乗っている。

そういうファッション…なのかもしれないけど、変な頭。


身長は私よりも低くてむっちりとした体型で、見たところ平凡そうな人、という印象だわ。実のお父さんにしては似てるところがないし。


そんな男の人はサードの体を遠慮なくベシベシと叩いて笑っている。


「なんだ、べらぼうにでっかくなりやがってこの野郎!昔は風が吹けば飛びそうなくらい痩せてたのにな!やいやいやい、何食ってここまででかくなりやがったんだ?ええこの野郎!」


サードをあそこまで叩いた時点で私にはすぐさま報復が飛んでくるけど、サードは叩かれるがままでニヤニヤと、


「お前、背ぇ低かったんだな」


と笑っていて、男の人は、


「んだとぅ!」


と腕まくりをして身を乗り出した。でも後ろにいる私たちを見て、ヒソヒソとサードに話しかける。


「…それより後ろのバテレンたちはなんだ?キーチ、バテレンと一緒に行動してんのか?まさか奴隷になんてなってねえだろうな、おい」


「サードなんか奴隷にしたら逆にこっちが使われるよ」


アレンが返すと、サードが軽く驚いたようにアレンを見る。


「俺らの会話、聞き取れんのか?」

「…?普通の会話じゃん?」


アレンは何を言ってんの、という雰囲気で返すと、サードは少し考えるように無言になって、


「冥界だと違う言語でも通じんのか…?」


と訳が分からなそうな顔をしている。

そんなサードの後ろからは変な頭の男の人がジロジロと私を見ているから、私も男の人を見る。


年齢は…二十代後半くらい?

濃い深緑のペラペラの布地の上着、下はつんつるてんの薄汚れた白いズボン。平凡そうな人、という印象だったけど、威勢のいい話し方と好奇心に満ちた大きい目を見ると、明るくておしゃべり好きそうな人だわ。


すると男の人はむちむちした体格のわりに素早く私に近づいてきた。


「いやぁしかし、バテレンの女ってのはこんなにいい女ぞろいなのか?いいねぇ、あんた何歳?」


いきなり迫って来たので驚きながらも、


「十八…」


と返すと、男の人はパッと顔を輝かせる。


「十八!?てっきりもっと年上だと思ったな。そりゃあ鬼も恥じらうお年頃って年齢じゃねえの!っくー!いいねえ、こんな女の子と一晩すごしてみてえなぁ!」


「そいつは見た目と中身が一致してねえからやめといた方が良いぞ」


サードがそんなことを言うからムッとしてサードを睨んだ。さっき元気づけたのにその言いざまは何なの。


男の人はまあまあ、と私の腕を叩いてなだめながら、


「あ、俺はハチサブロウ。死んだときの年齢は四十九だ」


と自己紹介した。


「四十九!?」


アレンが驚いた声を出して、ガウリスも驚いた顔をして、私は目を見開いた。

ほとんど五十歳じゃないの。でもどう見たって若々しい。二十代くらいが妥当な見た目…!


「でもサードさんも見た目は年齢より若いですよね」


ガウリスがサードにそう言っている。


サードは確かに若く見える。私より二つくらい年上らしいけど、並ぶとアレンよりも私よりも幼く見られることが多い。


表向きの顔の時にサードが酒場に行ったら、子供の来るところじゃないって追い出されたこともあるみたいだし。

…でもその後、服装を変えて裏の顔で同じ酒場にいったら普通にお酒が出て来たらしいけど。


「なんだ?サードたちの住んでる国は歳を取らない魔法でもかかってるのか?」


「知らねえよ。つーか俺から見たらてめえらが老けて見えんだよ」


アレンの言葉にサードがそんなことを言っている。


まさか今まで私のことも老けてるってずっと思っていたの…!?

このハチサブロウっていう男の人も十八より年上に見えたって言うし、もしかして私って自分が思っているより老けて見える…!?


ヒィ、と恐怖に襲われているとハチサブロウは私とは逆に、


「俺そんなに若く見えるかい?初めて言われたな」


と嬉しそうに鼻の下を指でさすって、サードに目を向けた。


「で、キーチ今どうしてんだよ?サードなんて呼ばれて。洒落かい?」


「ちげえよ、俺は今別の世界で勇者やってる。スサノオノミコトみたいなもんだ。追い出されたわけじゃねえが、別の世界に行って放浪してヤマタノオロチみてえなの相手にしてらぁ」


「それじゃあクシナダとも会うんじゃねえの。そこの女の子か?」

「だからそいつはそんなタマじゃねえよ」


「ふーん?」


ニヤニヤとハチサブロウは笑う。


言っている会話は分かるけど、内容がさっぱり理解できないと思っていると、サードはハチサブロウに向き直って真剣な表情になった。


「で、お前どうして殺されたんだ?」


そういえば浜辺で恩人が殺されたって前に言っていたことがあったわ。まさかこのハチサブロウがその恩人なの?


「ああ、あれ?カガハンのオンミツに正体見破られて暗殺されちまったんだな。いやぁ下手こいちまった。お前には色々と夢持たせるようなこと言っておいてなぁ。

酔っぱらって浜辺歩いてたら女に声をかけられて、酒を御馳走になってたら毒盛られてたらしい。約束果たせねえで、本当に済まなかった、このとおりだ」


ハチサブロウは頭をぐっと下げる。少し間が空いて、サードはフッと鼻で笑った。


「別に何とも思っちゃいねえさ。それにお前なんてろくな死に方しねえと思ってた」


「またまたぁ。急に俺が居なくなって寂しかったんだろ」


ハチサブロウは頭を上げてさっきの謝罪が無かったみたいにヘラヘラ笑う。


「まあな」


ハチサブロウは驚いたように目を丸くした。


「え、お前それ本気で言ってるのかよ」


「俺は素直なんだ」

「嘘つけ、お前ほどひねくれたガキはいなかったぜコラ」


ハチサブロウはゲラゲラ笑ってサードの背中をバシバシ叩いている。サード相手にここまで気兼ねなく接していられるなんて…すごい。


「その人、サードの親父さん?」


アレンがサードに聞いた。


でもさっき養父関係の話を聞いたからギョッとアレンを見てその話は…と思ったけど、そのことを知らないアレンになんて言って止めればいいの…。


ハチサブロウはあごをさすりながら、首を横に振った。


「いや?なんて言えばいいのかなぁー、ま、こいつがヨチヨチ歩きの時からの知り合いってもんだな。こいつがお袋さんに殺されそうになった時…」


「へ!?」


私たち全員から素っ頓狂(すっとんきょう)な声が出ると、ハチサブロウは続けた。


「ああ、こいつのお袋さん男狂いでね。そうしたらキーチが生まれたらしいんだが、俺がある時家の前通りかかったらすげえ怒鳴り声が聞こえてきたんだ。

それが尋常じゃない声だから思わず中に入ったら二、三歳ぐらいのキーチに向かって鉄鍋振り下ろしかけててよ、慌ててキーチのお袋さん止めてキーチを回収したわけだ。ま、俺はキーチの命の恩人ってやつぅ?」


むふふふ、と笑いながらハチサブロウはサードをバシバシと叩いて、


「そんで色々と教えてやったから、命の恩人兼師匠ってやつだな。なあおい、そうだろ、感謝しろよ」


「うるっせえな」


口悪く言いながらもサードはニヤニヤしていて楽しそうだわ。


「教えるって、踊り?女の子の格好して踊るやつ?」


アレン!それ!聞いちゃいけないやつ!

でもそうよね、アレンは知らないものね、そう思うのが普通よね…!


ハラハラしているとハチサブロウは首を横に振った。


「いんや、俺はエドのオンミツでね。踊りはてんでさ」

「オンミツ?」


アレンが聞き返すと、ハチサブロウは、


「ニンジャだよ」


と続けた。


オンミツ…?ニンジャ…?何それ。

アレンと私、ガウリスが視線を合わせて知ってる?と目で問いかけるけど、アレンもガウリスも知らないのか首を横に振る。


そんな私たちの反応を見たハチサブロウは、


「シノビ、スッパ、オニワバン!」


と多分関係のある言葉を続けるけど、一切聞いたことが無いものばかり。

ハチサブロウはこりゃダメだと諦めた顔をしてサードをチラと見て、サードは口を開いた。


「国のスパイだ」

「スパイ!?」


ハチサブロウを全員で見るけど、どう見てもスパイとは程遠い。


スパイって近寄りがたい雰囲気にがっしりとした体格、無口で淡々と、それでひっそり行動するようなものなんじゃないの?ハチサブロウはどう見ても人懐っこくおしゃべり好きなその辺に居るような人だし、しかも聞いた端からポロポロと秘密を喋ってしまいそうじゃないの。


「こいつはこう見えて一流だぜ。俺の体の動かし方に戦い方は全部こいつから教わったからな」


その言葉にハチサブロウを見る。

サードは強い。とにかく強い。それがこんな普通の人みたいな人から習っただなんて…!しかもサードが一目置くようなことを言うんだから本当に一流の技術を持っている人なのね。


人は見かけによらないわとハチサブロウを見ていると、ハチサブロウもあごをさすって笑う。


「そうそう。俺は正体隠してキーチが来るより前から寺の手伝いやってたんだけどよ、こいつ俺の正体に薄々気づいて本当のこと言わねえなら寺のジューショクに全部言って追い出すって脅してきやがってな。

しかもこいつが聞き出し上手で俺もついポロポロと秘伝の術を次から次に教えちまったわけよ。だがこいつ本当に凄くてな、一度言ったら覚えるし、覚えた後は実戦で使えるし、もう国元に連れて帰ってバクフ専属のオンミツに仕官させようって思ったぐれえだ」


「その前に死んだだろ」

「死んだんじゃねえ、殺されたんだ。間違えるなぃ」


二人は笑いあっている。


でも二人の話を聞いてホッとした。

さっきサードから聞いた話には養父しか出てこなかったから救いようがなく感じていたけど、こうやってサードを助けて笑い合えるような大人がいたことに心からホッとした。


命を救ったことでも、その後色んな技術を教えたのでも、こうやって笑い合える人だったのでも…何重の意味でハチサブロウはサードの恩人だったんだわ。


するとハチサブロウはサードを見て、椅子に座った。


「なあ俺が死んだあと、お前がどうなってここまできたのか、話してくれよ」


サードは途端に面倒くさそうな顔をする。


「話すと長くなるから面倒だ」


「いいじゃねえの、よく分かんねえがこうやってまた会えたんだ、長くてもいいから時間のある限りお前の話を聞かせてくれ、キーチ」


「…そうだな」


サードも椅子に座って、私たちも席に着いた。


ようやく今まで面倒だと言い続けて聞けなかったサードの過去がはっきりと明らかになるらしいわ。

きっとここにロッテが居たら大興奮なんでしょうけどね…。そう思いながらロッテと神々の言葉を思い出してサードに聞いた。


「色んな人が言っていたけど、サードはやっぱり他の世界から来たのよね?」


「そうだな。あのバーリアスって奴は『お前のいた世界ではヘルメスって呼ばれてた』って言ってたが…あんな神は知らねえ。まあ見た目から考えるに異国の土俗神だろうよ」


「…ということは、本当に私たちが住むこの世界とは別に住む世界があり、そっちにも同一の神がいたということですか?」


ガウリスが信じられない、という表情で呟くと、ハチサブロウがガウリスをからかうように声をかける。


「なぁに、世の中ジッポウ世界だの三千世界なんて言葉もあるくらいだ。世界が一つだとは限らんよ。まあ、俺も死ぬまで世界は一つと思ってた口だけどな」


「…俺、サードは上級階級の子だったけど親がいなくなってつてを頼って他の上級階級の家に行って、そこで使用人みたいな待遇で受け入れられてこき使われてたんだって思ってた…。でも俺が思ってたより大変な人生を歩んできてたんだな」


「なんだそりゃ」


サードは呆れる顔でアレンを一瞥(いちべつ)して続ける。


「俺は貧乏な家の出だ。あの婆…母親に殺されそうになってハチサブロウに助け出された後は食うに困らねえ生活になったけどな。

俺の生まれはテンリョウチ、国の最高権力者が抱え込んでる土地だった。金山があって、サドガシマのサド金山って呼ばれてた。国の宝と言われてた土地だ」


サド…?それってサードの名前なんじゃないの?


そう思って聞こうと思ったけど、


「ハチサブロウが死んだあと…」


ってサードは話を続けるから、私は口を閉じて耳を傾けた。

十方世界… 東西南北、北東・南東・南西・北西、上・下の方角。全世界。

落語「こんにゃく問答」で、「十方世界は」と修行僧に問われたこんにゃく屋の主人が無言で指を五本立てて「五戒で保つ」と答えてました。本当はそんな答えはしてなかったんですけどね。


三千世界…仏教用語。大変大雑把に言うと全宇宙の意。

「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」という都々逸が好き。何かいい、情緒がある。

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